インターネット・ビジネス論 |
平成11年版郵政省編「通信白書」の「特集・インターネット」では、“インターネットビジネス”とは、“TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)を利用したコンピュータネットワーク上での商取引及びそのネットワーク構築や商取引に関わる事業”と定義し、以下のように分類しています。
このうち、「インターネットコマース」は「インターネットを直接コマース(商売)に利用するもの」ですから、「B to C(Business to Consumer)ビジネス」と「B to B(Business to Business)ビジネス」は当然我々の「インターネットビジネス論」の中核課題となります。しかし、「インターネット接続ビジネス」とその他の「インターネット関連ビジネス」は、インターネットの普及により直接的に影響を受けているビジネスではありますが、我々の課題である「インターネットを利用したビジネス」には該当しませんので、考察の対象外とします。逆に、「インターネットをデータベース・マーケティング等のための情報共有化に利用したビジネス」を「インターネットビジネス」の一環として加え、以下順繰りに考察を加えてゆくことにします。 |
8-1.B to C(Business to Consumer)ビジネス | ||
…企業・消費者間取引 |
1998年のクリスマスは、アメリカでオンランショッピングが約30億ドルのセールスを記録し、「eクリスマス」と呼ばれましたが、これが日本の各方面の製造業・流通業のオンラインショッピングに対する関心を高めることになりました。また、インターネットの発祥国アメリカで誕生し“ドットコム企業”の魁となったバーチャル書店「アマゾン・ドットコムAmazon.com)」の成功事例も日本におけるオンラインショッピング普及の大きな契機となりました。 「オンラインショッピング」とはいっても仕組みは通信販売そのもの。従来からカタログ通販やテレビショッピングなどといった形のB to C(Business to Consumer)通販ビジネスは行われていたのですが、注文がインターネットを通じて行われるインターネットB to Cコマースには以下の通りの大きな利点があるため、在来の通信販売の域を大きく抜け出しB to Cビジネス自体を一変させたのです。 |
8-2.広告の効果・範囲・コスト
一般に購買心理には次のようなAIDMAの五つの段階があると言われます。
通常のマスメディア広告 通常のテレビ、新聞などのマスメディアによる広告は、A(Attention)およびI(Interest)の段階の購買心理の誘導に有効ですし広告情報の到達範囲が広いので、売り手は幅広く多数の潜在顧客を“プル”することが期待できます。しかし、A(Attention)だけでI(Interest)の段階に至らなかったり、I(Interest)どまりでD(Desire)以降の段階に至らなかったり、大方の視聴者または読者に対しては広告効果がハズレになることを覚悟した上で大枚の広告費を投じなければなりません。 インターネットB to Cコマースの場合これに対して、インターネットB to Cコマースの場合は、売り手が予め準備した広告情報を受動的に受信するカタログ通販やテレビショッピング利用者とも違って、利用者が売り手のインターネット広告またはホームページを自ら能動的に“プル”します。こうした利用者は、特定の商品や機能に対する興味を持っていて最初からD(Desire)の段階にある潜在顧客あるわけですから、広告効果がハズレになる確率が低く、ローコストの広告費の割にA(Action)の段階に誘導できる可能性が高い有効で効率的な広告をすることができます。 広告の到達範囲・手順 また、テレビ、新聞の広告の効果が、放送されるチャンネルの電波の到達範囲と当該新聞の配達範囲に限定されるのに対して、インターネット広告の場合は全世界のインターネット利用者に及ぶわけですから、ネットサーフィンをしている利用者をA(Attention)の段階に“プル”して潜在顧客化できる可能性もあります。更に、「クリック」だけでインターネットを即座に広告メディアから販売チャネルに変えることのできるシームレスなところも考え合わせますと、インターネット・コマースにおける広告の効果・範囲・コストはそれぞれ在来の広告の遠く及ばぬものとなっており、これがB to Cビジネスに歴史的な変革を及ぼした理由の一つとなっています。 大手通販会社のカタログ販売の場合ちなみに、大手通販会社がカタログ販売を行う場合、購買意欲をそそるような総カラー上質紙の部厚なカタログを、単価×千円かけて×十万部も発行し、しかもこれを高い郵送費をかけてC(消費者)に送らなければなりません。