コミュニケーションメディア論 |
第5課 ブロードバンド化 |
1.ブロードバンド時代の到来
1−1.ブロードバンド通信とは
「ブロードバンド通信」とは、文字通り、「Broad Band(広帯域)通信)」ですが、正確な定義はなく、一般的には「通信回線の容量を拡大し一度に大量のデジタルデータを双方向に伝送できる高速・大容量通信」のことを示します。「ブロードバンド」がどの程度の伝送容量なのかは、技術の進歩や画質の評価基準などによって各国ごとに違っていますが、アメリカのFCC(連邦通信委員会)の基準では、ラストワンマイルの回線で200kbps以上の伝送速度を可能とすることが条件となっています。これは、通常の電話回線(56kbps)の約4倍に相当し、ISDN(64kbps)をはるかに上回るスピードになります。
インターネットに高速な専用線で接続するサービス業者がインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)で、ISP同士が相互に結んでいるネットワークのことを「バックボーン・ネットワーク」と言います。これに対して、利用者がインターネットを利用するためにISPと接続するためのネットワークは「アクセス・ネットワーク」と言います。このアクセス・ネットワークにブロードバンド通信を用いると高速で大容量なデータの送受信ができる“高速インターネット”または“超高速インターネット”接続が可能になることになります。ですから、インターネットでも、通常のテレビ画質並みの動画像をスムーズに送受信することが現実のものとなっているのです。 現在、ブロードバンド通信のインフラ(基盤となるネット)の構築には、「光ファィバー」、「ケーブルテレビ(CATV)」、「DSL(デジタル加入者線)」の中の「ADSL(非対称デジタル加入者線)」、さらには「電力線」、「広域無線アクセス」などの様々な伝達メディアの利用が促進されています。特に、電話回線に専用のモデムをつけて利用するADSLがブロードバンドサービス利用の拡大を牽引してきており、伝送容量の面でも、従来は最大1.5Mbps程度から20Mbps程度のサービスが提供されていましたが、平成15年11月には最大40Mbps程度のサービスも開始されています。また、ケーブルテレビ網を利用したインターネット接続サービスであるケーブルインターネットも着実な普及を続け、30Mbpsの高速サービスやIP電話サービスを提供する事業者も出現しています。一方、高速インターネットアクセス網間での激しい価格競争の中で、光ファイバーで結ぶ超高速インターネットアクセス網で“究極のブロードバンド”とも言うべきFTTH(Fiber
To The Home)が急速な普及を始め、今や「我が国のブロードバンドインフラは高速かつ低廉な世界最高水準なものとなっている」(平成16年版「情報通信白書」)状態が現出しています。以下に「情報通信白書」より関連事項の報告をご紹介します。
ブロードバンド先進国へ 2006/6/26日本経済新聞でも以下のように報じています。
しかし、これは「e-Japan戦略」の成果というより、昭和60年度における電電公社の民営化や通信の自由化を含む通信行政の方向転換が、情報通信技術(ICT)の革新とあいまって実を結んだものと考えられます。特に、通信事業の自由によって市場への新規参入が促進されることによって、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)間で以下のように熾烈なシェア争い(2004年度末時点)が展開されているところに強力な原動力があったものと考えられます。
企業形態を公営から民営に変えるだけでは意味がなく、民間企業の新規参入によって市場での自由競争が拡大される余地がなければ、民営化しても産業が活性化することは期待できません。NTTは問題含みながらも民営化の成功例と言えそうですが、国鉄や近年における道路公団、郵政の民営化の産業活性化が危ぶまれる所以です。 また、情報通信インフラが整備されたとしても、これの利用水準が高まらなければ真のブロードバンド先進国になったとは言えません。従業員数を縮減するだけの“リストラ”による経営コスト削減に活路を見出してきた大方の日本企業のICTネットワーク利用水準は未だ低く、ICTネットワークを用いて企業内、企業間、企業・顧客間または国家/地域間の業務プロセスを抜本的に変える(リエンジニアリング)の余地が残っています。 |
1−2.高速インターネットが可能に
2000年末、NTT東日本と西日本が、両社で2002年3月までに全国で150万回戦の契約をめざして、一般ユーザー向けに「フレッツADSL」というサービスを開始し、ブロードバンド化への動きが一気に顕在化しました。また、光ファイバーの家庭向けサービスも、NTT東西会社が2000年12月末から受付を始めた他に、NTT自身が敷設した光ファイバー網を他の通信事業者にも開放することに踏み切りました。さらに、これと相前後して、有線放送大手の有線ブロードバンドネットワークスが、光ファイバーによる常時接続の家庭向け通信サービスを2001年3月から開始したことなどから、ブロードバンド時代実現の動きが一挙に加速されました。 従来、一般家庭(個人)からのインターネット接続は、アナログ電話回線やISDN(総合デジタル通信網)を利用して行なわれてきており、伝送容量は56kbps〜128kbpsのナローバンド(狭帯域)にとどまっていました。同じアナログ回線を用いながら10倍近い500kbpsの伝送ができるADSL(非対称デジタル加入者線)技術は開発されていたのですが、日本ではISDN普及が優先課題となっていたためにADSL商用化が大きく立ち遅れていたのです。ですから、日本ではデジタル路線(ISDN)からいったんアナログ路線(ADSL)に戻ることによって、ブロードバンド化が急進展するという形になったのです。 これによって、動画像や音楽などの大量データが高速インターネットで送受信できるようになり、インターネットのビジネス活用は格段と多様化し高度化しました。「ブロードバンド」は「高速インターネット」というコミュニケーション・メディアと表裏一体の関係にあり、インターネットが引き起こした経済・社会システムの変革を更に推し進める役割を担っているのです。 |
1−3.e−Japan戦略
2000年11月、IT戦略会義(*正式名称は「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」。首相の諮問機関で首相が本部長を務める)は我が国が5年以内に世界最先端のIT国家になるための、「e-Japan戦略」を打ち出し「IT基本法」を成立させました。その内容は、2005年までに高速インターネット(DSL、CATV、加入者系無線アクセスシステムなど)を、少なくとも全世帯の75%にあたる3,000万世帯に普及させることをめざすというものになっています。 政府のIT戦略本部が、IT立国の形成を目指し、2001年1月に策定した「e-Japan戦略」の中核をなすのが「高速インターネットを3000万世帯に、超高速インターネットを1000万世帯に利用可能な環境整備」というネットワークインフラに関する目標でした。総務省が公表している「インターネット接続サービスの利用者等の推移」によれば、DSL、FTTH、CATVなどのブロードバンドサービス利用者は約1179万3084加入となっています(*2003年8月末時点)。超高速インターネットサービスのFTTHはまだ60万加入を超えた程度ですが、DSLとCATVを合わせた加入者数は1100万加入を超え、多くの人が高速インフラの恩恵を受けられるようになりました。高速インターネットを3000万世帯に、という目標にはまだ遠い感じもありますが、加入者は1000万の大台に乗せましたし、実際3000万世帯が利用できる環境は整備されているといえそうです。 <e-Japan戦略IIの狙い> 1.インフラ整備が完了し、次のステージへ ITの基盤整備はほぼ完了しましたから、このインフラを利活用した新たな戦略が必要になりました。それが2003年7月に策定した「e-Japan戦略II」です。国民が便利さを実感できる仕組みづくりを重視しています。 2.基本理念と7分野でIT利活用を強化 IT戦略第2期では、「元気・安心・感動・便利」社会を目指しています。