コミュニケーションメディア論 |
第9課 メディア間の競合と融合 |
1.メディア間の競合
第6課「モバイル化」で考察した携帯電話、PHS、PDS、携帯パソコン相互間の競合を初めとして、メディア間には数々の競合関係が生まれ、あるものは一方が一方を駆逐し、ある時はそれぞれが適材適所で棲み分ける形となり、あるケースでは両者が融合する形で決着が付いています。ここでは、メディア間競合の典型的なパターンを抽出して以下に考察を加えていくことにします。 パソコンやケータイ経由でインターネットから様々な情報が得られるようになったため、特に雑誌の売れ行きが落ち雑誌出版業界が厳冬期を迎えているという趣旨の報道がありました(但し、パソコン誌は例外だそうです)。
一方、電子化された情報をフロッピー・ディスク(FD)やCD-ROM、磁気テープ、光ディスク、DVD(デジタル多用途媒体)やICカードなどのパッケージ型電子媒体を使って出版する「電子出版」(電子媒体による出版)の進展によって、オールド・メディアの代表格である紙を媒体とする図書も、かなりの部分が電子媒体に置き換えられてきています。 いずれも、情報技術(IT)の革新によって、遥かに効率的な情報・データの検索/生成/加工/保管/伝達ができるコミュニケーション・メディア(インターネット及び電子記録メディア)が開発され、これがオールド・メディア(図書)との競合に勝って一部を駆逐した事例と見ることができます。 しかし、オールド・メディアの中でも、こと図書については他のメディアにはない「ハードウェアとコンテンツの一体化」という特質があります。このため、特に文庫本などの軽量な“ハードウェア”はどこにでも携帯して行ってそのままその“コンテンツ”を読むことができます。また、“ハードウェア”のページをパラパラとめくる(イコラージュする)だけで“コンテンツ”の概要を知ることができたり、良いとこ取りしたりすることができます。この点が、CD-ROMなどに収納された“コンテンツ”が読取装置という“ハードウェア”や個別検索手順なしには利用できないのと対照的なところです。 また、アマゾン・コムが「インターネット書店」という新業態として登場したために、これが書籍市場を席巻し在来の書籍商という業態の存在意義をなくすかに見えましたが、逆に大型書店の出店や書店のチェーン展開が盛んに見られるのは、図書の特質に対して店(見せ)の機能が有効に働くためであると考えられます。 LSI技術と高密度装着技術の進歩によってコンピューターは性能を大幅に向上させながら同時的に小型軽量化し、ついには高性能なパーソナル・コンピューターが市場に登場し商品化するに至りました。しかし、華々しい市場への登場ぶりとは裏腹に、パソコンの普及スピードは遅々たるものに過ぎませんでした。「パーソナル」の触れ込みとは違って、会社や学校のグループで共有される形が一般的でしたし、利用されるのは精々簡単な表計算や文書作成業務程度で、ゲーム用として使われたり使われずに埃をかぶっていたりするケースさえ随所に見られました。 ですから、パソコンの性能は活かしきれておらず、むしろOA化の主役の座は文書作成機能に特化した日本語ワードプロセッサーが占めていたというのが実情でした。このため、パソコンは文書作成機能を強化し、一方のワープロは演算や表計算機能を強化して対抗するという、いわゆる「パソコンのワープロ化、ワープロのパソコン化」という現象が生まれ両者の機能が重複してきました。 ワープロの優位が崩れたのは、スタンドアローン(単体)のパソコンがネットワーク化され、そのメール受発信を中心とした通信機能が大きな機能を果たすようになってからのことでした。ワープロも通信機能を強化して対抗したのですがパソコンのコミュニケーション・メディアとしての威力には抗すべくもなく、更に互換性の高いパソコン用のOSやパッケージ・ソフトの出現によって追い討ちをかけられる形となりました。 そして、コンピューターのネットワーク化がインターネットの出現という形に行き着いた時に情報と通信が融合し、パソコンの文字通りパーソナルな情報通信端末機器としての地位が確立したのです。「パソコン(PC)がPersonal ComputerからPersonal Communicatorに変わった時に現下のIT革新が始まった」という仮説の根拠はここにあります。
1−3.新三種の神器
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2.メディア間の融合
