コミュニケーションメディア論

第8課 記録(蓄積)メディアの
     多様多彩化・高速大容量化


第7課までに考察してきたコミュニケーション・“メディア”は、「テレコミュニケーション(Telecommunication)」にしても「テレビジョン(Television)」にしても、「テレ(Tele)」が「遠隔地の」という意味を持つ接頭語であることからも示唆されるように、伝える者のいる「空間」と伝えられる者のいる「空間」との「距離」を超えて“間を取り持つもの”でした。この課では、伝える者のいる「時間」と伝えられる者のいる「時間」の“間を取り持つ”記録(蓄積)メディアについて考察します。

1.記録メディアの種類

産業分野は言うまでもなく家庭にまでインターネットが普及し、マルチメディアの大量のデータが行き交う時代になっています。また一方では、デジタルカメラ、携帯電話などの新しい機器の登場・普及も著しく、これにともなって、そのデータを記録する記録メディアの利用もますます広範囲となってきています。(社)日本記録メディア工業会は多様化してきた記録メディアを以下のように分類しています。

オーディオ
テ−プ アナログテープ オープンリールテープ等
デジタルテープ DAT(デジタルオーディオテープ等)
ディスク 光ディスク 追記型 色素 音楽録音用CD−R
書換え型 光磁気 MD(ミニディスク)
相変化 音楽録音用CD−RW
ビデオ
テープ アナログテープ VHS、ベータ等
デジタルテープ HDCAM等
ディスク 磁気ディスク VFD(ビデオフロッピーディスク)
光ディスク 追記型 色素 CD−R
DVD−R
書換え型 光磁気 MD DATA2
iD PHOTO
相変化 CD−RW
DVD-RAM,DVD-RW,DVD+RW
データメモリー
テ−プ オープンリールテープ等
ディスク 磁気ディスク フレクシブルディスク フロッピー等
ハードディスク マイクロドライブ等
光ディスク 追記型 穴開WO
色素 CD−R
DVD−R、DVD+R
書換え型 光磁気 MO
MD DATA,MD DATA2
相変化 PD
CD−RW
DVD-RAM,DVD-RW,DVD+RW
カード PCカード リニアフラッシュカード等
小型フラッシュメモリーカード コンパクトフラッシュ
磁気カード マルチメディアカード
光カード スマートメディア
SDメモリー
メモリースティック
USBメモリー

2.記録メディアの変遷

2−1.コンピューターの登場

最も人類の文化・文明の発展に寄与した伝統的な記録メディアは紙であり、これが文書・図形といった表現メディアの保存・伝達メディアとして機能してきました。やがて人類が写真・電気・電子技術を獲得するに至って、フィルム、録音・録画テープが開発され、記録メディアが多様化し、それぞれがコミュニュケーション・伝達メディアの機能を支えてきました。しかし、記録メディアの世界に最も大きな変革をもたらしたのは、何と言ってもコンピューターの登場でした。このことは、コミュニュケーション・メディアの変革史上最も大きなインパクトがあったのがコンピューターであったことと裏腹の関係にあるものですが、記録メディアがコミュニュケーション・メディアの一種として全体としてのコミュニュケーション・メディアの機能を支えるものであり、記録メディアの進歩なくしては、全体としてのコミュニュケーション・メディアの成長もあり得ないということを如実に示しているものでもあります。

2−2.コンピューターの記憶機能

コンピューターは、「外部よりプログラムの形で与えられた命令に従って動く機械」と定義することができ、@入力機能、A記憶機能、B制御機能、C演算機能、D出力機能がコンピューターの5大機能であるとされ、それぞれの機能をになう装置は下図のような相互関係をもって動作しています。従って、「記憶」がコンピューターの本来的に備えている機能なのですから、コンピューター自体が記録メディアの機能を兼ね備えたコミュニュケーション・メディアであるということができます。


人間は、外部のさまざまなデータをいったん頭の中に記憶することができますが、記憶する量には限度がありますので、重要な事項については手帳などに記録します。コンピューターにも、これと同様にデータや命令を記憶する機能があり、これが記憶機能と呼ばれています。コンピューターの記憶においても人間の頭の中への記憶とメモによる記憶の2種類の記憶方法があり、それぞれ主記憶(内部記憶)装置と補助記憶(外部記憶)装置によって記憶機能が実現されます。

2−2−1.主記憶装置

コンピューターの頭脳である中央演算装置CPU(Central Processing Unit中央処理装置)で命令を実行する際に必要となるデータや情報を一時的に記憶する装置です。一般に、単に「メモリー」と言った場合は、CPUが直接読み書きできるRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの半導体記憶装置のことを意味する場合がほとんどです。特に、RAMを利用したCPUの作業領域は「メインメモリー」と呼ばれ、コンピューターの性能を大きく左右する重要な部分となります。

主記憶装置は電気的にデータや情報を読み書き可能な記憶(RAMRandom Access Memory)として記録します。そのため、極めて高速にデータの読み書きを行うことができますが、コンピューターの電源が切れると記録されていたデータは消えてしまいますので、長期間データを保存する装置としては向きません。実行中のアプリケーションやオペレーティングシステムもここに置かれます。CPUが直接やり取りするデータや命令を記憶します。

記録メディアとしてはRAMディスクと呼ばれる電子部品が用いられています。例えば、パソコンで使われているメモリーのDRAMDynamic Random Access Memory )の場合、4Mビットとすると、その内部に約400万個の微細なコンデンサーをもつ構成となっており、その一つ一つが1ビットの情報を記憶する仕組みになっています。コンデンサーに電荷がたまっていればデータは1、電荷がない状態ならデータは0なのですが、DRAMに内蔵されたコンデンサーはあまりにも小さく、蓄えておける電荷もとても微小で、放っておくと、1秒程度で放電してデータが消えてしまうほどです。そこで、DRAMでは一定時間ごとに各行の内容を読み出し、それを増幅してもう一度コンデンサーに書き戻すリフレッシュという作業が必要になります。常にデータの書き直しが行われて、休むことなく動き続けるところが「ダイナミックRAMDRAM)」という名前の由来になっています。

2−2−2.補助記憶装置

最も一般的な補助記憶装置は「ハードディスク・ドライブHDD : Hard Disk Drive」で、大多数のコンピューターに内蔵されています。内蔵式のハードディスク装置では、1〜数枚のディスクをモーターで高速回転させ、可動式の磁気ヘッドで全ディスクに同時にアクセスしデータを読み書きします。補助記憶装置の中でもアクセス速度は高速な部類に属します。データの読み書きの速度は主記憶装置に比べて低速ですが、電源が供給されなくても記憶が消えない仕組みになっていますので保存の必要なプログラムやデータを長期間かつ大量に保存することができ、主記憶装置の補助役を果たします。

また、CD−ROMのような記録メディアを取り出せるようなものや、「フラッシュメモリカード」のような記録メディアを差し込んで使うラップトップコンピューターもあります。補助記憶のための外部記憶装置(External Storage Device)に用いられる記録メディアとしては、磁気テープ、ハードディスク(Hard Disk)、フロッピーディスク(Floppy Disk)などの磁気ディスク(Magnetic Disk)の系列、RAMディスク(Ram Disk)などの半導体系列、MOやCD−ROMなどの光ディスク系列などがあります。

2−2−3.記録メディアの多様化・多彩化

主記憶装置用の記録メディアが高速大容量化するのと同時に、補助記憶装置用の記録メディアも大容量化し80から100GByte程度のハードディスクを内蔵したデスクトップコンピューターや、20から60GByte程度のハードディスクを内蔵したラップトップコンピューターもごく普通に見られるようになってきました。ここに、コミュニケーション・メディアのブロードバンド(高速大容量)化の動きに、コンピューター自身が対応しようとする傾向が顕著に見られます。

しかし、コミュニケーション・メディアのデジタル化に端を発したマルチメディア化やモバイル化、デジタル放送ネットワーク化に対応した記録メディアの多様化・多彩化の傾向は、コンピューターに内蔵された主記憶装置や補助記憶装置ではなくて、外部記憶装置やカードリーダー等の入力装置に用いられる記録メディアの動向の中に見て取ることができます。

前課までに考察してきたコミュニケーション・メディアのデジタル化、コンピューター化、マルチメディア化、ブロードバンド(高速大容量)化、モバイル化、デジタル放送ネットワーク化といった新潮流は記録メディア側の技術革新があったればこそ生起し発展したものです。従って、今後とも記録メディアの動向も併せて把握しておかなければコミュニケーション・メディアの展開方向を予測することができないということになります。「1.記録メディアの種類」で掲げた表の示すように多様化・多彩化した記録メディアの中から、特にコミュニケーション・メディアの新潮流に呼応した記録メディアを抽出して以下に順次考察を加えていくことにします。

3.パッケージ・メディア

3−1.パッケージ・メディアとは

コンピューターの外部記憶装置の中には、記録メディアを必要の都度着脱させることによって、データや情報の外部保存や他のコンピューターとの交換を可能にするものがあります。このような着脱可能で、配信(ストリーミング)ではなくて配送の対象となる記録メディアを「パッケージ・メディア」と総称することがあります。ですから、コンピューターの外部記憶装置はパッケージ・メディアにデータや情報を書き込む場合には一種の出力装置として機能し、一方、パッケージ・メディアからデータや情報を読み取る場合には一種の入力装置として機能することになるわけです。

3−2.パッケージ・メディアの変遷


オーディオの世界では、長い間レコードとカセットテープの時代が続き、アナログ記録の限界まで技術が完成されました。オーディオのデジタル記録が初めて行われたのはVTR(Video Tape Recorder)を用いたPCM(Pulse Code Modulation) プロセッサでした。そして、その後すぐCD(Compact Disc)が登場し、これらによってデジタル信号記録の実用化の技術が大いに進みました。これには、半導体レーザー、エラー訂正ICが当時の最新半導体技術によって実用化されたのが大きく寄与しています。

ビデオではアナログ記録のVTR、LD(Laser Disc)が長らく支配的でした。これは音声信号に比べ映像信号の情報量は100倍程度であり、膨大なデジタルデータを記録するメディアとシステムが見あたらなかったためです。1990年代に入ってDVTR(Digital Video Tape Recorder)がようやく実用化されました。

コンピューター用の記録媒体としては、パソコンの出現により、フロッピーディスクが全盛を迎えたのですが、1990年代のマルチメディアの時代に至って、そのアクセスの速さからCD−ROMが多用されるようになったのは周知の事実です。

以上のような過程を経て、光ディスクの記録技術、フォーマットおよびエラー訂正技術、半導体レーザー、IC化技術が大いに進展したことがDVDの出現の布石となったのです。