従って、カタログ発行・発送の頻度は年に1回または2回というように絞らざるを得ませんから、その間に発売された新製品をカタログに掲載するタイミングが遅れてしまいます。 インターネット広告のQCDその点、インターネットでは、新製品発売の都度随時にバナー広告やホームページを更新できますから、常に広告情報のQ(Quality)とD(Delivery)をベストな状態に保っておくことができます。更に、インターネットの場合は、当然郵送料も無用で、C(消費者)が通信費用持ちで広告情報を検索してくれるわけですからB(企業)側のC(コスト)負担はカタログ販売に比べると驚くほどローコストですむことになります。広告情報自体が、Q、Dの大幅改善とCの大幅削減の同時実現を果たしているところに、B(企業)とC(消費者)の間のビジネスプロセスの変革実現の大きな要因があったようです。 |
<こぼれ話> 大切なのはS
本文で触れたAIDMAは購買の意思決定までの心理であり、商品を購買して使用した後のS(Satisfaction : 満足)が伴わなければ、その顧客からのレピート・オーダーに期待することはできません。一方、固定客に対して満足感を与えられる企業は、収益を増大できるのですから、「企業収益は顧客に与えた満足感の総和の関数である」という仮説が成立するわけです。社会人になりたての頃、私は会社の幹部から聞かされる「社会に対する貢献」という言葉は欺瞞ではないかと思っていました。企業の行動原理は利潤の追求にあると信じていたからです。しかし、会社経験を積んで「顧客を満足させられない商品は売れないから利潤が発生するはずがない」ということを思い知らされてから、会社の幹部の話を素直に受け入れることができるようになりました。
東芝電材(株)という新会社を立ち上げる仕事に携わっていた時に初代社長の今井龍治さんの記者会見に立ち会ったことがあります。「経営理念は奉仕一念に決めました」というのを聞き間違えた記者が「では2年目はどうするのですか?」と質問したので爆笑となってしまったのですが、私はこのやや古めかしい感じのする「奉仕一念」が気に入りました。「奉仕」は ”Service” であり「お客様のためになること(機能)を提供すること」ですから、そのまま商売の本質である「お客様を満足させること」につながるからです。
商売は、お客様の方が「得をしている」という時に成立するものであって、売り手に「儲けられている」と感じた時にお客様は逃げてしまいます。ですから、儲けようと思って儲ける商売は長持ちしません。お客様に「得をしている」という満足感を持っていただける商品をローコストで提供する努力が実れば利益は結果的に生ずるものなのです。これが、本文中に「結果としての利益」という表現を繰り返した所以です。
当時のTQC先進企業・リコーでも売上高のことを「お役立ち高」という言葉で表現していました。TQC先進企業と肩を並べられるほどのマーケティング志向の強い経営理念を打ち出された経営幹部のもとで業務に携われたことを誇りに思っています。
8-3.ローコストで自由度の高い無店舗販売
アマゾンの無店舗書籍販売 インターネットB to Cビジネスの草分けであるアマゾンは、実店舗を持たない書店として開設されました。実店舗を持たない分本自体の価格が安く提供されていることが人気を呼び、アメリカで大ブレイクしたのです。しかも、アマゾンなら、一般の書店で扱っていないような専門書や稀少な書籍などもスピーディーに取り寄せることができるというメリットもありました。つまり、一般の書店では店舗に在庫・陳列した書籍によってアクチャルに“見せる”という店舗本来の機能を、店舗運営コストと書籍在庫・陳列量の制約を取り払って、インターネット上にローコストでバーチャルに実現することによって、書籍販売のビジネス・プロセスのQ(Quality)とD(Delivery)の大幅改善とC(Cost)の大幅削減を同時に達成することができたのです。 「バーチャルモール(仮想商店街)」の生成更に、この実店舗不在のインターネットB to Cビジネスは、「バーチャルモール(仮想商店街)」の生成によって普及に拍車がかかりました。特に、「楽天市場(らくてんいちば)」は、オンラインショッピングに必要なカタログページやショッピングカートといったシステムを丸ごとセット化して低料金で提供して、これまでPCをほとんどさわったことのない零細規模の売り手にもオンラインショッピングのテナント・サイトをすぐに作れるようにすることによって、バーチャルに「庶民的な市場」を作り出すことに成功しました。 「クリック・アンド・クリックClick & Click」リアルな世界で実店舗によるビジネスを行う企業を「ブリック・アンド・モルタルBrick & Mortar(ブリキとレンガ)」と呼ぶのに対して、インターネット上のバーチャルな店舗でビジネスを行う企業を「クリック・アンド・クリックClick & Click」と言います。ですから、「クリック・アンド・クリック」式のインターネットB