その中に「構造改革」「新価値創造」「個の視点」「新たな国際関係」という4つの軸があります。 ・ 構造改革=ITを駆使した無駄の排除と経営資源の有効活用 ・ 新価値創造=IT環境上で、新しい産業・サービス創出 ・ 個の視点=個の視点に基づいた改革 ・ 新たな国際関係=IT分野の国際展開 この4つの軸を見据え、IT基盤を生かした社会経済システムの積極的な変革を行います。また、先導的な取り組みとして医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの7分野での、IT利活用を挙げています。そして、7分野の成果を他のIT利活用分野へ展開していくことを目指しています。 先導的な取り組みの7分野について、具体的な内容と目標は下記のようになっています。 1.医療 「患者を基点とした総合的医療サービス、継続的治療等」では、2005年までに、保健医療分野の認証基盤を整備し、電子カルテのネットワーク転送・外部保存を容認します。また、「医療機関の経営効率と医療サービスの向上」では、第3者機関による審査を行い、医療機関情報を国民へ開示します。 3点目の「診療報酬請求業務の効率化」では、2004年度から診療報酬請求業務のオンライン化を開始し、2010年までに100%の医療機関で対応可能とします。 2.食 「トレーサビリティシステムの構築による豊かで安心できる食生活の実現」を目指します。2004年までに、100%の国産牛について、BSE発生などの場合に移動履歴を追跡できる体制を整備します。また、2005年までに100%の国産牛の精肉(*挽肉、小間切を除く)の生産履歴情報を確認できる体制を整備します。そして、牛肉以外の食品にもトレーサビリティシステムを開発し、展開していきます。 「食品の取引の電子化、農林漁業経営のIT化による消費者利益の増大」では、2005年度までに食品流通業者の半数が電子的取引を実現します。農林漁業経営分野でも、遠隔監視システム等を導入し、IT化を進めていきます。 3.生活 「温かく見守られている生活を実現、家庭でのサービスの選択肢拡大」では、2008年度までに、希望する高齢者単身世帯に遠隔ビデオ会話システムの導入などをします。また、センサーなどを通じた高齢者の在宅健康管理や、2005年度までにガス、水道、電気などの遠隔検針を行います。家庭内電力線の高速通信への活用も視野に入れています。 「緊急時の通報・連絡システムを確立」も目指していて、ITによる緊急通報の環境整備を行います。 4.中小企業金融 「与信方法の多様化や融資に関する手続の簡素化により、中小企業の資金調達環境を改善」では、電子手形サービスの普及などを謳い、2005年までに、信用保証の利用にかかる事務手続をオンライン化します。 「売掛金回収のリスク軽減」では、オークションなどで利用が進むエスクローサービス(第3者預託サービス)の普及を目指し、そのために出資法第2条の見直しも合わせておこないます。 5.知 「個の学習スタイルを多様化による、個の能力向上と我が国人材の国際競争力向上」では、2005年度までにIT遠隔教育を実施する大学学部・研究科を2001年度の約3倍とします。社会人などが時間・場所を選ばずにITを活用して教育が受けられる環境を整備します。 「コンテンツ産業等の国際競争力の向上、海外における日本文化への理解増進」では、2003年中に民間放送用コンテンツ、2008年までに全放送用コンテンツにつき、ネット配信が可能な環境整備を行います。世界的に評価される魅力的なコンテンツを編集、提供できる人材や資源の確保をします。また、それらの知的財産権を保護し、デジタルコンテンツを流通する環境も整備します。美術館などの所蔵品をデジタル化・アーカイブ化していくことも明言しています。 6.就労・労働 「適材適所で能力を発揮できる社会を実現」するため、2005年までに、電子的な手段で情報を入手し、職を得る人が年間100万人となることを目指します。また、人材の受給一致、民・官の人材交流を支援する電子的仕組みを整備していきます。 「多様な就労形態を選択し、創造性・能率を発揮できる社会を実現」することや「ITを活用した企業や事業拡大の支援により、就業機会の創出・拡大」も目指します。 7.行政サービス 「『24時間365日ノンストップ・ワンストップ』の行政サービスの提供と行政部門の業務効率の向上」を図ります。また、「国民が必要な時に政治、行政、司法部門の情報を入手し、発言できる、広く国民が参画できる社会を実現」します。このため、2005年度末までに、総合的なワンストップ・サービス(*ITを活用し、煩雑な手続きをできるだけ一回で完結できるようにするもの)の仕組み、利用者の視点に立った行政ポータルサイトなどを整備します。また、民間に保存が義務付けられている文書・帳票のうち、電子的な保存が認められていないものについて、電子的な保存を認める方向で検討しています。 7分野の中で注目したいのは、今まで情報開示が遅れていた医療分野でITを利活用し、電子カルテや情報公開という大きな流れがでてきたことです。安心できる社会作りの一環として、就労・労働分野のIT化や食のトレーサビリティも評価できるでしょう。そして、行政サービス分野では、民間に保存が義務付けられている文書・帳票の電子的保存について検討を進めていますから、実現すれば大量の文書や帳票を紙で保存している民間企業にとって、大幅なコスト削減となり、業務効率の向上が期待できます。 3.重複投資を回避し新たな価値を生み出す e-Japan戦略IIは、バリューエンジニアリング(VE)の手法を取り入れ、重複投資を回避し、方策の優先順位などを判断していく点を強化しています。このことでIT投資や業務の重複などの無駄を排除し、企業の体質改善につなげることができます。その余裕が、新たな価値や産業を創造する社会・経済システムへ還元され、世界をリードするIT立国へと変貌させることでしょう。 |
1−4.メディア融合を促進
「デジタル」が「アナログ」に対する用語であり、「デジタル技術」があらゆるデータや情報(文字、数字、音声、静止画、動画)をすべて0と1で処理して、蓄積(データベース化)や伝送(あるいは放送)する技術であるということは第3課で述べた通りです。つまり、デジタル技術によって、ビジネスや日常生活で使用している文字・数字・音声・映像をデジタル化することによって、組み合わせたり圧縮したりすることができるようになったのですから、デジタル技術はコミュニケーション・メディアに大きなパラダイム・シフトをもたらすものとなったわけです。 そして、更にブロードバンド通信技術が商用化されるにいたって、このパラダイム・シフトの輪は拡大し、ビジネスや日常生活に更に大きな変革をもたらすところとなりました。デジタル化されたマルチ表現メディアのデータや情報を、インターネットを介してパソコン・情報家電・携帯電話・デジタル放送・CATV(有線放送)・テレビゲーム・モバイルなどの、さまざまな伝達メディアで瞬時に取り込んで活用できるようになったからです。 このことは、通信と放送など伝達メディアの融合(メディア・フュージョン)をもたらしたばかりでなく、ブロードバンド・高速インターネットの世界的普及に伴って、従来の業界や業種といったビジネス領域が融合して産業界全体がボーダーレス(垣根の消滅)化するとともに国際間のボーダーレス化が一層加速される基盤ができたことを意味しています。ビジネス環境がデジタル化することによって、マーケット自身が質的にも量的にも大きく変化しつつある現在、国や企業も必然的に、業界・業種の融合による産業構造の変化とグローバル市場における競争を念頭に置かざるを得なくなってきたのです。 利便性、即時性、広域性、効率性、透明性や融合性といった、従来のコミュニケーション・メディアが持ち合わせていなかった様々な利点を持って登場してきたインターネットは、このようにしてブロードバンド通信技術に後押しされて一層その経済・社会に対する影響力を増してきました。これに伴って、パソコン一辺倒であったインターネット端末も、携帯電話から情報家電、ゲーム機などなどブロードバンドに対応する端末が現れモバイル化の動きが促進されてきました。このようなモバイル化の動向は第6課、メディアの融合(メディア・フュージョン)の動きは第9課で、それぞれつぶさに考察することにします。 |
<こぼれ話> |
