インターネット・ビジネス論 |
9-1.EDI(電子データ交換 : Electronic Data Interchange)
企業(Business)間の電子商取引(EC : Electronic Commerce)は、インターネットの出現以前にも、それぞれの業界標準に基づくEDI(電子データ交換 : Electronic Data Interchange:コンピューターに入力した情報を、企業が取引先の企業のコンピュータ−と、人手を介さないで電子的に送受信する仕組み)がVAN(付加価値通信:Value Added Network)などによって行われていました。特に、EDIの取引の電子化に果たした役割は大きく以下のような効能が産業界の随所に現れました。 EDIの効能.
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9-2.インターネットによるインパクト
インターネットの出現によって、各企業のシステムを接続しインターネットを介して原材料等の調達を行うオンラインの企業間取引(B to B)の範囲と規模が急激に拡大してきました。VANが基本的にホストコンピューターを中心に組みたてられた集中型でクローズドなシステムであるのに対して、インターネットは完全にオープンで、分散的な誰でも参加が自由なネットワークですから、商取引の範囲の拡大効果がまったく違うからです。 また、企業間の商取引を、インターネットを使って電子化すれば、更に調達コストの低減や業務の効率化、スピード・アップを実現する可能性が増します。しかも、B to B(Business to Business)は、B to C(Business to Consumer)に比べると取引規模が大きいため、インターネット・コマースの主流になっています。 しかし一方、レガシーEDIを通じて築きあげられてきた企業間ネットワークと相互信頼関係は文字通り企業間の価値あるレガシー(資産 : Legacy)となっている面がありますので、今後はレガシーEDIとインターネットB to Bコマースの棲み分けが進行してゆくものと考えられます。 この第9課では、B to Bコマースが急激に普及した要因と動向を、普及を加速させた関連情報技術(IT)の側面と併せて考察します。 |
9-3.オープン調達
Web-EDI 2000年頃から、自動車、家電、建設など様々な業界の企業が、インターネットを通じたオープン調達によってこれまで取引のなかったサプライヤーとの商談の場を開いて、国境の枠にとらわれずに世界中で最も有利な価格と納期で最も高品質な商品と基礎資材(原材料や燃料など)や部品を調達しようとする動きが目立ってきました。 Web-EDI(電子データ交換 : Electronic Data Interchange)のインフラも整えられ世界規模での品質の改善(Quality)納期の短縮(Delivery)と購入価格引き下げ(Cost)が期待できるようになったからです。また、従来のEDI(電子データ交換)は売り手と買い手の間を「1対1」で結ぶものだったのですが、Web-EDIによって「1対n」の取引が実現できるようになったので、サプライヤー側にも新たな取引先開拓の機会が創出されました。ですから、例えば、高い生産技術をもった日本の中小企業が米国の大手企業と取引をおこなう(それも、ほとんど営業経費をかけることなく)といったことも可能になったのです。 e マーケットプレース(インターネット取引所) これを更に発展させ、インターネット上に調達市場を構築し、不特定多数の売り手企業と複数の買い手企業との間の「n対n」の商品取引を実現したものが「e マーケットプレース(インターネット取引所)」で、これがB to Bビジネスの大きな潮流となっています。e-マーケットプレースには、既存の商慣習にとらわれぬオープンな取引、透明度の高い価格決定など基本的なメリットがある他に、過剰在庫の効率的な売りさばき等に対する具体的な効用があり、更にe-マーケットプレースの構築・運営に当たってそれぞれの業界が抱える問題点が解消されるからです。 この代表例が米国・自動車業界の“ビッグ3”(GM、フォード、ダイムラークライスラー)が共同で設立した「Covisint」という世界最大級のe マーケットプレースで、約10万点を数える自動車部品調達マーケットとなっており、年間3,000億ドル(約36兆円)にも及ぶ調達をウェブ・ベースでカバーしています。