to Cコマースによって、実店舗の所在地から遠い地区の住人や、実店舗でのショッピングにでかける時間がとれないC(Consumer)には、いながらにして、しかも、高い自由度のもとにB(Business)に24時間365日いつでも好きな時間にコンタクトできる機会がもたらされたということができます。
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8-4.クリック・アンド・モルタル
しかし、インターネットB
to Cコマースは「クリック・アンド・クリック」式だけではありません。実店舗によるビジネスとインターネットのオンラインビジネスを有効に組み合わせて相乗効果を生み出す経営手法(または企業)があり、これを「クリック・アンド・モルタルClick & Mortar」と称しています。 耐久消費財の場合 マンション販売でも、大京のインターネット経由で購入する顧客の割合が3 割に達しようとしていると報じられています。その他に、住宅メーカーや自動車メーカーのインターネット経由販売比率も上昇していますが、このような耐久消費財のインターネットB to Cコマースは「ホームページにアクセス→カタログ要求→見積要求→個人名などの情報入力→セールスマンによるアプローチ」という段階を経て成約に至るケースが大半です。マンション、戸建住宅や自動車などの、購入頻度が低くて販売単価の高い耐久消費財の場合には、前述のAIDMAの購買心理のM(Meditation)の段階で、リアルに商品を“見せる”ことがA(Action)につなげるために不可欠だからです。大枚をはたいて高額商品を購入することは買い手にとって大きなリスクを負うことですので、「モルタル」(店舗または展示場)によって商品とセールスマンに対する好感と信頼が得られなければ納得して購入を決断できるものではありません。 一般書店で「スリップの万引き」が増えてきたそうです。書店では本を買わずに内容だけ確認して、スリップを失敬して持ち帰り、購買は有利なインターネット通販を使おうとする算段なのでしょう。比較的販売単価の低い書籍でさえ「モルタル」の存在意義は依然として大きいのだということが分かります。また、大手のメーカーが、ネットワーク上の広告で潜在顧客をM(Meditation)の段階の有力見込み客に仕立て上げた上で、系列販売店の「モルタル」(店舗または展示場)訪問を促しA(Action)につなげようとするのもクリック・アンド・モルタルの一例であり、クリック・アンド・モルタルがクリック・アンド・クリックとともにインターネットB to Cコマースの普及の一翼を担っています。 また、店舗は持ちつつインターネットでも併行して販売を行っている例として、オフィス用品のメーカーであるコクヨがあります。同社では、ホームページ上で一般消費者向けに製品紹介を行い、注文を受け付けることによって、これまで主としてオフィス用に販売していた文具品や家具などをインターネット上で一般消費者にも販売できるようになったのですから、「クリック」による販路を新開拓できたわけで相乗効果により「モルタル」の経営効率も大幅に改善できたものと考えられます。 知名度の向上と顧客層のすそ野拡大更に、2003/4/28日本経済新聞の「テレビ・ネットから現実社会へ 通販各社の店舗続々」では、「テレビやインターネットを使った無店舗型の通販各社が街中に実店舗を開設する“リアル出店”に乗り出した。知名度の向上や顧客層のすそ野拡大を目指す。実店舗コストをかけないのが利点だった各社だが、デフレで出店費用が低下。消費者の生の反応をつかみにくいといったテレビ・ネツト通販の限界を解消し、新商品の開発にも生かす考えだ」として、一見逆行現象とも思われる事象を、以下のようなインターネット通販会社の“リアル出店”事例とともに紹介しているのも注目に値します。B to Cコマースのすそ野拡大や商品開発の面での相乗効果がある他に、都心の駅やオフィスビルからの“魅力的で目新しい商業施設”の出店に対する引き合いが増えていることから、既存の実店舗の集客力向上との相乗効果があるものと見られています。
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8-5.One to Oneマーケティング
