インターネット・ビジネス論


第2課  インターネットの歴史的位置づけ

2-1.世界経済と技術

2001/01/16 MISCO(三井情報システム協議会)で、講師の日本経済新聞論説委員から「技術による新市場創出」という興味ある話を聞きました。以下のような内容です
<技術> <獲得した自由>  <創出した市場>
造船技術 貿易の自由の獲得 国際市場の創出
電気(ランプ)の発明 時間の自由の獲得 夜間市場の創出
自動車の発明  移動の自由の獲得 郊外型市場の創出
インターネット 空間の自由の獲得 電脳市場の創出
ここからも、「グローバリゼーション」は近年における新しい事象ではなくて、造船技術を含めた海運技術を発達させることによってスペインやポルトガルが国際市場の「国際市場の創出」を果たして世界経済の覇権を握った重商主義の時代に端を発しているということが分かります。
そして今や人類は、「インターネット技術の開発」によって、「空間の自由」を獲得し、「電脳市場」を創出したということになります。ここで言う「電脳」という言葉は、もともと中国語で「コンピューター」を意味する言葉ですが、「電脳市場」という場合は、「コンピューター・ネットワークによってできあがった商品やサービスの売買とマーケティングの場」と理解して良いでしょう。
更に、技術の力は、それぞれに新市場を創出するとともに、「グローバリゼーション」の姿を変えさせ世界経済の覇権の移行、すなわち「革命」を惹起してきました。
イギリスにおける紡績技術の発達は、封建主義体制から資本主義への移行を導き、文字通り「産業革命」の契機となりました。その後も、重工業技術はドイツを自動車技術はアメリカを、それぞれ世界経済の覇者としてのし上げさせてきました。
インターネットを中心とした情報技術(IT)は、この間にTQCに基づく経営技術を武器とした日本に覇権を譲っていたアメリカの覇権奪回に寄与したものとして捉えることができます。なぜ「IT革命」によって日本は世界経済構造の頂点の地位から追われたのか、すなわち、なぜTQCはITに敗れたのか、次に考察してみることにしましょう。


2-2.TQC(全社的品質管理)の真髄

Quality”を「品質」と翻訳したところに大きな問題があったと言われています。これにより、「QC(Quality Control)」を「品質検査」による不良率低減の活動として、「TQC(Total Quality Control)」を「品質検査」に端を発したQCサークル活動の総体として、それぞれ矮小化して捉える向きが多くなっているからです。
TQCは、文字通り、「全社(T:Total)」にわたるものであり、しかも活動ではなくて経営思想なのですが、あまりこの本質は理解されていないようです。しかし、トヨタやリコーなどの先導的な企業がTQCに基づく企業活動を実践したので多くの日本企業が追随して、TQCに基づく経営手法が日本企業のDFS(De Facto Standard
公的に認定されていなくても市場の過半を占め追随するものが多い事実上の標準/業界標準)になったというのが実際のところなのではないかと考えられます。いずれにしても、日本を“Japan as No.1”にさせたのはTQCであり、その真髄は次のようなところにありました。
    マーケット・イン

生産してからマーケットに打ち出して行く“プロダクト・アウト”に対する言葉です。工場で決めた検査基準としての“品質”ではなくてマーケットが要求する“Quality”を採り入れてから商品を開発してお客様に提供しようという考え方です。これにより日本企業の商品開発力が飛躍的に向上し、次から次へと魅力的な新製品が世界市場に送り込まれていくことになりました。

     プロセス重視

プロセス(仕事の工程)の“Quality”を改善することによって結果としての商品やサービスの“Quality”を改善していこうという考え方です。「次工程はお客様」という考え方も浸透してプロセス間連携の“Quality”も向上しました。トヨタのカンバン方式に端を発したJIT(Just In Time)方式が一種のDFSとして確立したのもこの流れの中に位置づけることができます。

ちなみに、「カンバン方式」とは、工程別にそれぞれの生産計画に合わせた段取り表(これが「カンバン」と称されるもの)を掲げ、そこに記載された必要部品を前工程(これが社外の部品供給業者になる場合もあります)が必要な数量だけ必要なタイミングで次工程に供給する仕組みです。従って、各工程のカンバンの連鎖によって製品を順調に加工・組み立てすることによって、部品在庫を必要最小限にとどめることができますので、部品にかかる資金や在庫スペースを有効に活用でき製造コストを大幅に削減できることになります。トヨタ車の海外市場進出が進展するのに伴って「カンバン」という言葉も「カイゼン」とともに英単語語彙に組み入れられるほど有名になりました。