「ブロードバンド」という言葉 |
「衣紋掛け」という言葉をご存知ですか。今では「ハンガー」という言葉に世代交代していて、私のような年齢のものでも、さすがに古めかしさを感ずる言葉です。同じように、服飾関係の「チョッキ」は「ベスト」に、「背広」は「スーツ」に、そして「バンド」は「ベルト」に世代交代していて、そのどちらの言葉を使うかがヤングであるかどうかの試金石になっているようです。しかし、「ブロードバンド」は「ブロードベルト」とは言いませんね。どうやら、これは世代の違いを意識せずに使って良さそうな言葉のようです。 「ブロード」は「広い」で「バンド」は「帯」ですから、北海道の「帯広市」はまさに「ブロードバンド・シティ」。実際、帯広市の地名は「オ・ペレペレ・ケプ」という長いアイヌ語からつくられていて、それは「川口がいく条にも分かれている川」の意味だそうですから、地形的にもブロードバンドなんですね。私が帯広市の当局者だったら市をブロードバンド・モデルシティに作り上げる企画かなんかを練っていたことでしょう。きっと。 「ブロードバンド」という言葉の本来の意味は、「広帯域」で「データが通るための道幅が広いこと」という意味ですから、「高速・大容量通信」という意味合いは含まれていないはずです。しかし、水道管を太くする工事をすれば、“結果的に”蛇口をひねると一気に大量の水が流れ出すようになります。自動車道路の幅を拡張すれば、“結果的に”高速運転ができるようになり自動車の交通量が一気に増える条件が整うことになります。「広い周波数帯域(バンド)」を使用して、同時に複数のデータを適切に流せること、その“結果として”伝送容量が大きくなり(即ち大容量)、データの伝送速度も速くなった(つまり高速)のがブロードバンド通信環境であると考えればよいのでしょう。 また、「ブロードバンド」という言葉は、もともと通信ではなくて放送、特にCATVがらみで使われていたのだそうです。しかし、インターネットへの高速アクセスが焦眉の課題となっていることから、もっぱら「ブロードバンド=より高速で大容量な情報のやりとりが可能なインターネット接続」と言う意味づけがされるようになったものと理解することができます。また、一方では、本当のブロードバンドである光ファイバーに比べると格段に伝送速度が劣るケーブルモデムやADSLサービスはブロードバンドと呼ぶのが相応しくなく「ミドルバンド」と呼ぶべきだという論者もいて、ブロードバンドという言葉自体の解釈のあり方も随分ブロードバンドなんだと改めて感じています。 |
2.ブロードバンド化によるインパクト
2−1.高速・超高速通信の実現
アナログ電話回線やISDN(総合デジタル通信網)のダイアルアップ接続方式によるインターネットへのアクセスでは、それぞれ56kbpsと64kbps(INSネット64)/1,500bps(INSネット1500)の伝送スピードに限定されてしまいます。この速度で高画質の画像を伝送するのは非常に時間がかかり、まして動画像(映像)や音声を送ることはかなり厳しい状況になりますので、インターネットでは主に文字や軽い画像データをやり取りする程度しか実質的にはできません。動画や音声を圧縮する技術が進歩して、64kbpsでも相応のデータは送れるようにはなりましたが、音声や画像となると電話やテレビに比べると遥かに質の低い音声や画像しか再生することができないからです。 ところが、“ブロードバンドの世界”では、NTTの初期「フレッツADSL」でも1.5 MbpsでISDN(INSネット64)の23.4倍、CATVのインターネット接続での通信速度では10-15倍になり、ブロードバンドの基幹ネットワークの本名とみられている「光ファイバー」では、更に1.6テラbpsで初期ADSLの100万倍という超高速通信が実現できるのです。 従って、同じインターネットではあっても、従来のナローバンド接続に比べるとデータ通信に量的に大きな懸隔が生じ、それがインターネットのコミュニケーション・メディアとしての質的転換をも実現するものとなりました。
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2−2.インターネットの利便性の大幅な向上
音声や映像、文字を伝えるメディアには、電話、ラジオ、テレビ、音楽CDなどいくつかありますが、この中でインターネットの普及スピードは群を抜いています。アメリカにおいて、一つのメディアが5,000万人のユーザーを獲得するのに要した期間は、ラジオが38年、テレビが22年、CATV(ケーブルテレビ)が10年だったのに対して、インターネットは僅か5年だったと言われています。これはインターネットのメディアとしての魅力の大きさを物語るものですが、現在では更にそのインターネットの通信環境がブロードバンド化して高速・大容量通信が可能になることによって、これまでよりもはるかに利便性が向上し魅力的なメディアになりつつあるわけです。 通信インフラがブロードバンド化することによって、これまでばらばらに発達してきたメディアがすべて統合し、たった一つの通信回線の出入口において、自分が必要とするあらゆる情報(文字、動画像、音声、音楽など)を、時と場合に応じていつでも選んで取り出せたり、送信できたりする情報通信環境が出現するようになったのです。ホームページやインターネット広告に動画像を使うことも容易にできるようになり、魅力的な販売促進を行なって顧客満足度も高まるインターネット・マーケティングの展開も可能になりました。高速・超高速通信が実現しただけでなく、真のマルチメディア通信環境が整ってインターネットの利便性が大幅に向上したことがブロードバンド化の二つ目の利点であると言っても良いでしょう。 |
2−3.音楽・動画像の高速配信
ブロードバンド化によって注目を浴びたのがインターネットによる音楽配信でした。アメリカでは既に1990年代半ばから始まっていますが、日本でもベンチャー企業に加えて大手レコード会社なども参入したことから事業展開が本格化しました。 インターネットによる音楽配信というのは、音楽をデジタル信号に変換して消費者に直接送るサービスのことですが、このサービスには「家庭型」、「店頭型」と「移動体型」の3種類があります。家庭型は、文字通り、家庭でインターネットを通じて音楽を入手してパソコンに入力する方法であり、店頭型は消費者が小売店に出向いて、光ファイバーや通信衛星(CS)といったブロードバンドで配信された音楽を、店頭の専用端末機を使って持参したミニディスク(MD)などに録音する方法です。これに対して「移動体型」は携帯電話などの無線通信を利用した音楽配信の方法で、携帯電話などのモバイル端末のインターネット接続が進展しつつある現在、この方法が一層拡大してゆくものと見られています。 消費者が家庭の電話回線でインターネットを利用して3分前後の曲をパソコンに取り込もうとすると10-15分はかかってしまい、通信料金やインターネット接続料金がネックになりますが、高速大容量のブロードバンドの出現によって音楽の取り込み時間が大幅に短縮し、アルバム全曲が、CATV、ADSLでは数分で、光ファイバーでは瞬時のうちに取り込めるようになったのです。 通信料金やインターネットの接続料などが相次いで引き下げられたこともあって、インターネットによる音楽流通の有効性と効率性が一層高くなってきました。音楽提供業者にとっても、CDの場合にはかかっていたプレス代や物流経費がほとんどかからないうえに、大量の製品在庫を抱えなくて済み、販売促進もインターネット利用によってローコストで行なうことができるという大きな利点があります。さらに、レコード会社にとっては、音楽配信のネットを利用することによって、映画などの動画像の配信といった新規事業も期待できるのです。 インターネットを通じた音楽の配信業者とレコード会社との間の著作権の問題や配信技術の統一など解決しなければならない課題も残っていますが、通信のブロードバンド化によって音楽業界が大きな転換期を迎えたのは事実です。インターネットを軸としたコミュニケーション・メディア再編の波がコンテンツ(情報の内容)の製造・流通の分野にまで及んでいるわけです。 画像圧縮技術の一層の向上とあいまって、インターネット上の動画像(映像)コンテンツも、ネットワークのブロードバンド化によって表現能力(動きや色彩)が大幅に向上し、パソコンだけではなく家庭のテレビにも映画の配信ができる程になりました。インターネットを使って映画、アニメ、ゲームなどのコンテンツを家庭に配信するサービス事業も本格的に展開されています。更に、デジタルで撮影された映画作品を光ファイバーまたは通信衛星によって劇場に直接デジタルコンテンツとして配給するシステムも採用されるに至っています。劇場側はデジタル対応の映写機でスクリーンに映写することになりますので、映画の製作から上映まで、フィルムを一切使わないシステムで音声と動画像(映像)の高速配信ができるようになったのです。映画会社としても、フィルムの焼付けや運送の手間が省け興行コストが大幅に削減できる上に、高画質で鮮明な動画像を送信することのできるデジタルコンテンツのブロードバンド配信に意欲的に取り組み、経営コストの大幅削減と顧客満足度の大幅向上を同時に実現しています。ブロードバンド通信技術が映画業界にBPR(リエンジニアリング)を実現させたのです。 |
