インターネット・ビジネス論

第9課 インターネットビジネスの諸相
         (B to Bビジネス)

B to B EC(電子商取引)の分類

日本情報処理開発協会では、下図のように to B EC(電子商取引)を分類しています。

B to B EC(電子商取引)の歴史的動向

ECの中で最も古いのは専用線・VPN・VANによるEDIです。EDIは1980年代より導入が始まり、先ず銀行間で開始され、流通、自動車、電子機械などの製造業に拡大していきました。しかし、メーカー→卸→小売といった垂直的関係を基盤においたものが多く、初期費用や通信費用が高かったので、大手企業にしか採用されませんでした。

取引先企業の多くを占める中小企業のニーズが高まるとともに、セキュリティー、認証などの技術が確立するにつれてインターネットEDIが実現されるようになりました。やがて、企業間、グループ間でEC利用が進み、インターネットEDIに続いて新規参入が可能なeマーケットプレイスなどが拡大してきました。

現在はインターネットが、EC、EDIの利用範囲における商流、物流、金流に関する情流の機能を大きく担うに至っていて、ビジネスの一連の流れとしての商品の引き合い、見積もりから契約、代金の請求、支払に至るまでネット上での業務処理ができるようになっています。

企業間電子商取引の取引形態による分類

企業間電子商取引(B to B EC : Electronic Commerce)は、売り手と買い手の数によって以下の、四つのパターンに分けられます。
1:1 特定企業コラボレーション
営業情報、共同開発情報の共有化が特定2企業間内で行なわれる。情報ネットワークとしては閉鎖的性質
1:N ネット販売
(売り手)1企業対(買い手)複数企業の取引で一般的なネット販売の形態。特定サプライヤー企業のサイトからの複数企業への販売が一般的
N:1 ネット調達
(売り手)複数企業業対(買い手)1企業の取引。e-Procurement、Web EDI等、特定買い手企業の複数取引先からの調達形態。1:1の特定企業コラボレーションよりはオープンな情報ネットワーク。
N:N eマーケットプレイス
(売り手)複数企業業対(買い手)複数企業の取引。電子市場において複数の売り手と買い手が同時に取引をできる。最もオープン化された情報ネットワーク


9-1.EDI(電子データ交換 Electronic Data Interchange

企業(Business)間の電子商取引(EC : Electronic Commerce)は、インターネットの出現以前にも、それぞれの業界標準に基づくEDI(電子データ交換 : Electronic Data Interchange:コンピューターに入力した情報を、企業が取引先の企業のコンピュータ−と、人手を介さないで電子的に送受信する仕組み)VAN(付加価値通信:Value Added Network)などによって行われていました。特に、EDIの取引の電子化に果たした役割は大きく以下のような効能が産業界の随所に現れました。

EDIの効能.
買い手による注文書作成、郵送および売り手側企業の営業部門更に管理部門の受注処理に要していた時間を、VAN経由のオンライン・データ交換に改めることによって大幅に短縮でき、受発注業務を「早く」できるようになった。
. 手書き伝票による発注に要していた用紙代、仕訳工数、宛名書き、封筒代、郵送料などの経費が不要になり、受発注双方の省人化も可能になったので、オンライン回線使用料等の経費だけで「安く」取引が行えるようになった。

伝票への転記ミス、誤送、紛失の可能性がゼロになり、端末へのデータ投入時のミス発生の機会も大幅に減少したので、「正確に」企業間の受発注プロセスが進捗できるようになった。

オンラインデータを生産・輸送計画に直結して活用できるようになったので、仕入/生産/輸送コスト削減に寄与するうえ、決済の迅速化と資金運用の効率化により金融コスト削減を実現できるようになった。

顧客(買い手企業)に対するサービスの面でも、売り手企業の即応体制の確保と正確な納期回答が可能になったので、顧客からの信頼度と満足度が高まり反復継続取引の可能性が拡大するとともに、サービス地域・時間の拡大・延長により新規顧客の開拓が容易になった。
顧客満足度向上と経営コスト削減の同時達成が期待できるので、広く各方面における企業内および企業間業務プロセスの変革(BPR:リエンジニアリング)実現の引き金となった。


9-2.インターネットによるインパクト

インターネットの出現によって、各企業のシステムを接続しインターネットを介して原材料等の調達を行うオンラインの企業間取引(B to B)の範囲と規模が急激に拡大してきました。VANが基本的にホストコンピューターを中心に組みたてられた集中型でクローズドなシステムであるのに対して、インターネットは完全にオープンで、分散的な誰でも参加が自由なネットワークですから、商取引の範囲の拡大効果がまったく違うからです。

また、
企業間の商取引を、インターネットを使って電子化すれば、更に調達コストの低減や業務の効率化、スピード・アップを実現する可能性が増します。しかも、B to (Business to Business)は、B to (Business to Consumer)に比べると取引規模が大きいため、インターネット・コマースの主流になっています。

しかし一方、レガシーEDIを通じて築きあげられてきた企業間ネットワークと相互信頼関係は文字通り企業間の価値あるレガシー(資産 : Legacy)となっている面がありますので、今後はレガシーEDIとインターネットB to Bコマースの棲み分けが進行してゆくものと考えられます。

この第9課では、B to Bコマースが急激に普及した要因と動向を、普及を加速させた関連情報技術(IT)の側面と併せて考察します。

9-3.オープン調達

Web-EDI

2000
年頃から、自動車、家電、建設など様々な業界の企業が、インターネットを通じたオープン調達によってこれまで取引のなかったサプライヤーとの商談の場を開いて、国境の枠にとらわれずに世界中で最も有利な価格と納期で最も高品質な商品と基礎資材(原材料や燃料など)や部品を調達しようとする動きが目立ってきました。

Web-EDI(電子データ交換 : Electronic Data Interchange)のインフラも整えられ世界規模での品質の改善(Quality)納期の短縮(Delivery)と購入価格引き下げ(Cost)が期待できるようになったからです。また、従来のEDI(電子データ交換)は売り手と買い手の間を「1対1」で結ぶものだったのですが、Web-EDIによって「1対n」の取引が実現できるようになったので、サプライヤー側にも新たな取引先開拓の機会が創出されました。ですから、例えば、高い生産技術をもった日本の中小企業が米国の大手企業と取引をおこなう(それも、ほとんど営業経費をかけることなく)といったことも可能になったのです。

e マーケットプレース(インターネット取引所)

