インターネット・ビジネス論


第5課
ビジネスの循環過程と
  インターネットによるインパクト

5-1.企業の再生産過程

企業の再生産過程

企業には、ヒト・カネ・モノ・情報という資源があると言われ、ビジネスの再生産過程は以下の通り図示されます。つまり、企業はn年度のカネ(Kn)によりモノ(M:原材料、生産・流通設備)と情報(J)を調達しヒト(H)を雇用して商品(S:製品またはサービス)を作り出します。そして、市場活動によって商品(S)はカネ(Kn+1)と交換されて、カネ(Kn+1)がまたn+1年度の資金となって新たなKn+1→Mn+1・Jn+1・Hn+1→Sn+1→Kn+2の循環過程が繰り返されます。

変わらぬ経済原則

このビジネスの再生産過程は、以下の諸原則とともに、インターネット時代になったとは言え変わることのない経済の基本であると考えられます。

(1) 市場(顧客)より売上高として回収されるカネ(Kn+1)は、商品(S)のQCD(Quality / Cost / Delivery)によってもたらされる顧客の満足度により決定される。
(2) 商品(S)のQCD及び企業経営のコストは、資源(ヒト・カネ・モノ・情報)の調達および運用の仕方によって決定され、売上高(Kn+1)が総原価(Kn)を上回る(Kn+1>Kn)場合のみ企業は拡大再生産が許される。即ち、Kn+1/Knが企業の成長性指標となる。
(3) 日本中の企業のカネ(Kn+1)の総和(ΣKn+1)がカネ(Kn)の総和(ΣKn)を上回る時日本経済は拡大再生産が可能になる。即ちΣKn+1/ΣKnが日本経済の成長性の基本的な指標となる。
(4) 下図のように、生産財A企業の商品(Sa)がモノ(Mn)として購入され、ここにBtoBビジネス(企業間取引)が成立する。商品(Sa)と交換されたカネはA企業の循環過程に入りその拡大再生産に寄与する。
(5) 下図のように、ヒトは消費財B企業の商品(Sb)を購入し、ここにBtoCビジネス(企業対消費者間取引)が成立する。商品(Sb)と交換されたカネはA企業の循環過程に入りその拡大再生産に寄与する。商品(Sb)のうちの生活財はヒト(Hn+1)の再生産の形で循環過程に戻るが奢侈品は循環過程から外れて退蔵される。
(6) 企業および個人の所得よりカネ(税金)が徴収され、国家・地方自治体により汎企業的なヒト資源の再生産(教育・医療など)やモノ資源や商品の再生産(道路などの公共工事など)の支援に充てられる。

情報通信技術の発達による構造変化

資本主義のもと貨幣経済体制が継続する限り、以上に述べた企業及び経済の再生産過程そのものは変わるものではありません。しかし、情報通信技術の発達によって構造(経営諸資源の構成)は大きく変化してきました。企業の中で行なわれている付加価値生産の多くが情報処理と情報伝達機能に依存しているので、この双方の生産性の大幅向上と劇的なコストダウンが企業の構造変化に強烈なインパクトを与えてきたのです。従って、業務のやり方は大きく変わらざるを得ず、例えば、銀行業では、お金を集めたり、数えたり、分配したりすることに物凄く人手がかかっていたのですが、銀行の業務処理の仕方が変わったことによって産業の特性が大きく変わってしまったのです。つまり、情報通信技術の発達によって、金融業界では人間も要らない銀行の数も要らないというように大きな構造変化が起こっていたわけです。

インターネットによるドラスティックな変革

インターネットが出現する以前から上記のような情報通信技術の発達による構造変化は進展していたのですが、インターネット・ビジネスの台頭によってこの動きが一気に加速化するとともに広範化し、それぞれの過程の内部で以下のようなドラスティックな変革が起こりました。

(1) インターネット・ビジネスでは、顧客満足度が大幅に高められると同時に経営コストを大幅に削減されているので、総じて販売単価は低下している。インターネットの利用による新規市場の拡大、反復購入顧客(常連客)の囲い込み、商機ロスの削減などにより販売数量が拡大することによって顧客満足度の総和が高まっている。
(2) イントラネットを利用したナレッジマネジメント(KM:Knowledge Management)システムやグループウェアによって資源(情報)が共有・共用化されることによって、資源(ヒト・カネ・モノ)が効果的かつタイムリーに調達・運用されるようになり、企業の付加価値生産性が高まって企業の成長力(Kn+1/Kn)が大幅に上昇した(ナレッジマネジメント及びイントラネット、グループウェアについては第10課で詳述)。
(3) インターネットの普及に伴って企業活動のグローバリゼーションが大きく進展した。このため、海外に活動拠点を設ける「モノ」(M)と「ヒト」(H)が海外で調達され、この調達に充てられた「カネ」(K)が日本産業の拡大再生産過程から外れるという空洞化現象が急速に拡大した。これに伴って、一部の多国籍企業が高い成長力(Kn+1/Kn)を示す傍らで、国内の空洞化によって日本経済全体の成長性(ΣKn+1/ΣKn)は停滞するという離反現象が顕著になってきた。
(4) 生産財に関するBtoBビジネス(企業間取引)の領域にもインターネット・ビジネスが拡大し、Web EDIやエクストラネット、サプライチェーン・マネジメント(SCM:Supply Chain Management)システムなどの普及が大きく進展した。これに伴って、企業間の協働化が進展し、リードタイムの短縮、原材料や製品の流通在庫の削減などが実現して、経営諸資源(ヒト・カネ・モノ)の回転率が大幅に向上した(サプライチェーン・マネジメント、Web EDIやエクストラネットなどについては第9課で詳述)。
(5)  消費財に関するBtoCビジネス(企業・消費者間取引)の領域では、POSシステムがインターネットと接続することによって、販売実績の掌握が大幅にスピードアップするとともに、販売予測の精度が向上したので、過剰在庫や商機ロスのリスクが大幅に軽減された。また、双方向コミュニケーション機能を備えたインターネットがカストマー・リレーションズ・マネジメント(CRM:Customer Relations Management)システムと接続されることによって、顧客が“個”客として囲い込まれ常連客化が促進される反面で、顧客ニーズを先取りした商品企画が実現されるようになった。経営諸資源(ヒト・カネ・モノ)の冗費の削減と円滑な回転により安定した循環を確保する基盤の形成に寄与するPOSシステムやカストマー・リレーションズ・マネジメントなどについては第8課で詳述する。
(6) 公共工事や公共事業に伴う国家や地方自治体による商品・サービスの購入・販売によって成立するBtoGビジネス(企業・政府間取引)やGtoCビジネス(政府・消費者間取引)にもインターネットが活用されるようになったが、真の「改革」(リエンジニアリング)を伴ったインターネット・ビジネスは出現するに至っていない。公共事業の民営化は、企業の所有権が官から民に移行するだけのものであって、これだけでは日本経済の拡大再生産に寄与するものとはならない。

