図書「東芝 情報通信時代への提言」より

 

図書「東芝 情報通信時代への提言」出版

 

(株)東芝在籍中に、たった一度だけ図書の出版に関与したことがあります。(社)日本能率協会の発行による「― 東芝 情報通信時代への提言」なるタイトルの図書で、内容は以下のような構成になっていました。

まえがき

第1章        情報通信時代の経営

1.対談「21世紀へ向けての企業経営」

・情報化杜会が花開く時代 ・産業神経系としての情報通信 ・ソフトが不足している ・試行錯誤をへて洗練されたシステム構築へ ・情報化への投資 ・統一化、標準化をどう考えるか ・変わる杜会構造 ・桁はずれにふえる情報量

2.情報システムの戦略的活用

・高度情報杜会の概要 ・情報システム発展段階の一過程としてのVAN ・情報システムの戦略性 ・情報システムの戦略的活用の二面性 ・戦略的情報システム構築上の留意点

第2章 情報通信ネットワ―ク時代の到来

・企業の情報武装の現状 ・情報の統合化へ ・ネットワーク環境の"変革" ・今後のネットワークの展望

第3章 企業における情報通信ネットワ―ク

1.ネットワークの構築に当たって

・企業のかかえるネツトワークの課題 ・情報通信ネットーク・インフラ構築上の留意点

2.東芝グルーブVAN 東芝の統合ネツトワーク実践

・東芝グループVANの狙い ・ネットワークの構成 ・ネットワーク・サービス ・先進的活用事例 ・戦略ツールとしてのVAN

第4章 画像・パターン情報通信ネツトワークー

1.トスファイル・ネットワーク

・トスファイルと通信 ・トスファイル・ネットワーク ー 生産管理システムとの連動…東芝柳町工場の実践

2.テレビ会議

・映像信号の伝送 − テレビ会議への応用

3.ファクシミリのネットワーク

・ネットワーク化 ・東芝の実践 − ファクシミリ・ネットワーク ・海外システム

第5章 インテリジェント・オフィスヘの道

1.新しいOA化への提言

・考えるOAの実現 ・分散処理システムによる「考えるOA」の実現 ・ワークステーションの高度化 ・イメージ情報による新しいOA

2.脚光浴びるインテリジェントビル

・インテリジェントビルの基本概念 ・インテリジェントビル構築への提言

3.インテリジェントビル ー 東芝ビルでの実践

・東芝ビルの概要 ・OAシステムの特徴 ・具体的OAシステムの紹介 ・OAシステムを支えるもの ・情報武装の中枢として

第6章 技術・設計部門の情報化-

1.EAの展望

・エンジニアリング.オートメーション(EA)とは何か ・EAの位置づけ ・EAの必要性 ・EAの特殊性 ・EA導入についての助言 ・EAの適用分野

2.東芝の実践 ― 東芝青梅エンジニアリングセンター

・情報通信のインフラを整え、CIMを目指す青梅工場 ・先進的エンジニアリングセンター ・革新的ソフトウェア開発統合支援システム ・電子化オフィスを目指す技術情報支援システム ・将来の展望

第7章 製造過程の情報化

1.CIMへの展開

・CIMの概念 ・CIMへの発展過程 ・CIMの要素技術動向 ・CIMとFMSの相違

2.東芝の実践 ― カラーブラウン管製造ラインの総合生産システム

・多品種混合自動生産ラインの実現 ・総合生産システムの概要 ・残る課題

第8章 研究開発と惰報通信

1.研究開発におけるコンピュータの有効利用

2.東芝におけるLAの展開

・LAの位置づけ ・LAの対象 ・LA展開のポイント

3.総合研究所のLAシステム・

・システムの概要 ・ユーザ環境 ・問題点

第9章 店舗経営と情報通信

1.SAの展望

・急速にすすむ店舗の情報武装 ・今後のストアオートメーションの展開方向

2.ストアォートメーションと東芝

・POSシステムを中心とするストアオートメーション ・百貨店のストアオートメーション

第10章 情報通信時代の良きパートナーとして ― 東芝の変貌

1.「E&E」の東芝

・「E&E」の基本的な考え方 ・東芝の事業分野

2.高度情報杜会と東芝

・高度情報杜会の着実な進展―東芝の環境の認識 ・高度情報杜会の基本トレンドー東芝の認識

3.「I作戦」

・高度情報杜会のうねりに対応する「I作戦」 ・システム事業の総合的展開 ・「I作戦」のさらなる展開に向けて

第11章 情報通信時代の機種として ― 東芝の情報通信戦略

1.情報通信のコア(中核)ビジネス戦略

・CDGPコンセプト ・コンピュータ戦略 ・ワークステーション戦略 ・ネットワーク戦略 ・通信システムの応用分野

2.R&D戦略

3.標準化戦略

4.提携戦略

5.キーコンポーネント戦略

6.東芝の新ビジネス開拓 − ICカード

・ICカードとは ・ICカード開発の取り組み ・ICカードの応用システム

7.東芝の新ビジネス開拓 − AIビジネス

・AIは技術の基調基盤 ・知識情報処理言語 ・エキスパート・システムと同構築支援ツール ・知的OCR ・AI技術を取り入れた日本語ワードプロセッサTOSWORD ・英日・日英機械翻訳システム

 

短命に終わった図書「東芝 情報通信時代への提言」

 