「JIT(Just In Time)方式」は文字通り「ちょうど必要となるタイミング」で各工程間の部品の受け渡しを行うことによって工程間の仕掛りを徹底的に減らすための方式ですから、基本は日本原産の「カンバン方式」そのものなのですが、アメリカのコンサルティング会社が概念化して更にこれをSCM(Supply Chain Managementという経営手法の開発につなげています。アメリカ原産のQC(Quality Control)を日本で昇華させたTQC(Total Quality Control)をアメリカ企業が逆輸入したのと同じように、アメリカで進化させたSCMを日本企業が逆輸入するという現象を見ると「時代は変わった」という思いが一層強くなります。

上述の通り、カンバン方式では、カンバンを渡して情報が伝達され、納入の指示はカンバンで行われますが、前工程には生産リードタイムが必要ですので、平準化された事前の内示発注が必要になります。また部品階層が複数あるので、それぞれの階層でそれぞれの前工程に対する事前の内示発注が必要になります。ですから、結局は「後工程が前工程を制御する」という原則に則って全体が同期を取って動作することになるわけです。特に、自動車産業のように裾野が広い場合には、上から下まで数階層におよぶすべての企業が集団体操のように同期を取ってきちんと動くことが必要なので、カンバン方式が日本車の海外市場進出の有力な決め手になっていたと言って間違いありません。

「後工程が前工程を制御する」という考え方がTQCの「次工程はお客様」という基本理念につながっています。「品質は工程で作り込まれる」という考え方ですから、最終工程である市場のお客様から“マーケット・イン”した要件(Requirements)に適合した品質が、企業および関連企業グループ内のお客様(次工程)から順繰りにそれぞれの前工程で作り込まれることによって、供給連鎖(Supply Chain)とともに品質連鎖(Quality Chain)ができあがり真のTQC(Total Quality Control)が実現するわけです。


     事実による管理

先入観や偏見にとらわれることなく、PDCA(Plan/Do/Check/Action)の管理サークルを回して、仕事と結果の“Quality”を改善していこうという考え方です。また、表面的な問題現象に対する対症療法で済ませることなく、“Why”の問いかけを繰り返すことによって事実関係を分析し問題の本質を追及して根本原因を削除し再発を防ぐことが励行されました。これによって体質強化に成功した企業は枚挙の暇がありません。

     「品質」に対するトータル的な捉え方
「品質」を、物性的要素、機能的要素、人間的要素、時間的要素、経済的要素、生産的要素、市場的要素の諸要素から総合的に捉え、これらの諸要素によってもたらされる「顧客満足度(CS : Customer Satisfaction)を指標として最重視しています。そのうえ、「良い品質の製品とサービス」は良質(high quality)なプロセスからのみ生まれる」とされ、「品質」ばかりでなく「プロセスの質」、更には「経営の質」の改善が重点課題とされるに至ったのです。

2-3.TQC vs BPR(リエンジニアリング)

日本のTQCはアメリカの企業もこれを学んで採り入れることになり、”kaizen”が英語の単語になるほどまでになりました。しかし、日本企業が世界市場での繁栄を享受している間に、アメリカの企業の中にはリエンジニアリング(BPR:Business Process Reengineering)という経営技術を導入する動きが広まってきました。

リエンジニアリング(BPR:Business Process Reengineering)は、顧客に対する価値の提供度の視点から業務プロセスを根本的に見直し、デザインし直すことにより、コスト、サービス、スピード等を劇的に改善することです。

ここでは先ず、「顧客に対する価値の提供度の視点から」というところがTQCの流れに沿うものであるということを認識する必要があると思います。要するに、TQCは過去の遺物として取り扱うのではなく、その優れた経営思想は継承してゆく必要があるということであり、これが一見インターネット・ビジネス論と関係のないTQC論に私がページを費やしている所以でもあるのです。

しかし、「業務プロセスを根本的に見直し」は、「既存プロセスありき」を前提としたプロセスの改善を旨としていたTQCとBPRが全く違うところです。しかも、最大の経営改革のポイントとされながらTQCでは踏み込みきれなかったホワイトカラーの業務領域でBPRが大きな成果を収めてきたことに注目しなければなりません。

更に、「サービスとスピードの向上」と「コスト削減」の本来トレード・オフ(あちら立てればこちら立たず)の関係にある事項を、同時に「劇的に改善」するところに最大の注目を払う必要があります。「劇的な改善」こそ「改革」に相当するものでありTQCの目指した「改善」とは次元を画するものだと言えましょう。しかし、不断の「改善」プロセスは企業活動に不可欠のものであり、「改革」によって取って代られるものでは決してありません。