これを更に発展させ、インターネット上に調達市場を構築し、不特定多数の売り手企業と複数の買い手企業との間の「n対n」の商品取引を実現したものが「e マーケットプレース(インターネット取引所)」で、これがB to Bビジネスの大きな潮流となっています。e-マーケットプレースには、既存の商慣習にとらわれぬオープンな取引、透明度の高い価格決定など基本的なメリットがある他に、過剰在庫の効率的な売りさばき等に対する具体的な効用があり、更にe-マーケットプレースの構築・運営に当たってそれぞれの業界が抱える問題点が解消されるからです。

この代表例が米国・自動車業界の“ビッグ3”(GM、フォード、ダイムラークライスラー)が共同で設立した「Covisint」という世界最大級の
e マーケットプレースで、10万点を数える自動車部品調達マーケットとなっており、年間3,000億ドル(約36兆円)にも及ぶ調達をウェブ・ベースでカバーしています。業界上位企業が共同で構築する業界コンソーシアム型巨大マーケットプレースの典型的な例でもあり、ルノーと、日産自動車、トヨタ自動車、ホンダなど日本の自動車メーカーもこれに参加しています。IT(情報技術)を活用することによって、従来からの取引慣行を破壊し調達スケールメリットを狙って競争相手同士が手を組むという新しい取引慣行が創造されたということができます。

e-マーケットプレースには、従来の取引実績や系列、企業規模に関係なく新規参入が可能となり、オークション型(単独の売り手が売りたい商品をサイト上に提示し、購入する意思のある買い手が入札し最高価格で入札した買い手が購入権を持つ、いわゆる競売モデル)、エクスチェンジ型(複数の売り手と買い手が(価格、納期、仕様等の条件を出し合って、条件が一致した場合に取引が成立するモデル)、カタログ型(買い手が複数の売り手のWebカタログから必要な商品を検索して注文するモデル)といった形で、部品や原材料の調達をめぐって、グローバルでオープンな競争が展開されるようになりました。

日本型モデルとしては、大手主導によるゼネコンの建設資材、マリンネットの船荷、伊藤忠商事の繊維、三菱商事の鉄鋼調達などがあるほか、中小企業でもNCネットワークのように金型製造部品など独自に構築して交渉力を発揮しているものもあり、ベンチャー同士による連携も今後活発化していくものと見られており、こうした動きが、国内業界の秩序再編の流れを加速する契機になるものと見られています。

9-4.迅速発注、生産を効率化

電子部品メーカーを中心とした技術革新のスピードがますます加速し、より高性能・高機能な電子部品等を搭載したデジタルカメラやPCなどの電子機器製品をめぐるアセンブリーメーカー間の商品企画競争が一層激化するのに伴って、商品のライフサイクルは従来にも増して短くなってきました。アセンブリーメーカーにすると、それだけ現行製品が旧タイプ化し不動在庫化する可能性が高まってきたわけです。そのため、商品の販売動向を見極め、機敏に生産量を変える体制をつくるのが急務となったのですが、ここで注目されているのがインターネットを活用して取引先と数量や価格を決めるネット資材調達なのです。ネットを活用した原材料、部品などの調達で先行しているのは電機と情報業界の大手メーカーで、そのうちソニーと富士通については次のように報道されています。
ソニーのネット調達システム
ソニーは「スピリッツ」というネット調達システムを1999年に稼働。電子部品メーカーを中心に接続先は全取引先の65%に当たる2,600社にまで広げた。アクセス数は月200万件。ネットによる調達金額は昨年度、グループ全体の資材調達額2兆3千億円の7割に達した。このシステムは注文業務や需要予測、生産予定など調達に関する20項目の情報をソニーと調達先でやり取りする。専用回線を使う電子データ交換(EDI)では、発注情報の伝達などに手間取り、部品メーカーとの情報交換に平均で往復5日かかっていた。だが、ネット経由では瞬時。売れ筋商品の増産に必要な部品の発注が素早く行えるようになった。同時に子会社のソニーイーエムシーエス(東京・品川)でネットを駆使してグループの資材調達などを横断的に行う体制を整えた。これにより、調達コスト引き下げ効果を出している。
富士通のネット調達システム
富士通は1,600の取引先との間で「プロキュアマート」というネット調達システムの導入を進めている。取引先向け説明会などを開きながら、年内に調達業務をすべて同システムでこなす計画だ。見積書や設計図面、仕様書などの送受信も容易になるため「取引先との信頼関係が強まる」(ASPサービス統括部)という利点も出ている。
NECの調達システム
NECは「ペガサス」という調達システムをグループ内12社に導入した。来春までには18社に増やし、2,200の取引先と時間差がない情報交換を目指す。ネット調達は、資材の売り手側にとっても利点が大きい。電子部品各社は出荷先の厳しい要請に応えるため、コンデンサーなどの汎用部品でも多様な仕様の在庫を用意しているが「無駄を廃することでコスト削減も可能になった」(NEC資材部)
(2002/12/24  日本経済新聞)
その他、以下の報道のように、情報技術(IT)に身近な電機と情報業界から比較的ITと縁遠いとされてきた産業領域にもネット調達導入ブームの兆しが見られ、遅れていた日本企業のB to Bインターネットコマース導入にもようやく拍車がかかってきました。

大手ゼネコン(総合建設会社)もネット調達導入に前向きだ。先行している大成建設は5千社と「Gネット」というネット調達システムを使って取引している。全社的な一括購入も可能になりユニツトバスなどでコスト削減効果も生みだしている。化学大手など他の業界にも導入ブームの兆しが出ている。
(2002/12/24  日本経済新聞)

9-5.ネット入札による仕入れ価格引き下げ

インターネット入札では、対象商品の仕様や取引条件を決め、あらかじめ選び出した複数の取引先に提示して参加を働きかけ、取引先が決められた日時にネットを通じて応札し、入札実施企業がインターネットを通して落札者を選定する形をとります。応札業者は単に価格と数量を提示するだけでなく、商品の仕様や取引条件の変更により更に値下げできる余地があれば入札実施企業に対して逆提案することもできますので、これによって品揃えの無駄をなくしたり取引形態が改められたりできるという相互にとっての利点が生じてきます。以下にネット入札の実施例をご紹介します。
大手スーパー・イオンの事例
「入札で年間五十億円のコスト削減」・・・。大手スーパー・イオンはインターネットを使った入札で商品の仕入れ価格引き下げに大きな成果をあげた。初めて導入した2000年に3回だった入札実施回数が、今年は約190回にまで増加。対象は食品の贈答セツトからリンゴ、スーツ、ポロシャツにまで広がっている。調達金額は平均で22%下がった。
クボタの事例
クボタが2001年から始めたA重油など工場燃料油のネット入札は「平均3%の仕入れ価格引き下げ効果」(ものづくり推進部)が出た。慣れ親しんだ従来の取引慣行の抜本的な変更に社内外の抵抗もあったが、関係者を説得して実現にこぎつけた。8月からは対象を液化石油ガス(LPG)の一部などにも拡大した。
NECの事例
NECは2002年2月からモーターやコンデンサーなど11品目にネツト入札による部品などの調達を導入した。購入価格の15-20%引き下げも実現したため「対象をプリント基板やコード類にも広げることも考える」(資材部)としている。
松下電産の事例
松下電器産業もプリント基板やACアダプター、水晶振動子など家電製品の主要部品を対象にネット入札を開始。プリント基板で10%の調達コスト引き下げ効果を出している。
(2002/12/24  日本経済新聞)