(株)東芝は、情報通信システムのプロバイダーの端くれとして高度情報化の推進に一役買っているとともに、それ自体が日本最大級の情報通信システム・ユーザーでありました。「電球から原子力まで」という幅広い事業分野と東芝グループ各社にわたる多様な業態と業容とを擁し、それぞれの局面で多岐多様にわたる情報通信ニーズが存在していたからです。しかも、それぞれの当事者が、経営効率と顧客満足度を極大化するため、最先端の情報通信システムを求めていましたので、(株)東芝は日本最大級であるとともに日本一“うるさい” 情報通信システム・ユーザーであったと言っても過言ではないと思います。現に、社内及び東芝グループもあちこちに、当時としては時代の最先端をゆく情報通信システムが導入されていました。このような自らの実践事例を紹介しながら、“情報通信時代”へ向けての展望と提言を提供しようとする図書「東芝 情報通信時代への提言」の企画はまさに時代の要請に応えるものと自画自賛しておりました。しかし、実際は、この図書は短命に終わってしまいました。発行直後に東芝機械(株)によるココム事件が発生したために、発行元の(社)日本能率協会としても当図書に対するプロモーションを行なうことがほとんどできなかったからです。そのため、「昭和62年4月10日 初版第一版発行」だけで絶版となってしまいました。

「第1章 情報通信時代の経営」の「対談:21世紀へ向けての企業経営」では、当時の日本電信電話公社(株)取締役副社長であられた山口開生氏にご登場頂き、これも当時(株)東芝の取締役副社長であった青井舒一氏との対談に応じていただいています。これは、山口さんが青井さんと大学が同期同窓であったことから実現した企画だったのですが、ここからも東芝が“情報通信時代”に果たすNTTの役割を如何に大きく評価していたか読み取ることができると思います。図書出版からまもなくして、青井さんが東芝機械機械(株)ココム事件の責任を取って辞任した渡里杉一郎社長に代わって(株)東芝社長になったのに対して、山口さんもNTTの次期社長となられたわけですから、結果的には両社社長の副社長時代の対談というあまり他に例を見ないような企画にもなったわけです。

日本でインターネットが商用化されたのが1993年のことですから、この図書が発行された昭和62(1987)にはインターネットは黎明期にも至っていなかったわけで、現にこの図書にも「インターネット」のイの字も出てきていません。しかし、改めて読み返してみますと、「情報通信ネットワーク」を「インターネット」と読み替えれば、「情報通信時代」つまり「インターネット」時代の到来がほとんど正しく見通されているのにきがつきます。私は、(社)日本能率協会の殿村奉文さんの支援の下に、全体的な編集企画、共同執筆者間のコーディネーション、編集・構成実務に携わりながら、自らも(株)東芝社内各部門から選定された有識者に混じって全体の10分の1程度を執筆しましたが、その中で、今なお陳腐化していない箇所があり、少なくともインターネット前史の「ネットワ―ク環境の“変革”」期の実態の把握に役立つ部分もありますので、以下に抜粋してご紹介いたします。

 

図書「東芝 情報通信時代への提言」より(抜粋ご紹介)

 

第2章 情報通信ネットワ―ク時代の到来

 

企業の情報武装の現状

 

市場環境の変化に対応し、企業は経営の各局面ごとに情報処理システムを導入し、合理化・効率化を推進してきた。事務部門に於ける経理システム、販売管理システム、在庫管理システム等のオフィスオートメーション(OA : Office Automation)の動きはもとより、NC(数値制御)ロボット等の導入によるFMS(Flexible Manufacturing System)は製造面での情報化そのものである。設計過程に於けるCAD(Computer Aided Design)も今日では、既に言葉として社会的地位を得つつあり、導入例も先進的企業に見ることができるようになった。

 こうした企業の情報武装が進展するなかで、オンラインシステムやデ―タ通信ネットワ―クが注目され、多くの企業に導入されてきた。従来、相互間に結ばれることなく、いわば“点”として存在していたコンピュ―タ及び端末機器が、構内ネットワ―クまたは電話公衆回線を介した広域ネットワ―クに組み込まれ、「面としての存在」となるに及び情報処理の合理化・効率化が大きく改善されてきた。

 ネットワ―クシステムにおいては、通信回線が機能面から情報流通を担い、タ―ミナルが情報生産・利用の機能を担う機械と人間のインタフェ―スとなった。

 しかしながら、こうした企業の情報武装化は、多くの制約条件により限定された範囲にとどまらざるを得ないものであった。

 まず第一に、情報処理システムの導入は進展したものの、それは企業経営各局面(販売、生産、経理、人事等)ごとのそれぞれのシステム化にとどまり、システム間の統合を実現するには至っていないケ―スが大半である。

 第二には、情報通信ネットワ―クがメディア(情報媒体)ごとに独立しており、それらが統合されたネットワ―クを形成するには至っていない点である。すなわち、電話、デ―タ、ファクシミリ等々がそれぞれのネットワ―クの中で、情報通信機能をそれぞれが担ってきたのである。ビデオテックス、テレビ会議等々といったニュ―メディアも、それぞれ個別のネットワ―クとして導入せざるを得ない環境にあったのである。

 また、情報通信システムは個別の企業ごとに構築され、複数の企業間でネットワ―クを形成することは、規制されていた。

 いわば、“それぞれのネットワ―ク”であり、統合された「情報通信ネットワ―ク」への移行過程に過ぎないものであった。

 