2−4.インターネット電話の登場
ブロードバンド通信技術によって、高速回線を通じて送られたアナログデータの音楽をパソコンに取り込んで聴くことができるということは、当然のことながら、インターネットを利用してパソコンで同じアナログデータの音声を自由にやり取りできる“インターネット電話”の実用化も考えられるところとなりました。そして、インターネットで使うIP(Internet Protocol : インターネット通信手順)技術を音声通信に用いるIP電話(インターネット電話)が現実に実用化したのです。 インターネット電話は、人の話す音声をデジタル信号に変換して、個々に送信先と発信順を表すヘッダーをつけたIPパケットに分解して送信し、受信元でヘッダーに従ってデジタル音声データを復元するので、インターネットのパケット通信方式をそのまま採り入れたものです。 従来の電話は、縦横に張り巡らされた電話ネットワークの随所に局用交換機が介在して回線交換方式によって通話を行なうものでした。回線交換方式によると、通話中はその回線を送受信者で占有することができますから、双方向の同時通話ができるわけです。ところが、パケット交換方式はIPパケットの送信と受信・データ復元の間にタイムラグが生ずるので同時通話が必要な電話通信には不適とされていました。この伝送の遅延を無視できるくらいに小さくし、大容量の音声データをリアルタイムで交信できるようにしたのが高速伝送のブロードバンド・ネットワークだったのです。高速パケット通信によれば、局用交換機の介在は不要ですし、全体としての回線使用効率が大幅に向上するという利点を享受することもできます。 ブロードバンド化により通信料金が安価なインターネット電話が出現することによって、これまでコミュニケーション・メディアの中心的な地位を占めていた旧来の電話が、インターネット電話によって取って代わられる可能性が出てきたのです。これは、大きなコミュニケーション・メディア間の競合と融合(メディア・フュージョン)の問題ですので改めて第9課で考察することにします。 いずれにしても、インターネット電話が実用化したことによって、企業内での電話会議はもとより、テレビ電話やテレビ電話会議、ビデオ配信なども容易かつ経済的に実現するようになりました。 |
2−5.ネットワーク型医療情報システムの整備促進
一般に医療の情報化といえば、診察室へのコンピューター導入、検査データの管理や、精々CTスキャンに代表される画像処理などのローカルな用途に限られており、ネットワークの活用についてもテレビ電話などを使った遠隔医療や、全国の地方がんセンターとを専用線ネットワークで結んで国立がんセンターが定期的に行なう合同カンファレンス(会議)の例が僅かに見られるに過ぎませんでした。 しかし、国立大学病院で1996年度から八つの大学病院を結んでスタートさせた衛星医療情報ネットワーク(MINCS)は、世界初のデジタルハイビジョン画像の衛星経由伝送システムであり画期的なものでした。このシステムを用いれば、随時質疑応答可能な双方向のカンファレンス(会議)を行なうことができますから、病院間及び医師間の協働を促進することができます。 ネットワーク型医療の中でも、遠隔画像診断、在宅医療、在宅医療カンファレンス、遠隔手術といった遠隔医療に関心が高まっています。コンピューターとネットワークを利用し、お互いに離れている医療機関同士で、映像(画像)を含めた医療情報をやり取りして協働し、患者の診断と治療に役立てようというものです。不鮮明で伝送に時間がかかる動画像(静止画)のやり取りでは、的確かつタイムリーな診断や治療はできなかったのですが、鮮明な映像(画像)や音声の大容量データを高速で伝送できるブロードバンド通信の出現によって技術的な基盤が与えられたのです。 ブロードバンド通信技術の活用によって、旧態依然とした診断・治療業務を繰り返してきた医療分野にBPR(リエンジニアリング)が実現し、医療コストの大幅削減と患者の満足度の大幅改善が同時に達成される真の医療改革が達成されることが期待されます。 携帯端末やテレビ電話などの技術革新もあいまって、ネットワーク型医療・健康情報システムが続々と開発されています。以下に関連の新聞報道を2件ご紹介します。
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2−6.インターネットの常時接続
従来のダイアルアップ接続式のインターネット利用には、接続料が1分何円といったような従量制課金システムが採り入れられています。そのため、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)への接続料に加え、利用した分の通信費をNTTなどの電話会社に支払う必要がありますから、通信費の多寡に気を配りながらインターネットを利用する必要がありました。 ところが、ブロードバンドになって課金システムが従量制から固定性に変わりました。通信量にかかわること(従量制)なく、月額でいくらといった固定料金さえ支払えば、毎日どれだけインターネットを利用しようともかまわないということになったのです。 インターネットはパケット交換方式を用いていますから、本来、接続しているかどうかは通信回線上のトラフィック(通信量)に関係なく、しかもブロードバンド通信によれば個別パケットが高速で処理されるので送信時間当たりのコスト計算の持つ意味が極めて少なくなってきたからです。 また、フレッツADSLサービスの提供を始めたNTTに相次いで、CATVによるインターネット接続も含めて、ブロードバンドのインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の市場参入が相次いだ結果、価格競争が激化して常時接続料金自体が低下してきました。ユーザーにとっては、都度ダイアルアップする手間が省けるうえに高速インターネットが低額な定額で使い放題という環境がようやく整ったと言うことができ、これによって一層インターネットの利用が加速されることになりました。企業にとっては、どのようなコンテンツを提供するかによってビジネスの成否が決定される可能性がそれだけ高くなってきたわけであり、インターネット・ビジネスのあり方について再考を求められる契機ともなりました。 |
2−7.モバイル・インターネットのブロードバンド化