2-4.トレード・オフ関係を解消した技術革新

顧客満足度が企業収入を決定し、それを実現するための経営コストが企業利益を決めるものと考えられます。 しかし、下図のように、特定の事業部門または機能(研究開発、マーケティング活動等)を強化して商品のQ(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)を改善することによって顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)を高めようとすると(ΔCS1)、特定の事業部門または機能にかかる経営コスト(Management Cost)の増加は避けられません(ΔMC1)。


一方、投下している経営資源を縮小ないし撤収することによって経営コストを削減しようとすると(▲MC2)、特定の事業部門または機能によって実現される顧客満足度は低下せざるを得ません(▲CS2)。こうした顧客満足度向上(ΔCS)と経営コスト削減(▲MC)の間のトレード・オフの関係(“あちら立てればこちら立たず”の関係)がある中で、部分最適の追求を止めて全社的に「(ΔCS1−ΔMC1)−(▲CS2−▲MC2)」を極大化して全体最適を求めるために行われてきたのが、選択経営であり本来のリストラクチュアリングであったのです。

中長期的な観点に立って縮小・撤退部門(機能)から強化・拡大部門(機能)に経営資源を重点シフトすることによって、企業の事業構造を再構築し(restruct)利益体質を改革するからこそ”Restruction”なのです。ですから、単なる人減らし(レイオフやダウンサイジング)を美辞麗句に仕立てた“リストラ”では、経営コストは低減できても顧客満足度は高めることができず、企業の中長期的な成長更には存続さえ覚束なくなるといわざるを得ません。カルロス・ゴーンは工場閉鎖や人減らしの“リストラ”を行っただけではなく、一方で製品開発やマーケティング活動等への積極投資を行い本来のリストラクチュアリングを行ったから日産自動車を再建することができたのだということを見落としてはいけないと思います。

こうしたトレード・オフの関係は、現状路線の延長線上で企業経営を続ける限り続きます。リストラクチャリングを行っても、この関係は変わりません。しかし、リエンジニアリング(BPR:Business Process Reengineering)では見事なブレークスルーが行われています。「サービスとスピードの向上」と「コスト削減」を同時に「劇的に改善」するからです。そして、これを可能にしたのが情報技術(IT)の革新だったのです。それ自体が性能とコストのトレード・オフ関係を劇的に改善してきた情報技術(IT)を用いることによって従来と全く違う業務プロセス(仕事のやり方)が可能になりました。

ITの革新が経営技術の革新をもたらしたのです。革新された情報技術(IT)が現状路線の経営技術に革新をもたらしたからです。そして、リエンジニアリング(BPR:Business Process Reengineering)は、企業内の業務プロセスを革新するのにとどまらず、企業間業務プロセス、企業・顧客間業務プロセス、更に国際間業務プロセスの革新にまで拡大して行きました。この結果として、IT革新、更に経営革新において先行したアメリカが日本から世界市場の覇権を奪回して「IT革命」が起こったのです。

2-5.TTの中核としてのインターネット

前記の2001/01/16 MISCO(三井情報システム協議会)ではまた、以下のような、如何にもジャーナリスティックなプレゼンテーションを聞きました。
IT革新の流れと情報主権の所在
第1次(50s) コンピュータの登場 P&Gなどのメーカーが情報を獲得
第2次(70s) ダウンサイジング Kマートなどのチェーンストアが情報を獲得
第3次(80s)  パソコンの登場 小売店や平社員が情報を獲得
第4次(90s) インターネットの普及 一般消費者が情報を獲得
これに対して私は「パソコン(PC)がPersonal ComputerからPersonal Communicatorに変わった時に現下のIT革新が始まった」という仮説を持っています。「情報化社会とはコンピューターが広範に導入されている社会であり、高度情報化社会とはコンピューター同士がネットワークで接続されている社会である」という定義に従えば、インターネットによるパソコンの相互接続が本格的な高度情報化社会への移行の契機となったと言えるからです。従って、「パソコンの登場」だけでは「小売店」や「平社員」が情報主権を獲得することはできず、「インターネットの普及」によって世界中(World Wide)のPC(Personal Communicator)が文字通りクモの巣(Web)状にネットワーク接続され高度情報化社会が到来したからこそ、「一般消費者」も含めた「Person」が情報主権を獲得したものと見ています。