情報の統合化へ

 

 電力・ガス・水道の「公共サービス・ネットワーク」、道路・鉄道・航空路線等の[交通ネットワーク」に次ぐインフラストラクチャとして、「情報通信ネットワ―ク」が脚光を浴びているのは、統合情報通信システムとしての“INS”の出現がその契機をなしている。

 INSとは、日本電信電話株式会社の考案した和製英語Information Network Systemの略で、「高度情報通信システム」を意味する。アナログ方式を主体とした電話網・電信(電報)網・加入電信(テレックス)網・デ―タ通信網・ファクシミリ網等の、在来の個別の通信網を、デジタル伝送路とデジタル交換機により統合し、経済性を高めると同時に、より豊富な通信サ―ビスを提供しようとする一大電気通信網建設プランである。このINSの進展に呼応して、いち早く離陸期を迎え、急速に導入が進みつつあるのが“企業INS”である。

 企業INSとは、一般企業においてこれまで個別に利用されていた電話やファクシミリ、デ―タ通信、テレビ会議等各種の情報通信サ―ビスを統合化した企業専用のデジタル通信システムである。いわゆるNTTの公共的な大規模INSに対して1企業(グル―プ)を単位とした「統合情報通信システム」である。

 企業INSは、OAやLAN(Local Area Network)も統合し、情報の収集・伝達・蓄積・整理・加工等、情報に関する様々な活動を効率的に展開することを支援する高度で最新の企業内情報通信網であり、これにより企業内コミュニケ―ションは、飛躍的に向上する。また、音声・デ―タ・画像等別々にネットワ―クを組むのに比べ大幅に通信コストを削減することができる。

 設備としては、NTT等の第一種電気通信事業者が提供する高速デジタル回線、デジタルデ―タを効率的に多重伝送するマルチメディア多重化装置、デジタルPBX(Private Branch eXchange)、ビル電話システム等の通信機器と、これに接続される各種コンピュ―タ・ファクシミリ・電話機等で構成され、それぞれが組み合わされシステムが形成される。

 

ネットワ―ク環境の“変革”

 

 ネットワ―クを巡る環境は、いま変革期にあるといわれる。単なる量的な変化でなく、質的な変化が伴わねば、“変革”とは呼ばれない。一体、どんな質的変化が起り進行しつつあるのか、整理して見てみたい。

 まず、現象的には、次の点が大きな変革点として、列挙できる。

    ・独占的規制  →  自由競争

    ・アナログ通信  →  デジタル通信

    ・個別・機能別ネットワ―ク  →  統合ネットワ―ク

    ・単純通信  →  付加価値通信

    ・既存メディア  →  ニュ―メディア

 これら諸現象が相まって、ネットワ―ク業界の旧来の秩序が崩れ、ネットワーク・ユーザーは、新たに参入した通信メ―カ・事業者から、豊富で斬新な製品・サ―ビスを受けられるようになった。

 こうした市場の構造変革をもたらした要因は、次の4点に集約される。

  (1)通信回線利用と通信事業の自由化…法(制度)的要因

  (2)通信技術の飛躍的向上…技術的要因

  (3)情報利用の量的拡大と高度化…需要要因

  (4)新しい通信機能・サ―ビスの実現…供給要因

 個別企業として、この変革期にどう対処したらよいのだろうか。過度の焦燥感を避けるため、また逆に思わぬ手遅れを避けるためには、これら諸要因に立ち入って、“変革”の実態を把握しておく必要がある。

 

(1)通信回線利用と通信事業の自由化…法(制度)的要因

 

@通信行政の方向転換(表1−2)

 

 昭和60年度、日本は、その通信政策を大きく方向転換させた。郵政省を中心とした政府・自由民主党・財界は、こぞって通信回線利用と通信事業の自由化を支持し、かくて競争原理と民間活力が導入されるに至った。電気通信網は、国家存立基盤の一つであるため、国家事業として管理・保護される必要があった。その独占的規制のもとにあった電気通信事業及び回線を自由化するのは、大きなリスクを伴う一大転換でもあったが、古い袋(法・制度的規制)では新しい酒(ネットワ―ク需給)を容れ難くなったのが実状であり、以下の事実を勘案すれば、むしろ必然の方向転換であったといえよう。

・企業間・業界内での自由な通信への欲求が高まり、電気通信回線の共同利用・他人使用の規制を撤廃せざるを得なくなってきた。

・エレクトロニクス技術・コンピュ―タ技術・通信技術は大きく進歩していたにも拘わらず、従来の個別の規制が、融合を始めた情報通信メディアの実用化・商用化を阻んでいた。

・電気通信事業を民間に移管し、行政改革を推進するとともに、独占の上に成立していた通信を競争の場に引き出すことにより民間活力導入によって豊富な通信サ―ビスを提供することが時代の要求として強まってきた。

・米国の通信自由化(規制撤廃、AT&T分割等)、通信機器貿易の進展に対応した市場解放策として、自由化を進める必要があった。

 

1 通信三法の施行(604)

 

@電気通信事業法

電気通信事業の民閻開放→NTTKDD以外に第1種・第2種電気通信事業者としての機会開放

A日本電信電話会杜法

電電公杜の民営化→NTT株式会杜の発足

B関係法整備法

@A改正に伴う電波法・有線電気通信法など20種以上の関係法の改正

 