3−3.主要なパッケージ・メディア

主なパッケージ・メディアと、その記憶容量を列挙すると次のようになります。

フロッピーディスク     容量0.72MByte/1.44MByteなど

CD−ROM        容量640MByte/700MByteなど

・MO            容量230MByte/640MByte/1.3GByteなど

スーパーディスク      容量120MByteなど

DVD−RAM       5.2GByte/片面4.7GByte/両面9.4GByteなど

DVD−R         片面4.7GByteなど

特に、光ディスク系の記録メディアが多様化するとともに、用途を拡大してコンピューターの周辺装置としての外部記憶装置用メディアとして台頭してきているのが目立ちます。デジタルコード化オーディオプログラム収録済みの直径12センチの小型版(コンパクトディスク)が急速に消費者市場に浸透し、次いで、大きめのビデオ情報搭載版(レーザーディスク)が家庭での娯楽用と教育用に用いられ始められました。光ディスクは情報容量が大きく、また複製がし易いことがオーディオ・ビデオ関連メディアとしての用途にうってつけのものだったからです。

それがやがて、データ蓄積の分野で用いられるようになり、今や直接的光記録システムがコンピューターの周辺装置として一般化しつつあるのです。読み出しが平板なディスクを走査するだけでできるので、データ蓄積の点で重要な特徴であるランダム・アクセスが可能であること。また、光ディスクのもう一つの利点は読み出しのヘッドと情報レイヤとの間に物理的な接点がないということなのですが、これは電磁スペクトルの光領域で放射光を集中させるという現行の簡素な方法によるものです。更に、情報を覆っている透明なフィルムがあるので微細なところでも損傷や遮光性粒子から守られるという利点もあります。

4.ハードディスク

ハードディスク駆動装置(HDD)は最も一般的な補助記憶装置で大多数のコンピューターに内蔵されています。その開発当時、「大量のデータを高速で扱う補助記憶装置・磁気ディスク装置はその技術の難しさから、メカトロニクスの極致といわれている。データが書き込まれる磁気ディスク(円盤)とデータの読み出し.書き込みを行うフラィングヘッドの浮上量はわずか0.3ミクロンしかない。これは、たとえるならジャンボジェット機が地上数メートルの高さを安定して飛んでいるのに相当する距離なのである」(図書「東芝 情報通信時代への提言」より)と評されたほどの精密機械です。

硬い円板を読みとり装置とともに密封したもので、円板とヘッドの相対位置を固定できる上にゴミが入りにくいうえ、ヘッドを円板に接触させずに近づけて読みとることができるので高密度大容量高速アクセスに向いています。現在ではパソコンやサーバー・コンピューター内蔵用の3.5インチが8割を占め、ここではシーゲート社などのアメリカ勢が優勢を示しています。コンピューターに内蔵されていないタイプのものもあり、そのうち、
取り外し可能なハードディスク・ドライブは「リムーバブルディスク」、ハードディスクの極小版でPCカードインターフェイスを介して使用されるものは「マイクロドライブ」とそれぞれ呼ばれています。モバイル・コミュニケーションの進展に対応したデジタル家電やカーナビゲーション向けの2.5インチ以下の新市場では日本メーカーが独占している状態でした。さらに、以下にご紹介する関連の新聞報道のようなモバイル・ツール内蔵用の小型HDDの開発が進められ、商用化が実現しています。

最小、500円玉サイズのハードディスク駆動装置

東芝はコンピューターや映像機器などの記憶媒体となるハードディスク駆動装置(HDD)で世界最小となる直径0.85インチ(約2.1センチ)の製品を開発した。携帯電話に内蔵すれば高画質の動画を最大で2時間保存でき、テレビ番組を録画・再生できる超小型の携帯端末の開発につながる。2004年夏に受注を始め、2005年から量産を目指す。

現在、最小のHDDは日立グローバルストレージテクノロジーズ社が販売している1インチ型。一眼レフのデジタルカメラなどに使用されているが、一般的な携帯電話には収まらない。

0.85インチ型は磁気ディスクが100円玉より小さいサイズで、駆動モーターや制御部分など周辺部をあわせても500円玉程度。記憶容量はフロッピーディスク2,000枚分にあたる2-3ギガバイトで、ハイビジョン並みの映像を1-2時間、音楽なら60時間弱保存できる。

2003/12/14 日本経済新聞)
進化する記録メディア  小型・大容量化の一途

2001年末発売の初代iPodが搭載したのは東芝製の1.8インチHDD。それまでHDDはパソコンやサーバーが主用途で、サイズも直径2.5インチや3.5インチが主流だった。東芝は一昔前なら高性能パソコンが搭載するような5ギガバイトHDDの小型化に成功。その後、容量を20ギガ、40ギガに増やした。昨年発売のiPodミニは更に小型の日立製作所子会社製の1インチHDDを搭載。そして今回のiPodシャッフルがフラッシュメモリー。iPodの心臓部を狙う各社の争いは加熱気味だ。映像や音楽のデジタル化が進み、保存データが爆発的に増えるなか、「今後は記録メディアが情報機器の核になる」という見方もある。
東芝や日立が音楽プレーヤーの次に狙うのが携帯電話だ。東芝は1月末から業界最小の0.85インチHDDの量産を始める。24mm × 32mmの切手サイズに、2ギガバイトのデータを記録。今年半ばには4ギガ、将来は6ギガタイプの量産も目指す。
「ポケットの中に膨大な情報量を蓄える時代」が幕を開け、「より小型、より大容量」を目指す競争が製品の姿を大きく変えている。
2005318 日本経済新聞)

5.CD(コンパクトディスク)

CDが誕生したのは1982年のことで、ソニー、日立、日本コロムビアによってデジタルオーディオディスクとしてのCDが発売されました。ステレオが開発されて(1958)から24年後にデジタルオーディオの元祖CDが発売されるのですから、1982年は「デジタルオーディオ元年」と呼ばれています。

CDの出現はオーディオ業界にとってはデジタル音楽への一大革命でした。それまでに、オーディオの世界にもデジタルとの関わりが全くなかったわけではありません。コンピューターが発達した1960年代にはコンピューターで音楽を作るシンセサイザーが萌芽していましたし、1970年代にはPCM(Pulse Coded Modulation)といって音をパルスに変調してオーディオテープに録音していく技術が発達していきました。DAT(Ditigal Audio Tape)はこのPCM技術を使った方式です。しかしながら、オーディオの世界をデジタルに一変させたのはCDの出現に他なりません。なぜなら、それまでのアナログの総本山であるレコードを音楽販売店から一掃させてしまったからです。レコードに置き換わるだけの潜在性能をCDは持っていたのです。

5−1.CDの仕組み

在来の蓄音機用レコードと同様に情報はトラックと呼ばれる螺旋に記録されます。但し、多くの場合は溝もつながった線もなく螺旋状の破線を形成するマークがあるだけです。このマークというのは小さなエリアであり取り囲んでいる鏡状の表面に関して光学的なコントラストを示しています。例えば表面上の黒い線状の要素や長方形のくぼみ(ピット)がこれです。これによって、マークに従ってトラックにあった変化をする反射光が生じます。蓄音機の機械的なレコード針に代わる光学的ピックアップが反射光の変化を電気信号に変換します。ピックアップのレンズがトラック上の光の小スポットにレーザービームを集中しディスクからの反射光を光検知機へと送ります。このようにして回転するディスク上のトラックに添ったマークに従って光信号が正しいテンポで変化することになるのです。データを読み取るときは、フロッピーディスク装置と同じように、CDROMを回転してヘッドが水平に動きデータを読み取りますが、ヘッドが磁気ヘッドではなくレーザー(波長780nm)を出す光ヘッドである点が違います。

5−2.CDの基本的要件

1979年、フィリップスは現在のCDの基本である直径11.5cmのコンパクトディスクを発表。1980年にはフィリップスとソニーによって規格統一の合意に達し、本格的なCD時代が到来することになり、ディスクの直径はソニーが提案するφ120mmとなりました。ベートーベンの第九交響曲がそっくり入る67分を目安としたためこの直径となったといわれています。なお、CDの記録周波数は44.1KHzで、CD−ROMのデータ容量は640MByte/700MByteです。

CDの根本的な要件としては、デジタルに直すときの標本化(量子化)が通常の人間が許容できる範囲であること、取り込みエラーに対して十分な配慮がなされていること(信頼性が高いこと)と、使いやすいことが上げられます。このため、CDは音楽業界に受け入れられ、出版業界でも大容量メディアとして業界の標準となっていきました。さらにCDの特許を持つソニーはこのデータメディアをエンタテイメント(娯楽)の分野Playstationに投入しました。任天堂(ファミコン、スーパーファミコン)がICメモリーと基板で作ったソフトカートリッジでソフトを供給していたのに対し安価なCDで対抗したのです。Playstationの市場席捲にはこんな要因もあったのです。

5−3.競合・類似メディアとの相違点

・アナログ・レコード盤との相違

オーディオマニアの中には、塩化ビニールのLPに針を落としてプレーヤーで音楽を聴いている人がたくさんいます。CDのデジタル音に比べアナログレコード(塩ビのLP)の方が、高音域がリッチで豊かな音を再生してくれるのだそうです。CDは1秒間に44,100分割(44.1KHz)で連続した音を分割し、その一つ一つに65,000階調(16ビット)の音の強さを割り当てています。従ってCDには44.1KHz以上の音は記録できないわけで、ここに、CDには豊かな音が出せないとマニアから言われている所以があります。

・レーザーディスクとの相違

CDの対抗馬であるレーザーディスクは1972年、オランダフィリップス社で開発されました。このディスクは光学式ビデオディスクでしたがデジタルではありませんでした。1977年にこのビデオディスクを基本としてソニー、三菱、ティアック、日立、日本コロムビアがオーディオディスクを発売しています。

・MDとの相違

CDの容量は60分で650MB。それに対してMDも同じ時間の録音ができます。MD=Mini DiskのサウンドはCDとほとんど変わらず実際のCDと同じ44.1KHz16bit、ステレオというフォーマットになっています。しかしMDのコンピューター的容量は140MB、これはCDの約1/5の容量しかありません。したがって、MDにはATRACAdaptive Transform Accoustic Coding)という圧縮技術が取り入れられています。これは一種のマスキング効果で、例えば、大きな音と小さな音が重なっていると、小さな音は大きな音にかき消されてしまうことを利用してマスキングを行ないます。主に高音と低音の部分でマスキングを行い1/5の圧縮を行っています。聴く人が聴けば、ちょっと聴いただけではわからないMDの音も、本当によく聴いてみるとやや音質が落ちていることが分かるそうです。

・SACD(Super Audio CD)

