インターネット・ビジネス論


第1課  はじめに

嘉悦大学の「インターネット・ビジネス論」の講座をお引き受けしたのは199911月のことでした。時あたかも日本におけるインターネット・ビジネスの勃興期でしたから、講座が開設されるという2003年になればインターネット・ビジネスが極く当たり前のものになっていて話題性を失ってしまっているのではないだろうか、むしろ「非インターネット・ビジネス論」の方が関心をもたれるようになっているのではないだろうかとさえ思われる程でした。しかし、インターネット・ビジネスが進展してゆく過程を観察していけば、その中の本質的で普遍的な部分を表層的で一過的な部分から峻別することができ、今後の展開についての教訓や示唆を得ることができるのではないかと判断し、取り敢えず「日経ウォッチャー」となることを決意しました。

1-1.インターネット・ビジネス離陸期

2003年からのインターネット・ビジネス論講義に備えて、実際的に日本経済新聞の記事の収集を始めたのは1999119日のことでした。案の定、同日の日経紙には「ネット」の文字を見出しに含む記事が随所に掲載されていました。ざっと、列挙してみると以下の通りです。
p 1 プロバイダーの業界団体発足へ  高速ネット実現へ
p 3 株式ネット口座30万超す 手数料自由化が引き金
p11 韓国ネット市場に進出 ソフト大手に出資
ネットに生協発足 音楽や保険など供給
p13 携帯電話 情報端末に 手軽にネット接続
p16. 経営戦略、ネットで学べ ホームページにスクール
p17. 車ネット競売を強化 JAAと提携、週2500台供給
店頭企業分析「大井電気」 ネットで新事業目指す
映画ネット配信 来春300作品投入
このような記事の満載ぶりからしても、インターネット・ビジネスが助走期を過ぎて離陸期に入っている状況が見て取れました。「恐らく講義が始まる2003年度になったら、インターネット・ビジネスは安定成長期に入っており、上掲のような情報は話題性を失い何の報道価値も無くなっているだろう」というのが実感でした。そこで私は、こうした離陸期に身を置いて事実関係を観察した結果を蓄積し、これに分析を加えることによって得られる教訓や示唆を学生諸君に提供することを自分自身の課題として設定したのです。


1-2.講義に対する要求仕様

「インターネット・ビジネス論」の要求仕様は以下の通りです
インターネットを利用したビジネスの可能性、方法、利点、問題点などについて理解し、ビジネスチャンスを的確にとらえる能力を習得することを目的とする。
この中で最も重要と考えられる「ビジネスチャンスを的確にとらえる」ことは、ビジネスマンたる者の究極のテーマですから、その「能力を習得すること」も当然ビジネスマンにとっての永続的な課題となります。従って、ここでの鍵は、ビジネスマンになる前に「大学時代に習得すべき能力は何か」ということになります。

技術系の世界にはSTE(Science / Technology / Engineering) があるそうです。例に挙げるなら、コペルニクスの地動説、ガリレオの地球球体論というScience がなければ大洋航海技術というTechnology は生まれず、更に、このTechnology がなければ、コロンブスが帆船運行というEngineeringを駆使して新大陸発見を実現することができなかったということになります。

従って、Engineeringは極めて具体的な目的に基づくものであり、コロンブスの事例によれば、天候・潮流等の予測しがたい条件の中で、しかも限られた経費計画のもとに企てられ実践される冒険性のある行動であるということが分かります。
ですから、顧客のニーズ、同業他社の動向などの不確定な情報がある中で意思決定を行い、しかも、有限な資源を用いて計画を完遂しなければならないビジネスの実践はまさにEngineeringに匹敵するということになります。

これが、「インターネットを利用したビジネスの可能性、方法、利点、問題点などについて理解」する過程で、ST(Science / Technology)の能力を強化し、来るべき日のE(Engineering)実践に備えることこそ「大学時代になすべきこと」なのではないかと考え講義を構成するに至った次第です。

1-3.仮説を組み立てることの重要性

翻って、私自身が大学時代に学んだ事項のうちでその後の社会人生活(E)に最も有用であったことは何であったかと振り返ってみますと「社会科学は仮説の体系である」という科学的な(S)仮説と「自分なりに仮説を組み立てることが重要である」という考え方の技術(T)についての仮説ではなかったのではないかと思っています。