インターネットのもつ双方向性のメリットを駆使すれば、顧客または潜在顧客毎の属性情報を収集することができるとともに顧客毎に情報を発信することがいとも容易にできますので、一人一人の顧客(個客)に対応したOne to Oneマーケティングの手法が可能になります。 「個対個」の情報交換 第2課で「パソコン(PC)がPersonal ComputerからPersonal Communicatorに変わった時に現下のIT革新が始まった」という仮説をご紹介しましたが、ここにはインターネットにより「パーソン・トゥ・パーソンPerson to Person」、つまり「個対個」の情報交換が可能になったことが画期的な意味合いを持つものであるという含意があります。これによって、売り手は十把ひとからげのマス・マーケティングから脱して、顧客または潜在顧客に個別対応することにより顧客満足度を高め収益向上を図ることができるようになりました。また、顧客または潜在顧客の属性情報をデータベース化することによって、永続的に顧客の課題を個別に解決する(ソリューション)基盤ができたので、顧客の囲い込みにより反復購買をベースとした安定経営が実現できるようになりました。 顧客との永続的関係の重要性新規顧客を獲得することはコストも嵩み困難な仕事です。これに対して、「顧客維持率を5%アップさせれば利益率は倍増する」と言われるように、B(Business)にとってC(Consumer)との永続的な関係の維持は極めて重要な課題であり、かつ、インターネットを中核とした革新的なITを駆使すれば、顧客一人一人を有機的に関係づける戦略的システムもローコストで構築できるようになっているのです。 One to Oneマーケティングの先駆的な事例実際に、インターネットコマースの真髄とも言えるデータベース・マーケティングのビジネスへの導入がB to CとB to Bの両面において盛んに進められてきました。以下にOne to Oneマーケティングまたはこれに基づいたOne to OneインターネットB to Cコマースの先駆的な事例を報じた新聞記事を列挙します。
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8-6.受注生産BTO(BTO:Built To Order)
One to OneインターネットB to Cコマースの行く着く先は、消費者C(Consumer)の注文を受けてから企業B(Business)が製品を生産する受注生産(BTO:Built
To Order)になります。消費者CにとってのBTOのメリットは、自分の必要とする仕様の製品が注文可能になることや、企業Bとの直接取引きによって中間流通コスト削減し安い価格で購入できることにあります。一方、製造企業Bにとっては、在庫を常時抱える必要がなくなるため、在庫管理コストを低く抑えることが可能になり、また常に最新の製品を販売できるようになるところにメリットがあります。 BTO・直接販売方式とインターネットの融合 米国のデルコンピュータ社(Dell Computer)が直接販売方式やBTOにインターネットを融合して成功した事例はあまりにも有名ですが、これは、別途ケーススタディーの対象として考察したいと思っています。我が国におけるインターネットを利用したBTOについては、デルコンピュータ社の日本法人やエプソンダイレクト社等をはじめとするPCメーカーが先鞭を付け、導入企業が増えてきています。東芝のような総合電機メーカーでも、従来は、受注生産方式が採られるのは発電機などの大型・長納期・高価格製品の生産に限られており、テレビをはじめとする家電製品はあらかじめ受注を予測して事前生産を行う仕込み生産方式が採られていました。インターネットによって消費者C(Consumer)と企業B(Business)の販売部門および製造部門との間のOne to One情報交換によって、企業B(Business)と消費者C(Consumer)の間のビジネスプロセスが変革され、家電製品並みの単価のPCにまで受注生産BTOが適用されるようになったのです。 |
8-7.モバイル・インターネットへの広がり
インターネットB
to Cコマースは、従来の商品販売のビジネスプロセスをリエンジニアリングすることによって生成した新ビジネスモデルであるといえます。しかし、携帯電話を使った売買が一般化してきてインターネット通販が第二ステージを迎えるのに伴って、ユビキタス社会の到来へ向けて、モバイル・インターネットによるB to Cコマースの新ビジネスモデルが続々と登場しました。以下に先進的なモバイル・インターネット通販の先進的な事例を幾つかご紹介します。