スーパーオーディオCDとはソニーとフィリップスが共同開発した次世代オーディオディスクです。ここで採用されているDirect Stream Digital(DSD)方式は従来のPulse Code Modulation(PCM)方式とは全く異なる音声信号の大小を1ビットのデジタルパルスの密度(濃淡)で表現する方式です。何よりの特徴は「原音」により近い音を再生できること、そして、今までDVDでしか楽しめなかった5.1chサラウンドに対応したことです。今までの通常の音楽CDではカットされていた20KHz以上の周波数帯域の音データスーパーオーディオCDなら録音、再生が可能なので、よりきれいで臨場感あふれるサウンドを楽しむことができます。

5−4.CD−ROM

CD-ROM(コンパクトディスクを利用した読み出し専用メモリー)は、構造的には音楽用のCDとまったく同じもので、直径12pのアルミ盤を一種のプラスチックで表面加工したものです。この記録方式の場合、デ一タは非常に薄いアルミ箔に記録され、ピット(小さなくぼみ Pit)がアルミ箔に物理的にプレスされたくぼみの形になっています。アルミ箔は平らになっている部分では鏡のようにレーザー光線を反射して読み取りヘッドに反射光を届かせますが、ピットの部分は平面ではないのでレーザー光線が乱反射し、ピットに当たった光線は読み取りヘッドにまで届かないので必要な情報と区別されます。このタイプのディスクはアルミ箔を物理的に変形させることでピットを作るため、原盤さえ作ってしまえばプレス機で大量生産することができますオーディオ用のCDには音声の情報が記録されていますが、CD-ROMには、音声の他に文字や図形の情報がレーザー光線によってピット(小さなくぼみ)として焼き付けられているのです。

CD1枚の記憶容量は開発当時は540メガバイトで、パソコン用のフロッピーの500倍、ICカードの250倍の容量を持っていました。その記憶容量の大きさを情報の種類と比較すると、音楽で74分、ナレーションで26時間、自然画で4000画面、グラフィックスで16,000画面、文字数で27500万文字ということになり、これはA4の原稿で27万ページ、商業紙の約一年分の情報量に相当することになります(昨今では、圧縮技術の進歩により、収録情報はもっと増大しています)。このような特徴から、CD-ROMは、文字情報だけでなく、音声や映像あるいはコンピューターの情報などを統合したパッケージ型マルチメディアの検索用ソフトとして注目され、パッケージ型電子メディアの主役の座を占めるに至ったのです。

CD-ROMを実際に利用するには、CD-ROMに収録されたデータや情報を、ドライブ(レコードのプレーヤーに相当する)を通じてパソコンに送り、検索用のソフトを使って、パソコンのディスプレイ上に文字や画像を呼び出して使うことになります。ところが、開発当時は、パソコンの普及率も悪く、また、CD-ROMドライブはほとんど普及していませんでした。パソコンのCD-ROM専用ドライブ内蔵型の機種が当たり前になっている現在を考えると、如何にCD−ROMのビジネス用ニーズが大きいものであったのかということをうかがい知ることができます。

5−5.CD−R

ディスクに「反射層」と「記録層」を設けることでデータの記録を実現しています。反射層とは、文字どおりレーザー光線を反射させる部分。その反射層の手前に置かれる記録層に、レ一ザ一光線を透過させる部分と遮る部分とがあります。透過させる部分を通過したレ一ザ一光線だけが反射層に届いて反射し、読み取りヘッドがその反射光を電気信号に変換するという仕組みになっています。

このタイプのディスクは記録層に有機色素を使い、レーザー光線の熱でこの色素を変色させることでピットを形成します(「焼く」という表現はここからきています)。黒く変色した部分はレーザー光線を吸収してしまい、反射層にまで光線が届きません。一方変色していない部分はレーザー光線を透過/反射させるという仕組みになっています。

黒く変色した色素は半永久的に元に戻ることがないので、一度記録されたデータを書き換えることはできません。もっとも、紫外線によって色素が変質して黒い部分の色が薄くなることはあります(これを褪色という)。記録層には褪色防止剤が含まれてはいますが、記録面を直射日光にさらしたり、蛍光灯の光に長時間さらしたりはしないほうが安心です。

5−6.CD−RW

書き込んだデ一タを消去したり書き損えたりすることができます。この特徴は、記録層に有機色素ではない材質を用いることで実現されています。

この型のCDDVDは「相変化型光ディスク」で、その記録層にはアモルファス素材が使用されています。アモルファス素材はレーザー光線によって加熱することで状態(相)が変化し、光の透過率が変化するという特徴を持っています。読み出し時にはその透過率の違いによる反射率の変化を「0」と「1」に置き換えています。熱による相変化は可逆変化なので、光を通しにくくなった部分を、元どおり光を通すように戻すことができます。これがCD-RW型ディスクにおけるデータの消去/書き換えの原理です。

ただし、相変化によるアモルファス素材の透過率の変動は比較的低く、光線を通しやすい状態での透過率も比較的低いので、CD-RW型ディスクのデータを読み取る際は、CD-ROM型やCD-R型よりもデリケートな違いを読み取らねばなりません。

6.DVD(Digital Versatile Disk : デジタル多用途ディスク)

音楽用CDと同じ直径12cm、厚さ1.2mmの光ディスクに、動画や音声、テキストなどのあらゆるデジタルデータを収録して再生するDVDは、オーディオ・ビデオ用だけではなくコンピューター用データ・情報の記録・再生にも適する総合記録メディアですから、映像、音声、データが融合して新しい世界を開くマルチメディアの時代にふさわしい記録メディアと言えます。

技術の流れはアナログからデジタルに移行していますが、パッケージ・メディアも例に漏れるものではなく、DVDはその最先端にあるものです。DVD規格は、ハリウッド、コンピューター業界の要望を取り入れて開発されました。4.7 Gバイトという大容量実現のため0.6 mm厚のディスクのはり合せ構造が開発され、さらに650 nmの赤色レーザー、新変調方式、新エラー訂正システムなどが開発されました。
読み取りや書き込みには赤外線のレーザー光線(波長650nm)を利用してメディア表面に刻まれたデジタル信号を読み取っており、読みとりはレーザーヘッドが行なう仕組みになっています。

6−1.DVDの特長

DVDがマルチメディア時代のキーデバイスとして脚光を浴びたのは、まず何より、DVDに直径12センチメートルの小型ディスクにして4.7Gバイトという巨大な情報を記録できるという大きな特長があったからです。このため、映画を1本まるまる納めることができ、さらに従来では、映画館でしか味わえなかった迫力のある大画面と臨場感のある音声をそっくりそのまま家庭でも楽しめるようになったのです。

6−2.規格化の経緯

もともとは、CD特許の延長線上にあるMMCD(MultiMedia Compact Disk)規格とCD特許とは別路線のSD(Super Density Disk)規格が考えられていました。MMCD規格はCDと同じ厚さ1.2mmの基板を使って片面2層方式で記録し、一方のSD規格は厚さ0.6 mmの基板を2枚貼り合せて12mmの厚さを実現するというCDとはまったく違う方式で両面2層方式の記録を行なう方式です。両規格間の互換性が問題になり、最終的に統一された規格では、SD規格の0.6mmの基板を貼り合せる方法を採用し、MMCD規格からは8/16変調が採用されました。現在のDVDの基になったSD規格は東芝が主導して開発を行ったものです。開発の第一の目標は映画を記録することでした。このため東芝はタイムワーナー社と規格を話し合い、さらにハリウッドの大手スタジオと規格の討議を行ないました。また、DVDはコンピューター用の記録メディア・機器としての用途が大きいため、米国の大手コンピューターメーカの要望をも考慮して規格化が行われました。

6−3.技術革新

DVD実現のためには多くの解決すべき技術課題がありました。そのうちで最大の難題は直径12cm程度の光ディスクに数Gバイトのデータを記録することにありました。このためには従来のCDやLDの厚さが1.2mmであることから、0.6mmのディスクをはり合わせるという新しい構造が採用されました。そのほか、高密度原盤記録技術、短波長赤色レーザー、高性能のデジタル変調方式、エラー訂正方式、映像信号圧縮方式、デジタルサラウンド方式が開発、採用されてDVDはでき上がったのです。

6−4.各種のDVDと互換性

DVDには、映画などを記録するDVD-Video、音楽用のDVD-Audio、データ用のDVD−ROM、一回記録のDVD−R、繰返し記録のDVD-RAMがあり、これらのフォーマットは統一したコンセプトの下に構築されています。したがって、映像、音声の分野およびコンピューターの分野で共通して使えるように配慮されており、また記録・再生用と再生専用の間の互換性も考慮されており、また従来のCD、CD−ROMとの互換性も当然ながら確保されています。

6−5.新しい機能

DVD-Videoとしての特長は、LD以上の高画質と臨場感あふれるサラウンド音声です。言語は8チャネル、字幕は32チャネルまで記録・再生が可能です。また、同時に9チャネルまでの映像を同時に記録できるマルチアングル機能や、同時にストーリー展開が可能なマルチストーリー機能など新しい機能がありますので、これらを駆使した新しい文化の創造が期待されています。

6−6.コミュニケーション・メデイアとしての将来性

DVD−ROMは、CD−ROMに比べると、容量が約7倍でありデータレートも9倍なので、早晩CD−ROMにおき変わっていくことが想定されます。また、DVD−RAMにはなお記憶容量拡大の余地がありますが、ブロードバンド・インターネットの普及を基軸として、ビジネスにおける映像をはじめとした大容量データ・情報の比重が大きくなるのに伴って、DVD−RAMの需要が高まってゆくことが確実視されています。アクセス性に優れた記録メディアとして、DVDが今後のマルチメディア時代の中核デバイスとして広く普及していくものと考えられます。


6−7.広がるDVDの使用事例

映画の鑑賞用としてだけではなく、ビジネス・ツールとして、あるいは家庭用の記録メディアとしてDVDが導入される領域が急速に拡大してきました。以下に関連の新聞報道をご紹介します。

DVDで最新文献を出先で瞬時に

武田薬品工業では販売促進活動を担当する医薬情報担当者(MR)が医師の要求にすぐに対応して、学術文献や臨床試験結果などを蓄積した社内情報システムに手元のノート型パソコンを接続して必要な資料を検索して画面に表示することができる。パソコンにはDVD(デジタル多用途ディスク)装置を備え、映像付きの詳しい説明などもできる。従来は何枚も用意したCD‐ROM(コンパクトディスクを利用した読み出し専用メモリー)から選び出すのに手間取り、医師に「次の機会にして」と言われてしまうこともあったが、大容量のDVDなら1枚に収まる。MRが医師に会えるのは休憩中など僅かな合い間しかなく、数分から10分程度が普通。限られた時間内に医師の要望に応えなければならない。パソコンの利用で同社はビジネスの機会損失を大幅に減らせたという。
(2003/01/01日本経済新聞)
DVDレコーダーに通信機能