第5課「ブロードバンド化」では、オールド・メディアである映画がインターネットや光ファイバーまたは通信衛星などのコミュニケーション・メディアと融合して映画産業にBPR(リエンジニアリング)を実現させた事例を考察しました。古いタイプのコミュニケーション・メディアであるCATV(ケーブルテレビ)がインターネットと融合してブロードバンド・ネットワークの一角を占めるようになったように、今後もインターネットを中心としたメディア間の融合が進展していくものと考えられます。ここでは、第8課までに考察の対象にならなかった事例を取り上げて以下に考察を加えることにします。 最大2000字までのメールサービス「Lメール」も利用でき、通常の電子メールや携帯電話とのやりとりも可能です。パソコンを利用するのと異なり、設定やホームページアドレスの入力が不要で、画面に表示されたメニュー番号を押すだけで検索ができます。 「Lメニュー」として以下のようなコンテンツが用意されています。 ・ 地域情報(天気予報、タウンページなど) ・ 在宅取引(バンキング、通信販売、チケット予約など) ・ 生活支援情報(医療・福祉情報、料理レシピなど) ・ 教養娯楽情報(グルメガイド、映画・音楽情報など) ・ その他の一般コンテンツ(URLで検索)
通信コストが一般の通話の料金と同額かかり、例えばどんなに短いメールでもLモードでは1回10円課金されてしまうのが難点ですが、操作が簡単ですので専業主婦や高齢者など今までネット接続には無縁だった層をインターネットの世界に誘い、デジタル・デバイド解消に一役買うところに意義があるようです。 IP電話は、インターネット通信を正確に行うための方式を意味する「インターネット・プロトコルIP
(Internet Protocol)」を用いた電話の方式で、音声を細切れにした「パケット」でやり取りして通話します。 インターネットの技術を用いて音声をやりとりする仕組みで、IP電話会社が独自のインターネット網を構築してサービスを提供するものですから、これも古いメディアである電話とインターネットとが融合した形だと言えます。 高速大容量のADSL(非対称デジタル加入者線)を使うタイブが主流です。普通の電話機と電話線の口(モジュラージャック)の間に、専用アダプターをつなげば、固定電話と同じように話せます。普通は、固定電話に加入したうえでADSLを使うので、固定電話とIP電話の両方に加入することになります。 現時点では、IP電話からインターネットを通じた通話ができる相手は、提携会杜のIP電話と固定電話だけです。提携していない会社のIP電話にかける場合は、電話機が自動的に固定電話に切り替わり、IP通話と固定の中間の料金がかかります。 2−2−3.低い利用コストIP電話同士の通話料を無料にできる理由は、まず第一に、固定電話に比べて設備費用が少なくてすむからです。固定電話では、アナログ音声を電話回線の交換機を通して通話しますが、この交換機が高額なので、NTTは通話料をとって機械の購入費用などを賄っているのです。これに対して、IP電話は音声をデジタル信号で細切れにしてインターネットに流す仕組みですから、コストは交換機を使うよりはるかに安くてすみます。 第二に、IP電話の通話料とは別に徴収するADSL利用料でIP電話の設備費用をまかなえるので、IP通話料は安く抑えることができるのです。ADSLの主な利用目的は、高速大容量でインターネットに接続することですので、IP電話はおまけのようなものなのです。
ただし、IP電話の揚合、通話料とは別に、専用アダブターのレンタル料金と基本料金(合計で1,000円程度/月)もかかります。さらにADSLの利用料金もかかるので、インターネットを使う機会が少ない場合には、従来の固定電話の方が有利になる場合もあります。しかし、通話だけでも、遠距離の親族や取引先に頻繁に電話をする家族や企業には、合計費用が固定電話より安くあがって、経費削減効果が挙がる可能性があります。 IP電話は長距離通話を利用する機会が多い事業体ほど大きな導入メリットが期待できますので、現実に経費削減を狙って企業や自治体の間にIP電話を導入する動きが広がっています。先進的な導入事例及び今後の展望について次のような報道がされていました。
IP電話はインターネットに音声をのせる新しい仕組みなので、電話音声とパソコンデータ通信の融合による新機軸の通信サービスも生まれてくる可能性が大いにあります。例えば、画面で相手の姿を見ながら、IP電話で通話する、いわばパソコン版のテレビ電話システムが可能になっています。これはパソコンに組み込んだカメラで通話者の画像を取り込み、これと電話音声を一体化して、ネット経由で相手の電話に送信する仕組みです。また、留守番電話に音声メッセージを吹き込むと、パソコンや携帯電話の電子メールなどに文字情報として表示される仕組みも検討されています。 2−2−5.普及のための課題と展望 まず、加入者数を拡大するためには、無料でかけられる相手先を増やすことが欠かせません。IP電話に加入した電話機同士の通話をすべて無料にするには、IP電話サービス会社間の通話規格を統一することが必要です。規格の統一にあたっては関連会杜にIP電話サービス会社を持つNTTが主導的な役割を果たすことが重要なのですが、そのNTT自体が消極的になってしまうために規格の統一が進まなくなる恐れがあります。