通信のブロードバンド化で忘れてならないのが、NTTドコモの携帯電話iモードに代表される“モバイル・インターネット”の環境です。「モバイル(mobile)機器」というのは、どこにでも持ち運んで使用できる小型コンピューターや携帯電話などをはじめとする携帯型の情報端末機器の総称ですが、これらのモバイル機器を接続したモバイル・インターネット環境がブロードバンド化によって大きく様変わりしているのです。 従来の携帯端末の通信速度は9.6 kbps程度に過ぎなかったのですが、それが最大で200倍の通信速度による高速データ通信が可能になり、次世代携帯電話サービスと称される新たなサービスが提供され始めたのです。第3世代携帯電話システム「IMT-2000」は、384Kbps〜2Mbpsのブロードバンドにより世界中のどこででも利用できる携帯電話システムで、このモバイル・インターネットのブロードバンド化によって、携帯端末によるメールの交換をはじめ、インターネット上の情報検索や銀行振り込み、チケットの予約・購入などが高速処理できるようになったばかりでなく、携帯端末から写真やビデオメールを送ったり、携帯端末に映画などの動画像や音楽を取り込んだりすることが当たり前のことになりつつあります。さらに、GPS機能が搭載されると自分や相手の位置がわかりますから、商店街を歩いていて食事をしたいとき、商店街のホームページを取り込めば近くにどんな店があるかがすぐにわかります。ついには、代金決済機能までもった「お財布ケータイ」まで登場したのですから、携帯電“話”が主目的としていた通“話”はもはや付属機能の一つにしか過ぎなくなったわけです。 このようにして、携帯端末でパソコンと同じようにインターネット上のマルチメディア情報に双方向的(インタラクティブ)に接続できるようになったことから、日常のライフスタイルはもちろんビジネススタイルまでも大きく変化しつつあるのです。インターネットの端末と言えばパソコンと決まっていた時代から、携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant : 携帯情報端末)、更にはゲーム機や情報家電へと裾野を広め、インターネットの世界はブロードバンド化とともにモバイル化への道を進んでいることになるわけですが、モバイル化については第6課で詳細に考察することにします。 |
2−8.ブロードバンドが実現するインターネットの未来図
ブロードバンドのインターネットでは、あらゆる大容量データがスピーディーにダウンロードできるので、ストレスなくコンテンツを利用したり楽しんだりすることができます。ちなみに、CD−ROM1枚分(650 MB)のデータをダウンロードするのにISDN(64 Kbps)では約22時間もかかるのに対して、ADSL(1.5 Mbps)では約1時間、更にFTTH(100 Mps)では1分以内ですみます。ブロ一ドバンドを使った配信サービスが本格化すれば、テレビや映画、パソコンのソフトウエアさえもオンデマンドでネット配信されるようになります。「オンデマンド配信」とは、利用者からの要求に応じて(on demand)、時間に関係なくいつでもコンテンツを配信することですから、レンタルビデオショップやCD−ROM販売も必要なくなる可能性があるわけです。ブロードバンド技術はコンテンツ流通ビジネスにもBPR(リエンジニアリング)を実現させ、コンテンツ産業のあり方を一変させる可能性を秘めているのです。 ブロードバンド・インターネットがもたらす未来について、以下のような具体的事例が紹介されています(自由国民社「図解でわかるデジタル社会」2001/9/8初版)。僅か半世代の間に「未来」のうちのかなりの部分が「現在」になりつつあるところにも“ドッグイヤー”と言われる情報通信の世界の進化の速さを見て取ることができるようです。
また、e−Japan構想でも以下のように「ブロードバンド化で実現されるアプリケーション」を掲げています。 |
3.ブロードバンド・ネットワークの諸相
3−1.ケーブルテレビ(CATV)
従来「ブロードバンド」と言えば、帯域の広いテレビ「放送」を有線で行なうケーブル放送などを意味する言葉だったのですが、その「有線」ネットワークがインターネットによる「通信」に利用できるようになってからケーブルテレビ(CATV)のブロードバンド・ネットワークとしての有用性が俄かに注目されるようになりました。 もともと「ケーブルテレビ」は、「コミュニティ・アンテナ・テレビ(CATV:Community Antenna TeleVision)の名前が示すとおり、アンテナをコミュニティ(地域共同体)で共有してテレビ放送を複数世帯に配信するシステムでした。ところが、アメリカでは全国ネットのテレビ放送を配信する他に自前の製作番組を放送することによって多チャンネル受信が可能になるCATVが寧ろテレビ放送網の主役として普及したのに対して、日本では日陰の存在でありそれぞれの家庭でアンテナを立ててテレビ放送を受信するスタイルが一般的でした。普通のテレビ放送には地上波が利用されていますが、山間地域やビル陰などには電波がうまく届きません。日本では「ビル陰共聴」と言う言葉があったように、主にこのような難視聴地域対策としてCATVが利用されていたのです。 高層ビルが林立する都市空間に難視聴地域が増えるとともに、衛星放送の共同アンテナによる受配信と放送番組自製による多チャンネル放送の需要が高まるのに伴って日本でも急速に普及してきたのが、いわゆる都市型CATVでした。 CATVは、同軸ケーブルを利用したネットワークシステムであり、100-200チャンネルものテレビ番組の提供サービスが可能とされています。こうした同軸ケーブル「放送」ネットワークが高速ネットワークの「通信」回路として利用できるようになってから放送と通信を融合した形の「CATVインターネット」が高速コミュニケーション・メディアの一つとして注目されるようになったのです。 CATVによると、電波障害がないため、地上波や衛星波を利用したテレビよりも、非常に鮮明な映像や音声を受信することができます。しかも、都市型CATVには、映画を再生して放映したりする他に、地域のコミュニティー活動や地元の身近な情報を伝えたりする自主番組放送を行なうところが多くありましたので、一部は既に「通信」メディアとして機能していたことになります。 テレビ1チャンネルの周波数は約6メガヘルツで、電話線の1,500倍もの帯域がありますから、これをデータ信号に変調すると理論的には30-40 Mbpsという高速データが可能という計算になります。CATV回線に接続することによって、インターネットを介した映像や音声といった大容量デジタル・データの高速伝送が可能になった所以です。 CATVインターネットの接続形態は下図の通りです。 CATVインターネットでは、一般的にはCATV事業者とユーザー宅の間はメタリックケーブル(同軸ケーブル)で接続し、CATV事業者とインターネットの間は光ファイバーで結んでいる場合が多かったのですが、最近では、CATV事業者とユーザー宅の間の回線を光ファイバーとメタリックケーブルの2種類で結ぶ“ハイブリッド構成”を採用するCATV事業者も増えてきたようです。こうした“ハイブリッド構成”にする理由は、光ファイバーの方がメタリックケーブルに比べてノイズに強く、途中で情報(データ)を補正・増幅しなくても長距離伝送できるため、高品質な画像や音声をユーザー宅まで届けられると同時に、CATVインターネットの速度も上げることができるところにあります。 もともと定額料金制であったCATVのケーブルを利用した「CATVインターネット」は低料金で高速ネットが使い放題であることから人気が高く、インターネットの普及によってCATV加入世帯が急増したという側面もあります。しかし、放送事業者から通信事業者の事業体質を備えるに至ったCATV会社には通信事業者に独特の規模の利益を求めることが必要となったため、CATV会社同士の提携や合併によるサービス・エリア拡大の動きが活発に行なわれています。 以下に関連の報道事例をご紹介します。
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3−2.ADSL(非対称デジタル加入者線)