AV(音響・映像)機器分野ではテレビと録画装置がネットワークの軸になる。ソニーでは家庭用チャンネルサーバーの「コクーン」を発売の予定(02/11)。東芝ではDVD(デジタル多用途ディスク)レコーダーに通信機能を持たせ、外出先のパソコンや携帯電話から録画予約できる装置を発売する予定(02/12)
 (2003/01/01日本経済新聞)


6−8.DVD−R(Recordable)

一度だけ書き込み可能(ライトワンス)なDVDで、DVDフォーラムで正式に認定されている規格。一度書き込んだデータは消去できないため、大事な映像やサウンド、データなどを保存しておくのに向いています。CD-Rと同様に色素記録層を持っており、レーザー光線を照射して色素を変化させることによってデータを記録します。一度変化した色素は元に戻らないため同じ箇所への書き込みが1回だけとなるわけです。書込みをしたディスクは基本的にDVD-ROMDVDビデオとして記録すれば、DVDプレーヤーやPlayStation2DVD-ROMドライブ付パソコンで再生することができます。片面47GB


6−9.DVD−RW(ReWritable)

パイオニアが世界初のDVDレコーダーとして実現した規格で、DVDフォーラムで正式に認定されています。
CD-RWと同様に相変化記録層を持っており、照射するレーザー光線の強さを変えることによって結晶状態を変化させて書き込み/読み出しを行なっています。書き込み回数は約1,000回の重ね録りができ、映像記録メディアに適しています。DVDビデオで記録すれば家庭用DVDプレーヤーでも再生可能です。DVD-ROMと互換性があり、DVD-ROMドライブ付パソコンでも読みとることができます。片面47GB。

6−10.DVD−RAM

フォーマットいらずで、何度も自由に書込み・追記・消去ができるDVDで、DVDフォーラムで正式に認定されている規格。AV機器とパソコンの両方に対応したフォーマット。他の書き換え可能ディスクとは違って、FDMOディスクのようにマウスでドラッグ&ドロップでファイルの出し入れすることが可能です。書き込みにベリファイ処理(データ照合確認)を行うため、データの信頼性を保つことができます。

DVD-RAMメディアは、CD-RWと同様に相変化記録層を持っており、照射するレーザー光線の強さを変えることで結晶状態を変化させて書き込みを行ないます。書き込み回数10万回以上と耐性に優れていて、両面に記録できるメディアやケース付のメディアもあります。但し、DVDRWDVDRWとの互換性はなく、専用のドライブやレコーダーでしか再生できません。片面4.7GB 両面9.4GB。

6−11.DVD+R

2002年に登場した新しい規格で、DVD-Rと同様に一回だけ記録できるDVDディスクです。DVD-Rと同様に、物理特性がDVDビデオやDVD-ROMとほぼ同じで、作成したディスクを、既存の多くのDVD-ROMドライブ/DVDビデオプレーヤや家庭用DVDプレーヤーで再生できる互換性の高さが特長です。アクセスも高速ですので、オリジナルDVDビデオの配布や長く残したいデータの保存に最適と言われています。

6−12.DVD+RW

DVDフォーラムではなく「DVD Alliance」という組織による規格です。DVD-RWとの大きな違いは、フォーマットの待ち時間が短いこと、及び、DVD+VRフォーマット対応で他では不可能な保存したビデオの追記・編集が可能な点が挙げられます。ほとんどの家庭用DVDプレーヤーで再生可能ですが、PlayStation2では再生できません。約1,000回の書き換えが可能。片面4.7GB。

CDとDVDの相違

外見的には CD と同じ直径 12 cm、厚さ 1.2 mm というサイズで素材もCDとほぼ同じの DVD メディアですが、実は厚さ 0.6 mm のメディアが2枚重なったものとなっています。またそれぞれが片面最大 4.7 GB の2層の記録面を持ち(デュアルレイヤー)、理論上最大で4つの記録面と、合計 17 GB の記録容量を持つ構造となります。つまり DVD は片面一層分だけでも FD(約 1.44 MB)の約 3263 枚分、CD(650 MB)の約8枚分もの大記録容量を持っているのです。

データを保持する原理は CD とほぼ同じで、それゆえ各 DVD ドライブは CD メディアの読み出しにはほぼ完全な互換性を持っています。具体的には 12 cm の樹脂製円盤にレーザー光を照射し、その反射光を検出してデータを読み出します。CD と違う点は両面記録、二層記録などが可能なところで、物理的に裏返して使用することで両面、レーザー光の反射度を変化させることによって1面で二層の記録面を読み書きすることを可能としています。

但し、現段階では四面全てのレイヤーを使用したDVDメディアはまだ存在しておらず、データ保持における安全面等の考慮により記録面・記録容量に関しては各メディア毎に違いがあります。また、DVDはCDに比べ、記憶密度が高い為、仮に同じ転送速度のドライブで読み取った場合、転送される情報量はCDの9倍以上となっています。その為、映像CD−ROMでは、画像が不鮮明だったり、動きが滑らかでなかったりすることがありますが、DVDではそれらの心配もありません。

6−13.次世代DVD

(1)青色レーザーの実用化

ディスクの記録容量はディスク上の情報の読み書きに使うレーザー光の波長の二乗に反比例して増やすことができます。現行DVDでは波長が650ナノメートル(ナノは10億分の1)の赤色レーザーを用いていますが、波長が405ナノメートルの青色レーザーを用い、更に光を絞り込むレンズも能力の高いものを使えば、記録容量を飛躍的に向上させることができます。レーザー光が当たる焦点の面積が現行のDVDに比べて約1/5になり、焦点面積を小さくすることによって、同じ面積のディスク上でも高密度に情報を書き込むことができるからです。こうした技術的な可能性があるところに、デジタル放送の開始によってテレビ放送の高画質化に拍車がかかるのに伴って大容量の記録メディアに対するニーズが高まってきました。例えば、BSデジタル放送の映像は毎秒24メガビット(Mbps)の速さで送られてきますが、このデジタル放送を2時間分録画しようとすると約22ギガバイトの容量が必要になります。また、一方で、プラズマや液晶などの大型テレビが普及し、家庭のテレビが大画面化してきているという背景があります。大画面に映すには高精細な映像が求められるからです。更に、映画業界でも映像コンテンツのDVD化に対して新たな収益源としての期待をよせており、その大容量化に対するニーズが顕在化してきました。

こうした市場環境を背景として青色レーザーを用いた新機軸のDVDの開発が急ピッチで進められてきました。下掲の新聞報道は、青色レーザーを用いた「次世代光ディスク」に関するものであり、「東芝・NEC陣営」と「ソニーなどの陣営」の対抗関係がこの中に示唆されています

次世代光ディスクの量産技術確立

DVD(デジタル多用途ディスク)の次の世代の光ディスクの規格を提案している東芝・NEC陣営は、DVD並みの価格で次世代光ディスクを量産する技術を確立した。DVDの数倍ともみられた製造コストを引き下げ、映画など市販ソフトとしての普及を狙う。別規格を提案するソニーなどの陣営に低価格で対抗する。次世代光ディスクは情報の読み書きに青色レーザーを使う。高精細な映像をDVDの4倍にあたる3時間以上収録できる。東芝は2-3年以内に録画再生機を実用化する方針。DVD製造装置の光学部分の仕組みを工夫し、記録密度の高いディスク材料でも反りやひずみを抑えることに成功。現行の製造装置を転用できるため、製造コストはDVDの1.15倍にとどまるという。
DVD並みのコストに下がれば高精細で長時間の映像ソフトが流通する条件の一つが整う。次世代光ディスクの規格を巡っては、レコーダーを初めて商品化したソニーなどの陣営が記録層1層で最大27GBite、2層で54GBiteの規格づくりを提唱。東芝などの陣営は1層で最大15GBite、2層で30GBiteの規格をDVDの規格策定団体に提案している。東芝陣営はDVDに類似の規格を採用し、DVD並みの価格と互換性をテコに巻き返しを狙う。大画面テレビの普及や地上波デジタル放送の開始によって、光ディスクの需要は急拡大するものと予測されている。
(2003/10/03日本経済新聞)


上掲の新聞報道(2003/10/03日本経済新聞)からちょうど1年後に、同じ日本経済新聞で以下の「きょうのことば」が紹介されています。この1年間で「次世代DVD」という言葉が市民権を獲得するとともに、「HD DVD」対「ブルーレイ・ディスク」の対立関係が先鋭化してきていることがここからも見て取ることができます。

きょうのことば「次世代DVD」

現行型DVD(デジタル多用途ディスク)の記憶容量を大幅に高めた高性能光ディスク。ハイビジョン放送などの高品位映像を長時間記録できるのが特徴。業界標準規格の座をめぐり、ソニーや松下電器産業など13社が提唱している「ブルーレイ・ディスク」と、東芝、NEC、三洋電機が推進する「HD DVD」が激しく争っている。「ブルーレイ」方式は記憶容量が大きいことが強み。一方、「HD DVD」は現行型DVDと構造が近く、既存の製造設備を利用することで低価格化が容易とされている。

ディスクの
記憶容量
レーザー光源 対応機の投入状況
ブルーレイ・ディスク 23-27(50)ギガバイト 青色レーザー ソニーと松下が対応録画再生機を既に発売
HD DVD 15-20(30)ギガバイト 青色レーザー 東芝などが2005年に対応機発売
現行DVD 4.7(8.5)ギガバイト 赤色レーザー 電機各社が録画再生機発売
注:カッコ内は2重構造の場合
(2004/10/03日本経済新聞)

(2)「HD DVD vs ブルーレイ・ディスク」規格競争の展開

「ブルーレイ・ディスク」は、大容量な点が持ち味で、片面2層に記録するタイプの容量は50ギガバイトにのぼり、現行DVDの10枚強に相当し、2時間の映画なら最大30本以上録画することができます。一方の「HD DVD」は、ディスクの物理構造が現行のDVDとほぼ同じですから、互換性が高く、現有の製造装置も転用できることから製造コストが安くつくと言われています。しかし、「HD DVD」と「ブルーレイ・ディスク」の間には互換性がありません。つまり、「HD DVD」規格で録画されたコンテンツは「ブルーレイ・ディスク」対応機器では再生することができず、逆の場合も同様な結果になってしまうわけです。このような両陣営の分裂が続いたまま、それぞれの商品化が進められていますので、次世代DVD関連のハード・ソフト業界は、業界標準をめぐる規格競争に鎬を削る様相を呈しています。