IP電話が急拡大すると、インターネット接続サービスのうち、NTTのISDN(総合デジタル通信網)からADSLへの乗り換えが加速する可能性があり、その結果、NTTはISDN向けの投資費用を回収しにくくなるので、逆にIP電話の普及を遅らせようとする可能性があるのです。 さらに、都市と地方の格差の問題も解決する必要があります。ADSLはNTT電話局との距離が遠くなると利用できなくなります。このため、電話局の少ない地方は、都市部に比べてIP電話をできる世帯が限られてくるからです。また、ADSLは高周波の信号を使うので、ノイズに弱いという弱点があり、室内を飛び交うノイズの影響で通話が切れたりするケースや高圧鉄塔・変電所やエレベーター機械室の近くの部屋ではIP電話が使えないことさえあります。通信障害を起こさないためのADSLのノイズ対策の技術開発も進められていますが、一方では、ADSL方式の対抗馬として、光ファイバーを使う光IP電話の実用化が東電系と関電系の電力系通信会社によって開始されています。光ファイバーによるネット接続は初期工事費がADSLに比べて高いことがネックになっていますが、将来的には光IP電話が主流になる可能性もあるものと見られています。 現実に、家庭や事業所への引込み回線に銅線を用いたIP電話に対して、回線に大容量の光ファイバーを、通信方式にインターネットの通信規格(IP)を使う「光IP電話」が次世代サービスとして開始されることなり、以下のような報道がされています。本格的なブロードバンド(高速大容量)サービスへ移行するには末端までの光回線化が必要になるわけですが、既存サービスでの料金競争激化に促される形で「光IP電話」の導入が促進されることによって、日本の固定電話網が末端回線までの全面光回線化に向けて大きく動き出すものと考えられます。まだまだ、光回線敷設のための巨大投資の回収をめぐってのNTT光回線の貸出義務の問題などの課題が残っていますが、長年にわたって電気通信の主役をになってきた固定電話に「光IP電話」が代位するとともに、テレビ会議や遠隔治療、放送などとの融合が更に促進される一大画期が訪れることが現実味をもって予測されるようになってきました。 2006/9 NTT東日本のIP電話に重大な通信障害が発生しました。ネット技術活用による低価格サービス提供を武器に利用者を伸ばしてきたIP電話ですが、思わぬところで通信の命である「安定さ」を保てない技術の未熟さをさらけ出し、ネットワークの脆弱さを露呈してしまうことになってしまったわけです。IP電話では、パソコンと同様に、ソフトウェアによって通信が制御されます。このため、バグや入力ミスによって不具合が生じやすいところがありますので、バグの総点検や入力ミス防止対策の整備が完了していない現在はなお“技術的発展途上”の段階にあるといわざるを得ません。特に企業にとって、電話ネットワークは生命線になりえるものですから、「安定さ」を確保するための技術的改善も今後の普及のための大きな課題となります。 しかし、こんな技術的な未熟さを残しながらもIP電話の普及は、国内のサービス開始(2001年)以来急速に進み、200/6末の利用者は約1,200万件を突破しました。これは、家庭・事業所の約2割が使っている計算になります。従来の固定電話同士だと、60キロメートルを超えると3分42円(昼間)かかるところ、IP電話から従来の固定電話にかける場合の通話料は3分8円程度で済みますし、同じIP電話会社への加入者同士なら無料で交信できるというサービスもあります。このような料金の安さだけではなくて、「050」で始まる専用番号ではなくて、「03」など従来の電話番号をそのまま使えるサービスも登場して、使い勝手が向上し、普及を後押ししています。また、光回線の新規加入者の約8割がIP電話に加入するようになっているところから見ても、FTTHの普及とともにIP電話は普及の速度を高めていくものと思われます。
2−3.テレビ電話 離れた場所にいる人とでも、モニターで顔を見ながら通話ができるテレビ電話は、文字通り、テレビと電話という二つのコミュニケーション・メディアが融合したものですが、これ自体は新しいものではなく、日本でも1935年に「横浜博覧会」で実験が行われ初登場しているくらいです。しかし、初期のテレビ電話はアナログ式で画像の質が悪く、通信速度も遅かったのでなかなか広まらず、ごく一部の大企業の拠点間のテレビ会議などで使われていた程度でした。徐々に利用者が増えだしたのは、1991年にデジタル式のテレビ電話が発売されて以来のことでした。 そして、パソコンにマイクをつけて使うタイプの「インターネットテレビ電話」も登場。更に、モバイル化とブロードバンド化によって、テレビ電話の世界がビジネスや医療などに広がっただけでなく、パーソナル・ユースの携帯テレビ電話も実用化されました。