9-6.新しい共存共栄の形

従来の資材調達方式からの転換

日本企業の従来の資材調達は、仕入先を特定の数社に固定して、いわば閉鎖された企業グループの中で行われるのが一般的でした。この固定的なサプライヤーから継続して資材調達する方式は安定供給を確保する上で有効であり、特に部品や原材料などが不足して生産ラインが停止するリスクを回避するうえでは効果が絶大でした。

しかし、現在は鋼材、石化製品をはじめとした原材料産業は軒並み設備過剰ですので供給不足に陥る懸念がほとんどなくなっているうえに、サプライヤー選定の際にD(Delivery)の能力が吟味できインターネットなどの情報技術(IT)を使ったきめ細かな工程管理が行えるようになりましたので、部品や原材料の欠品や遅配のリスクは回避できるようになりました。

市揚開放も進んで輸入の選択肢も広がっていることもあり、安定供給の確保が得られる旧来の調達方式から、世界中の部品メーカーにオープンに発注を行いQCDが最適と思われる部品メーカーを選別して電子商取引を行うことができるネット調達に切り替えやすい素地が拡大してきました。

閉鎖的なサプライ・チェーンからの脱皮

また、従来の閉鎖的なサプライ・チェーンは、アセンブリーメーカーを頂点とするピラミッド構造をなしており、アセンブリーメーカーの新製品の仕様や販売動向状況などの機密情報の漏洩を防ぐのには有効でしたが、汎用性の高い部品の調達は、パブリックなインターネット・マーケットで行っても差し支えなく、必要最小限の先行情報をインターネットで提供することは、サプライヤー側にも不要な在庫が削減できるという利点を生じさせます。

まして、製品の新商品企画と部品の新商品開発とは一層緊密に連携しなければならなくなってきています。「寄らしむべし知らしむべからず」という上下関係を基調とした「系列」取引では部品サプライヤーからアセンブリーメーカーに至るまでのトータルQCDを改善することができず、一層厳しくなる国際市場での競争に耐え難くなってきたのです。

取引先選定の自由度拡大

更に、アセンブリーメーカーがオープンに部品サプライヤーを選択できるようになったのと同時に、部品サプライヤー側にも「系列」の枠から抜け出て世界中のアセンブリーメーカーと取引できるという自由度が生まれました。日本的商慣行に風穴が開けられ、企業間の関係が、“共存共栄”のために相互間に妥協の余地を残していた上下関係から脱して、情報の相互開示も活発で利益を共有できるビジネスパートナー関係が随所に形成され、それぞれで新しい形の共存共栄を享受できる基盤ができてきたのです。

9-7.日本型B to Bインターネット・コマースの特徴

インターネット先進の米国では、取引経験のない企業に対してもオープンな環境で仕様書や見積りのやり取りを行え、新規契約先を開拓できるというインターネット本来の「ボーダーレス」特性を享受しているようとすることが多いのに対して、日本のB to B「インターネット」コマースでは登録者のみがアクセス可能な「エクストラネット」を利用していることが多いと言われています。これは日本の企業がセキュリティを優先していることと、系列企業間での取引が多いため公衆網を利用するメリットが少ないことに起因するものと考えられます。「資本・人的関係」、「長期継続取引」、「濃密な情報共有化」といった「系列」の強みをいかんなく発揮して世界市場を制覇した日本の産業にとって、多段階の分業システムに編成された「系列」は国際競争力の源の一つであり、また、以下のように「系列」の存在意義が今もなお存続しているのも事実ですから、安易な「系列崩壊」論は避けるべきだと思います。

「系列」の存在意義
日本の企業の商品開発スピードは非常に速く、しかも、量産に入るとジャスト・イン・タイムの部品供給が要求される。そのためには、サプライヤーが予め、アセンブリー・メーカーの商品開発コンセプト・要求仕様・発注方式などを知っていて短期間のうちに部品を作り込んでいかなければならない。いくら安いからといって、まったく知らないサプライヤーとはすぐに取引ができないケースが多い。

製品そのものの信頼性や安全性を左右する基幹的な原材料や部品の供給をマウスのクリック一つで新規の企業に委ねるのはリスクが大きすぎる。また、阪神大震災のような非常事態も考慮しておく必要がある。アセンブリー・メーカーの製造ラインが停止すると系列のサプライヤーの経営にも打撃になるので、自己防衛上からも原材料・部品の供給確保に全力を尽くすが、インターネットで見つけてきた一見のサプライヤーにはそこまでのロイヤルティーを期待することができない。
以上のような原価以前の問題があり、単価の中には、「系列」企業ならではの安定・適時供給能力維持や信頼性・安心性保証、危機管理の費用も含めて考慮する必要がある。
トヨタとe マーケットプレイス「Covisint」

トヨタが前述のe マーケットプレース「Covisint」への参加に際して慎重な姿勢を示したのも、こうした旧来の系列取引を重視しているからだと思われます。Covisintは、参加各社が持っている下請企業を全部ネットワーク化して、相互乗り入れの形でグローバルにウェブベースの部品調達するのが狙いです。しかし、トヨタには永年にわたるカンバン方式による部品受発注の過程で鍛えぬき経営体質を強化させてきた自前の系列サプライヤー群がいますので、それをあまり他社に使ってほしくないと思っても当然だというようにも思えます。

結局は、汎用品と一般部品の調達に関しては、インターネット・ベースのオープンなe マーケットプレースCovisintを利用して共同購買で調達コスト削減を狙い、独自設計のカスタム部品は、自社専用のシステムで取引を実施するという方針を採ることになったのですが、トヨタだけでなく、ネットコマースの対象になるのは、原材料や燃料などの資材のなかでも性能を比較しやすい汎用品が中心で、特注品は調達先との協力で付加価値を一段と高めるといった調達方式の使い分けが進むものと考えられます。