業界上位企業が共同で構築する業界コンソーシアム型巨大マーケットプレースの典型的な例でもあり、ルノーと、日産自動車、トヨタ自動車、ホンダなど日本の自動車メーカーもこれに参加しています。IT(情報技術)を活用することによって、従来からの取引慣行を破壊し調達スケールメリットを狙って競争相手同士が手を組むという新しい取引慣行が創造されたということができます。 e-マーケットプレースには、従来の取引実績や系列、企業規模に関係なく新規参入が可能となり、オークション型(単独の売り手が売りたい商品をサイト上に提示し、購入する意思のある買い手が入札し最高価格で入札した買い手が購入権を持つ、いわゆる競売モデル)、エクスチェンジ型(複数の売り手と買い手が(価格、納期、仕様等の条件を出し合って、条件が一致した場合に取引が成立するモデル)、カタログ型(買い手が複数の売り手のWebカタログから必要な商品を検索して注文するモデル)といった形で、部品や原材料の調達をめぐって、グローバルでオープンな競争が展開されるようになりました。 日本型モデルとしては、大手主導によるゼネコンの建設資材、マリンネットの船荷、伊藤忠商事の繊維、三菱商事の鉄鋼調達などがあるほか、中小企業でもNCネットワークのように金型製造部品など独自に構築して交渉力を発揮しているものもあり、ベンチャー同士による連携も今後活発化していくものと見られており、こうした動きが、国内業界の秩序再編の流れを加速する契機になるものと見られています。 |
9-4.迅速発注、生産を効率化
電子部品メーカーを中心とした技術革新のスピードがますます加速し、より高性能・高機能な電子部品等を搭載したデジタルカメラやPCなどの電子機器製品をめぐるアセンブリーメーカー間の商品企画競争が一層激化するのに伴って、商品のライフサイクルは従来にも増して短くなってきました。アセンブリーメーカーにすると、それだけ現行製品が旧タイプ化し不動在庫化する可能性が高まってきたわけです。そのため、商品の販売動向を見極め、機敏に生産量を変える体制をつくるのが急務となったのですが、ここで注目されているのがインターネットを活用して取引先と数量や価格を決めるネット資材調達なのです。ネットを活用した原材料、部品などの調達で先行しているのは電機と情報業界の大手メーカーで、そのうちソニーと富士通については次のように報道されています。その他、以下の報道のように、情報技術(IT)に身近な電機と情報業界から比較的ITと縁遠いとされてきた産業領域にもネット調達導入ブームの兆しが見られ、遅れていた日本企業のB to Bインターネットコマース導入にもようやく拍車がかかってきました。
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9-5.ネット入札による仕入れ価格引き下げ
インターネット入札では、対象商品の仕様や取引条件を決め、あらかじめ選び出した複数の取引先に提示して参加を働きかけ、取引先が決められた日時にネットを通じて応札し、入札実施企業がインターネットを通して落札者を選定する形をとります。応札業者は単に価格と数量を提示するだけでなく、商品の仕様や取引条件の変更により更に値下げできる余地があれば入札実施企業に対して逆提案することもできますので、これによって品揃えの無駄をなくしたり取引形態が改められたりできるという相互にとっての利点が生じてきます。以下にネット入札の実施例をご紹介します。
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9-6.新しい共存共栄の形
従来の資材調達方式からの転換 日本企業の従来の資材調達は、仕入先を特定の数社に固定して、いわば閉鎖された企業グループの中で行われるのが一般的でした。この固定的なサプライヤーから継続して資材調達する方式は安定供給を確保する上で有効であり、特に部品や原材料などが不足して生産ラインが停止するリスクを回避するうえでは効果が絶大でした。 しかし、現在は鋼材、石化製品をはじめとした原材料産業は軒並み設備過剰ですので供給不足に陥る懸念がほとんどなくなっているうえに、サプライヤー選定の際にD(Delivery)の能力が吟味できインターネットなどの情報技術(IT)を使ったきめ細かな工程管理が行えるようになりましたので、部品や原材料の欠品や遅配のリスクは回避できるようになりました。 市揚開放も進んで輸入の選択肢も広がっていることもあり、安定供給の確保が得られる旧来の調達方式から、世界中の部品メーカーにオープンに発注を行いQCDが最適と思われる部品メーカーを選別して電子商取引を行うことができるネット調達に切り替えやすい素地が拡大してきました。 