その上、テレビが最新のコミュニケーション・メディアであるケータイと融合して、ケータイによるデジタル放送の受信という新しい形の「テレビ電話」が実現するまでに至っています。テレビ電話の発展の歴史の中にも、典型的なコミュニケーション・メディアの新潮流の過程を見て取ることができます。 NTTグループでは、2003年1月末に、第三世代携帯電話FOMAとパソコンでのテレビ電話を実現する映像コミュニケーションプラットフォームを発表しました。ブロードバンド環境に接続されたパソコンとケータイFOMAの間、およびパソコン同士でのリアルタイム双方向映像通信を可能にするものです。テレビと携帯電話とパソコンを融合させた形のものですが、これによって、テレビ電話による交信は更に高速化するとともに応用領域が広まることになりました。映像・音声品質が向上するとともに、ケータイとパソコンの接続により、コミュニケーションできる相手先が拡大し、以下のような新用途への展開の道が開けたからです。 ・ 営業社員等の顧客対応における遠隔地からの専門家による支援拡大 ・ 外出先から自宅の状況を確認するモニタリング利用 ・ SOHOにおける映像コラボレーション ・ 自宅や外出先等から授業をうける遠隔ラーニング 2−4.IPテレビ電話インターネットの通信プロトコルであるIP(インターネットプロトコル)技術を利用したIP電話が更にテレビ電話と融合したIPテレビ電話が登場し、IPをベースとしたコミュニケーション・メディアが本格的な利用時代を迎えようとしています。 IPテレビ電話機とは、IP電話にテレビ機能を付加し、電話の相手の顔を見ながらリアルタイムで会話ができる音声と映像によるマルチメディア端末で、普通の電話機と一体化させ簡易に操作できる製品も発売されています。 こうした誰もが、いつでも、簡単に、Face to Faceの通話ができるIPテレビ電話サービスが広く商用化されるようになったのは、ADSL(非対称デジタル加入者線)や光ファイバー回線などのブロードバンド・ネットワークの普及によって、インターネットを利用して音声と動画像を同時に送受信することができるようになったからです。 IPテレビ電話に先鞭をつけたのは外国語会話学校の株式会杜NOVAで、テレビ電話ネットワーク「ギンガネット」に接続する専用テレビ電話セットを平成9年から「お茶の間留学」用の端末として導入しています。この「お茶の間留学」とは、NOVAが展開する双方向通信システムによるeラーニング(遠隔語学学習)サービスで、大阪市難波のマルチメディアセンターに在籍する外国人講師(約1,000人)と全国にいる生徒(約16万人)をテレビ電話で結び、24時聞リアルタイムで英語やフランス語、ドイツ語、中国語、イタリア語、スペイン語の6ヵ国語の語学レッスンを実施しています。 当初はISDN回線を利用していましたが、2004/2に株式会社NOVA、株式会社ギンガネットと関西電力株式会社系回線サービスの業務提携によるIP通信を利用したコンテンツの配信が開始されたのを皮切りに、各地区の電力会社との連携によってFTTHサービスが導入されています。同じブロードバンドでも、ADSLでは回線品質にばらつきがあることや、上り速度が十分でないためにサービスの提供に消極的だったのですが、FTTHであれば十分な品質でサービスが提供できるとして、一気にFTTH版「お茶の間留学」に本腰を入れることになったのです。 このコミュニケーション・ネットワーク・システムとして導入したのがIPテレビ電話端末「ギンガネット電話」で、これにより「お茶の間留学」の生徒は、いつでもどこでも、好きな時間にクオリティの高い授業を自宅で受けることができるようになりました。カメラにより講師と生徒がアイコンタクトをとりながらコミュニケーションが行えるようになっていますので、テレビ画面に映し出された講師と生徒は、お互いに相手の表情を見ながら身振り手振りで会話ができるようになっています。今までのようなコマ送りのテレビ電話とは違って、毎秒最大30コマという高水準の動画像を実現していますから、リアルな映像を見ながら学習することができるのです。テキスト類などの静止画像もクリアに表示できますし、普通の電話の2倍の音声域を表現できるクリアなハイファイ並みの音声によってネイティブスピーカーの微妙な発音を聞き分ける練習をすることもできます。 「お茶の間留学」用の専用端末は、発売当初はパソコン一体型でしたが、翌年の平成10年からはテレビに取りつけるタイプが導入されましたので、家庭のテレビにつなぐだけでテレビ電話に変身、操作もすべてリモコンを使って簡単にできるようになりました。自宅のテレビにラインを取りつけるだけという家電並みの操作性で、機械が苦手なユーザーでも簡単に扱えますし、「お茶の聞留学」以外でもインターネットのホームページを閲覧する機能が搭載されているため、例えばショッピングや旅行、保険、不動産などNOVAが提供する各種サービスも利用できます。