2 通信回線利用の自由化への経緯

 

 

回 線 開 放

1(昭和46)

2(昭和57)

3(昭和60)

基本伝送

サービス

 

電電公杜の独占

 

電電公杜の独占

 

規制撤廃

通信処理

サービス

 

電電公杜の独占

中小企業VAN

限定開放

 

規制撤廃

情報処理

サービス

メッセージ交換

を除き規制撤廃

 

規制撤廃

 

 

A通信三法の施行(表1)

 

 通信を独占してきた電電公社が民間企業化する一方で、民間企業が通信事業に進出できることになった。第一種電気通信事業分野に、第二電電、日本テレコム、日本高速通信、東京通信ネットワ―ク、日本通信衛星、宇宙通信等、いわゆるNCC(New Common Carrier)が続々進出を決め、より安価で、より高品質の電気通信サ―ビス提供を競いあえるバックグラウンドが形成された。

 通信回線の利用が自由化されたので各種の利用サ―ビスが可能になった。VAN(Value Added Network )事業の登録・届出も、電気通信事業法施行後ひきもきらず、さながら、VANフィ―バ―の様相を呈している(表3)。

 電電公社が一括管理していた本電話機(1台目の黒電話)の代わりに自由に電話機を選択し設置できるようになったので、豊富な機能を盛り込んだ様々なデザインのカラフルな電話機が市場に出回るようになった。

 

3 電気通信事業者の区分と主な相違点

 

1種電気通信事業・・・通信回線を自ら設備するもの

NTT,第二電電,日本テレコム,日本高速通信,TTN,KDD,日本通信衛星,宇宙通信

2種電気通信事業・・・通信回線を借りて行うもの

(これをVAN事業と呼んでいる)

特別第2種・・・不特定者への通信サービスを行うもので、かつ利用回線の数が1200bps換算で500回線を超えるものと、外国との通信を行うもの

一般第2種・・・特別第2種以外のもの。

(注)第1種電気通信事業者は第2種電気通信事業を兼業可能

 

(2)通信技術の飛躍的向上…技術的要因

 

@デジタル技術の通信技術への適用は、むしろ他分野に後れを取って進行したように見える。しかし、デジタル化はネットワ―クの様相を一変せしめる程、根源的な影響を及ぼしつつある。新たなデジタル技術強化をめざして、ネットワ―ク供給サイドでは、新しい競争が繰り広げられ、ユ―ザサイドでは、従来の電電公社を軸とした寡占状態には存在し得なかった新機軸の機器/サ―ビスを選択できるようになった。

 連続したアナログの電気信号をON/OFFのパルスからなるデジタル信号に変換することによって、コンピュ―タとの親和性が増した。本来アナログ信号である音声も、PCM(Pulse Code Modulation:パルス符号化)技術によりデジタル化され、デ―タ・画像等のすべてのデジタル信号とともに統合して伝送・交換できるようになった。通信回線網のデジタル化により、コンピュ―タ間の文字・数値情報の大量伝送も可能になり、一本のデジタル加入者回線で、電話・ファクシミリ・デ―タ・ビデオテックス等各種の違ったメディアサービスを受けられるので、利用者の自由度が増し、かつ情報通信システムの変更・増設へも柔軟に対応できるようになった。さらに、デジタル化は、中継を重ねても雑音が累加されないため、通信の品質を向上させるとともに、伝送・交換の過程における効率的な情報の処理・蓄積を可能にしたので、同報通信サ―ビス、プロトコル変換・メディア変換等の通信処理を伴う高度で多彩な通信サ―ビスが提供できるようになった。

 また、デジタル化により、伝送コストが大幅に削減でき、デジタル化による交換機のコストダウンとあいまって、電気通信回線網全体がアナログ方式と比較して、遥かに経済的に構築/運用できるようになった。

 

Aデジタル化技術は半導体素子技術に支えられ実用に供され高度化した。特に、LSI(Large Scale Integrated Circuit: 大規模集積回路)技術の飛躍は、各産業分野に大きな波及効果をもたらしたが、ネットワ―ク環境の革新もLSI技術なしには有り得なかった。デジタル交換技術、PCM技術もすべてLSI技術によって実用化の域に達したのである。同じくLSI技術により格段と処理能力を増したコンピュ―タにより制御されることによって、従来は情報の通過経路として、いわば、一本の紐としてしか存在していなかった電気通信網が、いままでは考えられているだけで実現し得なかった多様な“芸当”をこなせるようになった。いわゆる“通信とコンピュ―タの融合”とは、コンピュ―タ相互が通信網を通じ、より密接に結合し合うようになった事実を示すのみでなく、このように、通信の過程にコンピュ―タが積極的に介在し始めてきた事実も示唆している。

 マイクロプロセッサの情報処理能力が、8ビットから、16ビット更には32ビットと幾何級数的に飛躍し、記憶容量も、64Kから、256K,1Mビット、4Mビット…目覚ましい飛躍を示しつつある。安価なLSIにより、情報の生産・伝達・処理が高速化し、収集・保管・蓄積が大容量化したので、情報の単位当りの所要コストは大幅に低下した。