インターネットに対する高速アクセスネットワークとして注目され、急速に普及しつつあるのがADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line : 非対称デジタル加入者線)です。 このADSLは、電話回線を使わずに高速インターネット接続する光ファイバーやCATVと違って、既存の電話線(銅線)を利用して高速インターネット接続ができるところに特徴があります。 アナログの電話線をインターネットの通信回線として使う場合、デジタル・データを直接に送ることはできないので、デジタル信号とアナログ信号を相互に変換する“モデム(変復調装置)”が必要になります。このモデムの限界速度が56bpsと非常に遅いものであったために、インターネットの伝送速度の制約条件になっていたのです。 ADSLは、家庭のアナログ電話回線を利用するデータ発信者側と受信者側にモデムを取り付け、高速インターネット接続ができる通信環境を提供するDSL(Digital Subscriber Line : デジタル加入者線)サービスの一種ですが、アナログ電話回線に低周波(音声)と高周波(搬送波)を重ねて乗せる点と、モデムの果たす機能が従来と全く違っています。ADSLモデムは、複数の高周波帯でデジタル・データを取り出したり送り出したりする機能を果たします。そして、ユーザー端末部に設置する「スプリッター(Splitter:分配器)」が音声周波数帯と高周波とを分割・重畳する機能を負っているから、同時に電話と高速データ通信ができるというわけです。 また、ADSL「非対称」通信と呼ばれているように、「下り」と「上り」のスピードが非対称になっています。「下り」は、インターネットから家庭のパソコンに動画像など大量の情報をダウンロードする流れであり、「上り」は家庭のパソコンからインターネットヘのアクセスで、通常はアドレスなどの簡単な情報を送るだけでほとんど高速通信は使わないからです。従って、「下り」と「上り」では必要とする通信速度が大きく違っており、大量の情報を取り込む「下り」のほうが「上り」より当然はるかに高速になっているのです。これに対して、「上り」と「下り」の通信速度が同じサービスはSDSLと呼ばれ、特に企業向けに提供され、通信料金もADSLに比べて割高に設定されています。 ADSLは、あくまでもアナログ通信サービスであり、光ファイバーによる本格的なデジタル通信サービスが普及するまでの中継ぎ的な存在であるとよく言われています。確かに、光ファイバーとの競争ということになれば、ADSLがいくら高速通信だといっても、とてもかなうものではありません。しかし、光ファイバー通信サービスの経済性や今後のADSL関連技術の向上次第では、ADSLが光ファイバーと棲み分ける形で存続して行くことも十分考えられます。 ADSLインターネットの接続形態は下図の通りです。 ADSLで最も特徴的なのは、NTT等通信事業者の局設備から加入者の所在地までの回線が銅線(メタリックケーブル)である点で、これはADSLが既存のアナログの電話回線を利用するためです。ただし、同じメタリックケーブルであっても、デジタル電話のISDNはその仕組み上ADSLに利用できません。このため、ISDNユーザーがADSLサービスに加入したい場合は、ISDNからアナログ電話に戻す必要性があります。 また、普通のアナログ電話回線のダイヤルアップ接続やISDN回線でのダイヤルアップ接続なら、電話回線が利用できる状況ならばNTT等通信事業者とISPに申し込めば必ず利用できる接続方法ですが、ADSLの場合には加入者の所在地によっては利用できない場合があります。基本的には通信事業者の収容局に近い程よく、2km 以内ならばまず問題はありませんが、2km くらいを過ぎると急激にスピードが落ち、数kmで接続できなくなるようです。とは言え、これは途中でどれだけノイズが入るかの問題なので、単純に距離だけで決まるのでもありません。通信事業者に、自社ないし自宅の所在地との収容局との距離や伝送損失を測定してもらった上で(NTTの「回線適合検査」)、加入の是非を決める必要があります。
以下にDSL関連の新聞報道事例をご紹介します。ADSLの普及過程と普及の要因を読み取ることができます。
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<こぼれ話> |
広いがゆえに広まらず |
ニューヨーク郊外のスカースデールに住んでいた友人宅を訪れた際に、近くの高級住宅地をドライブして回ってもらったことがありましたが、その時に友人から聞いた話です。それぞれの豪邸は広大な敷地の中に建てられているので、入り口から住宅までの距離が遠く、そのため公共の下水道の支線まで住居からの排水管を敷設するだけでも莫大な工事費がかかるのだというのです。後日、アメリカの首都近郊でブロードバンドがつながりにくいという事実を聞いた時にこの話を思い出しました。特に、ADSLの場合は電話局から加入者宅までの距離が重要な問題になります。電話局から遠ければ遠いほど伝送スピードが落ちてしまい、ある限界を超えてしまうとスピードが極端に下がってしまいます。首都のワシントンDCでさえアメリカの感覚では決して大都会ではなく、一歩郊外にでると「大草原の大きな家」状の住宅が点在する状態になりますから、広大な国土全体にブロードバンド・ネットワークを張り巡らせるのが如何に難事業なのか分かるような気がします。もちろん、アメリカには最新の技術がありますし、バックボーンと呼ばれる都市間の基幹線や都市部での高速化はどんどん進んでいます。しかし、情報化の深度を最終的に決定づける家庭の情報化を考えた場合、少なくとも、光ファイバー網が整備されるまでの「すき間を埋める」技術とされるADSLについては、アメリカには国土が広いが故の制約があり、普及には限界があるように思えます。 |
3−3.光ファィバー
広帯域通信のアクセス(接続)網としては、ADSL、CATVなどのほかに、超高速の「光ファイバー」があり、この光ファイバー網が広帯域、つまりブロードバンド通信の中で本命とみられています。 日本政府は、2001年3月に「5年以内に世界最先端の情報通信国家」になることをめざして、「e-Japan重点計画」を定めて具体的な政策を実行に移し始めましたが、その中でも特に注目されているのが以下の内容です。
この内容からもわかるように、政府は2005年を目標にして、わが国全土に広帯域通信網を張り巡らそうとしているのですが、上記Aのうちの「超高速インターネットを1,000万世帯に普及させる」が「FTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム:Fiber To The Home)」に当たります。 光ファイバー網がブロードバンド通信の中で本命視されているのは、光ファイバー網の最大の特徴である通信速度に理由があります。インターネット利用で一般電話回線に比べ、約160倍という超高速の接続サービスが提供できるのですから、東京−大阪間を各駅停車のローカル線を利用するのと、新幹線を利用するのとの同じような違いであると言うことになります。 広帯域通信の中でも光ファイバーは特殊な通信回線になります。これまでのISDN、ADSL、CATVなどは“電気信号”によってデータ伝送をするものでしたが、光ファイバーは文字通り“光信号”によってデータをやり取りするのです。 電気信号による通信回線は、金属でできた銅線や同軸ケーブルを用いて、これに高い周波数の電気信号を流すことによって高速のデータ伝送を可能にするものでした。そして、電気信号による広帯域通信にはデータを乗せる信号の周波数帯域に限界があるのが欠点とされています。これに対して、光ファイバーは周波数帯域がきわめて広<、データを光信号に乗せることから超高速で、しかも、安定性のある通信ができるのが魅力になっています。 光ファイバー(ケーブル)の主な素材は石英ガラスで、高純度なガラス繊維でつくられており、その特徴は以下の通りです。
実際にインターネット接続をしてデータをやり取りする場合、送信側では電気信号をレーザー・ダイオードで光信号に変換しますが、そのデータをパソコンに取り込む場合にはアバランシェ・フォト・ダイオードで再び電気信号に戻す必要があります。そのための変換装置が利用者の家庭に必要で、これがコスト面での負担につながっており、普及が遅れている大きな要因の一つになっています。 しかし、これまでブロードバンド通信の本命と見られている光ファイバー網が普及しなかった最大の理由は、何と言っても、光ファイバー自身のコスト高(1メートル当たり数万円)にありました。特に、“ラストワンマイル”の問題がなかなか解消できないのが大きなネックになっていると言われてきました。このラストワンマイルというのは、通信サービスの加入者宅から最寄りの電話局までの回線のことで、Web側から見て“最後の1マイル”という意味ですから、逆に利用者側から見ると“最初の1マイル”に当たるわけであり、現に、“ファーストマイル”も呼ばれることもあります。要するに、光ファイバー網は利用者のすぐ近くまで敷かれていながら、ラストワンマイルがなかなか接続できないところに問題があったのです。しかし、光ファイバーによるバックボーン・ネットワーク構築が進捗する過程で量産効果が働き、今や光ファイバーの単価は“蕎麦並み”で1メートル当たり単価が蕎麦とほぼ同じくらいにまで安くなってきました。ADSLを追う形で光ファイバー・サービス価格も下落傾向が顕著になってきましたのでラストワンマイル問題も早晩解消するものと期待されています。 光ファイバー・インターネット接続サービスの急速な普及振りを報じた記事を以下に4件ご紹介します。