2−4−3.IPテレビ電話端末
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3.通信と放送の融合
これまでに考察してきたインターネットの出現、モバイル化とブロードバンド(高速大容量)化の現象は、通信と情報(コンピューター)の融合という電気通信サイドの過程を反映するものでした。これに対して、デジタル放送ネットワーク化の現象は放送の世界の事象だったのですが、特に以下のような技術革新を背景として、通信の世界と放送の世界の間の垣根が取り払われ両者が融合する動きが顕著になってきました。 ・ 伝送路・コンテンツ・端末等のデジタル化 ・ 伝送路のブロードバンド化 ・ コンテンツ配信技術の開発と高度化(ストリーミング技術や圧縮技術、CDNなど) 高速インターネットの急速な普及と上述のような技術革新によってもたらされた具体的な新規現象は、以下のように例示することができます。
このような「通信と放送の融合」と呼ばれる現象が拡大・進展するのに伴って、ブロードバンド放送やプラットフォーム・ビジネスなど、従来の通信と放送の枠組みを超えたビジネスの領域が広がっており、今後も新たな市場やビジネスモデルが創出されることが期待されています。 しかし、ここで軽視してならないのはブロードバンド通信の市場構造です。新機軸の電力線インターネット・サービスも視野に入れて通信事業に参入している電力会社をはじめとして異業種から多くの事業者が参入し、プレーヤーが多様化するとともに事業者間競争が激化しており、これによって利用料金が低価格化し普及が促進されるという側面があった点は、比較的保守的な放送の事業領域とは違った市場特性を反映したものであると考えられます。このような通信事業者達の進取の気象が今後とも「通信から放送へ」の動きにドライブをかけていくものと思われます。 第7課「デジタル放送ネットワーク」では、本来は「通信」用として挙げられた衛星(CS:Communication Satellite)が「放送」を開始し、CSデジタル放送が「放送」衛星(BS:Broadcasting Satellite)によるデジタル放送に勝るとも劣らない実績を挙げるに至った過程を考察しました。特に、BSデジタル放送と同じ軌道上にある、東経110度のCSデジタル放送では、デジタル放送とインターネットを組み合わせたテレビショッピングや株式取引などの電子商取引、さらにはテレビバンキングや音楽・映像のダウンロード(取り込み)など双方向のサービスを中心に事業展開がされています。 この「見るテレビ」から「使うテレビ」への先鞭をつけ通信と放送の間の垣根をなくすような動きも、通信事業者による「通信から放送へ」のアクティブな動きの一つであり、放送事業者による放送のデジタル化の動きは、むしろ通信サイドからの攻勢に対する防御策としての意味合いを色濃く残すものであるものとみなされています。 3−2.放送サイドからのアプローチ本来は有線「放送」のためのコミュニケーション・メディアであったケーブルテレビ(CATV)が、ブロードバンド・アクセス・ネットワークの一環として「通信」事業に進出したのは、「放送から通信へ」の動きの数少ない例でした。CATVインターネットはまさに「CATV(ローカルエリア・テレビ)と「高速インターネット」という異なった二つの機能の融合体であるからです。アメリカに比べると大きく出遅れていた日本のCATVの世界でも、インターネット接続やインターネット電話といった通信サービスが本格化するだけではなく、デジタル放送への対応も着々と進められつつあり、サービスエリアを広域化するためのケーブルテレビ会社同士の提携・合併も積極的に行なわれています。ケーブルテレビ事業者が「通信放送」事業者として重要な一角を占めつつあるという見方は間違いではなさそうです。 新世代のモバイル・ツールからみても、従来の静止画に代わって動画像が有力なコンテンツ(情報の内容)となっているところから、テレビ番組という有力なコンテンツをもつ放送会社がその特性を活かして「通信と放送の融合」を促進し、新たなビジネスチャンスを切り開こうとする姿勢を見て取ることができます。もちろんモバイル端末に動画像を配信するには、画面の表示能力に制約があり、その中でいかに見やすい動画を配信するかなどといった技術的な課題があり、著作権処理などの問題も残っています。こうした課題を一つひとつ克服していくことによって、放送事業者は、従来欠けていたケータイなどのモバイル・ツール市場向けサービスのノウハウや通信技術を蓄積しつつあるのです。 第7課「デジタル放送ネットワーク化」で考察したテレビコマース(Tコマース)も、デジタル放送によって可能になったテレビ局と視聴者の間のインタラクティブ交信特性を活かして、通信サイドで台頭してきたインターネット・コマースの向こうを張ったものだということができます。