「仮説」とは「現時点において最も正しいと考えられる考え方」ですから、絶えず正しさを検証していき、必要に応じて修正・補完を加えるとともに、仮説と仮説の間の整合性を保っていくことが「自分なりに仮説を組み立てる」ことにつながります。

日本経済新聞でも「IT革命」という言葉を使い始めたのは2000年になってからのことですが、それよりも5年以上も前に三井業際研究所発行の「情報関連投資検討委員会調査研究報告書」「経営環境の変化と情報システム化投資」では言葉どおりの「IT革命」の実態を正しく捉えていたと思います。

これも「
世界経済の構造が各国経済を規制する」という基本仮説に基づいて組み立てた仮説の体系が正しかったからではないかと思っています。ところが、1995年に「経営環境の変化と情報システム化投資」で指摘している「現下の不況も、単なる景気循環に於ける変化事象として促えられ景気底打ち論が繰り返えされている」という状況が未だに続いているのは残念な限りといわざるを得ません。

1-4.“常識”を疑ってみる

要は、別稿のIT革命に関する考察」でも述べている通り、「革命」によって世界経済の構造が変わり、社会的歴史的に新しい段階に移行したにもかかわらず「IT革命」の言葉が軽く使われているだけなのではないかと思われるのです。

連日「デフレ」と「不況」の言葉がマスコミを賑わしており、ほとんど“常識”のように取り扱われています。しかし、どこまでが「デフレ」でどこまでが「不況」なのか、そして、現在が本当に「デフレ」なのか「不況」なのか、こうした“常識”も疑ってみる必要があると思います。

一時「価格破壊」という言葉がはやり、これを英訳するのに苦労しました。価格とは破壊する/されるものなのでしょうか。どうも、過去の価格レベルで繁栄をかちえていた供給者の被害者意識に発した言葉であり、需要者にとっては“価格創造”であったように思えます。現在使われている「デフレ」という言葉にも「価格破壊」と似たようなところがあるのではないでしょうか。

“革命”は敗者に“価値破壊”をもたらしますから、
TT革命によって敗れた日本経済に価値破壊が起こったのは事実でしょう。「バブル経済崩壊」などとこれも“常識”であるかのように言われていますが、これも実は価値破壊の一つの形だったのではないかと私は思っております。そして、労働力まで価値破壊されて新たな価値を生み出しえなくなってしまった日本経済の循環過程に、TT革新を利用して、または、アメリカ/IC(India & China)を基軸とする新たな世界経済構造のもとで生産することによって、“価格創造”した製品が大量に入り込んできたというのが「デフレ」の実態ではないかと見ています。

従って、「長引く不況」というのは事実関係を正しく捉えた表現ではなく、「規模のレベルが大きく低下したところで好不況サイクルを繰り返している」というのが日本経済の正しい見方なのではないかと思っています。

1-5.自分の木を育てる

マスコミ報道だけでなく、著名な学者や高級官僚の発言はそれぞれに影響力が強く、また当然それだけの卓見を含むものが多いのということは事実だと思います。しかし、それらをすべて“常識”として鵜呑みにして受け売りするのは如何なものかと思っております。

論者の視座(根)と視点(幹)によって文脈(枝)と個々の論議(葉)が違うのですから、葉の部分だけ総花的に捉えたのでは、自分自身の木(自分なりの仮説の体系)の根や幹、枝の部分を育てることができないと思うからです。

「インターネット・ビジネス問題」にも百家争鳴の議論があって、下手をすると表層的な論議の受け売りに終始してしまい、一大歴史的社会的事象である「IT革命」とかかわった本質的な部分を見失ってしまう恐れがあります。

この「インターネット・ビジネス論」も、極力受け売りは避けて、私自身が観察して分析した結果を、「インターネット」という幹を第1−13課の大枝(例:第8課「インターネットビジネスの諸相(BtoCビジネス」)に分け、更にそれぞれの大枝に小枝(例:「8-5.One to One マーケティング」を生やして全体をツリー状に纏めたものです。

インターネットを中心とした情報通信の世界が“ドッグイヤー”と呼ばれるほどの猛スピードで進展しているだけに、これをめぐるバズワード(buzzword:いかにも,もっともらしい専門用語で専門家や通人が好んで用いるような言葉)もめまぐるしい勢いで横行しています。