業界標準規格の座をめぐる競争を展開するうえで、一つの決め手は有力なハードウェア・メーカーを陣容に加えることによって、陣営全体としての技術やコスト競争力を高めるところにあります。下掲の新聞報道は「HD DVD」にとって追い風となりえる陣営拡大を報じたものです。

三洋、束芝陣営に参加

三洋電機は30日、2陣営が規格競争を続けている次世代DVD(デジタル多用途ディスク)で、東芝やNECが提唱する「HD DVD」陣営への参加を決めた。週内にも正式に合流を表明、規格づくりや製品化で東芝-NEC連合に協力する。心臓部の光ピックアップで世界首位と基幹部品に強い三洋電機の加入により、技術やコスト競争力が高まる見通し。次世代DVDの主導権を巡り、ソニーや松下電器産業など日米欧韓13社が提唱する「ブルーレイ・ディスク」との競争が激しさを増しそうだ。
三洋は情報の読み書きに使う心臓部の光ピックアップで4割の世界シェアを持つほか、記録速度や精度を左右する光出力が世界最高クラスの青色レーザーを開発済み。東芝-NEC連合にとっては部品分野に強い三洋を加えることでコスト低下と性能向上を図り、規格争いを優位に進める狙いがある。
(2004/8/31日本経済新聞)

ソニーはグループの総力を挙げて規格競争の主導権を握る姿勢を見せています。下掲の新聞報道は、ゲーム機市場で圧倒的なシェアを誇るプレイステーションの次世代機に採用することによってブルーレイ・ディスクの普及に先手を打とうとするものです。

プレステ2後継 ブルーレイ搭載

ソニー・コンビュータエンタティンメント(SCE)21日、「プレイステーション2(PS2)」の後継ゲーム機に次世代光ディスク規格の「ブルーレイディスク(BD)」を採用する方針を発表した。次世代ディスクはソニーなどが主導するBD、東芝などの「HD DVD」の二陣営で競っている。圧倒的シェアを持つSCEのゲーム機にBDを採用し、ソニーはグループの総力を挙げて主導権を握る考えだ。
現在開発中で、2005年末から06年春にかけて発売すると見られているBD採用の後継ゲーム機には、現行のDVD(デジタル多用途ディスク)のソフトも使えるよう互換性を持たせる意向だが、BDの記録機能は当面不要として再生・読み出し機能の搭載を優先する考えだ。後継機は高精細画像が売り物の一つになると見られ、大容量のゲームソフトなどを納められるディスクが必要になる。BDの記憶容量(記録層が2層の揚合)54ギガと、30ギガのHD DVDより大きい点を採用の理由として強調した。
家庭用ゲーム機市場で、SCEの国内シェアは約8割。世界市場でも断トツの首位で、出荷台数は初代PSPS2を合わせて10年間で累計17干万台を超え、2004年度はPS2だけで1,400万台の見通し。急成長中のDVDレコーダーでも04年の出荷台数は約900万台の見通し。家庭のリビングルームでゲーム機の存在感は依然として大きい。
現在、BD対応機器はソニーや松下電器産業がDVDレコーダーで発売している。規格争いが続いていることもあり、販売台数はそれほど伸びていないが、PS2後継機への採用がBD陣営のけん引役になる可能性もある。
(2004/9/22日本経済新聞)

「ブルーレイ・ディスク」方式を推進するソニーや松下産業などは、更に、2005年にも次世代DVDを使ったビデオカメラを発売し、次世代ディスクの搭載機器を増やすことによって対立規格を推進する東芝・NEC陣営との規格競争で優位に立とうとする姿勢を見せています(2004/10/7日本経済新聞)下掲の新聞報道は、これに対応する「HD DVD」陣営側の動きを報じたものと見ることができます。

ノートパソコン 次世代DVD搭載

東芝は2005年末に次世代DVD(デジタル多用途ディスク)規格「HD DVD」方式の駆動装置(ドライブ)を搭載したノートパソコンを発売する。価格は現行型DVD対応機並みに抑え、ノートパソコンで国内最大のシェアを足がかりに、欧米や中国でも展開し、初年度100万台の出荷を目指す。パソコン大手で次世代DVD対応商品の詳細を明らかにしたのは東芝が初めて。「HD DVD」対応ソフトだけでなく現行型DVDやCD(コンパクトディスク)も再生可能で、高品位の映画ソフトなどを持ち運び可能なパソコンで楽しむ新たな需要を開拓する。
東芝が次世代DVD(デジタル多用途ディスク)に対応したノートパソコンをいち早く投入するのは、次期ゲーム機での対応を表明したソニーに対抗するためだ。次世代DVDの相異なる規格の両陣営の中核企業である東芝とソニーが、それぞれの得意の機器事業を足場に、事実上の業界標準規格にするための環境整備に乗り出したわけである。東芝は世界三位のシェアを誇るノートパソコンで「HD DVD」対応機を投入。ゾニーグループはゲーム機「プレイステーション」の新型機で「ブルーレイニァィスク」を採用する方針を打ち出した。両杜がパソコンやゲーム機を対抗軸に据えるのは、家電に比べ市場規模がけた外れに大きいためだ。現行型DVDレコーダーの市場規模は全世界で約1,600万台。これに対し、パソコンは約2億台(2005年見通し)。ソニーの現行型「プレイステーション2」も累計出荷台数が7千万台を突破している。両社はそれぞれの規格を主力機器に盛り込み、「市場創造」に突き進む。関係者の間では「早急に調整を開始しない限り規格統一は難しくなる」との声が増している。
(2004/10/20日本経済新聞)

しかし、かつての「VHS・ベータ戦争」でも立証された通り、記録媒体の消長はコンテンツ・プロバイダーがどちらの規格の製品を選択するかということに大きくかかっています。大容量なDVD用のコンテンツとして最重要視されている映画、更にその最有力プロバイダーとしてハリウッド映画産業の動向が注目される所以です。この中で、「タイタニック」や「スターウォーズ」などで知られる米映画大手の二十世紀フォックスがソニー陣営に参加することを明らかにしたという報道(2004/10/03日本経済新聞)は、「ブルーレイ一歩リード」を強く印象付けるものでした。同日の関連記事を以下にご紹介します。

ハリウッド争奪戦始動

大型商品として期待されるDVD(デジタル多用途ディスク)の次世代規格の行方に大きな影響力をもつ米国の映画産業がついに動きだした。近年の映画ビジネスは、DVDソフトの売り上げが劇場での興行収入を上回り次世代ディスクの規格やコストヘの関心は高い。米大手映画会杜、二十世紀フォックスが有力規格候補の一つ「ブルーレイ」を支持することで、他の映画大手の態度決定を促す可能性もある。
ブルーレイ陣営の盟主であるソニーは9月、米大手映画会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の買収に合意した。ソニー・ピクチヤ一ズ・エンタテインメントの作品と合わせると、ハリウッドのソフト資産の約4割を押さえることになる。「スターウォーズ」などの有力作品群を抱えるフォックスが同陣営に加入すれば、ブルーレイディスクで鑑賞できる映画ソフトが大幅に増えることになる。
現行DVDは、東芝・松下電器産業陣営が提唱していた規格をタイム・ワーナーやMGMなどハリウッドが支持し、同陣営と対立していたソニー・フィリップス連合の技術の一部を取り込んで規格統一にこぎつけた。タイム・ワーナーも参戦したMGM買収合戦にソニーが強い執念を見せたのも、ソフトを多くそろえることが規格を制する近道とみているからだ。
ただ、米映画業界で存在感を高めるソニーが、記録ディスクの規格でも主導権を握ることへの警戒感も強い。東芝とともに現行DVDの規格づくりで主導権を握ったタイム・ワーナーなどが反発し、東芝やNECなどの「HDD VD」陣営の支持を打ち出す可能性もあり得る。その揚合、規格が分裂したまま別々に商品化され、かつての「VHS・ベータ戦争」のように市場で規格を争うことになる。
DVD録画・再生機の今年の世界出荷台数は前年比18%増の約7,300万台となる見通し。本格的な普及が始まってわずか6年で1兆円規模市場に育った。次世代規格に対応した録画・再生機は両陣営とも来年秋以降に発売する計画。だが二つの規格の優劣がはっきりするまでは消費者が買い控えることも予想される。
(2004/10/03日本経済新聞)

米国でのDVD販売シェア(2004/1-6累計)は下記の通りでした。

(A) ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 12.7% 
二十世紀フォックス 11.3%
MGM  6.1
(B) タイム・ワーナー系 23.1%   
ユニバーサル・ビクチヤーズ 13.3%
パラマウント・ピクチャーズ 8.2%
(C)  ディズニー 17.2%  
その他 8.1%

このうち、いち早く(A)グループ各社(DVD販売シェア合計30.1%)の支持を取り付けたのが「ブルーレイ一歩リード」の印象を与えた理由だったのですが、下掲の新聞報道の通りに、出遅れの感がしていたHDD VD」陣営が(B)グループ各社(DVD販売シェア合計44.6%)の支持を取り付けましたので、ハリウッド勢の取り込みによって「両陣営互角」の様相を呈してきました。いずれにしても、ハリウッド自体も二分された形で、規格を統一できないまま互換性のないソフトや機器が製品化される可能性が高まってきたわけです。

米映画4社、東芝陣営に

東芝は29日、NECなどと共同開発を進めている次世代DVD(デジタル多用途ディスク)米タイム・ワーナー(TW)グループなど米映画四杜の支持を取りつけたと発表した。ソニーや松下電器産業などは互換性のない別の規格を推進し、これを他の米映画大手が支持している。最大の映像ソフ卜供給源として強い影響力を持つ米映画業界が二つの勢力に分かれることで、規格統一が一段と難しくなった。このままでは消費者の利便性が損なわれ、普及も遅れる可能性が出てきた。
TW傘下のワーナーブラザーズとニューラインシネマ、ユニバーサル・ビクチヤーズ、パラマウント・ピクチャーズの四つの映画スタジオが来年末以降、東芝陣営が推進する次世代規格「HD DVD」に対応した映画ソフトを発売する。各スタジオは同日、「二つの次世代規格を評価した結果、技術とビジネスの両面でHD DVDが最も高い能力を持つと判断した」などとする声明を発表した。
米ハリウッドの映画大手ではソニー・ピクチャーズエンタテインメントが、ソニーなどが推進する「ブルーレイ・ディスク」規格に対応したソフトを発売する方針。同規格の策定団体に参加した二十世紀フォックス、ソニーが買収したメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)もブルーレイ対応の映画ソフトを発売する模様。一方、東芝陣営への支持を表明した4社の米国での今年上半期のDVD販売シェアは計44.6%。まだ、態度を表明していないディズニーの動向が今後の焦点になる。
(2004/11/30日本経済新聞)
(3)今後の展望