Web-EDIとe マーケットプレイス

Web-EDIが、特定の企業が企業間取引の業務効率化を主目的として構築したケースが多いのに対して、e マーケットプレースは売り手でも買い手でもない第三者が商取引の「場」を運営すること自体がビジネスで、マッチングを始めとしたサービスを提供し手数料や広告料でサイトを運営している場合が多いという違いがあります。

e マーケットプレースの運営母体には、総合商社やコンピューター・ベンダー、またはベンチャーを中心とした第三者によって運営されるタイプがありますが、ここで大手商社が積極的に取り組んでいるのも日本型B to Bインターネット・コマースの特徴と言えます。総合商社にとっては、e マーケットプレースは大きなビジネス・チャンスであるとともに、放っておけば自身が「中抜き」される危険性を持つため、一種の仲介サービス業(Infomediary)化することが重大な活路となっているからです。

9-8.B to Bコマースの今後の課題

標準化

日本で最も早くB to (Business to Business) インターネット・コマースによる原材料調達が普及しだしたのは製造業、特に、自動車、電機、機械の自動車、電機、機械の各業界でした。これらの業界は系列企業化が進んでいたために取引先の企業が特定の企業に限定されていて、企業間の統一的な受発注様式が既に決まっていたため、インターネット技術を用いたオンライン取引が導入しやすかったのだと思われます。

現在インターネット上で調達(受発注の意思表示)までは行っていないが情報交換や商談は行っているという企業も多いのは事実であり、広義のインターネットB to Bビジネスがかなりの普及度に達していることは確かです。しかし一面では、取引情報のデータ仕様や処理方法の標準化などが十分には進んでおらず、調達に至るまでのインターネット・コマースが広範に導入されるためには、こうした未解決の障害が除去されなければなりません。

完全にオープンなネットワーク上での商取引と言うのは、取引に関わるメッセージの標準化という点でも全く新しい問題を提起します。多種多様な取引情報を如何にして交換可能な形で表現するかという問題です。インターネットのグローバルな性格を考慮すれば、それは言うまでもなくグローバルな標準でなくてはなりません。現在その有力な手段と考えられているのは、同じWWWの記述言語のHTML(Hyper Text Markup Language)をより高度化したXML (Extended Markup Language)という言語による方法で、記述内容の自由度が増し使い勝手が大幅に向上したXMLをベースとした取引情報の表現方法が既に様々な分野で開発されています。

その他にインターネット to Bコマースの今後の課題には以下のような事項があります。

与信機

to Bコマースでは、見ず知らずの企業と取引を行うことができる可能性が高くなる反面、見ず知らずの企業と取引せざるを得なくなる場合がありますので、与信の問題が発生してきます。このため、取引先の支払能力、品質・納期を守れるかどうか、過去の取引実績はどうかなどの信用情報が必要になるため、金融機関を取り込んだ to 決済専門会社などが出現してきています。

独占禁止法

業界大手連合のe マーケットプレースの場合には、これを利用しなければ取引ができないなどといった形で排他的になる可能性が高く、また、売手が集まるとカルテル価格が形成されやすくなるなど、独占禁止法に抵触する問題が発生する可能性があります。この手の国際紛争の処理は、基本的にe マーケットプレース運営企業が所在するアメリカの州の法律に基づいて行われることが多く、同サイトの入会規約に紛争が起きた場合には、米国の当該州法が適用されると明記されている場合が多いようです。こんなところにも米国標準がグローバルDFS化してしまっているという現実の一側面が見られるように思えます。

スイッチングコスト

自前で部品・原材料調達体制を構築してきた企業にとっては、新たにe マーケットプレースを使った取引に移行するために、既存の取引先との受発注ではこれまで必要のなかった手数料をe マーケットプレース運営業者に支払わなければならなくなります。現実に期待される調達部品コストの削減とe マーケットプレース参加のためのスイッチングコストとの比較秤量が問題となり難しい選択になります。

9-9.サプライチェーン・マネジメント
   
(SCM : Supply Chain Management)

製品の企画・開発から、原材料や部品の調達、製造、流通、販売という生産から最終需要(消費)に至る商品供給の流れを「供給の鎖」(Supply Chain)と捉え、それに参画する部門・企業の間で情報を相互に共有・管理することによって、ビジネスプロセスの全体最適を目指す戦略的な経営手法、もしくはそのための情報システムをSCM(Supply Chain Management)と言います。

アメリカのデルコンピュータやシスコシステムズなどの急成長企業がこの手法を導入していることから、大きな関心を集めましたが、もともとSCMのルーツはトヨタ自動車の「かんばん方式」にあります。ここで生み出された"無駄のない経営手法"がアメリカにわたって、「JIT(Just In Time)方式」として概念化され、更にこれにIT技術をフルに使う手法として開発されたのがSCMです。

“全体最適”損なう“部分最適”

IT先進企業といわれるサントリーさえ、数年前までは、工場在庫量を各支店に公開していなかったそうです。もし公開すれば、品薄の人気在庫をそれぞれの支店が取り合うことになるからです。しかし、非公開にしたために不安が生まれ、多めに発注することによって支店が過剰在庫を抱え込むという悪循環に陥っていました。各支店が“部分最適”を追求するあまり、流通と販売をつなぐ「供給の鎖」の部分に冗費が発生してしまっていたわけです。その後、サントリーでは“全体最適”を追求する「ロジスティクスセンター」というSCM組織を作り、情報を社内で共有・共用することによって在庫の活性化に成功しました。このように、ひとつの会社の中でさえ、適切なSCMが行われなければ、先を争っての“部分最適”の動きが跋扈して“全体最適”が実現できなくなってしまうわけです。

企業間連携SCMへの進化

SCMの発展段階の第1ステップは「社内でのSCM」で、これによって企業内連携が進展し、顧客の要求は生産現場へ迅速かつ正確な伝達されるとともに、製品ライフサイクルに合わせて物が滞りなく流れるようになり、また、必要な時に必要な部材が必要な場所へ届けられるようになりました。

しかし、製品の企画・開発や資材調達といった川上から物流や販売といった川下に至るビジネスプロセスの中の「供給の連鎖」が1社内だけで完結するケースはほとんどありません。そこで、SCMも第2ステップの「社外を含めたSCM」へと発展し、これによって企業間連携が達成され、複数企業間のビジネスプロセスの“全体最適”が追求されるようになったのです。企業間ビジネスプロセス全体として顧客満足度を極大化しつつ経営コストを極小化するSCMは、企業間BPRのための手法・システムに進化したのです。