<こぼれ話>

軍備と経済過程

この原稿を書いている今、アメリカのイラク進攻が始まったばかりで、連日悲惨な破壊と殺戮のシーンがマスコミで報道され、やりきれない思いがしています。こんな時、その昔自衛隊から転じて東芝に入社してきたGさんの吐いた一言がことさらに想い出されます。Gさんはスポーツマンの好青年だったのですが、自衛隊での演習の際に「このバズーカ砲一発打つたびに税金××千円が消えていっちゃうんだものなあ!」という空しい思いにとらわれて自衛隊を辞める決意をしたのだそうです。実際、爆撃のテレビ画面を見ていると、アメリカのカネ(税金)で調達されたモノ(武器・兵器)やヒト(軍人・将校)がアメリカの経済の循環過程から完全に外れて、その拡大再生産に少しも役立っていないどころか、相手国イラクのヒトやモノを破壊して経済の循環過程を滅茶苦茶にしているのがよく分かります。また、「情報戦争」の色彩が濃くなり盛んに情報も駆使されていますが、これもアメリカ経済の拡大再生産につながるものではありません。

三井業際研究所発行の「情報関連投資検討委員会調査研究報告書」「経営環境の変化と情報システム化投資」では、「冷戦構造の終結は、当初、防衛産業の衰退をもたらし、その多大な波及効果も含めて、特に米国の経済活動にとってはマイナスに作用している。しかし、米国が“世界の警察官"としての高い防衛コストの負担から開放されることは、これまでその低い防衛費負担の中で成長を謳歌してきた日本産業と同様な環境を与えられることになり、冷戦構造の終結という政治面での構造変革は、世界経済の構造にも変革をもたらすもの」と見て、「冷戦構造の終結は、当初、防衛産業の衰退をもたらし、その多大な波及効果も含めて、特に米国の経済活動にとってはマイナスに作用している。しかし、米国が“世界の警察官"としての高い防衛コストの負担から開放されることは、これまでその低い防衛費負担の中で成長を謳歌してきた日本産業と同様な環境を与えられることになり、これにより米国産業も蘇生の道を辿る契機を与えられている。」と観測しておりました。

そして、実際にアメリカの経済拡大再生産に寄与しないカネ(軍事費)は削減され、従来軍需産業に集中していたヒト(技術者)も情報技術(IT)産業に流入し、これが米国産業の蘇生を導いたものと考えられます。イラクの国土に投下される夥しいミサイルや爆弾を見ていると、アメリカの経済循環過程に寄与しないカネの部分が再び肥大化してきているように思え、これが最近のアメリカ産業の低迷と無関係ではないように思えてきます。

一方、湾岸戦争の時もそうでしたが、軍事行動支援や戦後復興支援の形で日本国政府から支出されるカネも日本経済の循環過程からは完全に離れてゆくことになります。財政難に悩む日本にとっても由々しき問題に思えます。石油の利権を獲得したり、戦後復興事業を受注したりすれば、カネが日本経済の循環過程に還流して、その拡大再生産に寄与するのでしょうが、日米の“死の商人”達はこんなところをとっくにお見通しなのでしょうか。

5-2..ビジネスの四流と
インターネットによるインパクト
「ビジネスの四流」とは

上記のビジネスの循環過程「Kn→M・J・H→S→Kn+1」の実現のためには商取引が成立することが前提ですが、その商取引は、売り手と商品、買い手があって初めて成立します。商取引の過程は、直接的または間接的な取引意思の交換(商品と相手の選択)に始まって、価格・受け渡し等の取引条件交渉、契約と続き取引実行の事後確認(検収)で終わりますが、この際に起こる所有権移転の流れを「商流」と呼びます。

次に、商流による所有権の移転に伴って購入対価(カネ)が買い手から売り手に流れます。これが「金流」です。買い手が商品に対する代価として売り手に対して支払うのですから「商流」(商品の流通)とは逆方向に流れるところに特徴があります。もし仮に流通段階のどこかで不良在庫がたまっていれば、それは換金されない在庫ですから、金流が滞るということになります。

商品自体も通常は売り手から買い手に移動しますが、この商品の物理的な動きが「物流」(モノの流れ)と呼ばれるものです。物流分野の中には輸送だけではなくて、保管、包装、荷役などの業務が含まれています。これらを総合的なシステムとして戦略的に捉えようとする視点から、近年では「物流」の代わりに「ロジスティクス」という言葉が使われることが多くなっています。

そして、商流、金流、物流のそれぞれに関する情報の流通、即ち「情流」があり、これを総称して「ビジネスの四流」と言います。
もともと、「情流」には「商流」、「金流」、「物流」の制御を行う機能があったのですが、インターネットの普及によって「情流」の機能が高度化し、エレクトロニック・コマース(eコマース)の導入範囲が急速に拡大することになりました。

インターネットの「情流」へのインパクト

toBビジネス(企業間取引)に用いられていた受発注用のコンピュータ・ネットワーク・システム(EOS : Electronic Ordering System)もインターネットと接続することによって「情流」の範囲を飛躍的に拡大することができますので、多種多様なBtoBインターネット・ビジネスが実現するに至っています。

もともと、商品につけられたバーコードを読み取り、コンピューター処理を行うことによって店頭におけるレジ業務の効率化と、受発注、在庫管理の精確化のために用いられていたPOS(Point Of Sales)が、インターネット接続によって広域にわたる売れ筋商品の把握や需要予測に活用されるようになった例に顕著なように、マーケティング情報などの「情流」が商取引上演ずる役割も拡大してきました。

toCビジネス(企業・消費者間取引)においても、インターネット経由の「情流」を利用して、消費者が自宅にいながらにして、PC、更には携帯電話で望む商品を容易に探し出してただちに発注し「商流」を成立させることができるようになりました。そして、ビジネス(企業)側も商品に対する消費者一人一人の意向を、インターネットを通じた「情流」によって直接把握することが可能になっています。

インターネットの「金流」「物流」へのインパクト

また、「金流」分野においては、直接消費者のPCや携帯電話からのインターネット経由の「情流」によって口座引落し等の支払いの指示が可能になっただけではなく、電子マネー(詳細後述)の出現により、売り手と買い手の間でインターネットを介した「情流」によって多様な直接の決済(送金)が行われるようになりました。

「物流」の世界もインターネットの普及によって大きな変革を遂げています。売り手(荷主)と買い手(荷受人)との間で成立する「商流」を、インターネットを用いた「情流」によって有機的に生産・物流業者(モノの製造、運輸及び倉庫業)による「物流」と有機的に結合することによって、国内はもとよりグローバルなロジスティクス・ネットワークを自在に構築することができるようになっています。