ケータイ通販急拡大 「携帯電話」が多機能化した「ケータイ」に進化する中で、「電気通信事業者協会の調べによると、インターネット接続型機種携帯電話の契約台数が2004/9時点で7,200万台を超えた。ネット接続型機種の普及で大企業が携帯サイトの持つ販促などの効果を重視し始めた。」と2004/11/2日本経済新聞では報じられています。これに伴って、携帯電話を利用したインターネット通信販売の市場規模が急拡大してきました。日本経済新聞2005/2/10記事「ケータイ通販急拡大」では以下のように報じています。 衣料・アクセサリー分野が急成長 時間や場所を気にせず欲しい時に欲しいものがすぐ買えるケータイ通販の手軽さと軽快なショッピング・スタイルは特に若い女性に受け、これが衣料品・服飾雑貨の販売額を大きく押し上げているようです。経済産業省やNTTデータ研究所などの調査によると、携帯電話を中心としたモバイル機器の消費者向け電子商取引の市場規模自体が2004年に前年比約25%成長していますが、その中でも「衣料・アクセサリー」は同78.9%という格段の伸長振りを示しています。以下の報道にその断片が現れています。
PCネット通販分野からも参入 ケータイ高機能化も後押し ケータイ通販市場の拡大には、ケータイの機能向上によるサービス内容の拡充も背景にあるものと見られ、これによって市場規模が一段と拡大するものと見られています。以下のような報道例が今後増大していくことでしょう。
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8-8. 存在感増すインターネットBtoCビジネス
インターネット接続型機種携帯電話のほかに、自宅のパソコンを常時接続できるブロードバンド(高速大容量) 通信が普及したことによって、ネット経由の消費がより身近なものとなり、殊に消費財の販売・予約や金融サービスの分野でインターネットの利用が急拡大してきました。2004/10日本経済新聞調査によると、国内航空会社の個人向けチケット予約でネット経由が全体の4割以上を占めるほか、パソコン販売やホテル予約も2割近くに達しています。金融サービスで最もネット利用が進んでいるのは株式取引で、個人投資家の売買代金全体に占めるネット比率は2003年度下期に74%に達しています。銀行取引でも振込などをパソコンや携帯電話で済ませる動きが拡大しており、個人取引の銀行決済におけるネット利用件数の推定シェアは20-40%にまで上がってきています。 ローコストである上に、場所と時間の制約がないというインターネット通販本来の利便性に加えて、ネットならではのサービスの工夫や進化もインターネット通販躍進の大きな要素になっています。百貨店の中元・歳暮ギフトのネット通販も急増し、殊に伊勢丹は3割がネット経由になっていますが、ここでは先行受注や送料無料などの特典が奏功しています。ネットではいながらにして価格の対比ができ、決済もクレジットカードなどで済みますから、忙しい人や店が遠い人には便利ですし、店頭で長い行列に並ばなくて済むことも受けているようです。 家電量販店首位のヤマダ電機がインターネットによる家電販売に本格参入し、業界2位のヨドバシカメラと「家電量販ネットの陣」を競い合っているのも、ネットならではの価格比較サイトの存在を意識したものとされています。価格比較サイトによれば、消費者は店を回ったりチラシを比較したりせずに製品の型番ごとに一目で最安値を知ることができます。従って、ネット上に店(サイト)がなければ比較の対象にすらならず、顧客を他者に奪われる恐れもあることになります。なお、ネット販売を行っても従来からの店舗販売には悪影響はなく、ネットで下調べしたうえで来店する客が多いことから、寧ろ補完的な役割を果たしているとも見られています。また、店舗網を配送やアフターサービスの拠点として活用し、ネット通販顧客の満足度向上につなげようとする動きも見られます。 高額品の中で自動車は、ネット販売のシェアは1%以内にとどまっていますが、自動車メーカー各社はホームページにユーザーが関心のある車種の見積もりができるコーナーを開設し、インターネットを販売促進に活用しています。インターネットの普及によって車の販売方法が変わったとも言われています。新車発売を知った人は販売店にカタログをもらいに行くのではなくて、先ずメーカーのサイトを見て、興味を持てばメールでカタログを請求するので、販売店を訪れるのは希望の車種を絞り込んだ後になることが多くなっているそうです。新車のサイトは、「ネット上のショールーム、カタログ、セールスマンの全てを兼ねる」とまで言われています。 |
8-9.インターネット・コマース支えるCRM