FTTHインターネットの接続形態は下図の通りです。 FTTHの場合は、インターネットとユーザー宅の間は100%、光ファイバーケーブルでつながる仕組みです(図はNTTの「Bフレッツ」のケース)。NTT他のFTTHサービス事業者の局設備とユーザー宅の間は地下や電柱間などを通り、光ファイバーケーブルで結ばれています。ちなみに、インターネットは様々なネットワークが相互接続したものであり、そのインターネットという“世界”で利用されている回線(プロバイダーからユーザー宅までの回線は除く)には、現在ではほとんど光ファイバーケーブルが使われています。 [光ファイバー通信網の新たな動向] 以上はインターネット・アクセス・ネットワークとしてのFTTHに焦点を当てて考察してきましたが、インターネット・バックボーン・ネットワークも含めた光ファイバー通信網全体に対しても様々な技術開発やシステム応用がなされていますので、以下の通りご紹介します。 光波長分割多重装置(WDM : Wavelength Division Multiplexing) 下掲の新聞報道のように、光通信速度を従来の10倍に引き上げた光ファイバー通信サービスの提供に乗り出す姿勢を通信各社が見せており、これをめぐる新たな競争によって、ADSL(非対称デジタル加入者線)から光通信への移行が更に進展する可能性も見えてきました。
高速伝送実験成功 通信機器の技術革新 伝送方式・技術だけでなく、通信機器の技術革新によってインターネットの通信速度を飛躍的に高めようとする試みもなされています。以下のように報道された技術開発プロジェクトが成功すれば、これまでアメリカが主導してきたインターネットの世界に日本の有力な地歩を築くことができるものと期待されています。 専用光ファイバー通信網 一方では、将来へ向けての技術開発と平行して、現状の光ファイバー通信網をインターネット用としてではなくて専用通信回線として用い、ブロードバンド通信を経営改革のために応用していこうとする試みがなされています。下掲のような国内最大級の光ファイバー・システム構築計画も報道されています。
次世代通信網(NGN) NTTは、インターネット・プロトコル(IP)技術を使って通信する次世代ネットワーク(NGN)「新IP通信網」の2007年度後半からの運用を目指して実証実験を2006年12月に開始する予定です。(2006/7/11,15&22 日本経済新聞) NGNは電話交換機に代わる基幹網で、IP技術で音声通信だけではなくコンピューターのプログラムや動画像など、あらゆる情報を同一網でデータとして送受信する通信網です。交換機を使って1対1の通信回線を確保する従来の電話網に比べ、通信回線が遥かに効果的に使えます。また、交換機の代わりにデータの種類や通信先を振り分ける「ルーター」という通信機を使うため、設備投資の費用も抑えられます。
現在の通信網は電話とIPが混在しているので、IP電話から通常の電話にかけると交換機を使う必要があります。このため、完全な定額料金による電話サービスが提供し難いのですが、新IP通信網では、定額料金を支払えば、通信時間や距離に関係なく、かけ放題になる見通しです。また、新IP通信網で超高速ネットが実現すると、ハイビジョン並みの動画像を多チャンネルで同時に流せます。利用者はドラマや芸能番組を全国どこでも見たい時に視聴できるようになる可能性があります。 現在のIPサービスでは「ベストエフォート」と呼ばれる速度や品質を保証しないものが大半ですが、NGNでは通信の遅延や揺らぎなどを一定のレベルに抑える品質制御を行なう方針です。音声では、IP電話でありながらステレオのような品質で提供するほか、テレビ電話ではハイビジョンクラスの品質を保証するサービスも用意されます。 |
3−4.電力線インターネット
従来の家庭でのインターネットへのアクセス(接続)は、電話などの通信回線を利用するのが主流となっていました。ところが、こうした一般常識を覆して新たに加わってきたのが電カ線を利用しての高速インターネットで、全国の家庭やオフィスに張り巡らされた電力線を、高速インターネットの通信回線として利用する方法です。 「電力線通信」と呼ばれる新手法で、家庭内の電気配線を使い、電気と一緒に通信のデータも流します。電話線と電力線は同じ銅線で、電気とデータを分ける装置をつなげば、コンセントが、そのままブロードバンドの入り口になります。利用者にとっては、電話回線に接続しなくても、パソコンを電灯線のコンセントにつなぐだけでインターネットが利用できるようになるのです。全国のどんな地域の家庭やオフィスでも電線があり電気(明かり)がつくようになっているわけですから、この電線が電話線と並ぶ新たなインターネット利用の通信網に変身すれば、どこにいても高速インターネットが手軽に使えることになり、インターネット利用者の拡大や、インターネットを通じてエアコンや冷蔵庫などを遠隔操作するネット家電(デジタル家電)の普及に弾みがつくと期待されています。 アクセスネットワークとして電灯線を使うことができるばかりでなく、電力会社には光ファイバー網をバックボーン・ネットワークとして活用できるという強みがあります。国内の送電線沿いに張り巡らされた光ファイバー網の延長距離を合算すれば、全国の電力会社の持てる国内の高速通信インフラはNTTに匹敵する規模になっています。 以下に関連の報道事例をご紹介します。
電力線インターネットの実現可能性 一般に電力線を使って行う通信は「高速電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)」と呼ばれています。従来でも、450khzまでの低周波数帯での電力線を使った通信は認められてきたのですが、これでは9.6kbps程度の低速ですので、家庭内でのインターホン通信程度にしか利用できません。しかし、2〜30MHzの短波帯ならば、伝送速度は数十Mbpsにもなり、ブロードバンド・インターネットによる高速データ通信用やネット家電接続回線として活用できますので、電力会社や家電メーカーなどから規制緩和による短波帯利用を望む声が出ていたのです。 ところが、短波帯は既にさまざまな分野で利用されていますので、ここでPLCが始まれば、引き込み線の部分がアンテナの役割を果たして強い電波が漏えいするため、アマチュア無線、気象観測、医療、船舶航空など既存の無線通信利用者に大きな影響を与えることが懸念され、広範囲な層から反対意見も出されています。要するに、規制緩和のための法改正と電波障害除去のための技術課題が残されているわけですが、しかし、特に電力線インターネットに対するニーズは大きく、一方、PLCモデムや電力線等において、漏洩電波を大幅に低減する技術の開発が期待されることから、この研究開発の継続の必要性が認められています。 政府が2003/7に決定した「e-JAPAN2」でも、「他の無線通信に影響を与える恐れがあるものの、家庭内における高度なIT活用・普及等に極めて効果が大きい。実用上の問題がないことが確保されたものは活用を推進する」としており、海外でも実際に、アメリカ、ドイツ、フランス、韓国などで、実験や一部実用化が行われています。規制緩和のためにも、技術的な課題の解決が重要ですので、総務省では遅れ馳せながら、「高速電力線搬送通信(PLC)実験のための関係省令改正」の準備を進めました。実験そのものが国内で許されていないので、現状ではどのくらい干渉するかのデータもなく、実験による本格的な研究のための環境整備が急務だったからです。これによると、直ちに使用周波数拡大が行われることはありませんが、設置を許可された実験設備から発射される周波数の範囲は、漏洩電界強度の低減技術を検証する実験に目的は限られながらも、波数の範囲が2MHzから30MHz2MHzまでが認められることになります。 2003/9/17-20に開催されたアジア最大級のデジタル展示会「WPC EXPO 2003」(以前のWorld PC EXPO)でも、電力線によるインターネット接続を研究する社団法人・高速電力線通信推進協議会(PLC-J)のブースで、最大45Mbpsのインターネット接続デモが行なわれており、「技術的には十分実用レベル」であることが訴求されていました。また、「現在の開発状況では、最大200Mbps程度のスループットが得られるが、商用化の折りには50Mbps程度になるのではないか」との見通しも示されています。空中から引き込み線が屋内に引き込まれている日本と比べて、電線が地中化されていて電波漏えいの可能性が少ないヨーロッパの方が有利な条件を備えていることになります。日本の対応が消極的に過ぎると、CATVインターネットでアメリカ、ADSLで韓国にそれぞれ後塵を拝した事態が、電力線インターネットについてヨーロッパに対して再現する可能性があるのではないかと見ています。 総務省では、関係各社の技術改良を踏まえ、2004年から実験を解禁しています。従来は電力会社系の独壇場と考えられていたこの分野で、下掲の報道のように、通信事業者が参入してきているのが注目に値します。