次世代DVDが普及するかどうかは、製品1台あたりの価格が10万円を切るかどうかがポイントだという説があります。品質の良い青色レーザーが如何に安く量産できるかどうかがポイントになるわけですが、ここでも規格の不統一が大きな障害になるものと予測されます。「HD DVD」も「ブルーレイ・ディスク」も、ともにディスクの厚さは1.2ミリで同じなのですが、映像を記録する層の深さが異なっていて、ここがお互いに譲れないところになっています。従って、両規格のソフトを再生できる機器を開発・設計・製造するためには、青色レーザーやデータの読取装置をそれぞれ二つの方式に対応させる必要がありますので、コストが大幅に上昇することになります。

現行のDVDでも、記録型には「RAM」や「+RW」など計5種類のディスクがあり、どの種類に合わせた製品を買ったらいいのか消費者を悩ませています。これにまた、二つの次世代規格が併存することになると混乱が重なることが必至となります。「消費者不在の規格競争」とする批判は免れず、これが模様見のための買い控えを促進し普及を遅らせることも考えられます。むしろ、ハードディスクが大容量化したり、ブロードバンドが普及してオンラインで映像を呼び出せるようになったりすれば、お気に入りの映像作品を光ディスクに記録して手元においておく必要がなくなる可能性さえあるわけですから、DVDが円滑に次世代光ディスクに移行するためには、関連業界が一丸となって消費者の利益を重視した路線を模索・追求していく必要があるものと思われます。

しかし、以下の報道のように、規格問題解決策も打ち出さたのですが、その後順調に進展しなかったようです。ビデオテープの場合がそうであったように、「DFS(業界標準)は市場が決める」ということになりそうです。

次世代DVD統一へ ソニー・東芝 共同で新規格

DVDの次世代規格を巡って対立していたソニーと東芝は、互いに主張する自社陣営の方式を新たに共同開発する「第三規格」に統一する交渉に入った。米ハリウッドの映画会社にも統一規格の採用を打診しており、早ければ月内の合意を目指す。「ブルーレイ・ディスク」と「HD DVD」とではディスクの基本構造が大きく異なるが、次世代の映画ソフトや機器を普及させるには規格分裂の回避が不可欠と判断した。
両陣営を率いるソニーと東芝は2月頃から事態打開に向けた水面下の交渉を本格化させており、両方式の長所を取り入れた「ハイブリッド型」の規格を共同開発することによって、単一規格に統一するという基本認識で一致した。
(2005/4/22 日本経済新聞)

(4)別系統の次世代DVD

ITの世界では“ドッグ・イヤー”という言葉で、その凄まじい進歩の速さが表現されていますが、DVDの世界もまさに日進月歩の進化を遂げています。日頃から新聞報道に注目していて、講義では極力最新の情報をお伝えするように心がけているのですが、講義をした当日に更に新しい報道がなされたというようなことさえあります。下掲の新聞報道「DVD容量14倍に」がその典型例であり、上記の2003/10/03付けの「現行の4倍にあたる情報量を持つ次世代光ディスク」についての日本経済新聞報道を講義で紹介した当日2004/1/5)に報道されたものです。この報道に接して驚いたのは「現行の14倍」という情報量の大きさにばかりではありません。NEDOという電気・電子技術と直接関係のないエネルギー分野でコミュニケーション・メディアの技術革新が進められていたという事実がもっと驚きでした。何時の間にか、「情報通信機器産業は電気・電子産業に属するもの」という先入観にとらわれていたわけですが、考えてみれば、ディスクの製造自体は電気・電子技術がなくてもできるわけですから、今後ともこのような他分野からの参入が続く可能性もあるわけです。偏見や先入観にとらわれず、動向を把握することの必要性を改めて感じさせられました。

DVD容量14倍に


デジタル多用途ディスク(DVD)の表面にガラス材料を薄く張りつけることで、収まる情報量を現行の14倍にする技術を、経済産業省所管の独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)2年以内に確立できる見通しであることが4日、明らかになった。次世代DVDの開発に不可欠な新たな信号処理技術は不要で、既存のDVDレコーダーの方式で2時間のビデオテープ(VHS)なら70本分、ハイビジョンでも24時間分の映像を一枚に収められる。関係者は平成19年度にも商品化したい意向だ。

この技術は、ガラスの材料となるコバルト酸化物に電圧をかけるなどして蒸気の状態に変化させ、
DVDの樹脂の表面に薄い膜が張るように吹きつける。この薄い膜がレンズの役割を果たし、照射されたレーザー光線の屈折率を高め、光線が結ぶ焦点の面積を小さくする。焦点の面積が小さくなれば情報を高密度に記録することが可能になる。NEDOはすでに焦点面積を市販DVD4割程度に絞り込み、情報量を4-6倍に高めたハイテクDVDの試作に成功しており、更に研究を進めて、17年度には情報量を市販DVD13-14倍に高めたいとしている。

2004/1/5  産経新聞)


7.メディア・カード

パソコンまたはカード・ライター/リーダーやデジタルカメラなどの周辺機器との間でのデータの授受に用いられるSDメモリーカード(Secure Digital Memory Card)やスマートメディア、ICカードなどといったカード状の記録メディアを「メディア・カード」と総称します。カードからタグの類までメディア・カードの形態が多様化し、記録されるデータが複合化するとともに、非接触で人や物の属性/履歴等の情報の書き込み/読み出し/データ管理ができるタイプのものも含めて周辺機器も多彩になってきました。新技術の登場によって、データや情報を自由に持ち運びできる記録メディアの実用範囲は、磁気カードを中心とした会員カード、社員証などの限られた用途から脱して大きく拡大してきています。

7−1.ICカード

キャッシュカード大のプラスチック製のカードに、IC(集積回路)メモリーやCPUを組み込んだ記録メディアで、主にキャッシュカードやクレジットカードにICを組み込んだものを指します。磁気カードに比べて大量のデータを記憶でき、内蔵のボタン型電池でデータをバックアップします。最近では、非接触ICカードも交通システムや電子マネー等の分野で実用化されています。

特に銀行では、磁気テープに暗証番号などの情報を盛り込むキャッシュカードで「スキミング」などの形で偽造する犯罪が横行し始めてから、偽造が難しいICカードの導入が急速に進んできました。キャッシュカードにICチップを内蔵し、これに利用者本人を確認する暗証番号などの情報を暗号化して盛り込む仕組みです。一部の金融機関が取り組んでいる生体認証は、このICチップに手のひらや指の静脈のデータを入れる方法です。カード保有者が金融機関の窓口などで予め自身の静脈パターンを登録し、ATMを利用する際に手のひらや指をかざして、登録したデータと照合する仕組みです。30年来の歴史を持つ磁気カードからICカードへの切り替えが着々と進みつつあるのです。

ICカードの先進的な導入事例を、下掲の新聞記事によりご紹介します。

入場券にICカード

日本ヘラルド映画の子会杜ヘラルド・エンタープライズは同社の複合映画館(シネコン)全館にICカードを使った電子チケットシステムを導入する。あらかじめインターネットで席を予約しておけば、映画館の入り口でカードをかざすだけで入揚できる。まず41日に「シネプレックス小倉」(北九州市)に導入、6月上旬をメドに全館に広げる。シネコン全館にICカードを取り入れるのは国内で初めて。
ネット予約の際、カードに記された16ケタの識別番号を入力。上映当日、入り口に設置した読み取り機にカードをかざすと中に入れる。混雑時などの入場をスムーズにし、顧客サービス向上と売り上げ拡大につなげる。
(2003/3/29 日本経済新聞)
預金引き出し・分割払い・電子マネー 銀行カード1枚で

東京三菱銀行は来年度中に、一枚のカードで分割払いのクレジツトや電子マネーなどすべての決済ができる新型のIC搭載カードを個人向けに発行する。銀行カードとしては初めて身体認証を採用、指紋で本人確認をする仕組み。預金通帳なども不要となり、防犯性と利便性を一気に高め、個人顧客の獲得をめざす。他の大手銀行も追随してサービスを競う公算が大きい。

新型カードはIC搭載のキャッシュカードの機能を高め、本人の指紋情報を取り込んだのが特徴で、"次世代型カード"として様々なカードに分かれる決済機能を一枚にまとめる。キャッシュカードとしてのほか、預金口座から一定額をICカードに電子情報として書き込み、現金代わりに使う電子マネーとして利用が可能。クレジットカードとしても使え、買い物やお金の用途に合わせて、決済方法を自由に選ぶことができ、利便性が高まる。買い物代金を銀行カードで直接決済するデビットカードについて、東京三菱銀行は参加してこなかった。今回、ICカードに切り替えることでデビットカードサービスもできるようにする。

ICカードは情報容量が大きいため、口座取引の履歴を蓄積し、取引ごとに過去のお金の出入りなどの一覧を紙として受け取ることも可能。従来の預金通帳を廃止し、これに切り替えることができ、通帳の盗難による被害防止にも役立つ。

東京三菱銀行は銀行本体で発行するクレジットカードに分割払いを認めない規制が来年四月に撤廃されるのに合わせ、新型カードに分割払いの機能を加える。大手行として初めて銀行本体でクレジットカードを発行。
(2003/9/27 日本経済新聞)

電子チケットに・財布代わりに・身分証明書も

NTTドコモとソニーは27日、携帯電話向けICカードの製造販売会社を来年1月に設立すると正式発表した。ドコモは来年半ばから、ソニーが開発したICカード「フェリカ」を搭載した機種を順次発売する。今後、フェリカを採用する他の事業者とも提携し、携帯電話を財布や身分証としても使えるようにする計画だ。フェリカは非接触型で読み取り機にかざして情報をやり取りする。東日本旅客鉄道(JR東日本)の乗車券「スイカ」のほか、電子マネー「エディ」としてコンビニエンスストア「am/pm」など全国2,700店が決済に使う。新会社は電子マネーのほか、個人データを記録した社員証や学生証などの「電子身分証」、観劇やスポーツ観戦用の「電子チケット」といった用途を見込む。ドコモの「iモード」を通じてインターネット上で電子マネーを入金する仕組みを整える。今年12月にはICカードを搭載した端末6千台を使い、am/pmや全日本空輸などと試験運用を始める。

(2003/10/28 日本経済新聞)
7−2.メモリーカード(Memory Card)