最大の眼目はトータル在庫の圧縮

これまでのSCMの最大の眼目は、部品・材料在庫や製品流通在庫を含めたトータル在庫の圧縮にありました。在庫には、売れるまでの間の金利、倉庫代や管理者の人件費などのコストがかかります。しかも、製品が売れなくなるというリスクが常に存在していて、もし在庫が不良化すれば、それまでにかかった費用を回収することが難しくなってしまいます。また、在庫がさばききれないうちには新製品の発売を控えなければならない場合もありますし、在庫として持っている間に製品の市場価格が下落して可能性もあります。

とはいえ、在庫を限度以上に少なくすることはできません。たとえば、メーカーが部品在庫を切らせてしまえば、生産ラインをストップせざるをえなくなります。小売店であれば、欠品が頻繁に生じることになります。ですから、在庫切れを起こさないギリギリのレベルまで、圧縮するのが理想的であり、これがSCMの狙いになっていたのです。

e−SCMの生成が経営諸資源を活性化

更にSCMは、第3ステップの企業間の設計コラボレーションや戦略的アウトソーシングを実現する高度なSCMへと進化しつつあります。納期短縮や在庫削減などによる部品・製品などのモノ資源の活性化に威力を発揮していたSCMが、今度は企業間でのヒト資源の活性化の手段として用いられるようになってきたわけです。

このように、複数の企業や組織の壁を越え、一つのビジネスプロセスとして諸情報を共有・共用し、サプライチェーン全体の諸資源使用の効率の最適化を目指すことは以前から指向されながら、言うべくして実現至難なことでした。インターネットをはじめとしたTT技術を駆使したe−SCMの生成によって複数の企業や組織の情報資源の使用効率が大幅に向上したからこそ実現がかなったものと言うことができます。


SCM台頭の背景

一言でいえば、SCMは「情報技術(IT)の活用によって、モノや情報、カネがよどみなく複数企業・部門間を流れる仕組みづくりの手法」と言うこともできます。だからこそ、インターネット調達が、企業にとって価格競争力強化のためにだけではなくて、SCM構築のための手段として重要視されてきているのです。昨今は、取引先の業界大手企業から「これからSCMに切り替えますよ」といわれて「はい」と答えられなければ、たちまち取引カットになるといったケースさえ現実に起こりつつあるのです。

先駆的なSCM導入事例

次に、先駆的なSCM導入事例を2件ご紹介します。いずれのケースでもSCM(Supply Chain Management)がERP(Enterprise Resource Planning)とCRM(Customer Relationship Management)とともに導入されていることは、この三者が相互に密接な関係を持っていることを端的に示すものであり注目に値します。

NECのSCMシステム
NECは受注生産型のSCMシステムを開発した。まず2001/8にコンピューター事業ラインに導入。納期を平均30%短縮するなど効率を2倍に高める。社内の生産部門に順次導入するほか、ノウハウを生かして、社外向けソリューションとしても外販する。新しいSCMはERPをベースにCRMソフトと電子調達システムなどを組み合わせて、インターネットでまとめあげた。これによりリードタイムの30%短縮、在庫回転率を2倍、システム運用コストや生産管理要員の半減などSCMの効率を2倍に高める。

2000.7.17 日経産業新聞)

東芝セミコン社のSCM導入事例

これまでの東芝のサプライチェーンは、対象範囲が限定されており、End-to-Endの一貫したサプライチェーンモデルではなかったが、お客様(上流End)から、サプライヤー(下流End)までの全業務を包含した真の意味でのサプライチェーンモデルを構築した。これによって、PSI(Production / Sales / Inventory)が多階層で行われ、注文が拠点毎に処理され、情報が“バケツリレー”されていた旧来のビジネスが一新され、Webでの受注に基づくグローバルなオーダー/在庫管理が可能で次のような特徴のあるビジネスモデルが実現した。
Net-Readyである
市場直結である
全システムが連結されている
リアルタイム&グローバルである
リアルタイムデータを基に事業判断を下せる
(
引合、商談、受注残、在庫、工程情報等)
グローバルSCMモデル構築に至る過程で行ったビジネスモデルの変革の内容は以下の通りである。
テクノロジー変革
  一 インターネットヘの移行(プロセスとデータ)
  一 全アプリケーションのend-to-endでの統合
  一 データセンターの統合(一元化)
プロセス変革
  一 業務プロセスの標準化、簡素化
  一 全体(グローバル)最適によるプロセス革新
  一 業務の中抜き(対顧客、従業員、サプライヤー)
風土変革
 一 グローバル発想、Web発想、インターネツト時間発想
また、上記のテクノロジー変革のポイントは、中核の「SCM+ERP+CRM」によるナレッジ・マネージメント(Knowledge Management)をEコマース・サービスでサポートする「Web + IT Integration」によってお客様(上流End)からサプライヤー(下流End)までをネットワーク化した点にある。
(EBSS社プレゼンテーション資料より)
SCM導入の具体的な効果

ダイヤモンド社発行の「分かる!eサプライチェーン」では、このSCM導入の具体的な効果を以下のように紹介しています。

「インターネットの活用でライバル企業に差をつける」
新システムでは、東芝が立ち上げた専用ホームページに顧客企業が直接にアクセスして画面上で注文したり、製品の価格や納期をリアルタイムで見られたりできるので、受発注の時間を短縮することができる。
半導体事業では、需給調整や向上の生産ラインの稼働状況などを把握するのに時間がかかるので、従来は注文してから納期回答まで数週間かかる場合もあった。需給状況をすぐに生産ラインに反映できる体制にすることにより、納期回答を迅速化し顧客満足度を高めることができる。
電話やファクシミリで、しかも、販売会社経由で受注する場合は処理時間がかかる。顧客企業とインターネットで結ぶことが、受注処理の自動化につながり、担当者の業務削減と大幅なコスト削減を実現することができる。

ERP(統合業務)システムとの連動

SCMでは、販売、受発注、在庫、生産、計画などに関する情報を各部門・企業がきめ細かくリアルタイムで把握できていなければなりません。しかし従来は、情報システムが部門ごとに構築され、その結果、組織の壁とともに情報の壁を作ってしまい、情報の伝達に時間を要したり齟齬をきたしたりするのが常でした。この場合、各部門の既存システムを統合する方法もありますが、新たに構築する際に便利なものとして注目されてきたのが「ERP(Enterprise Resource Planning:統合業務)パッケージ」と呼ばれるソフトウェアです。ERPが注目されているのは、パッケージ化されている上に、業務ごとに情報システムが作られているので、横断的な情報システムが短期間で導入でき、しかも、組み合わせによって簡単に機能を拡張できるという特徴を備えているところに大きな要因があり、これがそのままSCM導入がERPシステムとの連動のもとで行われる傾向を助成したものと考えられます。