 新しい通信サ―ビスが享受できるようになったうえ、小型・高性能・省電力・省コストでコストパフォ―マンスの優れた情報通信機器が供給されるようになったので、その導入が企業のコストパフォ―マンス自体を大きく左右する程になった。

B伝送路技術の向上も、ネットワ―ク環境の変革の主役の一員である。光ファイバ―・衛星通信・高速度広帯域伝送技術により、伝送路の大容量化・高速化が可能になった。特に、光ファイバーケーブルの普及は省資源・信頼性向上に寄与し、音声・文字・数値にくらべ、情報量が大きい画像情報も高速かつ低コストで伝送可能になった。

 企業INSが登場し、脚光を浴びているのは、光ファイバーケーブルなどによる大容量の高速デジタル回線サ―ビス開始が直接的動機となっている。

C通信プロトコルの国際的標準化も進展した。ISO(国際標準化機構)によるOSI(Open Systems Interconnection :開放型システム間相互接続)基本参照モデルが設定され、プロトコルの標準化が大きく前進した。ITU(国際電気通信連合)におけるCCITT(国際電信電話諮問委員会)による標準化作業の促進も、ネットワ―ク環境の変革に寄与している。

Dネットワ―ク管理技術も向上し、新しいネットワ―ク環境を支えつつある。機器毎に個別に管理する形から、一元管理の形が指向され、障害の事後修理より事前診断(予防保全)が重視されるとともに、保守運用の遠隔化・集中化と要員の削減が推進されつつある。

 

(3)情報利用の量的拡大と高度化…需要要因

 

 情報流通の量的拡大と、企業活動エリアの拡大の面からも、ネットワ―クは質的転換を迫られるに至っている。

 

@情報利用の量的拡大

 

 従来の情報流通は、現場から本部へと、流れの両端が固定されており、タイミング・内容も固定化した“報告”の形が基本であった。単方向の情報の吸い上げが基調であり、他の情報は手作業で処理されていたのが一般的なスタイルであった。

 ところが、エリアマ―ケティングの時代を迎え、中央における画一的集中処理では、各部門の処理要求に応じ得ず、顧客・市場のニ―ズの変化にも対応し難くなってきた。中央で収集した情報の各部門へのフィ―ドバックが不可欠となり、いわば、双方向の情報流通が、市場・顧客ニ―ズへの対応つまり企業間競争を有利に展開するための武器として欠かせぬものとなってきた。

 コンピュ―タ活用の形態も、受発注・財務等あらかじめ処理手順が固定している情報の取扱いから、POS(Point of Sales : 販売時点管理)等に典型的に見られるように、情報の収集・解析・活用に重点が移行しつつある。

 これらはともに情報利用の量的拡大を促進する要因になった。しかも、この流通情報量の膨脹は、従来のネットワ―クの量的拡大ではまかなえず、質的変革を迫る勢いのものとなっている。

 

Aコンピュ―タ利用の高度化

 

 コンピュ―タの接続形態自体も多様化し、端末群同士、ホストコンピュ―タ同士の接続により、情報の内容に応じた処理系の柔軟な選択・多重利用が行なわれるようになってきた。

 また、画像情報・設計情報のコンピュ―タ化に伴い情報処理システムが一層複雑化してきた。

 情報の蓄積と利用が進み、情報は人・物・金に次ぐ第4の経営資源となり、デ―タベ―スサ―ビスが、企業内でも普及するとともに、新ビジネスとして、台頭してきた。

 こうした情報処理の分散化・多様化は、高度なネットワ―ク構築要請の契機となっている。

 

Bネットワ―クの高度化、広域化(業際化・国際化)

 

 ネットワ―クの適用業務面でも、企業内から企業間へ、中央集中から広域化へ、国内から国際化へと高度化・広域化の道を辿っている。このように、利用形態が多様化するとともに、基本通信の機能しか担っていなかったネットワ―クに対して、付加価値通信機能を具備するなど通信機能拡大へのニ―ズが高まってきた。

 一方、個別の、または機能別のネットワ―クを併設し、管理・運用することの繁雑さが増し、通信コストも経営圧迫要因となってきた。ネットワ―ク構築・運用・保守の効率性・経済性を追及するために、統合化による低廉なネットワ―クの構築が企業の経営問題としてクロ―ズアップされてきた。

 

C新事業への展開

 

 コンピュ―タ処理の多様化と、これに伴い拡充・強化された通信機能を利して、新事業経営に乗り出す風潮も強まりを見せてきた。

 単純通信網の付加価値通信網への転換を機に第2種電気通信事業(VAN事業)へ進出するケ―スが、その典型である。

 また、自営の大容量通信設備の通信余力を、回線貸しに充当し利益追及を行なうような形での第一種電気通信事業への進出も果敢に試みられるに至った。

 蓄積されたデ―タベ―ス情報を戦略的に活用する情報提供業(IP)が新たに誕生する背景事情も醸成されてきた。

 これらの動きにとって、従来のネットワ―ク環境は、手かせ足かせとなっていた。

 

(4)新しい通信機能・サ―ビスの実現…供給要因

 

@通信サ―ビスメニュ―の多様化

 

 DDX網、ファクシミリ通信網、ビデオテックス通信網等、NTTによる各種情報メディアに適したサ―ビスの提供が開始された。移動体通信サ―ビスも充実した。

 これに次いで、高速デジタル伝送サ―ビスが開始され、安価に音声・デ―タを伝送できるようになり、電話(音声)・コンピュ―タ―(デ―タ)・ファクシミリ(イメ―ジ)・テレビ会議(画像)等々のメディアの統合的伝送も可能になった。