閉鎖的なサプライ・チェーンからの脱皮 また、従来の閉鎖的なサプライ・チェーンは、アセンブリーメーカーを頂点とするピラミッド構造をなしており、アセンブリーメーカーの新製品の仕様や販売動向状況などの機密情報の漏洩を防ぐのには有効でしたが、汎用性の高い部品の調達は、パブリックなインターネット・マーケットで行っても差し支えなく、必要最小限の先行情報をインターネットで提供することは、サプライヤー側にも不要な在庫が削減できるという利点を生じさせます。 まして、製品の新商品企画と部品の新商品開発とは一層緊密に連携しなければならなくなってきています。「寄らしむべし知らしむべからず」という上下関係を基調とした「系列」取引では部品サプライヤーからアセンブリーメーカーに至るまでのトータルQCDを改善することができず、一層厳しくなる国際市場での競争に耐え難くなってきたのです。 取引先選定の自由度拡大 更に、アセンブリーメーカーがオープンに部品サプライヤーを選択できるようになったのと同時に、部品サプライヤー側にも「系列」の枠から抜け出て世界中のアセンブリーメーカーと取引できるという自由度が生まれました。日本的商慣行に風穴が開けられ、企業間の関係が、“共存共栄”のために相互間に妥協の余地を残していた上下関係から脱して、情報の相互開示も活発で利益を共有できるビジネスパートナー関係が随所に形成され、それぞれで新しい形の共存共栄を享受できる基盤ができてきたのです。 |
9-7.日本型B to Bインターネット・コマースの特徴
インターネット先進の米国では、取引経験のない企業に対してもオープンな環境で仕様書や見積りのやり取りを行え、新規契約先を開拓できるというインターネット本来の「ボーダーレス」特性を享受しているようとすることが多いのに対して、日本のB to B「インターネット」コマースでは登録者のみがアクセス可能な「エクストラネット」を利用していることが多いと言われています。これは日本の企業がセキュリティを優先していることと、系列企業間での取引が多いため公衆網を利用するメリットが少ないことに起因するものと考えられます。「資本・人的関係」、「長期継続取引」、「濃密な情報共有化」といった「系列」の強みをいかんなく発揮して世界市場を制覇した日本の産業にとって、多段階の分業システムに編成された「系列」は国際競争力の源の一つであり、また、以下のように「系列」の存在意義が今もなお存続しているのも事実ですから、安易な「系列崩壊」論は避けるべきだと思います。 「系列」の存在意義 トヨタとe マーケットプレイス「Covisint」 トヨタが前述のe マーケットプレース「Covisint」への参加に際して慎重な姿勢を示したのも、こうした旧来の系列取引を重視しているからだと思われます。Covisintは、参加各社が持っている下請企業を全部ネットワーク化して、相互乗り入れの形でグローバルにウェブベースの部品調達するのが狙いです。しかし、トヨタには永年にわたるカンバン方式による部品受発注の過程で鍛えぬき経営体質を強化させてきた自前の系列サプライヤー群がいますので、それをあまり他社に使ってほしくないと思っても当然だというようにも思えます。 結局は、汎用品と一般部品の調達に関しては、インターネット・ベースのオープンなe マーケットプレースCovisintを利用して共同購買で調達コスト削減を狙い、独自設計のカスタム部品は、自社専用のシステムで取引を実施するという方針を採ることになったのですが、トヨタだけでなく、ネットコマースの対象になるのは、原材料や燃料などの資材のなかでも性能を比較しやすい汎用品が中心で、特注品は調達先との協力で付加価値を一段と高めるといった調達方式の使い分けが進むものと考えられます。 Web-EDIとe マーケットプレイス Web-EDIが、特定の企業が企業間取引の業務効率化を主目的として構築したケースが多いのに対して、e マーケットプレースは売り手でも買い手でもない第三者が商取引の「場」を運営すること自体がビジネスで、マッチングを始めとしたサービスを提供し手数料や広告料でサイトを運営している場合が多いという違いがあります。 e マーケットプレースの運営母体には、総合商社やコンピューター・ベンダー、またはベンチャーを中心とした第三者によって運営されるタイプがありますが、ここで大手商社が積極的に取り組んでいるのも日本型B to Bインターネット・コマースの特徴と言えます。総合商社にとっては、e マーケットプレースは大きなビジネス・チャンスであるとともに、放っておけば自身が「中抜き」される危険性を持つため、一種の仲介サービス業(Infomediary)化することが重大な活路となっているからです。 |