CRM(Customer Relation Management)とは CRM(Customer Relation Management)とは、固有名詞をもった個別の存在として顧客を捉え、1回だけの販売ではなく、変化を含む継続的な関係の中で、最適な解(ソリューション)を提供しようとする仕組みのことを言います。インターネット時代となり、顧客もさまざまな情報を入手できるようになり、商品の購入先の選択・変更における自由度が飛躍的に高まってきました。それだけ、一企業としては優良顧客を自社商品の消費者としてつなぎとめておくことが困難になってきました。しかし、何とかして顧客ニーズを迅速かつ的確に捉えて最適なソリューションを提案することによって対顧客関係を維持強化して行かなければ、結果としての収益向上を実現できないばかりか企業として存続することすら危うくなってしまいます。 顧客情報管理の問題ところが、残念なことに、企業内に存在する顧客情報は別のシステム、別の部門で、プレセールス・アフターセールス・リセールス用などのように別の目的で管理されており重複や断片化が起きているのが実態でした。企業(グループ)内の資源のうち「モノ」と「カネ」についての情報がERP(Enterprise Resource Planning)やSCM(Supply Chain Management)によって有機的に統合されるのと呼応する形で顧客「情報」という資源の統合化と活用の必要性が叫ばれ、「顧客サービスの集中管理を可能にするCRMが企業の最重要課題として浮上してきたのです。 CRMの狙いCRMの狙いは、営業・サービス・経理部門などの担当者が個人ベースで蓄積・活用してきた顧客の属性情報や顧客とのコンタクト履歴情報を一元管理された顧客データベースとして統合し企業内関係部門で共有・活用するところにあります。関係部門の協働によるきめ細かなマーケティング活動を展開することによって顧客満足度の向上を実現して顧客または潜在顧客との関係を強化し、組織的に潜在顧客の見込客化、顧客化、レピート客化、更には支持者化を促進するしか活路がないからです。また、CRMには、顧客データベースと基幹系データベースを連携あるいは統合することによって、商品の受発注や発送の自動化するという狙いもありますから、顧客関係の維持強化のためばかりでなく企業内の業務プロセスの改革のためにも、CRMの体系整備が重要視されているのです。 インターネット環境利用の「e−CRM」CRMの目指すところは、企業が望む「顧客との関係作り」ですから、いわばビジネスの原点でありインターネット前史時代から試みられてきたものでした。しかし、顧客をパーソナルな「個客」としてとらえて、「個客」に関する統合データベースを作成して共有し、これがマーケティング、セールス、サポートの諸活動での協働のために共用できるようになるためには、インターネットの普及が不可欠の前提でした。インターネット環境利用の「e−CRM」こそが、言うべくして実践することが難しかった「顧客との関係作り」のための「個客」情報の自在な共有と共用を可能にするものであったということができます。顧客と企業の間のコミュニケーション・チャネルが、これまでの電話やFAXからWebサイトへ移行したところに、Webを活用して顧客との関係を蜜にするためのツールとして台頭してきたのが「e−CRM」ですが、ここでは顧客と企業双方の「個人(Person)」間の触れ合いが重視されます。「e−CRM」の台頭も、PC(Personal Computer)がPC(Personal Communicator)に変わって、インターネットを核としたパーソナル・ネットワークが成立したのと呼応しているわけです。 顧客満足度がCRM成否の鍵いくら企業が切実に「顧客との関係作り」を望んでいても、「個客」が企業から最適なサービスを受けられなければCRMの実効は挙がりません。インターネットをはじめとした高度TTを用いた「e−CRM」によって初めて、企業は統合化された顧客データベースを用いてマーケティングセグメンテーションを行なうことによって「誰に」「何を」提供するかを明確にして、個客にとって最適なQCDの商品・サービス・サポートを提供することができるようになったのです。高度TTを利用することによって、以下のような複合的なマーケット活動が展開できるビジネスプロセスを構築し、このことによって顧客満足度を極大化して企業は最小コストで最大の利益を得ることができるのです。 CRMベースの複合的なマーケット活動
CRMシステム導入の状況 企業のCRMに対する注力度の高さを報じた新聞記事の抄録を以下にご紹介します。 CRMのI Tソリューション CRMの体系には、接客部分にCTI(Computer Telephony Integration)、フロントオフィス系CRMとしてSFA(Sales Force Automation)、バックオフィス系CRMとしてERP(Enterprise Resource Planning)、SCM(Supply Chain Management)やKM(Knowledge Management)などが具体的なITソリューションとして含まれていますが、B to Bビジネスとも関連のあるバックオフィス関連のITソリューションについては第9課以降で考察することとして、この第8課ではCTIとSFAについて以下に概説することにします。 |