インターネット・コマースに用いられるパソコンやモバイル端末の画面に比べるとテレビは遥かに高画質または大画面で見ることができるので商品の魅力を訴求しやすい上に、商品の発注者にとっては操作が簡単なところにメリットがあります。また、インターネット・コマースが以下の購買心理のAIDMA5段階のうちのD以降の、いわゆる顕在需要にしか対応できないのに対して、テレビコマースではAの段階から潜在需要を掘り起こすこともできます。 高コストのデメリットを補えるだけの受注量が期待できる商品のビジネスモデルの中にテレビコマースが積極的に取り込まれていく可能性が充分あるものと見ています。 A : Attention 注意 「おやっ、何だろう」と注意を向ける I : Interest 興味 「面白そうだ」と関心を向ける D : Desire 欲望 「使ってみたい」と願望する M : Meditation 熟慮 「ちょっと待てよ」と熟慮し選択する A : Action 実行 「よし、決めた」と購買を決定し実行する なお、デジタルテレビの登場によって、テレビを見ながら即座に電子ションピングなどの双方向サービスが利用できるようになったのに加えて、家庭のデジタルテレビが身近な金融サービスの取引端末として利用されるようになりました。従来は、金融サービスのネット端末としてはパソコンが主役を担い、iモードなどインターネット接続のケータイが補完的な役割を果たしてきましたが、パソコンやケータイに比べて家庭への普及率が段違いに高いテレビが金融サービスの窓口として機能するようになってきたのです。デジタルテレビの普及に伴って、パソコンを使ったインターネットバンキングと同じように自宅のデジタルテレビを見ながら、銀行や生保・損保、さらには証券などの金融商品の取引が簡単な操作でできる「テレビバンキング」が更に一般的に行なわれるようになるものと考えられます。 巨大メディアに変身しつつあるインターネットとの親和性が高いデジタル放送の普及に伴って、特にIPv6を備えたインターネットと組み合わせることにより、従来の放送コンテンツを放送以外の多様なメディアに流通させることも一層容易になり、通信と放送が融合した新たなサービスの可能性が増してきたことも確かです。更に、近い将来、デジタル化の進展によって放送、通信、情報処理の融合度が高まって巨大メディア市場が誕生し、ビジネスだけではなく、われわれの日常生活も大きく変化してくることは間違いのないところです。 将来的にはすべてのネットワークがインターネットプロトコル化されることが想定され、放送電波も伝送情報をIPパケットの形で電波に乗せて送信する形になるものと考えられています。IPには登録された多数の宛先へ効率的にパケットを送信するIPマルチキャスト(1対多通信)という技術があるので電波での利用にも対応できますし、設備投資の観点からも、次世代の放送にはデジタル放送よりもIP化のほうが有利だという主張もあります。ただし、現在のところは放送のデジタル化に向けてまっしぐらという状態ですので、放送のオールIP化は次の課題となることでしょう。3−3.政府の融合促進策 3−3−1.政府の基本認識 いずれにせよ、通信ネットワークや放送ネットワークといったことに関係なく、今後ますます各家庭や企業などに、音声や映像などの大量のデジタル情報が提供されていくことは間違いありません。新たなデジタルネット環境にどのように対応していくのかということが大きな課題となってきているのです。既にこうした問題に対応するため、2000年12月、当時の郵政省(現総務省)は「通信・放送融合時代の情報通信政策の在り方に関する懇談会」を設置し、その中間報告を取りまとめています。この報告内容によると、「サービスの融合」に関しては、通信と放送の両方の性質を併せもった中間的なサービス、例えば@電子掲示板(Bulletin Board System : BBS)、Aホームページによる情報発信、Bインターネット放送、Cデータ放送などの利用が拡大しつつあるということが指摘されています。 また、「通信と放送のネットワークの融合」については、CSを利用した放送や通信事業者の光ファイバーを利用したCATVでは、通信と放送のそれぞれのサービス提供で共通の伝走路(ネットワーク)を使っており、特に、空き帯域を利用して、高速インターネット接続サービス、CATV電話、ホームセキュリティサービスなどが行なわれているCATVネットでは通信と放送のサービスが明確に区別できなくなっているという事実を指摘しています。 更に、端末の方も通信と放送が融合しはじめており、インターネットだけではなく、テレビ放送の受信や録画ができるパソコンが登場するかと思えば、逆にテレビでインターネットに接続できるセットトップボックスが家電メーカーから販売されるなど、一つの端末で通信と放送のサービスが得られるようになっていることに言及しています。