しかし、自分の木の枝ぶりさえ整えておけば、一つ一つの言葉に心を煩わされることなく、「インターネット・ビジネス論」全体の中にきちんと位置づけして捉えることができるはずです。このようなテキストの構成に関する考え方も一種の「仮説」ですから、適宜「検証」を加え、必要に応じて修正していくつもりです。この講義を通じて、皆さんご自身の「インターネット・ビジネス論」の木(自分なりの仮説の体系)を育てていくことを学んでいただければと願っています。

<こぼれ話>

仮説の効用

自分なりの仮説を持つことは自由時間の過ごし方を充実させるためにも重要なことのようです。私自身が見聞し体験した事例をいくつかご紹介しましょう。

シベリア仮説

東芝に入社してすぐの頃、私は余暇の過ごし方について迷っていました。将来に予測されるビジネスの国際化の方向に備えて「語学を勉強する」ことを基本仮説とすることは容易にできたのですが、ではどの言語を勉強したらよいのか選択に困ったからです。英会話は学生時代から勉強している者も多いので今更勉強しても希少価値は生まれない。ドイツ語、フランス語、スペイン語となると、多少は珍重されるだろうが、これもそれなりの数の“先達者”がいるので面白くない。そこで、私が考え付いたのが「シベリア仮説」でした。それは、「ソ連によるシベリア開発が近い将来進展する」という仮説から「シベリア開発に関して日本の企業にビジネス・チャンスが生まれる」という仮説につながるものでした。そして、それは当時のソ連の国勢と、シベリヤへの距離はレニングラード(現在のペテルスブルク)などのソ連内工業都市より日本からのほうがはるかに近いという事実関係に裏付けられて、なかなかユニークでいながら有力な仮説であるように思われました。残念ながら、仮説がはずれ、勉強したロシア語をビジネスで実用する機会にめぐり合うことはできませんでしたが、ロシア語の学習を通じて当時ソ連の文化の片鱗に触れることができました。自由時間の過ごし方について結論を出さぬままにいたら、多分連日のように余暇は飲み会や麻雀など“良からぬこと”に費やされていたことでしょうから、語学研修によって副産物ながら得られたのは大きなプラスであったと今でも満足しています。

パチンコ仮説

これも東芝に入社してすぐの頃のことですが、片倉修さんという人が私の所属していた部の部長としてこられました。小説「樅の木は残った」で有名な白石藩主・片倉小十郎の末裔だそうで、当時も「今でも国に帰ると殿様扱いされる」といわれておりましたが、いろいろな面で一家言をお持ちの魅力的なお人柄でした。その一家言(片倉仮説)の一つに「無我の境に達するのにはパチンコに限る」というのがありました。何やらご自分のパチンコ好きを正当化する我田引水論のような気もしましたが「達磨大師さえ面壁九年といわれるように壁に向かって9年間もかかったのに、パチンコ台と対面すれば瞬時のうちに無我の境に達することができる」というのが「パチンコ仮説」の論拠だったのです。更にこれには、これも職業貴賎論争を招きがちな「囲碁将棋は車夫馬丁の遊戯」という片倉仮説がありましたから、「仕事で頭を使う者は余暇には頭を休めて体を使い、仕事で体を使う者は余暇には体を休めて頭を使うべきである」ということを仰りたかったのではないかと思います。これを更に「仕事中には得られない満足感の補償を余暇に求める」という余暇補償行為仮説に置き換えてみると説得力が一層増すように思えます。入社後10年ほどして、東芝ビル建設現場で、既設の倉庫ビルにクレーンで吊るした鉄球で連日壊し続けている作業者を見て思ったものです。通常、労働は生産や建設に向けてなされるものである。しかるに、この作業者の労働はもっぱら破壊のために向けられている。生産の喜びの補償のため、この人は余暇には手芸などをして精神衛生を保っているのに違いないと。