8-10.CTI(Computer Telephony Integration)
コンピューターと電話装置を一体化したシステムで、システム構成としては、PBX,CTIサーバー、コンピューターのデータベースやデータウェアハウスなどが含まれます。データベースを活用してビジネスに取り込み、多数の顧客と取引を行う企業や業界で顧客と企業を繋ぐ技術として利用されています。具体的な使用シーンを以下に例示します。コールセンター 企業の接客部にあたるのが「コールセンター」で、ここから販売促進や電話調査など顧客向けの「アウトバウンドコール」が発信され、ここで受注や問い合わせなど顧客からの「インバウンドコール」が受信されます。顧客との電話による情報の受発信拠点であったために「コールセンター」と呼ばれていたのですが、顧客との接点が電話から店頭、Web、Eメールなどに拡大するのに伴って、これらの情報を統合的に扱う「コンタクトセンター」と改称する企業も現れてきています。 いずれにしても、電話やメールからの情報が共有の顧客データベースと連動しており、顧客とのコンタクトの際に顧客情報(属性や取引履歴など)がオペレーターの画面に表示されますので、迅速かつ適切な「個客」対応をすることができ、顧客の満足度と企業に対する信頼度の維持強化に役立てることができるわけです。また、都度更新され蓄積される顧客情報から、顧客の属性や取引傾向を分析することにより、新たな商品企画や新規顧客開拓などのマーケティング施策を展開することも可能です。 訪問対面販売で営業マン一人が担当できるのが20件程度なのに対して、CTIでは200件程度対応できるという試算もあります。顧客からのコンタクトを自動応答装置で受けて適切な部門に転送する機能や音声認識によって自動応答で対応できる技術も開発されていますので、CTIはローコストで顧客の確保と企業と顧客の接点の拡大が得られる一層有力な手段になっています。見込み客がWebサイトを見てコールセンターに電話をかけてくる場合には受注確度が高くなりますので、インターネットB to Cビジネスの有力な補完手段でもあるわけです。 |
8-11.SFA(Sales Force Automation)
自社の商品を顧客に売ることが企業活動の原点ですが、この原点の活動をしている人たちが営業マン(セールス)であり、セールスのチーム(営業部隊)を英語で”Sales Force”と呼びます。SFA(Sales Force
Automation)は、コンピューターとネットワークを活用して、そのセールス活動を支援し効率化しようとするものです。 販売分野のQCツール SFAは、営業活動をいくつかのフェーズに分けることによって、とかく個人まかせになりがちな営業活動を管理可能にし、営業活動をレベルアップする仕組みでもありますから、製造分野では当たり前になっている業務の標準化によって、工程毎の進捗管理や営業活動の品質改善を行うとともに、商談の開始からクロージングに至るまでのセールスサイクルを大幅に短縮することが可能になります。従って、SFAは販売分野のQCツールであるともいえます。 SFAの中核にも、顧客データ(顧客属性)、営業データ(訪問記録、商談状況)、商品データなどのデータベースがあります。SFA成功のかぎは顧客にとって有益な最高の提案を行うことのできる知識がどれだけデータベース化できるかにかかっています。 3K(経験、勘、根性)+1K(科学) お客様に対する関心を基本として、営業活動に対して従来の3K(経験、勘、根性)に新たな1K(科学)を加えることによって、ひたすら3Kに依存する営業スタイルから脱して、顧客にとっては満足度が高く企業にとっては収益力の高い相互関係を創造することができるのです。 |
8-12.アスクル社のCRM導入事例