インターネット通信技術の次世代規格「IPv6」によると、ネット上の住所に当たるアドレスがほとんど無限に広がるため、インターネットに接続した情報家電などのIA(Internet Appliance :インターネット器具)ごとにアドレスをつけることができるようになります。従って、モノにつけた「ICタグ」のタグ情報を自在にネット上でやり取りできるようになりますので、在庫・配送などの物流管理が効率化する他に、トレーサビリティー(生産履歴の追跡など)管理の機能実現により物流に高い安全性が加わるものと期待されています。なお、「IPv6」や「ICタグ」につきましては「コミュニケーションメディア論」をご参照ください。
ソフトウェアや音楽、映像などをデジタル・データとして配信するデジタルコンテンツ商品については、「商流」から「物流」(コンテンツの配信)、「金流」まですべてインターネットによる「情流」で完結することができます。また航空券やコンサート等のチケットは、本来モノとしての価値はなく旅行や音楽などのサービスを受けるための権利証書としての意味があったものですが、この取引もすべてインターネット経由の「情流」だけで済ませることができるようになりました。これらの例は、「情流」による「金流」と「物流」の取り込みといえます。

eビジネス成功の鍵

インターネットの出現により、「商流」、「金流」、「物流」、「情流」のビジネスの四流の中で、「情流」が主役の座に躍り出て、他のビジネスの諸要素を遥かに効果的かつ効率的に統合しつつ、「情流」そのものに新たな機能が創出されてきました。インターネット時代となって企業の資源の面でも、「情報」の流れが変革したのに伴って「ヒト」「モノ」「カネ」といった資源の流れも大きく変わってきました。こうした変化を見越して従来のビジネスプロセスを変革したビジネスモデルを構築することがeビジネス成功の鍵になったのです(下記記事参照)。

eビジネス成功の鍵  ビジネスモデルの再構築


ネット社会と融合したeビジネスを成功させる鍵となるのは、ビジネスモデルの再構築といわれている。ビジネスの進行に必要な情報の流れがネットに移行することでヒト・モノ・カネの流れも大きく変わる。特に、電子情報で代替可能なヒトとカネへの影響は大きい。こうした変化を踏まえた、効率的なビジネスモデルの作成が、企業全体の活力を生み出す。変化をシミュレートし、あるいは新たなアイデアを加味して企業ごとに異なる最適化モデルを作り上げるのも情報技術(IT)の独壇場だ。コンサルタントはもちろん、大手ソリューションベンダーもコンサルティング機能を強化し、精密な分析に基づく提案力を強化している。
2001/8/16   日経)

ビジネスモデル構築事例

伝統的な「本屋さん」の「本を売る」というビジネス・プロセスは、基本的には、以下のようなビジネスの四流の機能分担によって成立しているものと考えることができます。

商 流 金 流 物 流 情 流
出版社 書籍卸商への販促・販売 書籍卸商からの代金回収 在庫。出荷。返品受入 広告・広報。ビジネス情報授受
書籍卸商 出版社への発注。書店への販促・販売。返品 書店からの代金回収 在庫。出荷。返品受入 ビジネス情報授受
書店 書籍卸商への発注。顧客への販売。返品 顧客からの代金回収 店頭在庫。店舗陳列。 ビジネス情報授受
顧客 書店店頭での書籍選定 書店店頭での代金支払 自宅への持ち帰り 広告・広報、店頭情報の評価

「本を売る」ための諸機能が書店店頭に集結され、書店による顧客の「来店を待つ」という営業活動が極めて大きなウェイトを占めていますので、「町の本屋さん」は「待ちの本屋さん」でもあるということが言えそうです。また、出版社、書籍卸商、書店という流通の段階で、それぞれ不確定な「見込み」で在庫量が決定されますので、売れ残りが生じた場合の「返品」という慣行が一般的に認められ、これに伴う物流経費に社会的な冗費が発生することになります。更に、大量販売が期待される書籍については広告・広報によって新刊発行の事実が購入希望者に知らされ、最寄りの書店で購入することができますが、専門的な書籍については大型書店や専門店か店頭在庫の所在地を推定して購入希望者が足を運んでそこで選定しなければ「本の売買」(セールス)というビジネス・プロセスは成立しないのです。

アマゾン・ドットコムが開発したビジネスプロセスは、旧来の伝統的な「本屋さん」のビジネスプロセスを一変させ、上記のようなビジネスの四流上の問題点を一掃するものでした。インターネットを情流の中核として用いることによって、書籍購入客は距離(自宅または時間自オフィスと書店との間)と時間(書店の営業時間)から開放されるだけではなくて、世界中から最も自分の希望にあった書籍を選定し、その場で発注することができるようになったのです。「旧来通りのやり方」を否定して、インターネットを情流の基幹にすえることによって、企業(書店)・顧客間BPRから企業(書店・出版社)間BPR、更には国際的(対海外出版社)BPRにつながる“BPRチェーン”が実現し、書籍商という業態のBPRが出来上がったわけです。

更に、インターネット書店では、以下のようなインターネットならではの提案情報を提供することによって販売促進を行うことができます。セールスだけではなく、マーケティングのプロセスにもリエンジニアリングが実現され、One to One Marketing(第8課にて詳細)の世界が開かれたという点にも注目しておく必要があります。

ある書籍名を入力すると、過去に当該の書籍を購入した顧客が他にどのような書籍を購入したかが分かる一蘭表が画面に表示される
何回か購入し登録された購読者に対しては、その過去の購入履歴に適合したお奨めの書籍がトップページで紹介される
ユーザーとしての興味の対象・ジャンルなどを登録することによって、関連の新刊書が発売される都度ニュースとして情報を提供してくれる

5-3.「インターネット現象」の現出

「Kn→M・J・H→S→Kn+1」のビジネスの循環過程そのものは変わりませんが、インターネットの出現によってJ(情報)の流通のあり方が大きく変わることによって様々な「インターネット現象」が現れました。そして、これにブロードバンド(高速大容量)通信と携帯電話やPHSからのインターネット接続の普及により変化に拍車がかかることによって生起しつつある「インターネット産業革命」(第6課)の萌芽とも見られる諸現象を以下の通り概観してみることにします。

5-3-1.新ビジネスの誕生

 (a)オンライン・ショッピング

(аー1) 仮想店舗(バーチャルショップ)

アマゾン・ドットコム(1995設立)は、インターネットのもつ「情流」の双方向性という他のメディアでは実現が難しい特性を活かした仮想店舗(バーチャルショップ)というシステムを用いて、世界中に顧客を有するまでになりました。このオンライン書店としての成功が、広範にわたる既存企業のインターネット取引参入や“ドットコム企業”といわれるインターネット関連の新しい形のビジネスの生成の導火線となったのはあまりにも有名な話です。

(аー2) 仮想商店街(バーチャルモール)

インターネット上で現実空間と同じく多数の店舗が集積して作られたショッピングセンター「バーチャルモール(仮想商店街)」も誕生しています。このサイトにアクセスすれば、消費者はネット上を探し回ることなく様々な
バーチャルショップを訪問でき、買い物が1カ所で済むという利便性があります。一方、出店者にも、モール運営者から集客力とネット販売に必要なノウハウの提供を受けられるというメリットがあります。国内最大手のバーチャルモール「楽天市場」を運営する楽天株式会社に関する以下の記事に、その発展ぶりの一端が表れています。併せて、携帯電話によるインターネット・ビジネスの加速ぶりにも注目してください。