その上、「事業体の融合」については、特殊法人として業務が法律で決められているNTT東西地域会社とNHK以外は、通信事業と放送業の相互参入が自由にできるようになっており、すでにCATV会社の通信サービスなどが始まっているという事実を認めています。 総務省でも2001年11月に施行された「通信・放送融合技術の開発の促進に関する法律」に基づいて、通信・放送融合サービスの基盤となる技術の開発を行う民間事業者等に対する助成金の交付と、技術開発のための共用に供する電気通信システム等の整備を行うことにより、当該技術の開発を支援し、通信・放送融合サービスの開発の加速・推進を図っています。また、2001年度から、同法に基づいて、通信・放送機構が、インターネットとデジタル放送を合わせて利用することを可能とする技術(通信・放送融合技術)を開発する者に対する助成金を交付するとともに、2002年度から通信・放送融合技術の有効性を実証するテストベッドが大阪市と岡山市に構築・運用されています(下図)。 3−3−3.規制緩和 通信衛星、光ファイバー等による電気通信回線のブロードバンド(広帯域)化が急速に進展したことによって、電気通信事業者の広帯域な電気通信回線を通信だけでなく放送にも利用することが可能になっています。このように、通信と放送の伝送路の融合が進展してきていることに対応するため、電気通信役務を利用した放送を制度化する「電気通信役務利用放送法」が2002年1月から施行されています(下図)。
従前のCS放送では受委託制度を採用しており、放送用の周波数については総務省が指定し、受託放送事業者の衛星中継器を通信用・放送用に分離することになっていました。また、委託放送事業者については、外国資本等が制限されており、放送用周波数の枠内で認定し、参入希望者がこの枠を越える場合には比較審査が行なわれていました。ところが、「電気通信役務利用放送法」の施行によって、衛星事業者は需要に応じて通信用・放送用に柔軟に設備を提供できるとともに、参入希望者は一定の適格性があればすべて登録することが可能となり、比較審査及び外資規制は撤廃されたのです。 また、ケーブルテレビ事業者は、これまでは電気通信事業者の設備を利用して放送を行う場合、あらためて有線テレビジョン放送法上の許可が必要とされていたのですが、「電気通信役務利用放送法」によって、この許可が不要となり、参入希望者は一定の適格性があればすべて登録することが可能になりました。 「電気通信役務利用放送法」の施行によって、参入の容易化による事業者の多様化や、多彩な番組の提供等が期待されています。特にケーブルテレビにおいては、電気通信事業者の回線が利用拡大による初期投資の負担軽減の他に、サービス提供地域の広域化等が期待されています。2002年度末で、衛星役務利用放送を行う事業者24社、有線役務利用放送を行う事業者2社が登録されています。2003年3月には、同法に基づいて、ADSLを用いた有線テレビジョン放送が開始されています。
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4.インターネット放送
4−1.インターネット放送とは 通信のブロードバンド(広帯域)化が進むのに伴って、インターネットを通じてニュースや映画などの動画像や音声番組を配信する「インターネット放送」と呼ばれるサービスが本格化しつつあります。インターネット放送は、よく「インターネットTV」などと間違われやすいのですが、「インターネットTV」はテレビ受像機にあらかじめ設定したウェブ・ページの閲覧機能を付けた家電製品であり、普通のテレビでホームページを見られるようにしただけのもので本格的なネットサーフィンの機能はありません。 これに対して、「インターネット放送」は文字通りインターネット上で放送するサービスのことです。つまり、インターネット上にあるWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)を介して、テキストデータをはじめ、音楽や映像などのコンテンツ(情報の内容)を提供するものですが、この放送局となるのがWebサイトであり、「放送」と呼ばれているのは音や動画のような連続データが途切れることなく再生でき、しかも不特定多数のアクセスに対応できるからなのです。 既存のテレビやラジオ(ここでは地上波放送を指します)は、一つの大きな発信元から不特定多数の人々に向けて情報を発信します。また、デジタル衛星放送やケーブルテレビは、地域や組織ごとにいくつかの小さな発信元があって、そこから限られた地域や組織の人々が情報を得ます。 これに対してインターネット放送は、インターネットの利用者に限られてしまうものの、ネットワークを通じて全世界に向けて情報発信ができます。そして、情報の受け手も様々な所に分散しています。 インターネットで動画や音声データを試聴する仕組として、ダウンロード型とストリーム型の2種類があります。ダウンロード型は、送り側のサーバー内にあるデータをすべて受信側に送り込んだ後で再生する方式です。一方、ストリーム型では、データの受信終了を待つことなく、受け取ったデータから順番に処理して再生します。現在、主流となっているのは、ストリーム型です。ストリーム型のサービスにはさらに、ライブ型とオンデマンド型の二つに分類できます。ライブ型は、通常のテレビ放送と同じく、送り側で決めた送信スケジュールで番組が送られるのに対して、オンデマンド型では、受信側の要求に応じて番組がスタートします。コンサートの実況中継などはライブ型でサービスされ、ニュースや天気予報などはオンデマンド型でサービスされています。