 こうした新しい通信サ―ビスを有効に活用するためにも、企業内情報通信システムを根本的に見直す必要が生じている。

 

Aニュ―メディアの普及

 

 双方向CATV、ビデオテックス(CAPTAIN,NAPLPS)、画像応答システム(VRS )、電子メ―ル等の多彩なニュ―メディアが実用化段階を迎えつつあり、電話、ファクシミリ、デ―タ伝送等の既存メディアの交換・伝送とあわせ、ネットワ―ク全体の見直し要請されるに至った。

 

BVAN事業の生成

 

VANは通信回線の共用と、それによりもたらされる効率的な情報処理の実現により、参加企業の情報処理・通信コスト削減に寄与する。ネットワークの信頼性、異なるプロトコルをもつ各種のホストや端末との相互接続性がVANシステムの優劣を決め、これらが参加企業のVAN選択のポイントとなるが、VANへの参加を巡って、参加企業には、新しいハードウェア・ソフトウェアの導入等情報通信システムの再構築が要請される。

 

今後のネットワ―クの展望

 

 以上見てきたように、ネットワ―ク環境の変革ぶりは目ざましく、今後この変革が産業界に、更に個別企業にどのような影響を及ぼして行くのか、変革の規模が大きいだけに、定かに予測し得ない部分が多い。いずれにせよ企業経営に大きなインパクトを与え、この変革にうまく対処できるかどうかが今後の企業の浮沈を決めるのは間違いのないところである。

 

●ネットワ―クが変える企業経営の姿

 

@業際間連携の進展

 

最近の店舗陳列は、過去のものとは大分様変りしている。スーツの売り場に、バッグ・シューズ等が陳列されている。顧客が欲するのは、「より良いルックス・見栄え」であり、単なるス―ツ・単なるバッグ・単なるシユーズではない。顧客の欲求は、“生活者”としての複合化されたもの(トータル・コーディネ−ション)であり、スーツ・バッグ・シユーズそれぞれの供給者が単独では満たし得ないものである。

 同様に、“生活者”としての顧客が求めるのは、「より良い旅」であり、交通機関の予約と宿泊施設のコーディネーションがなければ、欲求は満足できない。また、キャッシュレス購入と配達依頼と連動できなければ、顧客の購買行動が円滑さを欠いたものになってしまう。

 この様に、企業の提供できる商品・サ―ビスが、それぞれ専門分野に特化したものにならざるを得ないのに対して、顧客の求める商品・サ―ビスは本来、単機能・単一サ―ビスではなく、複合されたものである。

 「顧客への便益、満足感の提供度が企業の業績を決定する」という不変の原則に照らし合わせれば、企業としては、今後一層強まって行くものと見られる顧客の“生活者”としての自己主張に応えて行かねばならないことになる。

 複合化への要請に対応するため、相補い合える商品・サ―ビスの提供力を持った企業との業際間連携は、企業のサバイバルのための必須条件となるものと見られる。

 

A情報による系列化

 

 複数企業の事業連携による顧客サ―ビスの向上を実現するためには、情報のネットワ―ク化が不可欠であり、従来の人・資金・商品による系列化・グル―プ化とは異なる形で、ネットワ―クを軸とした新しいグル―プ化・共同化・系列化が進展しよう。

 また、ネットワ―クの敷設には、ハ―ドウェア導入・ソフトウェア開発に多大な投資が必要である。投資の有効活用の観点からもネットワ―クの企業間共用は促進されるものと考えられる。

 いったん、特定のネットワ―クに参加すると、そこを離れ、他のネットワ―クに転向することは至難のわざとなる。ハ―ドウェア、ソフトウェア更には業務システム自体の大幅変更を伴なうからである。親企業と下請企業、製造業と卸・小売業の典型例にみるように、ネットワ―ク化とは、一面に於いて、中核となる企業組織への有機的結合形態であり、その意味で、企業グル―プ拡大・強化の強力な手段となる。

 

B産業形態の変化

 

 長期的観点から見ると、ホ―ムショッピングをはじめ、ホームバンキング、ホ―ムディーリング等、消費者・顧客が直接ネットワ―クに参加し、システム化される形が一般化するものと考えられる。そうなると、企業の活動形態は大きく変わり、従来の企業概念、さらには、業界概念さえ大きく変貌することが必至である。

 現に、流通経路全体のネットワ―ク化により、卸売業の一部では、従来担っていた情報仲介・危険負担の機能がネットワ―ク機能により代位され、その存在意義が脅やかされている。

 また、ネットワ―クの活用により、新しいビジネスチャンスも生まれてくる。例えば、旅行業には旅行情報提供ビジネスが、不動産業にはセキュリティシステムが、そして出版業はビデオテックスを用いた情報提供業を新事業分野として展開する可能性がある。

 このように、ネットワ―クは、単なる経営の手段ではなくなり、事業運営自体と不可分な企業にとっての生命線になってくる。

 

●情報の資源化を促進するネットワ―ク

 

@情報の資源化

 