仮想商店街、楽天、出店数を10倍の5,000店に

仮想商店街「楽天市揚」を運営する楽天は4日、携帯電話を対象にした仮想商店街の品ぞろえを従来の65倍の130万点まで一気に拡大する。出店数も10倍の5,000店に増やす。パソコンを持たない若者層を取り込み、パソコンに次ぐ販路に育てる。楽天はこれまでパソコン向けが主体で、携帯電話向けは2000/9から試験的に始めていた。携帯電話を通じた取扱額が昨年中に月間2億円近くまで拡大したため、システムの増強に踏み切った。全商品を画像付きで表示できるようにした。パソコン版の商店街に出店している企業から、携帯版への追加出店料は徴収しない。出店者はパソコン版と携帯版の受注管理や在庫管理情報を共有できるため、店舗運営の手間を省ける。

200334 日経)

(а3) インターネット・オークション

インターネットを利用して行われる競り売り「インターネット・オークション」も新しいビジネス形態の一つとして登場しています。インターネットオークションには次の3種類があり、企業をB(Business) 個人・顧客をC(Consumer)としますと、
@がCtoC型、
ABをBtoC型ビジネスに相当します。

@ 売り手及び買い手ともに個人であり、サイト(インターネットのホームページのことです)運営者は基本的に情報の仲介のみを行う形式
A 売り手が法人、買い手が個人であり、サイト運営者は基本的に情報の仲介のみを行う形式
B 売り手が法人、買い手が個人であり、売り手自身がサイトの運営を行っている形式

オークションでは、まず、出品者(売り主)が販売を希望する商品の情報をサイト運営者のサイトに掲載します。次に、その商品の購入を希望する不特定多数の入札者が、サイトを見てその商品の落札希望額をサイトに記載して入札します。サイト運営者は、入札期間終了後に入札情報を照らし合わせ、一番高い値をつけた入札者を出品者に通知する等の仲介業務を行います。現在、日本国内におけるCtoC型のインターネット・オークション業者としては、ヤフーオークションを運営するヤフー、楽天市場を運営する楽天、ビッダーズを運営するディー・エヌ・エーの3社が有名です。BtoC型オークションも随所に普及しており、以下のような観光事業におけるオークションの事例まで報道されています。

ネット使って格安に泊まる

閑散日などを中心にネットオ一クション(競売)で宿泊商品を販売するサイトが増えており、宿泊日直前に格安で販売するサイトも出てきた。
ホテルや旅館の宿泊競売サイトの草分け的存在が、宿泊予約サイト運営などを手がけるプライムリンクの「eオ一クション」だ。利用の仕方は簡単。サイト上の入会コーナーから住所、氏名、メールアドレスなどを入力し、会員登録さえすれば、ホテルなどが出品している宿泊商品の競売に参加できる。実際に落札しなけれぱ、入会金や年会費などの料金は一切かからないのがミソだ。
eオ一クションには国内外約60のホテルから宿泊商品が随時出品される。ネットを通じて各ホテルがいつでも簡単に商品を投入できるようになっておリ、宿泊日の直前に急に目玉商品が出てくることもある。最近では、銀座東武ホテルの一泊朝食付きを二人で利用した場合、通常13万円程度のスイートルームが最低価格25千円で入札にかかり、26千円で落札できた例もある。

2003/5/31 日本経済新聞)


(а
4) eマーケットプレース(電子市場)


仮想商店街と同じくインターネット上で商品やサービスなどを売買するサイトで、主に企業が部品や原材料、事務用品などを調達するために利用する「
eマーケットプレース(電子市場)」というサイトがあります。
eマーケットプレースには多数の売り手が様々な製品やサービスを登録し、多数の買い手から引き合いや発注を受けることができますから、従来に比べて売り手と買い手の“出会い”の可能性が全世界規模にまで飛躍的に拡大します。
買い手が購買したい商品をキーワードとして
eマーケットプレースで検索すると、登録してあるすべての製品・サービスの中から、必要に応じて、最も安いもの、あるいは最も機能が優れているものや最も適時に調達できるものを選び出すことができます。
従来は買い手がメーカー別のカタログを取り寄せて個々に比較検討しなければならなかったのですが、インターネット「情流」を利用することによって極めて簡単に「商流」を成立させることができるようになったのです。
一方、売り手にも従来の顧客中心であった「商流」の範囲を全世界の新規取引先まで拡大できる可能性が生まれました。先進の米国でゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ダイムラークライスラー、仏ルノー・日産自動車が共同で構築して稼動している自動車部品・資材の「コヴィジント」が最も代表的な
eマーケットプレースと言えます。日本でも情報通信や商社などが数十の電子市場の構築を始めています。
(b) 「情流」支援ビジネス

(bー1)
 インターネットサービス・プロバイダー(ISP)

インターネット「情流」を利用するためには先ず自分の端末機器をインターネットに接続しなければならないわけですが、ここで必ずお世話になるのが様々な接続サービスを提供するインターネットサービス・プロバイダー(ISP:lnternet Service Provider)です。
利用者のパソコン等の端末機器をインターネットの幹線に接続するための中継用回線や中継器の維持管理、メールアドレス・IDの発行、個人Webぺ一ジを開設するためのサーバー・スペースの提供などの業務を行い、利用者が電話会社に電話料金とともに支払う接続料金を主な収入源としています。
但し、既存の通信設備を利用してISPとして参入してくるCATV事業者や衛星通信事業者などもあり、プロバイダーの乱立傾向があるため低価格競争が激化し、接続料を無料として広告収入に依存するISPも現われてきています。

(bー2)
 ポータルサイト

インターネットで情報を検索しようとする時に便利なのが「ポータルサイト」です。ポータル(portal)とは「入り口、正門」という意味で、まさにインターネットの世界への入り口に当たり、いわばWebぺ一ジヘの羅針盤ですから、インターネットで最もアクセス率が高いのがポータルサイトであると言われています。
現在は、ヤフーYahoo!、インフォシークlnfoseek、グーgooといった検索工ンジン(後述)系のサイトや、Netscape Communications社、Microsoft社などのWebブラウザメー力一のサイト、さらにニフティnifty、ソネットSo-net、ビッグローブBlGLOBEなどインターネットプロバイダー系のサイトなどが激しい競争を繰り広げています。
アクセス数が広告煤体としての価値を高めるため、それぞれに一度サイトを訪れたユーザーを囲い込もうと、検索エンジンやリンク集など中心に、ニュースや株価などの情報提供サービス、ブラウザから利用できるメールサービス、電子掲示板、チャットなど、ユーザーがインターネットに求める機能を満載し、ありとあらゆるサービスを提供しています。

(b
ー3検索エンジン(検索用システム)