9-8.B to Bコマースの今後の課題
標準化 日本で最も早くB to B(Business to Business) インターネット・コマースによる原材料調達が普及しだしたのは製造業、特に、自動車、電機、機械の自動車、電機、機械の各業界でした。これらの業界は系列企業化が進んでいたために取引先の企業が特定の企業に限定されていて、企業間の統一的な受発注様式が既に決まっていたため、インターネット技術を用いたオンライン取引が導入しやすかったのだと思われます。 現在インターネット上で調達(受発注の意思表示)までは行っていないが情報交換や商談は行っているという企業も多いのは事実であり、広義のインターネットB to Bビジネスがかなりの普及度に達していることは確かです。しかし一面では、取引情報のデータ仕様や処理方法の標準化などが十分には進んでおらず、調達に至るまでのインターネット・コマースが広範に導入されるためには、こうした未解決の障害が除去されなければなりません。 完全にオープンなネットワーク上での商取引と言うのは、取引に関わるメッセージの標準化という点でも全く新しい問題を提起します。多種多様な取引情報を如何にして交換可能な形で表現するかという問題です。インターネットのグローバルな性格を考慮すれば、それは言うまでもなくグローバルな標準でなくてはなりません。現在その有力な手段と考えられているのは、同じWWWの記述言語のHTML(Hyper Text Markup Language)をより高度化したXML (Extended Markup Language)という言語による方法で、記述内容の自由度が増し使い勝手が大幅に向上したXMLをベースとした取引情報の表現方法が既に様々な分野で開発されています。 その他にインターネットB to Bコマースの今後の課題には以下のような事項があります。 与信機能 B to Bコマースでは、見ず知らずの企業と取引を行うことができる可能性が高くなる反面、見ず知らずの企業と取引せざるを得なくなる場合がありますので、与信の問題が発生してきます。このため、取引先の支払能力、品質・納期を守れるかどうか、過去の取引実績はどうかなどの信用情報が必要になるため、金融機関を取り込んだB to B決済専門会社などが出現してきています。 独占禁止法 業界大手連合のe マーケットプレースの場合には、これを利用しなければ取引ができないなどといった形で排他的になる可能性が高く、また、売手が集まるとカルテル価格が形成されやすくなるなど、独占禁止法に抵触する問題が発生する可能性があります。この手の国際紛争の処理は、基本的にe マーケットプレース運営企業が所在するアメリカの州の法律に基づいて行われることが多く、同サイトの入会規約に紛争が起きた場合には、米国の当該州法が適用されると明記されている場合が多いようです。こんなところにも米国標準がグローバルDFS化してしまっているという現実の一側面が見られるように思えます。 スイッチングコスト 自前で部品・原材料調達体制を構築してきた企業にとっては、新たにe マーケットプレースを使った取引に移行するために、既存の取引先との受発注ではこれまで必要のなかった手数料をe マーケットプレース運営業者に支払わなければならなくなります。現実に期待される調達部品コストの削減とe マーケットプレース参加のためのスイッチングコストとの比較秤量が問題となり難しい選択になります。 |
9-9.サプライチェーン・マネジメント
(SCM : Supply Chain Management)
製品の企画・開発から、原材料や部品の調達、製造、流通、販売という生産から最終需要(消費)に至る商品供給の流れを「供給の鎖」(Supply Chain)と捉え、それに参画する部門・企業の間で情報を相互に共有・管理することによって、ビジネスプロセスの全体最適を目指す戦略的な経営手法、もしくはそのための情報システムをSCM(Supply Chain Management)と言います。 アメリカのデルコンピュータやシスコシステムズなどの急成長企業がこの手法を導入していることから、大きな関心を集めましたが、もともとSCMのルーツはトヨタ自動車の「かんばん方式」にあります。ここで生み出された"無駄のない経営手法"がアメリカにわたって、「JIT(Just In Time)方式」として概念化され、更にこれにIT技術をフルに使う手法として開発されたのがSCMです。 SCMの発展段階の第1ステップは「社内でのSCM」で、これによって企業内連携が進展し、顧客の要求は生産現場へ迅速かつ正確な伝達されるとともに、製品ライフサイクルに合わせて物が滞りなく流れるようになり、また、必要な時に必要な部材が必要な場所へ届けられるようになりました。