 企業活動のための情報処理の反復により、情報が蓄積されると、データベースが形成され、情報通信ネットワ―クを通じて情報の高度利用が可能になる。経営計画、投資計画、商品開発・改良計画、生産・販売・在庫計画等の立案に必要な情報が、端末機からネットワ―クを介して自由に入手でき、シミュレ―ション等の情報加工操作により、最適な計画立案が可能になる。従来、個人または部門別に保管・使用されていたデ―タが、経営資源として新たな位置付けを得て、企業の価値(利益)増殖活動の源資となる。

 ネットワ―クによって、情報がより大きな価値を生むのが促進される反面、価値を生む情報が蓄積されればされる程、情報通信ネットワ―ク高度化ニーズが高まるという相乗効果が生れる。

 

Aデータベースの充実

 

データベースとは、各種の情報やデータをコンピュータが読める形に整理・統合・構成したもので、コンピュータと電気通信回線を通して利用者に提供される。

膨大で雑多な情報が氾濫しているなかで、有用な情報のみが抽出され、提供されれば、情報自体が経済的な価値をもつようになる。ことに、研究開発・研究調査関連情報は、多大なコストを投入した結果の先端情報であることが多く、生産方法・生活方法を一変せしめる可能性を秘めたものさえ含まれるので、情報がひとつの商品として、重大な経済的価値をもつようになる。

今後、企業内データベース、商用データベースとも充実し、相互の組み合わせ利用も進むものと考えられる。

また、文字・数値情報以外に図面・画像のデータベース化が進展する。ビデオテックスや、CATV等のニューメディアが、データベースと結合されることによって、より簡易な情報サービスを展開することになろう。

 

●ネットワークの国際化

 

@国際版企業INS

 

 企業活動の国際化には、目を見張るものがある。合弁事業・ジョイントベンチャ―等の形態による企業の多国籍化の事例も今や枚挙にいとまがないほどである。円高基調の定着による海外生産への傾斜が、この傾向に拍車をかけるものと考えられる。

 一方、米国を中心とした多国籍企業の日本上陸も従前の比ではなくなってきている。日本の国際経済に占める地位の向上に伴い、一層海外企業の日本市場進出は進展しよう。企業活動の国際化は、必然的に情報通信ネットワ―クの国際化を招来する。自社の海外拠点との連絡をはじめ、資本提携・技術提携・販売提携等々、様々な形の提携関係に基づく海外企業との複雑な連携ネットワ―クが形成されるのに呼応して、情報交流需要が増大かつ多様化するため、衛星を含む国際網を利用した国際版企業INSの高度利用が進む傾向は必至と考えられる。通貨・債権をグロ―バルに連動させ、国際的競合を展開する金融業をはじめとして、サ―ビス市場にも国際化の進展が見られ、今後一層、国際ネットワ―ク高度化の要請が高まるものと予測される。

 

A国際標準の重要性

 

 国際情報流通を円滑化するためには、国際通信ネットワ―クの標準化が要請される。国際的相互通信を確保するためのみならず、ネットワ―ク利用者の通信機器への二重投資を回避するうえでも、標準化は欠くことができない課題である。

 また、規格の統一による量産効果・コストダウン効果も利用者の立場から見逃せず、国際的通信機器貿易促進の観点からも、国際通信プロトコル、端末機器の標準化は重要なテ―マである。

 

BISDNへの対応

 

 ISDNとは「サ―ビス総合デジタル網(Integrated Services Digital Networ)」の略で、統合情報通信インフラストラクチュアの国際的名称である。日本では、ISDNの標準化に先行してNTTがINSを進めている。

 ISDNは、電話網・デ―タ網・ファクシミリ網の他に映像網も統合した広帯域ISDN、更には、AI(人工知能:Artificial Intelligence )技術の適用により、万能にして知的な通信網に発展するものと予測されている。

 

第3章.企業における情報通信ネットワ―ク

 

1.ネットワークの構築に当たって

 

企業のかかえるネットワークの課題

 

●企業経営の視点

 

 情報通信システムの優劣は、企業競争力を決定するばかりでなく、事業領域を決定し、事業拡大戦略の成否を決める等、企業経営のあり方自体と不可分な関係をもってくる。

 従って、自社ネットワ―クの点検・構築検討に当っては、短期的な通信コストの削減から、企業活動の効率化・合理化、企業グル―プ連携強化、新規事業分野への進出まで、企業経営の総合的観点からのアプロ―チが必須である。

 原点は言うまでもなく、顧客への便益・満足度提供の極大化であり、それを実現する人材・組織の活性化である。企業の利益はこの両者の結果に過ぎない。

 現存のOA(Office Automation)、FA(Factory Automation)、EA(Engineering Automation)など業務の自動化システム・機器を統合化し、経営の合理化と効率化を推進し、経済的で品質の良い商品・サ―ビスを顧客に提供するためにネットワ―クをいかに構築するか?ネットワ―クの構築・運用・管理によって、いかに人材と組織を活性化できるか?が究極の課題である。

 新事業領域への進出としては、VAN事業、データベースサービス等、ネットワ―クを資産として活用した事業機会の有無を、経営の視点から検討する必要がある。

 

●通信に関する具体的課題

 

 通信利用の急増は、通信コストの膨脹を招き、経営圧迫要因となる。通信コストの上昇は、事業業績拡大傾向を反映する指標でもあり、いわば必要悪として、暗黙裡に軽視されがちであった。しかしながら、新しいネットワ―ク環境を迎え、情報通信の利用度増大と通信コスト削減とが二律背反でなくなった。新しい通信サ―ビスと、それに対応できる企業内通信インフラの構築により、低コストで、多様多彩に情報通信を駆使できるバックグラウンドが出来上がっている。