4−6.インターネット放送の活用事例 一般的には、以下のような情報発信者がそれぞれのコンテンツの発信に用いるのに適したメディアであるとされています。 放送局 ・・・ テレビ番組・ニュース・ラジオ番組・スポーツ中継 新聞社 ・・・ ニュース 金融機関 ・・・ eバンキング レコード会社 ・・・ 音楽配信・インターネットライブ 芸能プロダクション・・・ バラエティ番組 出版社 ・・・ 映画・生活情報 一般企業 ・・・ 新製品発表・企業情報・問い合わせ窓口 個人 ・・・ 自主制作映画/音楽/ビデオ作品 上記の活用事例からも抽出できるように、インターネットによって企業が実現可能な事項は以下のように集約することができます。
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5.通信と放送の融合によるインパクト
5−1.多様な通信・放送サービスの本格化 今後、ブロードバンド・アクセス・ネットワークの普及や放送のデジタル化の進展にともなって、家庭のパソコンや携帯電話端末等に映画やゲーム等のデジタル映像コンテンツを配信するサービスや、データ放送とインターネットを組み合わせることによって放送により商品情報を配信し、インターネットを利用して商品の受発注を行う電子商取引等、多様な通信・放送サービスが本格化することが期待されています。
身近なテレビで双方向サービスができるようになってきたことから、金融サービスをはじめ、映画・音楽・教育・ゲーム・ニュース・コンサルティング・マーケティグ調査・ショッピングなど、あらゆる分野で新しいビジネスチャンスが広がろうとしています。 しかし、重要なことは利用者のニーズに最も合致したコンテンツを常に放送によって提案し、今度は通信によってリアルタイムで注文を受けつけていけるかどうかが大きなポイントになるというところにあります。放送がいくらデジタル化して双方向サービスが可能になろうと、ブロードバンド(広帯域)通信環境が整のおうと、提供するサービスにおいて視聴者(消費者)が満足するコンテンツ、アプリケーションを提供できなければ市場の拡大は期待できません。 また、制作されたコンテンツがデジタル放送やブロードバンドネットワークを通じ、国内外でうまく流通することももう一つの大きなポイントになります。利用者にとってブロードバンド通信やデジタル放送といったネットワークや利用端末の選択肢が増えるということは、それだけコンテンツの流通手段が多様化することを意味するわけですから、コンテンツ流通はますます複雑化、多様化してくることになります。それだけに、新たな流通システムのビジネスモデルが強く求められてくるわけです。 更に、コンテンツ制作・流通業界の構造が大きく変化していくことが考えられます。例えば、同じ題名の映画をインターネット上でも放送でも見ることができるような環境が整ってきました。すでに米国で実現した世界最大のオンライン・サービスのAOLと放送・映画を代表するタイム・ワーナーの合併の例に見られるように、通信事業者と放送事業者を中核としたコンテンツのクリエイターやプロバイダー間での合従連衡の動きが今後も進んでいくものと考えられます。 5−3.融合による新たなビジネスモデル登場 @ インターネット放送の台頭 A プラットフォーム・ビジネスの隆盛 B 情報家電インターネットなどの急速な普及 特に、ここでのプラットフォーム・ビジネスは、デジタル放送において番組の制作や編集を行なう委託事業者の取りまとめをはじめ、広告宣伝、加人者管理、料金回収、経営戦略のプランニングなどを行なう企業やビジネスのことを示します。 2000年12月、郵政省(現総務省)の「通信・放送融合時代の情報通信政策の在り方に関する懇談会」の中間まとめでは、次のようなビジネスモデルが登場すると見ています。
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(Ver.1 2004/ 1/18)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1)
(Ver.4 2007/ 1/17)
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