インターネットの普及によって「情流」の量は飛躍的に増大したのですが、反面では「冗流」が氾濫を起こしWebから必要な情報を短時間で検索するのが至難になってしまいました。そこで注目を集めたのが「Yahoo!」「Google」「lnfoseek」などの検索エンジン(検索用システム)とその「入り口」となる検索ポータルサイトでした。
検索エンジンには「ディレクトリ型」と「ロボット型」とがあります。「ディレクトリ型」は、職業別電話帳のような分野別になっており、探したい情報の分野がある程度明確な場合には強く、人間が索引と要約を作成するので信頼性が高い反面、データの入力も人手で行うため、「ロボット型」に比較してデータ量が少ないという欠点があります(「Yahoo! Japan」、「NTT Directory」など)。「ロボット型」は、Webロボットと呼ぱれるプログラムを用いて、インターネット上の全サーバーから情報を定期的に収集し、その情報の索引付けを自動的に行いますので情報量が多く検索項目が多いほど良いというような場合には好適ですが、要約の完成度が低く目的のサイトを絞り込むのに時間がかかるのが欠点になっています(「google」、「goo」、「lnfoseek Japan」など)。

グーグルは、利用者が探している情報を高い確率で見つけられる検索ソフトウェアで早くから注目を集め、創業(1998)から2年足らずでヤフーなど既存のネット検索サービスを抜いて最大手に浮上しています。35ヶ国語、40億超のウェブページを対象に検索サービスを提供しており、多くの国で「グーグルする」が「ネットを検索する」という意味の動詞に使われるほどのブランドに育っています(2004/8/24日本経済新聞)。
(c)「情流」ビジネス

(c
ー1インターネット広告

インターネットが媒介する「インターネット広告」(advertising on Internet)はまさに「情流」を商品としたビジネスと言えるでしょう。
細長い横断幕(banner)状の画像でできた「バナー広告」が最も一般的なものですが、バナー広告はそれ自体で完結する広告ではなく、“広告の広告”にあたり、これをクリックするとその広告主のホームページにリンクします。
広告主企業のホームページは、それ自体がインターネット広告であり、その中に商品情報=商品広告やアンケートなどにより消費者の個人情報を収集する仕組みなどが含まれているのが通例です。関心を示し送付を許諾した人に定期的に情報をメールとして送る「オプトインメール」などもありますから、インターネットの双方向性をフルに活用して、単なる広告の域を超えた、消費者調査やプロモーションや商品売場や顧客データベース作りのためのメディアになっているのです。
「ブロードバンド(高速大容量)の普及で動画を使えるようになり、一層プロモーション効果が高い広告媒体となった」(2003/1/6 日経「ブロードバンド広告 急成長期待、多様化進む」)、「ヤフーは、インターネット広告だけを使ってコンビニ化粧品の売上高を2倍に押し上げる効果があったとする広告効果の実証結果をまとめた」(2003/2/4 日経「ネット広告で売上高2倍」)といった報道もなされています。

(c
ー2
AS
P(アプリケーション・サービス・プロバイダー

必要なソフトウエアを必要な期間だけ、インターネットを通じてレンタルするASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー/Application Service Provider)も「情流」を商品とした新しいビジネスモデルと言えるでしょう。
企業が個別にシステムを構築する必要がなく、予めできあがっているシステムやアプリケーションがネットワークを通じて利用できるのですから、ITアウトソーシングの新しい一形態でもあるのです。
システム環境がすべてASPから提供されるので導入スピードが速く、しかも、利用した機能と時間だけの料金で済むのでコストも安くつきますから、ITスキルのない企業でも高度なアプリケーションを利用することができます。
アウトソーシングによって、企業は「情報」資源を効果的かつ効率的に活用しながらコア業務に「ヒト」、「モノ」資源を集中投入できるようになったわけです。

(c
ー3
音楽配信サービス事業

インターネットで、デジタル化された音楽データを配信する音楽配信サービス事業も、「情流」そのものを商品とする新ビジネスと言えます。
自宅でパソコンのハードディスクにダウンロードしてから、米アップルコンピュータの「iPod」やソニーのハードディスク内蔵型「ウォークマン」などのような携帯音楽プレイヤーに取り組む携帯型プレーヤー対応の音楽配信が主流で、特にアメリカではこの市場が順調に拡大しています。
しかし、一方で、インターネットを経由して携帯電話に直接配信することによって、「携帯電話を音楽端末に」しようとする動きも顕在化してきました。携帯電話の場合には、パソコンから取り込む手間が省ける上に外出先でいつでもどこでもダウンロードできるという利点があります。楽曲の一部を着信音にできる「着うた」サービスは既に行われていた(2002/12にKDDIが開始)のですが、第三世代携帯電話サービスの実現によって通信速度も飛躍的に向上し、「着うた」と同じ仕組みで音楽をまるごと一曲聴けるようになったのです。
(財)デジタルコンテンツ協会(DCAj)の「デジタルコンテンツ白書2004」によると、携帯電話向け音楽系コンテンツ市場は2001年度503億円、2002年度664億円(前年比131.9%)、2003年度907億円(前年比136.6%)とそれぞれ推計されており、2004年度は更に1,000億円を超えて1,117億円(前年比122.5%)に達するものと予測されています。最近はこれに加えて映像系コンテンツの配信サービス市場も急拡大してきており、市場の様相を一変するような勢いを示しています。

(c
ー4
求人情報サービス事業

企業にどれほど豊かな「モノ」、「カネ」、「情報」の諸資源があったとしても、最終的にそれを使いこなす「ヒト」資源がなければ企業は競争力を発揮することができません。こうした「人財」の確保のために企業が自社のホームページに求人情報を掲載することはもう当たり前のことになっていますが、インターネット人口の増加に伴ってネット専業の求人情報サービスを提供する新ビジネスが続々と誕生し、業容の拡充に乗り出してきています。
働きたい人と働く人を探す企業とのマッチングサービスを行えるところが、企業側から一方的に求人広告を出す従来の求人サイトと違う点で、働きたい人も自分の意向や都合を主張することができますので、条件さえ合えば「明日から働きたい」人を採用することもできます。
このため、アルバイト、転職、人材派遣の求人主要3分野のビジネスのうちの2割程度が既にネットに置き換わっていると見られています。ネット専業の急成長に対抗する形で求人情報の老舗・リクルートもネットに重点をシフトして、主要3分野のネット売上高を2年前の3−4倍に伸ばし、紙媒体の売り上げの2/3にまで押しあげてきています(2004/9/22 日本経済新聞「求人サービス」)。


求人サイト、使い勝手競う

インターネツトを利用した求人情報各社がサービス内容の拡充に乗り出した。ネット求人は迅速な情報更新など情報誌にはない特徴を持ち、5年後には市場規模が3,000億円を超すとの試算もある。「紙」から「ネット」へのシフトをにらみ、各社の利用者獲得競争が激しさを増してきた。
ディップは1月末、検索機能の強化を柱に携帯電話版アルバイト求人サイトを刷新する。現行の「働くエリア」などの検索条件のほか、自由にキーワードを入力できる機能や希望の時給額を入れて絞り込む機能を加える。あらかじめ検索条件を登録しておけば同じ条件の仕事を手軽に探せる機能なども追加。
リクルートは、仕事の中身や待遇などの基本情報に加え、求人画面に大振りの写真や漫画で臨場感を持たせることによって転職希望者が職場の雰囲気をつかみやすくした。エン・ジヤパンは28日、正社員としての雇用を前提にしたアルバイトの求人情報を提供するサービスを始める予定。ソフトバンク・ヒューマンキャピタルも人材紹介会社の求人広告を集めた「イーキャリアFA」を拡充。各紹介会社の転職アドバイザーのランキングを掲載し、転職希望者の利用を促す。
(2005/1/17 日本経済新聞)
(d)「情流」による「金流」ビジネス