携帯情報機器にデータを保存したり、そこからデータを取り出したりするためにストレージデバイスを搭載するには、以下の諸問題が大きな制約となります。

     サイズの問題

     消費電力の問題

     使用環境の問題

1984年東芝によって発明されたフラッシュメモリーは、こうした問題に対して解を与えるものでした。電気的に消去(書き換え)可能なROMの一種で、電気を流すとフラッシュのように一瞬で消去できることから“フラッシュ”メモリーと名づけられたこの記憶媒体には、普通のメモリーより記憶効率が良い、電源を切ってもデータが消えない、そして、高集積化に適した構造になっているという利点が兼ね備わっていたからです。

<フラッシュメモリー>

DRAM(記憶保持動作が必要な随時書きこみ読み出しメモリー)と異なり、電源を切ってもデータを保持し続ける半導体メモリーの一種。データ書きこみ速度の速いNOR型に対し、NAND型は大容量データを保存するのに向いている。例えば、NAND型フラッシュを内蔵した容量1ギガバイトのメモリー製品はフロッピーディスク約700枚分の情報を記録できる。

<NAND型フラッシュメモリーの代表的な用途>

製 品 記憶する主な情報
携帯型音楽プレーヤー 楽曲データ
携帯電話 電話帳、写真、着信メロディー
デジタルカメラ 写真、短時間の動画・音声
ボイスレコーダー 会議録などの音声データ
各種メモリーカード 文書データ、写真、画像

「メモリーカード(Memory Card)」とは、記憶媒体としてこのフラッシュメモリーを採用しているカード型のリムーバブル記録メディアの総称で、コンパクトフラッシュ(Compact Flash)やスマートメディア(Smart Media)、SDメモリーカード(Secure Digital)、メモリースティック(Memory Stick)などが代表的です。非常に小型で、しかもデータの読み書きにほとんど電力を消費しないため、デジタルカメラや携帯音楽装置、モバイル機器の記録メディアとして普及しています。フロッピーディスクやMOなどの磁気メディアを利用したディスク型の記憶装置にくらべ、記憶容量が小さく高価という欠点がありましたが、技術の進歩や大量生産によるコスト低減効果によって大容量・低価格になってきています。

ISO(国際標準化機構)の下部組織であるMPEG(Moving Picture Experts Group)が規格化した音声圧縮技術MP3(MPEG1 Audio layer 3)によるとCDと同レベルの音質を約1/10のデータ量に圧縮できます。こうして圧縮して、カセットテープでもMDでもなく、フラッシュメモリーまたはスマートメディアに収録した曲をヘッドホンステレオの形で聞く「ポータブルMP3プレーヤー」が新基軸の携帯音楽装置として脚光を浴びました

ディスクでもテープでもなく、ただのMP3データファイルをドライブするだけですから、振動には滅法強く“ソリッド・オーディオ”と言われるほどですし、プレーヤー本体も小さく重さも100g以下と軽く、電池もあんまり食わないので長時間の再生にも最適だからです。パソコンを用いるのが条件ですが、切手を一回り大きくしたようなメモリーカードには1時間から2時間程度の音楽データを入れることができます。最近では、さらにデータを低減させる圧縮方式も提案され、携帯電話の音楽配信やMDの長時間録音などにも利用されつつあります。

コンパクトフラッシュ(Compact Flash)

コンパクトフラッシュカードはCFカードとも呼ばれる36.4mm(L) x 42.8mm (W) x 3.3mm (H)の小形メモリーカードで、音声や静止画、動画などあらゆるデジタルデータの書き込み・消去可能なフラッシュメモリー型記録メディアです。コンパクトフラッシュカードにはフラッシュメモリーの他にメモリーへのデータの書き込み・読み出しを制御するコントローラーチップが入っていて、このコントローラーチップがデータの管理やエラー修正をしているので、更に信頼性の高いメディアになっています。デジタルカメラに加えてコンピューターモバイル周辺機器に採用されています。

スマートメディア(Smart Media)

携帯情報機器やデジタルカメラの記憶媒体として広く利用されているスマートメディアは、東芝によって提唱されたフラッシュメモリカードの規格の一つです。切手ほど(45mm、横37mm、厚さ0.76mm)のサイズです。スマートメディアを活用すれば、動画、静止画データ、デジタルサウンドデータやボイスメモなどの音声ファイル、テキストデータを取り込んだり、交換したりすることが簡単にできます。小型な上に構造が単純なのでメディア1枚当たりの単価が安いという特長があります。

また、「フラッシュパス」というアダプターを利用すると3.5インチ・フロッピーディスク・ドライブで使用できるという利便性があるため、多くのデジタルカメラで採用されています。電気的には1万回くらい書き込むことができ、機械的には5000回くらい抜き差しすることができます。但し、PCカード・スロットから読み書きするためのPCカード・アダプターの仕様が再度変更されるなど、規格に不安定な部分が残されています。

SDメモリーカード(Secure Digital)

SDメモリーカードとは、松下、東芝、サンディスクが共同で開発した小型メモリーカードで、大きさは切手サイズ(32×24×2.1mm)です。高速なデータ転送が可能な他、著作権保護機能を持っているのが特色です。小型でありながら大容量で、音声データに限らず、静止画像・動画・テキストなど、様々なデータを記録することができます。大容量のSDメモリーカードを使って、撮影した画像や自作した着信メロディ、スケジュールやメモリダイヤルはもちろん、録音した音楽、ダウンロードしたアニメーションやゲームなどをたっぷり保存することができるため、デジタルカメラになったり、ミュージックプレイヤーになったりすることのできるケータイも出現しています。
現在、ケータイで多用されているのは「ミニSDカード」で、ケータイの他にデジカメや音楽プレーヤーで記録した画像や楽曲は、同カード対応の差込口のあるパソコンやテレビで視聴できるようになっています。また、2006/9に東芝が量産を開始した「マイクロSDメモリーカード」は、15×11×1mmという世界最小の記録媒体で、「ミニSDカード」の約1/4のサイズになります。

メモリースティック(Memory Stick)

「メモリースティック」とは、ソニーが提唱するコンパクト・高信頼性のIC記録メディアです。メモリースティック・スロットに「メモリースティック」を直接差し込んで、デジタルスチルカメラ感覚で、つぎつぎと静止画を撮影することができます。大容量16MBの「メモリースティック」を使用すれば、最大246枚もの静止画をコンパクトに記録することが可能。テープに録画した動画の好きなシーンを、静止画として「メモリースティック」に記録することもできます。さらに、「メモリースティック」の静止画データをパソコンに取り込むのも簡単。静止画は汎用性の高いJPEG方式で記録します。

マルチメディア・カード(MMC : Multi Media Card)

MMC(MultiMediaCard、マルチメディアカード)は、携帯音楽プレーヤーなどでよく使われるメモリーカードです。また、携帯電話で音楽配信サービスに対応しているものもあります。配信された音楽データは、この端末のメモリースロットに挿入したセキュリティ機能付きのMMCに記録されます。海外ではページャー用のメモリーとしても使われています。サイズは24×32×1.4mm(縦×横×厚さ)とほぼ切手大で、大きさはSDメモリーカードと同じですが、厚みが1.4mmと、2.1mmSDカードよりもさらに薄いメモリーカードです。


各種メモリーカード間の競合状況

以下の新旧の新聞報道を読み比べるとメモリーカードの普及状況と各種メモリーカード間の競合状況を読み取ることができます。

メモリーカードの諸規格

デジタルカメラなどの記憶媒体に使われるメモリーカードには諸規格があり、コンパクトフラッシュ、スマートメディア、メモリースティックの3規格が20-40%台のシェアを競い合う市場。最も新しい規格として2000年に発表されたSDカードは200社近くの企業の賛同を得てPDA(携帯情報端末)等の接続方式としても着実に足元を固めつつある。
(2001/8/26 日本経済新聞)
「2枚目需要」が市場拡大をけん引
デジタルカメラの必需品として定着した同カードだが、好きな楽曲を取り込める携帯電話機の普及で用途が広がった。売れ筋製品の価格はここ1年で4-5割下落。他方式のメモリーカードもほぼ同水準まで値を下げている。「量産効果が出てきたうえ、メーカー間の競争が厳しくなってきた」(松下電器産業)ことが背景にある。
値ごろ感が出てきた大容量の製品を買い増す「2枚目需要」が市場拡大をけん引している。以前はデジカメと一緒に買う客が大半を占めていたが「カード単品で購入する人がここ1年で急増した」と言われている。
売れ行きが好調なのはメモリーカードの用途が広がったため。携帯電話機の機能向上で、インターネットから音楽をダウンロードすることが簡単になった。また電話機に搭載されているカメラの画素数が増え、鮮明な写真を撮ることができるようになった点も大きい。
民間調査会杜のシード・プランニング(東京・台東)の調査によると、2005年に販売された携帯電話機の80.6%がメモリーカードを使えるようになった。今後、携帯機向け地上デジタル放送「ワンセグ」を見られる機種が増えれば、番組を録画するという使い方も増えるとみられる。
携帯電話機用として特に売れ行きがいいのは、縦21.5ミリ、横20ミリとひとまわり小さい「mini(ミニ)SD」だ。2003年に登揚した規格で、付属のアダプターを使えば通常のSDカードと同じように各種の家電製品にも使える便利さが受けている。SDカードより干円ほど割高だが「『小は大を兼ねる』こともあり、人気が高い」と言われている。
規格別ではSDカードが優勢。2006年の伸び率は11%増で、市場シェアは58%になると予測する。他規格のカードより小さいため、小型化を目指すデジカメなどで採用が増えている。

(2006/6/9 日本経済新聞)

7−2.ICタグ

大きさ1ミリ角程度の小型ICチップとアンテナを内蔵した小さな商品札(電子荷札)のことを一般的にICタグと呼んでいます。(通常のパッシブICタグの場合)電源はありませんが、読み取り機を近づけることによって装置が発生する電波がアンテナ部分に当たって電気が発生します。そして、チップ内の情報を電波に乗せて読取装置に送り返す仕組みになっています。

バーコードと違って、多くのICタグを一度に読み取ることができますから、例えば商店では、商品につけたタグの信号をレジに設置した読み取り機が察知し、一瞬で買い上げ商品の合計金額をはじき出すことができます。ごった返す店内で精算にかかる時間を短縮し、混雑が緩和できるわけですが、導入の結果、レジの効率化だけではなく、棚卸や検品にかかる従業員の付帯業務を減らし、接客に充てる時間を延ばすことを期待することもできます。

このようなレジ作業や在庫管理の効率化の他に、トレーサビリティー(生産履歴の追跡など)管理などへの幅広い応用が期待されていますが、個々の商品に付けるには1個数十円というコストが高すぎて障害となっています。利用業界の間でもタグの低価格化の要望は強く、出版業界では本や雑誌1冊に付けるには1個3円以下、スーパーでは1円以下を求める声が多いようです。また、特に倉庫での読み取り精度を高める、通信距離の長いUHF(極超短波)帯の活用が強く期待されています。