魚釣り仮説

私が東芝を就職先として選んだのには「国内では最も早く土曜休暇を実現しそうだ」という不純な動機が含まれていたのですが、それでも土曜休暇が現実のものとなるまではかなりの年月を要しました。従って、通常の休日は日曜日だけ。しかも、働き盛りの私は徹夜交じりの残業続きの毎日でした。土曜日に出勤しても残業にならない当時で、月平均75時間、最高月122時間という数字から見ても相当な激務であったことがお分かりいただけると思います。しかし、そんなさなかでも、唯一の休日である日曜日となると、早朝に釣竿を携えて日吉独身寮を“出奔”するのが私の常でした。片倉仮説の信奉者であった私は「仕事の疲れは精神の疲れ。精神の疲れは肉体を疲れさせることによって癒される」という仮説に置き換えて実行していたのです。実際、強風などで釣行ができない日曜日があると、次の週の激務が耐え難いほどつらいものになったという記憶があります。また、余暇の過ごし方について様々な選択肢の中から「正解」を探しあぐねたままでいることなく、「魚釣り仮説」を採り入れたために、誰にも負けることのないほど充実した余暇を過ごせたのではないかと思っています。事実、ひと釣りしてから時計を見て「あれっ、まだ8時か」などと驚いたことが何回もありますが、「魚釣り仮説」でももっていなかったらなかなかこうはいかなかったことでしょう。目覚めるのが9時か10時。それから「さて今日は何をしよう?」では大したことができるはずがありません。この「魚釣り仮説」が現在の私の「テニス仮説」の原点になっています。

1-6.「仮説と検証」の実践

「週刊 東洋経済」2003/4/12増大号では、「セブンイレブン“勝つ!”論理思考」を特集し、その中で、「会社を設立してから今年で30年。この間ただの一度も減収を経験していない」優良企業・セブンイレブンの最大のKFS(成功要因 : Key Factors for Success)を、「今ある情報から顧客が明日とるであろう行動を考える。そして仮説を立てる。実売に照らして検証し、また仮説を立てる」という「論理思考」にあるとしています。また、セブンイレブン・ジャパンの鈴木敏文会長は、同特集中の「顧客の心理と行動を読むロジック」で、以下の6点を掲げられ、その中で「仮説と検証」の実践について具体的に解説されています。
(1)    買い手の立場で考えてみる
人間は過去の仕事の仕方、過去のやり方に埋没しがちですから、頭ではわかった気がしていても毎日に追われていると市場の変化に対応することができません。セブンイレブンでは創業当時から仮説を立てて検証するという作業を通じて変化に対応してきたから買い手市場への変化にも対応できているのです。
(2)    「仮説と検証」が相手の心をつかむ
どこにも負けない品質、味の商品を開発するために「こんな品質の商品、こういう味付けの商品なら売れるのではないか」という仮説を立てて独自の商品を開発し、検証する作業を徹底的に繰り返してきました。仮説・検証、仮説・検証の連続でやってきたのです。いろいろな時期にさまざまな変化に見舞われても、つねに「こういう条件ならこういう商品が売れるのでは」という仮説を立て続けてきたから対応してこられたわけです。立てた仮説がすべて的中してきたわけではないがブレが少ないのです。
(3)   データ収集は手段であり目的ではない
セブンイレブンは全店から膨大な売り上げデータを収集し分析していますが、データが精緻だからといって、仮説・検証が精緻になるわけではありません。データも大事ですが、それ以外にもさまざまな周辺情報が必要です。たとえば商品の発注量を決める際、これも大事な仮説の一つですが、店の近くのグラウンドで明日早朝に野球があるとなれば、何人ぐらい集まるといったことを事前に調べておく。仮説が的中するかどうかは、どれだけの情報を積極的に集めるかにかかっています。普通にやっていれば、それは単なる勘でしょう。それでは駄目なんです。
(4)    皮膚感覚を軽視するなかれ
真冬でも暖房の中は暖かいし乾燥しているため、冷やし中華を食べる需要はあるはずです。アイスクリームも今ではすっかり年間商品となりよく売れています。従来の常識にとらわれずに、生活の中での心理の動きや皮膚感覚を織り込んだ仮説を立てることが大切なのです。
(5) 美味しいものほど飽きられやすい
(6)  今こそ「相手への一声」が必要だ
本テキストの第2課で詳述するTQC(全社的品質管理)の基本的な考え方の一つに「特殊性を偏重すると成長が阻害される」というのがあります。「これはコンビニエンス・ストア業界という特殊な世界の話だから」ということで優良企業・セブンイレブンから学ぶことを止めてしまったら折角の成長の機会を失ってしまうことになるでしょう。また、同じくTQCの「次工程はお客様」という考え方に従えば、「顧客の心理と行動を読むロジック」は、「次工程の心理と行動を読むロジック」にそのままつながるものですから、「仮説と検証」の「論理思考」は企業人・組織人の行動指針に幅広く採り入れてゆく価値がありそうです。