しかし、製品の企画・開発や資材調達といった川上から物流や販売といった川下に至るビジネスプロセスの中の「供給の連鎖」が1社内だけで完結するケースはほとんどありません。そこで、SCMも第2ステップの「社外を含めたSCM」へと発展し、これによって企業間連携が達成され、複数企業間のビジネスプロセスの“全体最適”が追求されるようになったのです。企業間ビジネスプロセス全体として顧客満足度を極大化しつつ経営コストを極小化するSCMは、企業間BPRのための手法・システムに進化したのです。 とはいえ、在庫を限度以上に少なくすることはできません。たとえば、メーカーが部品在庫を切らせてしまえば、生産ラインをストップせざるをえなくなります。小売店であれば、欠品が頻繁に生じることになります。ですから、在庫切れを起こさないギリギリのレベルまで、圧縮するのが理想的であり、これがSCMの狙いになっていたのです。 更にSCMは、第3ステップの企業間の設計コラボレーションや戦略的アウトソーシングを実現する高度なSCMへと進化しつつあります。納期短縮や在庫削減などによる部品・製品などのモノ資源の活性化に威力を発揮していたSCMが、今度は企業間でのヒト資源の活性化の手段として用いられるようになってきたわけです。 このように、複数の企業や組織の壁を越え、一つのビジネスプロセスとして諸情報を共有・共用し、サプライチェーン全体の諸資源使用の効率の最適化を目指すことは以前から指向されながら、言うべくして実現至難なことでした。インターネットをはじめとしたTT技術を駆使したe−SCMの生成によって複数の企業や組織の情報資源の使用効率が大幅に向上したからこそ実現がかなったものと言うことができます。
ERP(統合業務)システムとの連動 SCMでは、販売、受発注、在庫、生産、計画などに関する情報を各部門・企業がきめ細かくリアルタイムで把握できていなければなりません。しかし従来は、情報システムが部門ごとに構築され、その結果、組織の壁とともに情報の壁を作ってしまい、情報の伝達に時間を要したり齟齬をきたしたりするのが常でした。この場合、各部門の既存システムを統合する方法もありますが、新たに構築する際に便利なものとして注目されてきたのが「ERP(Enterprise
Resource Planning:統合業務)パッケージ」と呼ばれるソフトウェアです。ERPが注目されているのは、パッケージ化されている上に、業務ごとに情報システムが作られているので、横断的な情報システムが短期間で導入でき、しかも、組み合わせによって簡単に機能を拡張できるという特徴を備えているところに大きな要因があり、これがそのままSCM導入がERPシステムとの連動のもとで行われる傾向を助成したものと考えられます。
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9-10.SCM進化の方向
e マーケットプレイスとの連動 更に、高効率・高生産性追及のために導入されているSCMを強化するためにe マーケットプレイスを活用するという方向性が見え始めています。EDIによって結ばれた特定少数の調達先だけを対象としたSCMでは、販売予定量の急激な変化で大量の部品が必要になったり、逆に大量に在庫を抱えることになったりする場合の対応が困難です。しかし、こういった場合にe マーケットプレイスを利用して部品を調達したり、在庫を処分したりすれば、マーケットにフレキシブルに対応することができます。今後はこのような形で、SCMとe マーケットプレイスを戦略的に組み合わせて活用していく動きが高まるのではないかと思われます。 新業態の生成と発展 SCMの高度化に伴って、企業間における新しいアウトソーシング(外部業務委託)やコラボレーション(協働)を実現する形の新しい業態が生成し発展してきました。以下にその代表例を取り上げ概観を加えます。 (1) SPA(製造小売業) SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)とは、製造から小売までを統合した最も垂直統合度の高い販売業態ですが、素材調達、企画、開発、製造、物流、販売、在庫管理、店舗企画などすべての工程を一つの流れとしてとらえ、サプライチェーン全体の無駄やロスを極小化するビジネスモデルのことと定義されます。日本では、カジュアルウェア専門店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが採ったSPAビジネスモデルが、「物作りを持たないSCM」による新しい業態として注目されました。 ユニクロの場合、素材の調達や縫製などは外部に依存(アウトソーシング)していますが、基本的に在庫などのリスクは自社で負担しています。上流から下流まで、すべての情報を一元的に把握しコントロールできるからこそできることであり、これがSPAの成功の鍵とされています。 POS情報などによる販売予測や購入者分析、店舗開発などの「販売」のノウハウを多く所有している「小売」業者が「製造」をアウトソーシングする形が一般的で、ユニクロの場合は、店頭のPOSを使って消費者の情報を得それを生産計画に反映させて中国の工場で生産する形をとっています。 (2) EMS EMS( Electronics Manufacturing Service)とは、エレクトロニクスメーカーから依頼を受け電子機器などの製造を請け負う事業のことを言います。1980年代前半に米国で製造部門のアウトソーシング(外部委託)が拡大したことに伴って、数多くのEMS企業が誕生し活動が盛んになりました。OEMと似たような形態ですが、EMS企業は今や、製造請負の範疇を超え、製品設計、部品調達、サプライチェーン管理、物流、製品修理に至る業務を受注するトータル・アウトソーシングの形までに成長を遂げています。 旧来の大手電子機器メーカーから過剰設備となっている工場を安く購入し、そのメーカー以外からも広く受注することで回転率を上げています。操業率が高くなる分、EMSに新規に発注する企業だけでなく、工場を売却したメーカーにとっても経営の効率化が図れるわけです。また、従業員ごと工場を金融機関に買い取らせ、EMSはその金融機関から賃借して操業するなど、自社工場を所持するリスクを回避して営業している企業もあります。 パソコンなどの情報機器は共通部品が多いため、同じ部品を大量購入することによるコストダウンも期待できます。寧ろ、積極的に開発期間の短縮とコストの圧縮を両立させる施策として、製品ごとに部品の開発や調達を行ってきた旧来の体制から、部品の共通化や流用を図る流れに変える(機種適合から部品適合へ)動きも進展しており、ここでも、インターネットを活用した国際入札や製品プロジェクト間を超えた共同調達体制などを行うことによってより有利な条件での調達が可能になっています。. 世界のエレクトロニクス産業トップ企業を含む多くの企業で、工場をEMSに売却して本体は設計、開発に特化していくという構想が進んでいます。 (3) バーチャル・コーポレーション バーチャル・コーポレーションとは、産業上の企業の壁を取り払ってサプライチェーンをマネジメントすることで、情報共有をベースに全体最適のキャッシュフローを上げる組織と情報システムにおけるコンセプトです。企業が違ってもあたかも一つの企業内の上流工程と下流工程のように企業間に存在する注文書や請求書発行の手順を省き、全体のサプライチェーンの計画と状況情報を共有する仕掛けを作って時間短縮でスピード経営を可能とします。 サッカーや陸上リレー、水泳リレーのようにチームプレーするメンバーによってチームの強さが決まるように、チームメンバーがそれぞれ異なった得意技をもった構成となると最強のチームになります。そして、サプライチェーンを構成するバーチャル・コーポレーションのメンバー企業は自社の得意技を持つことが自分の格付けを上げるための条件になります。この自社の特徴を表現する資格に相当する技がコア・コンピタンスといえます。 お互いのコア・コンピタンスを利用しあいながら全体最適を求めて協働することができるバーチャル・コーポレーション生成の動きは、生産・販売などの領域から設計や研究開発などといった創造的な業務領域にまで拡大しつつあります。
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9-11.電子政府