グローバルSCMの展開

グローバルにサプライチェーン・マネジメントを展開させようとする動きも目立ってきました。関連の報道を以下に紹介します。

松下電器 グループ在庫2割削滅

松下電器産業はグループが抱える原材料や製品などあらゆる在庫を2005年度からの2年間で2割削減する。国内外の販売実績や在庫の情報を取引先と共有する情報システムの整備、生産工程の見直しにより、昨年9月末にグループ全体で一兆円を超えていた棚卸資産を大幅に圧縮する。主力のデジタル家電や半導体などの市況変動にも機敏に対処できるよう、在庫リスクを軽減する。
松下は04 - 06年度で約450億円を投じ取引先と在庫情報を共有するサプライチェーン・マネジメントを世界各地の拠点に広げる。さらに国内外の工場では従来のセル生産に電子部品の小型実装機などを組み込んだ新しい生産方式の導入や、金型のデータベースを各工場が共有する仕組みなどを採用する。
2005/1/10  日本経済新聞)


シンガポール SCMの要に … 日本企業、配送拠点を拡充

シンガポールを、物流効率化を徹底するサプライチェーン・マネジメント(SCM)の拠点として活用する企業が増加している。同国の港は世界130カ国700の港と、空港は50カ国130都市と結ばれ「いつでもどこへでも」貨物を運べる。この港湾や空港の利便性を再認識したメーカーが世界に向けた配送拠点にしており、物流会社も新サービスを次々打ち出して需要を掘り起こしている。シンガポール経済開発庁(EDB)によると、特に目立つのは自動車関連メーカー。日本や欧米の完成車メーカ12社、部品メーカー14社が地域統括拠点を置き、物流機能を強化している。
ヤマハ発動機は東南アジアから中近東までをカバーする物流統括会社をシンガポールに開設し、4月から本格業務を始めた。同社が日本やアジア各国で生産する二輸車などの補修部品約2万点を集約し、注文に応じて各国に配送している。日本からの配送では45日程度かかったリードタイムを10日程度に短縮。2006年には03年比で在庫を30%削減し約10億円のコストダウンを図る計画だ。アジア戦略車「ヌーボ」の生産をブラジルでも6月に始めたが、インドネシア、タイ、マレーシアなどで作った部品をシンガポールに集約し、一括してブラジルヘ送っている。
家電メーカーも同様で、20015月からシンガポールでミニコンポなど完成品にSCMを導入した松下電器産業の場合、取り扱いは当初の6機種から現在は100機種へ拡大している。
物流会社はシンガポールでSCM事業の受託に力を入れている。日本通運のSCM受託サービスの顧客は電機、精密機械など約20社に達した。受発注を電子化し、顧客は自社の貨物の状況を端末で確認できる。

(2004/8/10  日本経済新聞)


米国企業各社のSCM推進状況

米有力企業が在庫削減を加速している。企業業績は急回復しているが、売上高の急速な回復は難しい。各社は在庫を極限まで削り経営効率を高める。そして、在庫削減は各社の業績を現実に好転させている。在庫削減で先行する各社に共通するのは、サプライチェーンを自社の生産、物流、販売部門で完結させず、取引先を幅広く巻き込んだ改革を進めていることだ。インターネットやICタグ(荷札)など情報技術(IT)の活用で、広範囲の情報共有化が可能になったことが背景にある。

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)はサプライチェーン改革により今後5年間で商品在庫を半減する計画を策定した。販売店、原材料メーカー、物流会社などとも情報を共有できるよう「消費者主導型サプライネットワーク(CDSN)」と呼ぶ新たな仕組みを構築する。店頭での個々の商品の販売から在庫補充までの時聞を半減でき、物流経費を20%削減する。品切れの率を半分に減らせば年間10億ドルの増収効果があるという。さらに、従来の見込み生産を脱し、一時間単位で詳細な生産計画を立て、原材料メーカーなどに即座に発注できる体制にする。ウオルマート・ストアーズと協力してICタグの導入も急ぐ。物流倉庫での在庫管理を効率化でき、年間5干万ドル規模のコスト削減が可能になるとみている。

P&Gアラン・ラフリー会長兼最高経営責任者と日本経済新聞記者とのQ&A
Q1.物流や在庫の効率化に経営の力点を置いている理由は?
「当社のサプライチェーンには改善の余地はまだある。そのために消費者がたった今、商品を買ったという情報を、全関係者がリアルタイムで共有できるようにする。インターネットを使った開放性の高いシステムが必要で、日本や中国を含め世界規模で取り組む。サプライチェーンが合理化されれば、在庫切れが減り、欲しい物を欲しい時に買うことができる」

Q2.最大の取引先であるウォルマート・ストアーズとの関係は?
「ウォルマート向けの納入は当社の売上高の17-18%を占めており、緊密に連携していく。新しいサプライチェーンの試みのすべてが同社との取引に適用される」

Q3.ICタグの実用に乗り出しているが。
「大きな可能性を秘めた技術で、当社はメーカーでは先頭グループにいる。商品ケースに装着して出荷を始めたが、まだ個別の商品には付けていない。チップのコストや装着の仕方など、まだ多くの研究が必要だ」

コカ・コーラは傘下の米最大ボトラー、コカ・コーラ・エンターブライゼスが独SAPと提携、販売店の情報を一元管理するシステム構築に乗り出した。販売店を巡回するトラックに積載量や最適な経路を指示する。

IBMは在庫圧縮活動を通じ、昨年だけでコストを70億ドル分減らした。部門ごとにばらばらだったサプライチェーンを一本化。部門間で部品の共同調達を推進、共同配送や倉庫の統合も進めた。在庫水準は過去30年間で最低になった。

ネット小売り最大手アマゾン・ドツト・コムは梱包、仕分け、発送などの出荷業務を大幅にIT化した。同業務の費用が売上高に占める比率は2000年に15%だったが、今年1-3月期は8%強になった。