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インターネットバンキング

「カネ」自体を商品とする金融業にも「インターネットバンキング」と呼ばれる新ビジネスが誕生しました。
インターネツトを利用して、パソコンや携帯電話から、時間や場所の制約が一切なく、残高照会、振込、入出金明細照会などが行えるシステムで、手数料も安いことから利用者が急増しています。
事業者としても、リアル店舗と比較して人件費や設備費をかける必要がないことから、サービス提供に意欲的であり、既存の銀行だけでなくインターネット専業銀行も設立され新しい金融サービス提供の企業間競争が加熱してきています。インターネット専業銀行の最大のメリットは、店舗を持たないことで経営コストが抑えられるので手数料や預金金利を利用者にとって有利に設定できる点にあります。
また、既存の銀行とは異なり、様々な新業種の企業が出資して設立する場合が多いため、サービス面も広がりがあるのが魅力で、日本で初めてのインターネット専業銀行「ジャパネット銀行」では、ショッピングモールの決済やiモードにも対応しています。

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インターネット証券取引サービス・ビジネス

大和証券がインターネットによる証券取引サービスを開始する(
1996/4)など既存の証券会社が新しい動きを見せる中で、金融ビッグバンを背景にオリックスなどの異業種からも「インターネット証券取引サービス・ビジネス」への参入が進みました。
今や、特に個人投資家の間ではインターネット取引が主流となっており、インターネット取引の影響で株価が乱高下するケースも多くなっているほどであり、人手を介さないインターネットが広がったことで、準大手・中堅証券から外国証券会社まで、従業員・店舗の削減など経営のスリム化を迫られていると伝えられています(
2003/2/14 日経「ネット投資家マネー流入/広がるネット取引 迫られるスリム化」)。
 

5-3-2.ビジネスの直結化

上述の「Kn→M・J・H→S→Kn+1」のビジネスの循環過程には、多層にわたる流通業者が介在していますが、インターネットを経由した「情流」によって生産者と需要者の間での直接の「情流」、更には「商流」までが可能になり、「マーケット直結構造」が随所に見られるようになりました。以下の報道はこの一例です。

供給者と需要者の直結化

・ニット製品メーカーの老舗S社(長野県本社)
電子メールで送られてきたペットの写真をセーターに編み込んで世界に1着しかないオリジナルセーターを作る。
・ユニクロ
製造小売(SPA)手法で、インターネットや自社の店舗から上がってくる情報を管理・分析して商品開発や製造数の決定を行う。
・アサヒビール
特約店や販売店からの情報をもとに需要予測を行い、それによって生産数や在庫数、補充数量などを決定するコンピュータープログラム(SCM)を導入。
・イトーヨーカ堂
インターネットによって日々の販売データをメーカー・流通に開示して、欠品の削減や在庫の適正化を図るSCM構築に着手。

(2001/8/16 日本経済新聞)

上記の例のような大手企業はもとより、巨額な広告費も支出することもできず有力な販売チャネルを確保することも難しかった中小企業にもインターネット経由の「マーケット直結構造」を作ることが可能になりましたので、「大きな企業が有利」という過去の常識が覆され、新しいネットワーキングと情報処理の技術さえあれば、どんな小さな企業でも大企業に対抗してビジネスを展開できる余地が大幅に拡大し、寧ろ企業規模が大きい方が不利なケースさえ出現するに至りました。

5-3-3.「マーケット中抜き」現象

上記5-3-2の「マーケット直結構造」と裏腹の関係で現出したのが「マーケット中抜き」現象です。生産者から需要者に至る「商流」の過程に階層をなして介在していた中間流通業者の機能がインターネット経由の「情流」によって代替されて不要化したため、余分な階層を排除して「中抜き」を実現した方が有利なビジネスを展開できるという局面が現れてきたのです。これによって、流通改革が起き、産業界の広域にわたって大幅な流通コストの削減と配送時間の短縮が実現しました。

但し、これをもって「商社・卸店(問屋)無用論」に直結させる論議はいささか短絡的に過ぎるように思えます。総合商社は確かに「情流」機能を生命線としており、その一部がインターネットを核としたITネットワークで代替され得るというのも事実です。しかし、「ヒト」ネットワークを通じた「情流」なしには成立しがたい「商流」における機能をはじめとして、「モノ」(製品・原材料)の加工処理工程を配慮した倉庫・配送手段の手当・管理などの「物流機能」、「ヒト」の持つ技術「情報」ノウハウを対象とする技術移転機能、大型ビジネスなどに必要な資金の調達・供与、資源開発や産業振興のための直接投資または投資の助成などの「金流」機能など、商社がしかるべき機能を果たしている限りは「中抜き」は考えられません。ましてや、特に多国間にまたがる大型プロジェクトのプランニングやオーガナイズ(組織化)や必要に応じて行うジョイントベンチャー機能に至っては「四流」を総動員して行われる起業活動ですから、「中」に介在するものではなく当然「抜き」は考えられないわけです。日本産業の拡大再生産を支えてきた総合商社も、一部は「中抜き」に譲りながら、総合商社ならではのビジネス領域に特化してゆくものと考えられます。

一方、卸店にも仕入、販売、倉庫、運搬、金融、商品等級格付けと指導援助(商品開発・情報仲介・労働供給・販売促進・協業体機能など)の七つの機能があると言われます。インターネットを核としたITネットワークを介した「情流」とこれに基づく「商流」、「物流」、「金流」でこれらの機能がすべて代位されるのなら卸店は存在意義を失い、売り手(生産者)と買い手(小売店更には消費者)との間の直接取引きが可能になり「中抜き」が実現します。いずれかの機能を果たしている限り、「卸店という企業」は排除することができたとしても「卸点の行う機能」は排除することができず、売り手か買い手のいずれかがその機能を負担しなければ取引が成立しません。いずれにしても流通機構論に偏することなく流通機能論を検討のうえ適正な販売経路を選択する必要があります。因みに、私が東芝関連会社で従事していた電設資材事業の世界には、電気工事店に対して資材を販売する電材卸業という業態があります。例えば、住宅1戸を全体製品とするとその構成部品点数は飛行機よりは少ないものの自動車の部品数を上回るそうです。しかも住宅ごとに使う資材は違いますから、とても電気工事店が在庫として買い置きしておくわけにはいきません。また、住宅工事現場には浴室を作るだけでも、電気工事店の他に、大工、左官、配管工、タイル張工など全部で14職種の工事業者が出入りして、それぞれの工事日程に合わせて施工しなければならないのですから、当座の注文に対して常備在庫で対応してくれる卸店の倉庫機能に依存せざるを得ないわけです。このあたりは、いかなインターネットといえども「中抜き」できないところだと思います。