一時、以下の報道が伝えるような新たな問題が浮上したため、国内での実用化は頓挫状態になっており、電力線インターネットの実現可能性に大きな暗雲が立ち込めました。
電力線通信(PLC)解禁 しかし、様々な紆余曲折の結果、2006年10月4日付けの「総務省令」にて電波法の施行規則改正が告知され、ついに電力線通信(PLC)が解禁され、許可が下り次第同11月にもサービスが開始できるようになりました。具体的なサービスの内容については、2006年10月3日付け日本経済新聞が、以下のようにQ&A方式で報じています。
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3−5.広帯域無線アクセス
インターネットの利用者宅と電話局やセンターとの間を結ぶ加入者線(アクセス回線) の部分に無線を使って高速デジタル通信を実現しようとするのが“広帯域無線アクセス”です。 日本では、1998年12月に総務省(当時の郵政省)が、22GHz、26GHz、38GHzの周波数帯をFWA(固定無線アクセス : Fixed Wireless Access)用に開放してから、無線を利用したインターネット接続が可能になりました。 これによって、基地局と加入者を一対一で接続する“ポイント・トゥ・ポイント(P-P)”のサービスで、最大156 Mbps、基地局と複数の加入者を同時につなぐ“ポイント・トゥ・マルチポイント(P-M)”のサービスで最大速10 Mbpsという高速サービスが提供できるようになり、にわかに広帯域通信のアクセス網として関心が高まりました。この無線アクセスはビルや家の上にアンテナを設置するだけでケーブルを敷く費用がいらないことや設置工事も簡単なこと、さらには電柱まできている光ファイバー網を利用し、“ラストワンマイル”を克服しようというものだからです。 一般には「固定(加入者)無線アクセス」と呼ばれていますが、他に「FWA(Fixed Wireless Access)」、「ワイヤレス・ローカル・ループ(WLL : Wireless Local Loop)と呼ばれることもあります。加入者線として電話線を利用するよりも、固定無線を利用した方がはるかに高速な伝送ができることから、新規通信業者(NCC)やNTTコムが相次いで事業化に踏み切っています。 無線インターネットの接続形態は下図の通りです。 これはユーザー宅の側まで光ファイバーケーブルを敷設し、その先に無線基地局を設置。無線基地局とユーザー宅に置かれた子機(アンテナなども含む)の間を2.4GHz帯の無線を使って結ぶ仕組みです。光ファイバーケーブルは電力会社などが独自に引いたケーブルを利用するケースが多く、NTTの光ファイバー網とは完全に異なったものになっています。 |
3−6.各種ブロードバンドサービスの対比
通信料金総合研究所のホームページ(2006/11/4現在)によると、「主なブロードバンド料金比較概要」は下表の通りです。
また、FTTHとADSL、CATVインターネット、無線インターネットの全体的なメリットとデメリットを概観すると下表のようになります。これら4種類のブロードバンドサービスは速度も、料金も、サービス地域も、さらには工事や必要となる機器も異なり、それぞれに一長一短があります。経営とITは両輪の輪ですから、経営のあり方次第で最善のITは違ってきますので、当然「一律的な最善」はありえません。旧来のアナログ電話(56kモデム)やISDNも含めて、先ずは考えられる用途と使用状況を見極め、どの点のメリットを選択しどのようなデメリットを甘受または軽減できるか勘案し、それぞれの初期費用と変動費用の見積もりを比較検討した上で現状の業務に最適なアクセスネットワークの導入を決定する必要があります。更に言えば、単に便利性の向上度やコスト低減度などの短期的・表面的な判断基準にとどまるところなく、現状の業務自体の抜本的な改革(業務プロセスのリエンジニアリング:BPR)による顧客満足度の大幅向上と経営コストの大幅削減の同時達成に寄与することができるブロードバンドこそが真に「最適」なものと言えましょう。
2004/8/26発表のgooリサーチ結果「企業におけるインターネット回線利用実態調査」によると、「現在のインターネット回線を選択した際の重視ポイント(複数回答)」は下図の通りになっています。アクセス回線を選択した時の重視ポイントとして、「通信速度の速さ(57.5%)」、「通信料金の安さ(52.2%)」を挙げる企業がそれぞれ過半数を超え、「通信品質の高さ」が33.2%で3社に1社の割合でクオリティの高さを重視しています。「セキュリティの高さ」を重視する企業は1割未満にとどまっっていますが、それぞれの企業が様々な角度から検討し、それぞれのニーズと制約条件の中で「それぞれに最適な」インターネット回線を選択している様を見て取ることができます。 |
3−7.各国におけるブロードバンド・アクセスネットワークの普及状況
世界の各国におけるブロードバンド・アクセスネットワークの普及状況は下図の通りです(平成13年版「情報通信白書」)。高度に普及していたCATVをベースとしたアクセスネットワークを中心とするアメリカと国策としてADSL普及を推進してきた韓国とが群を抜いていますが、日本もどちらかといえば韓国に近い型で急速に普及率を伸ばしてきています。 平成16年版「情報通信白書」によると、2002年における日本のブロードバンドは、下図の通り、契約数で韓国、普及率でアメリカとほぼ同等のレベルになっています。 また、同じく平成16年版「情報通信白書」では、各国のDSLとケーブルインターネットの料金を100kbps当たりの料金に換算し比較したのが下掲のグラフによって、我が国の料金が国際的にみても最も低廉な水準となっていることを示しています。独占的地位が与えられていた電電公社が民営化され、電気通信の世界に競争原理が導入されたためにブロードバンド料金が急速に低廉化したのが要因となっており、これがまた、急速なブロードバンド普及の一因となった訳です。従来はインターネット普及の隘路となると考えられていた我が国の高通信料金の壁は完全に取り払われており、日本企業のアメリカ企業に対する競争力上の劣位は、もっぱらITを用いた経営革新、特に、業務のあり方を抜本的に変えるBPR(リエンジニアリング)の実践度の差によるものであるということがここに示唆されているものと考えられます。また、NCC(New Common Carrier)をはじめとする新規参入事業者が民営化されたNTTと競争できる条件が整っていたからこそ民営化路線が奏功したのも事実ですから、今後の道路公団や郵政の民営化についても競争原理がどこまで導入できるかが成否の鍵となるのではないかと思われます。
アメリカでのブロードバンド通信の普及ぶりについては以下のように報じられています。総務省が平成16年版「情報通信白書」で「我が国のブロードバンドインフラは高速かつ低廉な世界最高水準なものとなっている」と豪語しているのは、「米国のブロードバンド通信が、日本ほど高速化が進んでいない」という事実に根拠があるようです。
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(Ver.1 2003/11/ 9)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1)
(Ver.4 2006/11/ 4)