米ギャップは2-4月期の売上高が9%伸びたのに、売り揚面積当たり商品在庫は12%減った。売れ残り品のの値下が少なくなり純利益は4%増えた。

9-10.SCM進化の方向

e マーケットプレイスとの連動

更に、高効率・高生産性追及のために導入されているSCMを強化するためにe マーケットプレイスを活用するという方向性が見え始めています。EDIによって結ばれた特定少数の調達先だけを対象としたSCMでは、販売予定量の急激な変化で大量の部品が必要になったり、逆に大量に在庫を抱えることになったりする場合の対応が困難です。しかし、こういった場合にe マーケットプレイスを利用して部品を調達したり、在庫を処分したりすれば、マーケットにフレキシブルに対応することができます。今後はこのような形で、SCMとe マーケットプレイスを戦略的に組み合わせて活用していく動きが高まるのではないかと思われます。

新業態の生成と発展

SCMの高度化に伴って、企業間における新しいアウトソーシング(外部業務委託)やコラボレーション(協働)を実現する形の新しい業態が生成し発展してきました。以下にその代表例を取り上げ概観を加えます。

(1) SPA(製造小売業)

SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)とは、製造から小売までを統合した最も垂直統合度の高い販売業態ですが、素材調達、企画、開発、製造、物流、販売、在庫管理、店舗企画などすべての工程を一つの流れとしてとらえ、サプライチェーン全体の無駄やロスを極小化するビジネスモデルのことと定義されます。日本では、カジュアルウェア専門店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが採ったSPAビジネスモデルが、「物作りを持たないSCM」による新しい業態として注目されました。

ユニクロの場合、素材の調達や縫製などは外部に依存(アウトソーシング)していますが、基本的に在庫などのリスクは自社で負担しています。上流から下流まで、すべての情報を一元的に把握しコントロールできるからこそできることであり、これがSPAの成功の鍵とされています。

POS情報などによる販売予測や購入者分析、店舗開発などの「販売」のノウハウを多く所有している「小売」業者が「製造」をアウトソーシングする形が一般的で、ユニクロの場合は、店頭のPOSを使って消費者の情報を得それを生産計画に反映させて中国の工場で生産する形をとっています。

(2) EMS

EMS( Electronics Manufacturing Service)とは、エレクトロニクスメーカーから依頼を受け電子機器などの製造を請け負う事業のことを言います。1980年代前半に米国で製造部門のアウトソーシング(外部委託)が拡大したことに伴って、数多くのEMS企業が誕生し活動が盛んになりました。OEMと似たような形態ですが、EMS企業は今や、製造請負の範疇を超え、製品設計、部品調達、サプライチェーン管理、物流、製品修理に至る業務を受注するトータル・アウトソーシングの形までに成長を遂げています。

旧来の大手電子機器メーカーから過剰設備となっている工場を安く購入し、そのメーカー以外からも広く受注することで回転率を上げています。操業率が高くなる分、EMSに新規に発注する企業だけでなく、工場を売却したメーカーにとっても経営の効率化が図れるわけです。また、従業員ごと工場を金融機関に買い取らせ、EMSはその金融機関から賃借して操業するなど、自社工場を所持するリスクを回避して営業している企業もあります。

パソコンなどの情報機器は共通部品が多いため、同じ部品を大量購入することによるコストダウンも期待できます。寧ろ、積極的に開発期間の短縮とコストの圧縮を両立させる施策として、製品ごとに部品の開発や調達を行ってきた旧来の体制から、部品の共通化や流用を図る流れに変える(機種適合から部品適合へ)動きも進展しており、ここでも、インターネットを活用した国際入札や製品プロジェクト間を超えた共同調達体制などを行うことによってより有利な条件での調達が可能になっています。.

世界のエレクトロニクス産業トップ企業を含む多くの企業で、工場をEMSに売却して本体は設計、開発に特化していくという構想が進んでいます。

(3) バーチャル・コーポレーション

バーチャル・コーポレーションとは、産業上の企業の壁を取り払ってサプライチェーンをマネジメントすることで、情報共有をベースに全体最適のキャッシュフローを上げる組織と情報システムにおけるコンセプトです。企業が違ってもあたかも一つの企業内の上流工程と下流工程のように企業間に存在する注文書や請求書発行の手順を省き、全体のサプライチェーンの計画と状況情報を共有する仕掛けを作って時間短縮でスピード経営を可能とします。

サッカーや陸上リレー、水泳リレーのようにチームプレーするメンバーによってチームの強さが決まるように、チームメンバーがそれぞれ異なった得意技をもった構成となると最強のチームになります。そして、サプライチェーンを構成するバーチャル・コーポレーションのメンバー企業は自社の得意技を持つことが自分の格付けを上げるための条件になります。この自社の特徴を表現する資格に相当する技がコア・コンピタンスといえます。

お互いのコア・コンピタンスを利用しあいながら全体最適を求めて協働することができるバーチャル・コーポレーション生成の動きは、生産・販売などの領域から設計や研究開発などといった創造的な業務領域にまで拡大しつつあります。

(4)MRO(Maintenance, Repair and Operation)


一般的には、インターネットB to Bコマースは、主に原材料などの生産財を対象とするものですが、最終消費財のMRO(Maintenance, Repair and Operation)と呼ばれる急成長中のオフィス用品等の調達業務の請負サービスが含まれます。MROとは、企業が経費や間接費として支出する最終消費財購入のことであり、具体的には、文具、書籍、パソコン関連商品、オフィス家具など中間投入にならない支出部門を指します。米国では、企業から一般消費者に対して商品の販売を行う店舗よりもむしろMROの方が先に成功していたとも言われています。平成11年版郵政省編「通信白書」の「特集・インターネット」より、以下の日米の企業事例をご紹介します。