ここで、直接B to Bビジネスとの関係はありませんが、国や自治体の行政サービスをオンラインで提供する「電子政府」についても触れておくことにします。“すべての国民がインターネットなどを容易に利用でき、情報通信技術の恩恵を受けられる実現''を基本理念に掲げ2001年1月から施行された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)に基づいて政府が、世界最高水準のネットワーク整備、規制の見直しなどを通じた電子商取引の促進とともに推進しているのがこの電子政府と電子自治体の構想です。データべ一ス化された情報を各省庁で一層充実させ情報共有するとともに、国民にインターネット・ホームページを活用した行政情報のタイムリーな提供を行うことが基本的な狙いで、以下の3本柱から成り立っています。上記AのG to B (Government to Business)の仕組み自体はB to Bビジネスと変わりませんが、@のG to C(Government to Citizen)のC(Citizen)の中には、法人としての企業(Business)が含まれており、諸種の申請・届出において「インターネットを利用したビジネス」となる場面が生まれる可能性があります。また、アメリカのG to Cビジネス(政府対消費者 : Government to Consumer)について以下のような報道がされています。IT基本法制定に当たっては、情報スーパーハイウェイNII(National Information Infrastructure)構想(1993年)から8年も立ち遅れてしまった日本ですが、アメリカ政府の「コンピューターに関する研究開発は、米国の安全保障と経済的発展の命運を決するものであり、この分野での米国の優位を今後も継続しなければならない」というIT観と不退転の決意を見習って、日本政府にも捲土重来のリーダーシップの発揮と率先垂範を期待したいところです。
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9-12.B to Bビジネス展開上の留意点
まずは、「B to Bはブームではない」という認識をもって、歴史的な趨勢に対応すべく長期的視野を持って取り組む必要性があります。B to Bビジネスへの参入のメリットについては、どのようなビジネスケースも同様ですが、参入に要するコストと参入によるメリットを分析・比較する必要があります。一般的には、普及率が低い時期に他社に先駆けて参入する企業は、即効性の利益創出は期待できないが累積利益の総量が高くなり、一方、普及後に参入企業の場合は、立ちあがり時に利益が出るものの利益を享受できる期間が短くなるという傾向があります。ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンはここでも通用する原理ですが、「21世紀のビジネスは“しかけ競争”で早い者勝ち」であるうえに、B to Bには普及が本格化するとB to B向きの業務体制やインフラを実装していない企業は取引に参加できなくなるという側面があります。待ちの姿勢をとりがちな日本企業が21世紀型企業になるためには、攻めの姿勢への意識改革が必要だと思われます。 更に、B to Bビジネスへの参入に当たっては「何のためにWebを使うのか?」の問いに対する答えを明確にしておく必要があります。そして、「自社の強み(コアコンピタンス)を発揮する方向と合致しているか?」また「経営資源を無用に拡散させることにならないか?」を自問したうえで、何より「社内外の業務プロセスはどのように変革するか?」を本格的に検討することが重要です。「目的のために必要な技術は何か?」および「必要な人材とITプラットフォームは自前で調達するかアウトソーシングしたほうがよいか?」という問題も重要には違いありませんが二義的なものだということを銘記しておく必要があると思います。 インターネットでは、大資本のサイトも中小・零細企業のサイトも区別なく表示され、まさに「リンクを制するものがウェブを制する」で、「検索されやすい」か「検索されにくい」かが勝負になります。また、仮に検索された場合でも、無名で取引歴もない企業が潜在顧客から信頼を得るためには、Web運営当事者の熱意と創意工夫に満ちた仕掛けが不可欠ですので、運営当事者に即断即決の裁量権を与えることは検討に値します。これが、販売促進や顧客対応など、何かにつけて、多層をなす管理者の決裁や他の部署との調整が必要となる大企業に対して「小よく大を制す」結果につながる可能性があるからです。 |
(Ver.1 2003/ 3/28)
(Ver.2 2004/ 7/14)
(Ver.3 2006/ 7/16)