1-7.「仮説」から「仮想」へ

前述の通り、特殊性を偏重することが、自己の成長を阻害する原因になる一方で、一般的な傾向に身を委ねて無為に過していると、とんだ停滞、更には、破綻にまでつながることがありますから注意が必要です。多く企業が、「世の中不景気だから」と一般的に考えて、成長のための施策を打たず手を拱いている間に、独自の「論理思考」によって活路を開いている企業が存外身の回りにも見当たるかもしれません。以下の専門紙による報道もそんな一例です。
答え探す京急百貨店

京急百貨店(横浜市港南区上大岡・神田捷夫社長)の開業は1996101日。97/10月は開店景気の影響を受けたが、翌11月から200311月まで売上高が前年同月を下回った月はなく、73ヶ月連続で毎月毎月成長を遂げている。地方百貨店の多くが苦戦する中その業績拡大ペースは際立っている。大型商業施設がひしめく横浜駅まで京浜急行で8分という激戦地にありながら、入店客数も毎年増え続けている。
2003/12/11-13,16-17 繊研新聞「地方百貨店は生き残れるか」)
神田捷夫社長は、以前に伊勢丹の浦和支店長をされていた時にも、長期間にわたる連続増収を達成されていますが、お人柄は穏やかそのもので、ひところの流行であった鬼軍曹型の指揮官ではありません。鬼のような叱咤激励なしで企業集団を引っ張っていくことができる秘訣は、やはり「論理思考」にあるようで、ご自分でも「“仮説”の域を超えた“仮想”を基礎とした経営を実践している」と言われています。より根源的、立体的かつ総合的に、事実関係の諸様相を“仮想”してみること。バーチャルな発想をすることによって、戦術の域を超えた戦略が見えてくるのだそうです。繊研新聞「地方百貨店は生き残れるか」シリーズにも、神田社長の“仮想”の産物である以下のような戦略が紹介されています。
1.基礎商圏の深耕
商圏を、地元の港南区を中心とした「基礎商圏」、横須賀市などを含む周辺地域の「戦略商圏」と、更に外辺の「影響商圏」に分け、先ずは、「地元の生活者本位」の経営を地方百貨店としてのあるべき姿と仮想し「基礎商圏を固める」戦略指針を打ち出しています。坂道が多い地域に立地する同店が始めた自宅配送サービス「本日お届け便」も、この戦略指針から生まれた「地域密着」戦術の一環であり、特に高齢者のような車で来店できない顧客などに好評を博しています。
2.「マグネットパワー」の強化
99年には、マツモトキヨシとヨドバシカメラを導入しています。これにも、商業施設全体の使用効果・効率を高め低コスト運営を実現するとともに、ともに専門性の高いテナントが「長距離砲として遠方からの来客を促進してくれる」というマグネット(磁石)効果を仮想し戦略として取り入れたものです。また、「健康・美容やコンピューターに対するニーズの高揚」を先取りして仮想したものであるとともに、次項のMD戦略との相乗効果も狙ったものです。
3.親子3世代で来店する顧客が満足する間口の広い地域密着MD(Merchandizing)
「家族3世代が揃って楽しく買い物ができて、帰宅してから団欒の場でそれが話題になるようなストーリーを全館に持たせる」ことを戦略課題として掲げていますが、家族3世代の中でも「ポイントは子ども」だそうです。子ども層は、単独としてみると顧客単価が低く経営的に積極的なプラスになるものではありませんが、「子どもが来店したがれば家族がついてくる」になるという仮想に基づいて地域密着MD戦略を展開した結果が集客力向上の結果となって現われています。
4.「4番バッター」として業績拡大の原動力となる食料品売り場の拡大
“デパ地下ブーム”が起きる前から、これを先取りするような品揃えを重視してきています。食品スーパーの激戦地にある郊外型百貨店の立地条件から顧客行動を仮想して、「駅地下」にある食料品売り場の利点を活かすとともに、「効率ばかり狙わず」特色を鮮明にするために品揃えを充実させることによって食料品売り場を「4番バッター」として育て上げ、更にその売場面積拡大のために重点投資戦略を行ったのです。
神田社長はまた「優勝しようという気持が大事で、勝ち続けていけばチームはまとまる」と連続増収の効用を語られています。「仮説」であろうと「仮想」であろうと、先ずは「〜しよう/したい」といった目的や希望を持つことが必要だということを示唆されているわけです。この点も傾聴して、今後の学業や社会人としての進路選択の際に大いに役立ててください。


(Ver.1 2003/ 3/28)
(Ver.2 2004/ 7/14)
(Ver.3 2006/ 7/16
)

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