1)    米国インスティル社
米国のインスティル社(Instill Corporation)の運営するE−Storeは、MROでの成功事例の一つである。これは、レストランをはじめとして、ホテル、企業、学校、病院などにおける飲食サービス施設専門のインターネット上の店舗であり、1997年には1億8,000万ドルの売上げがあった。同社では、多数の食品関連流通業者から最新商品カタログの提供を受けて、E−Storeのホームページに掲載し、レストラン等から注文を受けるという販売仲介が主たる業務になっている。レストラン等にとっては、今まで限られた業者から限られたサービスしか受けることができなかったのに対して、E−Storeを利用することで様々な価格、商品を持った多数の業者に一度に発注を行うことができるため、調達業務の効率化とコストの削減を図ることができる。流通業者にとっても、営業活動を簡素化しつつも顧客層の拡大が見込まれること、受注時のペーパーレス化等により業務が簡素化できることなどのメリットがある。つまり両者にとって業務の効率化につながるサービスになっている。
2)    アスクル
我が国では文具等の事務用品の販売を行っているアスクルなどが、このMROにあたる。従来は企業で事務用品等の購入を行う場合、総務部門等が各部門で必要とするものを取りまとめて注文していたが、アスクルのインターネット販売の場合にはその都度ホームページ上で必要な商品の購入ボタンを押すだけで注文が可能となり、翌日には商品が配達される。総務部門でオフィスサプライの必要数量を取りまとめたり、発注の度に精算したりする必要がなくなるため業務の簡素化につながっている。現在のところ、アスクルのインターネット上での売上げは全売上げの1割程度であるが、その額は月間約1億8,000万円に上っている。
3)    ビジネス・コープ
ビジネス・コープも一種のMROとなる業務を提供している企業である。大企業は通常大量に文具等の事務用品を購入するため、どのような商品でも比較的安い単価で購入することが可能である。しかし中小企業の場合には大量購入しないケースが多く割高になりがちである。ビジネス・コープではこの点に着目し、多数の中小企業から注文を集めて事務用品等を共同購入するというビジネスを営んでおり、その受発注にインターネットを利用している。会員企業のみがアクセスすることが可能なこのホームページでは、常に最新の商品・価格情報が掲載されており、いつでも発注が行える。
このように、MROを提供している企業は、単に企業相手にインターネットコマースを行うのではなく、その特徴を生かして顧客企業の業務を自社のホームページ上で取りまとめることで、企業の業務の一部を請け負い、または効率化し、利用企業のコスト低下を促すような付加価値をも提供している。

9-11.電子政府

ここで、直接B to Bビジネスとの関係はありませんが、国や自治体の行政サービスをオンラインで提供する「電子政府」についても触れておくことにします。“すべての国民がインターネットなどを容易に利用でき、情報通信技術の恩恵を受けられる実現''を基本理念に掲げ2001年1月から施行された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)に基づいて政府が、世界最高水準のネットワーク整備、規制の見直しなどを通じた電子商取引の促進とともに推進しているのがこの電子政府と電子自治体の構想です。データべ一ス化された情報を各省庁で一層充実させ情報共有するとともに、国民にインターネット・ホームページを活用した行政情報のタイムリーな提供を行うことが基本的な狙いで、以下の3本柱から成り立っています。
@ 申請・届出をインターネットで行い、なおかつ、可能なものについては現状の複数の煩雑な手続きを1回(ワンストップ)で行えるようにする。(G to C : Government to Citizen)
A 政府調達の電子化を進め各省庁横断的な調達情報の提供を行い、審査に関わる手続きの電子化を進め、その後の入札や開札の手続きも電子化する。(G to B : Government to Business)
各省庁間の相互の報告や内部管理業務を合理化する。(G to G : Government to Government)
上記AのG to (Government to Business)の仕組み自体はB to Bビジネスと変わりませんが、@のG to C(Government to Citizen)のC(Citizen)の中には、法人としての企業(Business)が含まれており、諸種の申請・届出において「インターネットを利用したビジネス」となる場面が生まれる可能性があります。また、アメリカのG to Cビジネス(政府対消費者 : Government to Consumer)について以下のような報道がされています。IT基本法制定に当たっては、情報スーパーハイウェイNII(National Information Infrastructure)構想(1993年)から8年も立ち遅れてしまった日本ですが、アメリカ政府の「コンピューターに関する研究開発は、米国の安全保障と経済的発展の命運を決するものであり、この分野での米国の優位を今後も継続しなければならない」というIT観と不退転の決意を見習って、日本政府にも捲土重来のリーダーシップの発揮と率先垂範を期待したいところです。

ネット小売り 世界一は「米政府」
米フェデラル・コンピューター・ウィーク(FCW)などの調べによると、米政府機関が物品などを消費者に直接販売した総額は2000年に約3,600百万ドルに達し、民間最大の米アマゾン・ドット・コム(2,761百万ドル)を大きく上回ったことが明らかになった。調査によると国防省は軍用トラック、運輸省傘下の沿岸警備隊は住宅、内務省の地質調査所は地図などを一般向けにネット上で販売した。最も販売売額が多かったのは財務省。国債などを売り、総額は33億ドルだったという。
(2001/6/4  日本経済新聞)

9-12.B to Bビジネス展開上の留意点

まずは、「B to Bはブームではない」という認識をもって、歴史的な趨勢に対応すべく長期的視野を持って取り組む必要性があります。B to Bビジネスへの参入のメリットについては、どのようなビジネスケースも同様ですが、参入に要するコストと参入によるメリットを分析・比較する必要があります。一般的には、普及率が低い時期に他社に先駆けて参入する企業は、即効性の利益創出は期待できないが累積利益の総量が高くなり、一方、普及後に参入企業の場合は、立ちあがり時に利益が出るものの利益を享受できる期間が短くなるという傾向があります。ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンはここでも通用する原理ですが、「21世紀のビジネスは“しかけ競争”で早い者勝ち」であるうえに、B to Bには普及が本格化するとB to B向きの業務体制やインフラを実装していない企業は取引に参加できなくなるという側面があります。待ちの姿勢をとりがちな日本企業が21世紀型企業になるためには、攻めの姿勢への意識改革が必要だと思われます。

更に、B to Bビジネスへの参入に当たっては「何のためにWebを使うのか?」の問いに対する答えを明確にしておく必要があります。そして、「自社の強み(コアコンピタンス)を発揮する方向と合致しているか?」また「経営資源を無用に拡散させることにならないか?」を自問したうえで、何より「社内外の業務プロセスはどのように変革するか?」を本格的に検討することが重要です。「目的のために必要な技術は何か?」および「必要な人材とITプラットフォームは自前で調達するかアウトソーシングしたほうがよいか?」という問題も重要には違いありませんが二義的なものだということを銘記しておく必要があると思います。

インターネットでは、大資本のサイトも中小・零細企業のサイトも区別なく表示され、まさに「リンクを制するものがウェブを制する」で、「検索されやすい」か「検索されにくい」かが勝負になります。また、仮に検索された場合でも、無名で取引歴もない企業が潜在顧客から信頼を得るためには、Web運営当事者の熱意と創意工夫に満ちた仕掛けが不可欠ですので、運営当事者に即断即決の裁量権を与えることは検討に値します。これが、販売促進や顧客対応など、何かにつけて、多層をなす管理者の決裁や他の部署との調整が必要となる大企業に対して「小よく大を制す」結果につながる可能性があるからです。


(Ver.1 2003/ 3/28)
(Ver.2 2004/ 7/14)
(Ver.3 2006/ 7/16
)

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