単価10分の1・遠くで読み取り 新型のICタグ

松下電器産業、東芝、大日本印刷などICタグ関連メーカー約70社と、アパレルや家電メーカー、出版などの利用企業20数社の合計約100社は、低コストで生産でき、海外で主流のUHF(極超短波)帯を使った新型ICタグ(荷札)の実用化に乗り出す。単価を現在の約10分の13-5円まで下げ、UHF帯対応で独自の製造技術を確立するのが狙い。経済産業省も資金面で支援、新型ICタグの2年後の普及へ向け、官民が手を組む。開発の成果は公開し、国内企業の生産技術を底上げすることで次世代のバーコードと期待されるICタグの競争力を高める。
生産コストの低減に向けてICタグのアンテナ部分を小型化し、印刷で高速に商品に取り付ける技術を開発。また現在は作業用ロボットがICチップ一個一個をアンテナに埋め込む作業も、複数のチップを1回で付けられる方法に改善する。ICタグが無線通信に使う周波数のうち、800-900MHz近辺のUHF帯は通信距離が10メートル弱と比較的長く、倉庫などでの利用に便利。電波が障害物を乗り越えやすい特性もある。
2003/09/20日本経済新聞)
個人追うデジタル社会

東京都港区で4月開業した人気の商業施設「六本木ヒルズ」。超高層ビルを核に210店舗が入居するこの街で、買い物客らの動きをリアルタイムで把握するシステムが11月に動き出す。「追跡」に使うのは買い物客に配布する特殊なICカード。ポイントカードの機能に加え、電波をやり取りするICタグ(荷札)と呼ばれる小チップが埋め込んである。天井などから0.7秒に1度電波を送りICタグとのやり取りで客がどこにいるのかが分かる。例えば、美術館の方向に歩いている人に対しては携帯電話に美術館の催し物情報を流す。案内板の前に立ったときに過去の購買歴を参考に関心のありそうな広告を表示する。雑踏の中で自分向けだけの案内サービスが受けられるという趣向だ。
2003/06/21日本経済新聞)
「オートID」プロジェクト

ウォルマート・ストアーズなどが進めているプロジェクトで本部をマサチューセッツ工科大学(MIT)に置く。目標は缶ジュースや野菜などすべての消費財にチップ(“一つ5セント”タグ開発を目指す)を取り付けること。物流倉庫のパレットに取り付け、入出庫の際に数量を無線で把握する実験を進めている。将来はICに割り振った認識番号とデータベースを使って全商品の生産から店舗入荷までの流通経路や在庫を捕捉する構想を描いている。更に、商品を持ってゲートを通過すると決済が終了する「レジのない店」の実現も視野に入れている。
2003/01/01日本経済新聞)


ICタグの応用領域 

従来のバーコードの数十倍という情報量をやり取りできるというICタグの特徴を活かして、在庫管理や流通履歴の検索をはじめとする様々な用途に応用されることが期待されていますが、具体的に以下のような業界で導入または導入検討するケースが相次いでいます。

・アパレル

顧客が買う商品をカウンターに載せると、内蔵したアンテナがタグに記憶した商品情報を認識、合計金額を瞬時に計上します。一品ごとにいちいちバーコードを読み取る手間が省け、本部は商品の在庫管理や売れ筋の把握・分析などのために時間を有効に使えるわけです。また、入荷した商品の検品にICタグを使っているケースもあります。タグが発信する商品番号や数量をアンテナが読み取りパソコン画面に表示。伝票の読み合わせ作業をなくすとともに、売れ筋商品を素早く店頭に投入できます。

・家電その他の製造業

入出庫時の商品管理に利用し始めたケースもありますが、いずれは製品一つ一つに取り付け、家電のリサイクルなどに生かすことが期待されています。冷蔵庫を例にとれば、部品の材料、冷媒ガスの処理方法、修理履歴などをタグに書き込んでおけば、廃棄する際に部品の仕分けなどを容易かつ正確に行なうことができます。また、製品にICタグを付けておけば、当該製品の製造ラインや製造時期を即時に特定することもできます。

・コンビニエンスストア及びスーパー

レジで籠に入れた商品のデータが無線で読み取られますので、支払額の計算が一瞬でできます。また、食品の生産地などをスーパー店頭で確認することもできるようになります。下掲の報道のように販売促進への応用実験も行なわれています。

スーバー販促へICタグ用途広がる

NTTは今月中旬から、イオンが展開する大手スーパー、ジャスコの店舗でICタグを使った新たな販促手法の実験を進めている。ICタグを買い物カゴに付け、「子ども連れ」などと顧客の属性を入力。その客が商品陳列棚に近づくと無線でセンターに知らせ、棚に設置した大画面テレビに広告映像を流す。三十代の子ども連れの主婦には家族向けの食材、五十代の夫婦には健康によい食材などと、顧客の志向に合った広告を流す。顧客が店内をどのように移動したかも分かり、商品配置の見直しに活用できる。実験を進めるNTT研究員は「混雑時を除けば顧客への訴求効果が出ている」と手応えを語っている。
(2003/03/28 日本経済新聞)

・書籍・雑誌

出版社が、取り次ぎや書店など流通の各段階で在庫を確認することができます。また、店頭での万引き防止や、店内の端末でお客様の求める書籍が置かれている棚を確認したり同じ作者の他の著作を探したりするといったような情報検索サービスをすることができます。

・医薬品

風邪薬などの外箱に添付したICタグから成分表示を読み取ることができます。また、複数の箱の情報から、悪い飲み合わせなどを警告することができます。
スライド 39  ICタグの応用領域 宅配便/セキュリティー

・宅配便

電子伝票として配送ラベルに添付すれば、荷物の現在地や届け先の受領確認などを一元管理することができます。

・セキュリティー

運転免許証やパスポートなどの身分証明書や株券などの有価証券に識別番号を記録したチップを埋め込み偽造を防止することができます。航空手荷物の安全検査にも大いに効果があります。

・娯楽施設・スポーツ関連

スキー場のリフトの乗車券や遊園地の乗り物券などに利用することができます。また、タグを手首などに装着すれば、非接触での料金の決済や入退場が可能になります。一方、スポーツ分野でも、下掲の報道のように実用化が進展しています。

スポーツ分野にもICタグの用途広がる

シチズン時計はICタグを使ったマラソンのタイム計測システムを開発、昨年末から国内の主要大会や駅伝などで実用化した。選手のゼッケンに取り付けたICタグでタイムを迅速に計測、結果をネットワー-クを通じてテレビ局などに速報できる。「市民マラソンや自転車競技などである程度の市揚が見込める」(同杜)という。
(2003/03/28 日本経済新聞)

・その他

その他にも、例えば、図書館でICタグにその本の著者、題名、保管場所などの情報を書き込んで本に貼付し、ICカードには図書カードとしてカード所持者の氏名や何の本をいつから借りているかなどの情報を書き込んでおくようにすれば、関連情報をすべてディスプレイ画面で確認できますので、図書館管理を迅速/正確かつ効率良く行うことができます。更に、ビデオ/CD/DVDレンタル店での管理、在庫管理、アーカイブ(蓄積)システム、IDカードシステム、イベント管理等にも用途が拡大することが期待されています。

電子マネー「エディ」や「スイカ」にもICタグと同じ仕組みが使われています。また、電池を内蔵して強い電波を発信することのできる「アクティブICタグ」が解禁されました(2006年)ので、輸入用コンテナの管理などへと更にICタグの用途が拡大していくものと考えられます。現在普及しつつある通常のパッシブICタグでは精々数十センチの間でのやり取りしかできませんが、アクティブICタグを用いれば100メートル以上離れた物体との間でデータ交信ができるからです。

8.その他の記録メディア

8−1.フロッピーディスク(Floppy Disk)

円板に磁性材料を塗って磁化によって記憶するメディア。軟らかい円板を厚紙や硬質プラスチックで保護したもので、軽くて安く、交換可能な記録メディアとして便利です。読みとりは磁気ヘッドを回転する円板の記録面に密着させて行ないます。2HDのフォーマット様式で1.44MB。フロッピー記憶面数は2(両面)、1面あたりのトラック数80、1トラックあたりのセクター数は9で、1セクターの記憶容量は1,024バイトになります。なお、フロッピーディスク状で120MBくらいの容量を持つ「スーパーディスク」という記録メディアがありますが、スーパーディスクドライブではフロッピーディスクを駆動することもできます。

8−2.MOディスク(Magneto-Optical)

レーザーディスクと同じ光ディスクの一種です。光磁気ディスクとも言われているように、読みとりは光磁気ヘッドで行ないます。読み出しにレーザーを使う点はCDROMと同じですが、MOディスクはレーザーと磁気の両方の特性を使ってアクセスでき、読み出しだけでなく、何回でも書き込みができるという特性があります。

8−3.ストリーマー(Streamer)

記録媒体は磁気テープであり、外観は市販されている音楽カセットテープと変わりませんが、高密度にデータを記録することのできるストリーミング・モードでデータを記憶しているためにストリーマーとよばれています。記憶容量は、大きなものだと数十ギガバイト(GB)の単位で記録が可能で、他の磁気メディアより大量のデータを記憶することができますがが、磁気テープを使用しているため読み書きには時間がかかります。

また、他の補助記憶装置はどの場所からでもランダムにアクセスすることが可能であるのに対し、ストリーマーはテープという形状からくる制約のため、先頭から順番に読み書きする方法(シーケンシャルアクセス)でしかアクセスできません。このため、通常は、ハードディスクなどのバックアップ用として使用されています。

8−4.RAMディスク

RAMをそのまま補助記憶装置として使用する場合に用いますが、実際には主記憶装置の一部をRAMディスクとして利用する場合が多いようです。この装置は主記憶装置と同じメモリーを使っていますので、データをやり取りする速度は、ハドディスクなどの磁気媒体より高速ですが、記憶容量はハードディスクほど大きくありません。

8−5.USBフラッシュメモリ

USBコネクタとフラッシュメモリを一体化させた小型ストレージ。現在は32-265MBが主流。フロッピーディスクに収まりきれない大容量のデータ交換に便利です。

8−6.DAT(磁気テープ)

カートリッジ型の磁気テープ。数から数十GBの容量を持つ。アクセス速度は低速ですが信頼性が高いため主にバックアップ用に使用されています。

(Ver.1 2004/ 1/ 4)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1
)
(Ver.4 2007/ 1/ 9)

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