5-3-4. 国内空洞化

日本の製造企業が海外に生産拠点を設けることによって、上記の「Kn→M・J・H→S→Kn+1」のビジネスの循環過程のうちの「モノ」(M)と「ヒト」(H)が海外で調達されるようになると、M・Hの調達に充てられた「カネ」(K)は日本産業の拡大再生産過程から外れて調達先国の経済循環過程に組み込まれることになります。
これによって、これまで当該企業に「モノ」(M)を販売していた企業は販路の一部を絶たれ操業を縮小するか廃業するかせざるを得なくなり、雇用されていた「ヒト」は雇用調整または解雇の対象となります。
日本国内における製造コストが上昇するのに伴って、日本企業の海外生産拠点設置の動きは早くから行われており、このような国内空洞化現象も潜在的に進行していたのですが、インターネットの出現により海外移転に拍車がかかるに至って俄かに顕在化してまいりました。
現地の低賃金による製造コストの安さに加えて、一瞬にして地球の隅にまで達するオファーの「情流」を発することによって、世界一のQ(品質)、C(コスト)、D(納期)の部品の提供提案の「情流」を受け取り、「商流」、「金流」もすべてインターネット上で済ませることができるようになったうえ、
インターネットを駆使したグローバルなロジスティクス・システムが導入・構築により最適な「物流」が実現できるようになったからです。
このようにして多国籍化に成功した日本企業のビジネス循環過程には、海外市場で得られたカネも還流して、新たな資金(Kn+1)に組み込まれて拡大再生産に充てられ企業は成長力を維持することができます。しかし、空洞化によってカネ(Kn)の総和(ΣKn)のうちの一部が海外に流失してしまう日本産業全体としてカネの還流規模が縮小するため成長力が低下することになります。「依然として成長力豊かな日本企業」と「低迷度を増す日本産業」はいずれも事実なのです。

5-3-5.企業内部における直結化

ピラミッド型の「階層的組織構造」は、軍隊組織で有効に機能していることが端的に示している通り、上意下達の指示命令系統として優れた特性を発揮する形態であり、アダム・スミスの時代から営々として受け継がれてきたブルーカラー領域の「分業体制」には最適の組織体制であったわけです。しかし、非定型的な業務のウェイトが高く、しかも整然とした分業体制もとりにくく、部下の自発的な「情流」活動に依存するところの多いホワイトカラー領域では、上下間と水平方向の意思疎通を阻害し、これがビジネスの遅れにつながってエコノミー・オブ・スピードの時代への対応を困難なものにしておりました。ところが、インターネットの出現により、上記の「Kn→M・J・H→S→Kn+1」のうちの「ヒト」(H)と「ヒト」(H)の「情流」が直結するようになり、組織をフラット化・簡素化できるようになったのです。

2001/01/16 MISCO(三井情報システム協議会)で、講師の日本経済新聞論説委員が話されていた右のような「IT時代の新しい組織」と一脈通ずるところですが、単に組織のフラット化・簡素化にとどまらず、これを仕事のやり方(業務プロセス)の変革にまでつなげ企業内エンジニアリングを成功させた米国企業に対して日本企業が遅れをとってしまったところに「IT革命」の根因があったと思っています。

IT時代の新しい組織
“ネット上の組織”
・大企業組織 小組織の集合体
・中間管理職 チームリーダー
・権力 リーダーシップ
・官僚組織 目的別組織
・人間管理 組織管理

5-3-6.電子マネー

現金や預金の前払いと引換えに電子的なデータを取得し、これでモノを買ったりサービスを受けたりする時、この電子的データのことを「電子マネー」と呼びます。電子マネーに関する「四流」を図示すると以下のようになります。

電子マネーにおける「四流 」



(1) 商品の「買い手」が、「電子マネーの発行者」に対して現金や預金等を提供して(金流)電子マネーの発行を請求し、これを受けて、「電子マネーの発行者」が「買い手」に対して電子マネーを渡す(電子的データ送信による情流)。
(2) 「買い手」が、「電子マネーの発行者」から受け取った電子マネーを、商品を買った代金として「売り手」に渡す(情流)。
(3) 「電子マネーの発行者」が「売り手」の請求により、電子マネーと引換えに「売り手」に現金を支払う(または「売り手」の預金口座に入金する)。

電子マネーの性格

この仕組みのポイントは、「買い手」が電子マネーを使うのに先立ち、予めカネ(現金や預金)等の資金を「電子マネーの発行者」に渡して(支払って)いることです。このことが、「電子マネーの発行者」が「売り手」からの請求に応じて、いつでも電子マネーをカネ(現金や預金)に引換えることの前提になっています。また、これにより、電子マネーの受取人である「売り手」は、ちょうど現金を受取るのと同じように、「買い手」が誰であるかを気にすることなく電子マネーを受取ることができます(貨幣の一般受容性)。従って、前述の「Kn→M・J・H→S→Kn+1」のうちのカネ(K)に代わるものではなく、カネ(K)があればこそ機能するものなのです。電子マネーは、いわば、「リアルなカネ」の裏づけのある「バーチャルなカネ」なのです。また、「電子マネーの発行者」への信頼が確保されていなければ、貨幣としての一般受容性が失われてしまうのが当然です。
電子マネーには、PCなどに電子マネーを保存する「ネットワーク型(ソフトウェア型)」の他にICカードに電子マネーを保存する「ICカード型」があります。

プリペイドカードとの相違点

上記の手順を見ても、「前払い」の点ではプリペイドカードと同じですが、電子マネーにはプリペイドカードと違った点が二つあります。一つは、プリペイドカードには「何にでも使える」という「汎用性」と、「いつでも手数料なしで現金・預金に換えられる」という「一般的換金性」がないのに対して、電子マネーにはこのような制約がありませんから、単なる「小銭代わり」を超えた使われ方ができるという点です。もう一つは、プリペイドカードが商店の店頭や自動販売機などでしか使えないものなのに対して、電子マネーはインターネットなどを経由して離れた場所にいる人への支払いにも使うことができるという点です。インターネットに接続されたコンピューターの台数が飛躍的に増加した結果、インターネットを利用したビジネス(商流)が急速に増大し、これに伴って高まったインターネット上での代金の支払いや回収を行う仕組み(金流)へのニーズに応えるものとして電子マネーが注目を集めています。


電子マネーの利便性

電子マネーの特性を活かすことにより、これまで代金の回収などの費用がかかりすぎて売買の対象にならなかった商品についても、「市場」が成立する可能性がでてきました。また、大口の支払いに際しても「データ」である電子マネーは「モノ」である現金と違って、大金を持ち運んだり数えたりといった不安や不便とは無縁です。そのため、今後技術革新がさらに進み、電子マネーが万全なセキュリティを備えることになったら、電子マネーによる支払いの方が銀行を通じた振込や送金より便利でリスクが少ないものになる可能性さえあるのです。