SOHO(Small Office & Home Office)などの顧客のために、「明日来る」オフィス用品やサービスを供給しているアスクル社のCRM導入事例を、同社ホームページから以下の通りご紹介します。同社では、電話・ファクシミリ・Eメール・アンケートなどにより収集した顧客からの情報をリレーションシップセンターに全て集約し、CTI技術、データマイニングの手法を導入したCRMシステムによってきめ細かく応対しています。データマイニングシステムによって科学的な顧客情報分析による価格設定・販売促進の効果をあげるとともに、CTIシステムによって顧客に密着したアフターフォローの効果を挙げるのがねらいで、「現在、CTIシステムを導入したリレーションシップセンターでは、コミュニケーターが毎日数千件の、電話やインターネットからのお問合わせを受けており」、「これらの“お客様を覚えるシステム”の導入により、お客様一社一社(もしくは、一人一人)を把握することができ、一対一の対応をし、個別の仕様に従ってカスタマイズした商品、更なるサービスの提供の実践も現実のものとなってきました」とホームページに記しています。 |
8-13.B to Cビジネスの成功の条件
以上見てきた通り、インターネットの登場により、消費者(Consumer)はオンラインでのショッピングや多様な情報の入手が可能となり、企業(Business)はインターネットを新たなマーケティング手法として活用することで、新規顧客の獲得や顧客の定着率を向上させることが可能になりました。B to Cインターネットコマースは、商品の種類や個数といった物理的制約を取り除き、いつでもどこでも欲しい商品やサービスを購入できる環境を実現させました。しかし、これをB to Cビジネスとして成功させるためには、以下のような配慮が不可欠であると考えられます。インターネットビジネスの基本 いずれにしても、「注文に対しては丁寧に応対します」といったサービス精神旺盛な企業でも、ビジネス精神の差だけでは、インターネットで24時間注文受付・商品即時配送の企業に勝つことができない時代になっていることは確かです。まさに「槍では鉄砲に勝てない」のですが、一方でインターネットという鉄砲は誰でも使える鉄砲であることを認識しておく必要があります。先ずは「お客様は誰なのか」をしっかり見据えて、お客様との間のビジネスプロセスをどのように変革するか叡智を振り絞って検討し斬新なビジネスモデルを構築することが第一に重要です。その上で、インターネットなどの最適な情報技術(IT)を道具として選択した上で、上記のような演出を施して顧客または潜在顧客に対して訴求してゆくことを心がける必要があります。 |
<こぼれ話>
お客様は誰ですか?
こんな質問をすると「何を今更」というような顔をされがちですが、意外と明快な回答が得られないことが多いようです。現実的には、「お客様とは購入する商品の銘柄決定者」と定義することができますから、同じコンピューターでも、WS(Work Station)はPCのお客様と違って、同じ企業内であっても設計部門のエンジニアである場合が多いようですし、同じPCでも全社的に購入機種を統一して購入される場合にはIS(情報システム)部門か購買部門の管理者がお客様になることが多く、購入機種決定が使用者に委ねられている場合には個々のエンドユーザーがお客様ということになります。
スーパーやコンビニエンス・ストアを相手に商売をするセールスマンにとっては、自社商品のために商品陳列スペースを与えてくれるスーパーバイザーまたはマーチャンダイザーがお客様ということになります。要は、B to Cビジネスモデルを検討するに当たっては、「お客様は××社(店)」というような考え方をせず「個」客として捉える必要があるということです。更に、「次工程はお客様」という考え方に基づいて、お客様が「お客様のお客様」に最大の満足感を与えることができるようなビジネスモデルを開発することが重要です。
江崎グリコの創業者は、牡蠣の煮汁に良質な栄養分(グリコーゲン)が含まれているのに気づき、なんとかしてこれを国民の生活に役立てたいと考え、具体的に製品化する以前に先ず「栄養報国」をモットーとして掲げられたのだそうです。「栄養報国(栄養をもって国民に報いる)ことは社会の役に立つことであるからビジネスとして成立しないはずがない」という強い信念をもたれていたところは流石で尊敬に値することだと思います。しかし、最初は、グリコーゲンを、薬品の成分として用いて病人に提供しようと考えていたところ、友人から「国民の中には病気予防のために栄養を必要としている者の方が圧倒的に多いのだから」というアドバイスを容れて菓子の形で製品化することを決意され、現在の「グリコ」が誕生したのだそうです。この例を見ても、同じシーズ(グリコーゲン)であっても、ニーズの捉らえ方(病気治療用か健康保持用か)によって「お客様」が違い、ビジネスモデル(製薬業か製菓業か)が違ってくるということが分かります。ビジネスモデル再構築に当たって、このように原点に立ち返って自社の「お客様」を規定しなおしてみることも重要なことだと思われます。
(Ver.1 2003/ 3/28)
(Ver.2 2004/ 7/14)
(Ver.3 2006/ 7/16)