インターネットが「IT革命」を惹き起こしたIT革新の中核になっているわけですから、もともとコンピューターを「情報」、ネットワークを「通信」と呼んでいたことから考えますと、革新された技術の実態は「情報技術(IT : Information Technology)」ではなくて寧ろ「通信技術(CT : Communication Technology)」であり、「IT革命」は「CT革命」と呼ばれるべきなのかもしれません。これは、ネットワーク技術が情報技術の重要な一環として捉えられるようになったことを示すものと考えることもできますが、いずれにしても、「革命」には一方に「経営技術(MT : Management Technology)革新」が伴わなければ実現しなかったという側面があったということも忘れてはならないと思います。リエンジニアリング(BPRBusiness Process Reengineering)による「経営技術(MT : Management Technology)革新」の中核はコンピューター・ネットワークのCT技術を利用したホワイトカラー主体の「情報」の収集・加工・伝達・保存・共用化といった「情報利用技術の革新」に他なりませんから、「IT革命はCT革新とMT革新によって成立した」と言い換えることもできそうです。
もともと「IT」はアメリカの情報産業で使われた言葉で、通信産業が力を持つヨーロッパでは「ICT」という言葉が一般的に用いられています。日本で「IT」が定着したのはアメリカによるインターネット革命の影響を強く受けたためで、2001年に施行された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」も「IT基本法」の略称で呼ばれています。しかし、インターネットへのブロードバンド接続やモバイル・インターネットの普及によって、インターネットが高度化するのに伴ってますますC(通信)のウェイトが高まり、政治的なプロパガンダとしての「IT戦略」という言葉の魅力が薄れてきたのは確かなようです。政府でも、この点を意識して、2005年度予算の概要要求に向けて、「ICT政策大綱」と銘打った文書を発表しています(2004/8/27)。同時に、政府のIT戦略の別称として用いられてきた「e−Japan構想」という言葉も、「ユビキタス」に因んで「u−Japan構想」に改称しています。しかし、「ICT」も「u−Japan構想」も未だに市民権を持った言葉になっていませんので、このテキストでは従来通り、それぞれ「IT」及び「e−Japan構想」という言葉を中心に使っていくことにします。なお、「ブロードバンド」、「モバイル」、「ユビキタス」などについては「コミュニケーション・メディア論」を参照してください。

<こぼれ話>

TQCの効能

日本の世界経済における地位が下がったため自信を失ったせいなのか、従来の品質経営を逸脱して品質問題によって経営を危殆に瀕しさせている日本企業が相次いでいるのは残念なことです。本文で触れたとおり、TQCベースの経営に限界があったことは事実ですが、TQCに優れた効能があったからこそ”Japan as No.1”が実現できたのであり、米国企業もTQCを学んだ上で経営革新に踏み込んだという側面があるということは忘れてはならないと思います。TQC本家として、その優れた面は継承してゆく必要があり、また価値のあることだと思います。ここに、二つだけTQCの効能をご紹介します。

ノウハウが会社の財産になる

本社通信機器営業企画部門で商品企画と販売推進の業務に携わっていた時に、営業前線から聞かされる「売れない理由」は決まって、「A.新製品がない」か「B.販売促進策が不備である」か「C.価格が高い」かのいずれかでした。そして、例えば、新製品を出せば販売促進策の不備が指摘され、販売促進策を整えれば価格競争力が取りざたされるといったように、この三つの理由が入れ替わり立ち代り営業前線から指弾されますので本社企画部門としてはモグラ叩きの対応を迫られておりました。

ですから、ペンテル社が新機軸の水性インク式ボールペンを発売した時の体験談を聞いた時、最初は「どこの会社も同じなんだなあ」と思いました。営業マン達は「店頭ディスプレー(販売促進策の一つ)が足りないから売れない」と答えたというからです。しかし、さすがにTQCを導入していたペンテル社が違っているのはこの後の話でした。「それでは売れている店はないのか」と営業マン達に反問したのだそうです。そうすると、確かに売れている店では売れているという事実が分かり、層別して調査したところ、売れているお店からは、店頭ディスプレーの有無とは関係なく、次のような特性が抽出されたということでした。

・ シャープペンシルの隣ではなくて万年筆の隣に陳列している
・ 試し書き用のメモ用紙をおいてある

水性インク式ボールペンは、油性式に比べるとインクだまりがなくて使い勝手が良かったのですが多少値段は高いものでした。しかし、陳列場所を変えれば割高感は気にならなくなりますし、使い勝手の良さはお客様に試し書きして体験していただかないと分かりづらいものだったのです。更に店頭でのお客様からの質問内容を分析してみると、「替えカートリッジの価格」と「どのくらい書けるか」の2項目が中心であり、後者については「xxxxメートル」では分かりづらく「原稿用紙xx枚」という説明をしないとお客様に理解してもらえないということまで分かりました。