 現状のアナログ回線のままでは、高速のデ―タ通信やファクシミリ等の非電話系通信の伝送・交換に限界があり、ニュ―メディアの高度利用・マルチメディア統合処理といった要請に応じ得ない。このことは、情報通信システムが企業の神経系として十分な機能を果すことができなくなることを意味し、顧客への低コスト・高品質の商品・サ―ビス提供を阻害し、結果としての企業収益も増加しない。

 また、事業所間または企業間ネットワ―ク構築に当っては、コンピュ―タの異機種間通信(相互接続・相互運用=インタ―オペラビリティと呼ばれる)、網間相互接続への要求に応え、プロトコルの整合を図らねばならない。

 更に、「人」「組織」の活性化を重視すれば、“使い易さ”の追求が不可欠であり、ネットワ―クの保守運用の簡素化・省力化とともに、安全・信頼度の向上も軽視できない重要課題である。

 

●統合情報通信ネットワ―ク構築のメリット

 

 高速デジタル回線による統合情報通信ネットワ―ク構築のメリットは、要約すると、以下の通りとなる。

 

 ・回線・設備への重複投資を回避できる。

 ・多種多様な通信サ―ビスが受けられる。

 ・経済性が追及できる

 ・画一的な公衆網サ―ビスと多様な個別なサ―ビスを組み合わせてりようできる

 ・将来の増設・変更への適応性を配慮できる

 

●情報通信ネットワ―ク・インフラ構築上の留意点

 

 情報通信ネットワ―クは、企業の中枢神経である以上に、企業経営の生命線となり、企業経営のあり方自体と不可分の関係になるという点は、既に繰り返し述べてきた通りである。

 このことは、情報通信インフラ導入が経営者自体の課題として取り組まねばならぬ重大テ―マであることを意味している。トップダウンの指示のもとに、社内関係部門の参加によるプロジェクトチ―ムを編成するとともに、総合的システムインテグレ―ションの能力のある情報通信機器メ―カのコンサルティングを得ながら、慎重かつ早急にネットワ―ク構築課題に企業努力を傾注する必要がある。

 ネットワ―クの構築力、運用テクニックは、自らがネットワ―クを導入し運用しなくては、修得できるものではない。従って、ネットワ―ク化に早く対応した企業に早く力がつき、ネットワ―ク運用による情報の集中・蓄積が進む。データベースの偏在といった現象が生じ、集中・蓄積された情報を求めて新しい企業関係が新たに形成されことさえ考えられる。最も進んだシステム・機器を早期に導入し、高速かつ多彩な情報通信サ―ビスを経営の武器として早期導入されることを推奨したい。

 

●現状の把握とネットワ―ク化ステップの検討

 

 まず重要なのは、自社の情報通信システムの導入の現況を把握し、将来の経営ビジョンのなかで必要と考えられる“あるべき情報通信システム”との間のギャップをなるべく正確に理解することである。

 次いで、ネットワ―クの構築目的を明確にし、ネットワ―ク実現のステップを、例えば、基幹事業所内ネットワ―ク構築 → 全国ネットワ―クへの拡大 → 系列企業間のネットワ―ク化 → 異業種関連企業間のネットワ―ク結合 → ニュ―メディア導入等によるネットワ―クの付加価値向上 というように構想し、それに合わせて、公衆回線網に依存するか、専用回線を利用するか、はたまたVANに加入するか、VAN事業に乗り出すか等々といった最適ネットワ―クの選択を行なうことが肝要である。

 

●通信ネットワ―ク・マネジャ―の育成

 

 従来は、電話系(総務部門)とデ―タ系(情報処理部門)とそれぞれ専門家がおり、それぞれの決定に委ねておけば良かったが、今や統合情報通信システムを、全体的に管理・運用できる専門家は不在であるといってよい。ネットワ―ク環境の変革は、それぞれに全く新しい経験なのである。事務管理を効率化・省力化するとともに、分析・企画等の創造的業務を支援し、人材・組織の活性化を推進するためには、社内外のネットワ―ク・ニ―ズを適切に理解し、ネットワ―ク全体の最適な計画・運用・評価のできるネットワ―ク・マネジャ―の育成が欠かせない。しかも、こうした人材は育成に時間を要するので、早目に手当を行ない、オン・ザ・ジョブ・トレ―ニングを重ね、早期戦力化を図る必要がある。

 

●企業間ネットワ―クの構築にあたって

 

 企業間ネットワ―クを構築することは、とりもなおさず、複数の企業が意思決定の過程の一部を協力して行ない効率を得るということであり、ネットワ―ク参加の他のメンバ―と一種の共有関係を持つことである。

 従って、共有関係が深ければ深い程得られる効率は大きくなる。反面、意思決定プロセスを共同で行なうことは、メンバ―間の差別化をし難くし、ネットワ―ク参加企業間の企業競争に影響を及ぼす。全体の効率と競争のバランスのなかで、ネットワ―ク構築の是非・程度は判断されるべきテ―マであるが、最終的には、顧客への便益堤供度の如何により決意されるべきであろう。

 

<後  略>

(2003・8・6)

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