現在のところ、電子マネーだけでなくキャッシュカードなど複数の機能を持たせられたり、「お財布ケータイ」のようにコンビニエンスストアなどに置いた端末にかざすだけで決済できる非接触型が発売されたりしたことによって、ICカード型電子マネーの普及が先行しています。ICカード型を中心とした電子マネーの普及状況と今後の展望について論述した新聞記事を以下にご紹介します。

電子マネー 普及の兆し

現金の価値を電子データに置き換えて買い物に利用する電子マネーが徐々に普及してきた。ICを内蔵したカードを使う「スイカ」や「エディ」に、インターネット用を加えた2004年度の利用総額は前年度の約3倍の700億円に増える見込み。3年後には年数兆円に膨らむといわれている。

JR東日本が発行している「スイカ」は、現金情報を電子化してカードに登録するもので、運賃用とは別に、20043月からは駅構内の飲食店でも使える電子マネーの機能を付けた。その他、1/20に読み取りシステムを導入した家電量販店「ビックカメラ」でもスイカで買い物ができる。

ソニー系のビットワレットが手がける「エディ」は、コンビニや飲食店だけではなく大手レンタカー店や薬局でも利用可能になっており、携帯電話に電子マネー機能を搭載する「お財布ケータイ」も含め、2004年1年間で発行枚数が2倍強に増え、現在、全国13,000店で利用できる(*)。インターネット上でクレジットカードによる入金もでき、エディ機能付きの携帯電話には三井住友銀行の口座から直接入金可能になる予定。JR駅の券売機・精算機や駅のATMからのクレジットカードによる入金に限られるスイカよりも入金のし易さの点で上を行っている。

(*)

カラオケの料金支払いまで電子マネーでできるようになりました。第一興商は、全国のカラオケ店「ビッグエコー」に電子マネー「エディ」対応のレジと入金機を設置して、カラオケルーム内での決済全てを電子マネーでできるようにしています。

2005/4/27 日本経済新聞)

ネットから音楽やゲームのソフトなどを買う時に使える電子マネーは「ウェブマネー」など数種類あり、今年度の利用見込み額は約230億円。コンビニエンスストアの店頭端末で買い、パスワードをネットに打ち込み、その時払った金額分だけ買い物できる。

電子マネーはクレジットカードとは違い、買い物できる価値が限られ、犯罪として使われる可能性は小さい。手軽さと安全性から、若者を中心に利用が増えている。ただ利用店は限られる。発行企業はその拡大に努めており、スイカは9月から各地ファミリーマートで、エディは4月からサークルKやサンクスでも利用可能となる。

電子マネーが世界で最も普及しているとされるのは香港で、「オクトパス」カードの発行枚数は人口の2倍以上。中国やシンガポールでも導入が盛んでおり、アジアでの導入が進んでいて、欧米では普及していない。もともとクレジットカード決済が普及しているからだが、欧米に比べると日本は現金決済が多い。電子マネーの普及で日本独特の現金社会のあり方が変わる可能性がある。

(2005/1/27&2005/2/4  日本経済新聞)

「ポイントサービス」との連動

物を買ったり、サービスを利用したりすることでためる「ポイントサービス」も広く普及してきましたが、これも電子マネーと連動することによって「ポイント」が現金に近い性格を持つようになりました。
2003/6
から全日空が航空会社としては世界で初めて始めた、利用客がためたマイレージを電子マネーに変換するサービスもその1種で、マイレージ会員はホテルやレストランなどの支払いに電子マネーが使えるだけでなく、クレジットカード機能も持っているのでインターネット上の買い物などに利用することができます。更に、これを利用して、みずほ銀行の会員制サービスでためたポイントもいったん「全日空のマイレージ」に交換すれば電子マネー「エディ」に換えることができるようになりました。
この全日空・エディ連合に対抗する形で、日本航空システム(JAL)もJR東日本と組んで、マイレージを電子マネーとして使えるカードの発行を始めていますが、航空業界以外にもポイントを電子マネーに交換するサービスがますます広く利用されてきています。それだけ「ポイントサービス」という販売促進策の有効性が高まり、それが更に電子マネーの普及を促すという好循環が生まれてきたものと考えられます。

<こぼれ話>

「売り込み」は一大事

「カネ」を支払って「商品」に換えることは実に勇気のいることなのです。いったん特定の「モノ」(またはサービス)に交換されると、貨幣の持っていた「何にでも使える」という「汎用性」と、「いつでも手数料なしで現金・預金に換えられる」という「一般的換金性」が失われるばかりでなく、「商品」のQCDの保証に不確実性が入り込むからです。特に、C(購入価格)やD(入手時期)は売買契約などによって保証されたとしても、使用価値を決めるQ(性能・機能・使用感・使い勝手などの品質)は「商品」を購入してから実地に使ってみなければ分からないことが大半です。
顧客満足度に最も大きな影響を与えるのがQであり、Qが顧客を満足させるものでなければその顧客がレピート客(常連客)になることは先ず考えられません。安くてまずいカレーライスを食べた客は、安かった(C)ことはすっかり忘れてしまうかわりに、まずかった(Q)ことは何時までも覚えていて、二度とその店で食事をしなくなるといわれています。見知らぬ土地を旅していて、全国規模のレストラン・チェーン店に足を運びがちになるのも、そこへ行けばどの程度の出費で(C)どのくらいの待ち時間(D)で食事ができるかおよその見当がつくとともに、どんなメニューが準備されていてどのような味付けがされているか(Q)、同じチェーンの他店の例から容易に想像することができるからだと思います。
このように、同様な商品の購入歴がある場合は商品購入決定に際して心理的な障壁は低くて済みますが、全くの新規取引先からの購入となるとリスクが大きすぎてなかなか購入に踏み切れないものなのです。こんなところから、特に取引窓口となる購買部門には、新規取引先に切り替えたことによって起こる不満や苦情を回避するため「前例に従って」従来の取引先からの継続購入を選好する傾向が生ずることになります。
一般的に言って、このような保守的な性向のある潜在顧客に対して「売り込む」のは難度の高い作業であるにもかかわらず、「営業(セールス)」の機能が軽視されがちな傾向があるように思えます。ましてや、Web「情流」に大きな部分を依存して「商流」を成立させなければならないインターネットB to Bコマースの場合には、「売り込む」ことは至難の業であるということを覚悟の上で臨まなければなりません。QCD、特にQに対して信頼感を得られるような訴求方法の案出に叡智の限りを振り絞る他に、比較的保守的な購買部門に比べると新規製品・サービスの使用に対して意欲的な利用部門に対して自社製品の差別化点を訴求することに全力を集中する必要があります。


(Ver.1 2003/ 3/28)
(Ver.2 2004/ 7/14)
(Ver.3 2006/ 7/16
)

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