要するに、営業マン達は事実を調べることなく、先入観で「売れない理由」を言っていたのです。ペンテル社では、この「事実による管理」の成果を活かして、試し書き用のメモ用紙がおけて、「原稿用紙xx枚書ける」と「替えカートリッジの価格」を明記した店頭ディスプレーに改善するとともに陳列場所などの示唆も加えた小売店用資料を作成したそうです。「このようにして得た実践的な販売ノウハウは我が社の財産になりました」というペンテル社の方のお話を、モグラ叩きに忙殺されていた私は恥じ入りながら聞きました。もし私だったら、営業マン達の言葉を鵜呑みにして、なけなしの財源を捻出して旧態依然の店頭ディスプレーを追加作成していたことでしょう。そして、その店頭ディスプレーは販売促進の役に立たず、今度は営業前線から「価格が高いから売れない」と攻めたてられていたのに違いありません。

「代用特性」の考え方

TQCでは「PDCAの管理サークルを回す」という表現がよく使われていました。計画(Plan)を立て実践し(Do)計画達成上の問題点を吟味して(Check)から必要な問題解決を行った(Action)うえで新しい計画(Plan)を立てるという考え方です。そして、実行のともなわない計画のことを「プランプラン(plan-plan)している」と、逆に反省もなしに闇雲に実行することは「堂々(do?do)めぐり」と、それぞれ揶揄していたものです。

しかし、例えば「必達売上××円」と目標を立てることが即ち計画(Plan)を立てることであるというような誤解が一方にはありました。言うまでもなく、売上高というのはお客様が買ってくださらなければなければ実現しませんので、営業マンが自らコントロールできる数値ではないのです。結果としてこの売上高が実現できるような、顧客訪問頻度とか商品説明回数とか自分で管理できる指標を設定して計画(Plan)に織り込まなければPDCAの管理サークルは回りません。

TQCでは、このような管理指標を「代用特性」と呼んでいました。私の職場の周辺にも「この仕事は上手にやってくれ」というような曖昧な指示を下す管理者がいました。家庭でも「良い子にしているのよ」というお母さんの言葉がよく聞かれます。「上手に」と言われて困る部下、「良い子に」と言われて釈然としない子供のことを思うと、TQCでいう「代用特性」という考え方は、もっともっと日常生活にも採り入れていった方が良いのではないかと思います。ちなみに、高校野球の話を引き合いにしてTQCの理解を促進するため社内広報紙に掲載した文章がありますので、以下にご紹介しておきます。

初出場の東京代表・岩倉高校が常勝・PL学園を破り、優勝しました。ご存知、春の選抜野球大会。「あのPL学園でも負ける」「初出場校でもなせばなる」…岩倉高校の優勝に快哉を叫んだ向きも多かったのではないでしょうか?
「岩倉高校の勝因は“伸び伸び野球”にあり」と多くの評論家が指摘していました。確かに“常勝"の重い十字架を背負ったかの様なPL学園にくらべ、岩倉のナインの動きは、いかにも“伸び伸び”として見えました。どうして、こんなに“伸び伸び”プレイできるのか?
岩倉高校・望月監督のナインヘの指示「見逃し三振はするな。」の中に、“伸び伸び”の秘密の一端を見た気がしました。監督が選手に単に抽象的に「伸び伸びプレイせよ」と指示しただけであったら果して“伸び伸び”が実現できたでしょうか?
「見逃し三振」は「伸び伸びしていない事」の具体的な現われの一つに違いありません。こうした具体的な現われを捕らえ、具体的在指示を行なった望月監督に指導者としての非凡さを感じます。
伸び伸びしていない事」の事実に対する具体的な現われである「見逃し三振」の様な例を、TQCでは『代用特性』と呼ぶのだそうです。この『代用特性』を正確につかみ、管理指標としてとらえられるか否かが、組織及びメンバーの行動を活性化できるかどうかの鍵になります
翻って、当社の管理者はどう具体的な指示をし、メンバーはどんな自己管理の指標をもって行動しているしょうか?TQC導入は、こうした具体的な問題の改善を通じて経営体質を改善しようとするものです。現在の“悪さ加減”(TQC用語です)に目をつぶらず、事実関係を虚心担懐に見直してみましょう。創業10年には必要でもあり好機でもあります。


(Ver.1 2003/ 3/28)
(Ver.2 2004/ 7/14)
(Ver.3 2006/ 7/16
)

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