コミュニケーションメディア論

第7課 デジタル放送ネットワーク


1.デジタル放送とは

1−1.テレビ放送の歴史

テレビ放送は、下表の通り、様々なイベントやできごととともに普及するとともに進化して、マスメディアの主役の座を占めるに至っています。

1953  TV放送の開始  街頭テレビ流行
1959  TV受像機の普及加速  天皇(当時皇太子)ご成婚
1963  初の日米TV衛星中継  ケネディ大統領暗殺
1964  TV放送のカラー化  東京オリンピック
 カラーTV受像機の普及
 家庭用VTRの普及
1990  BSアナログ放送の開始
1996  CSデジタル放送の開始
2000  BSデジタル放送の開始  シドニー五輪試験放送
2003  地上波デジタル放送の開始


このうち、デジタル放送は1996年に開始されたCSデジタル放送を嚆矢とするものですが、現在最も注目を集めているのは、21世紀の全く新しいTV放送方式と称されるBSデジタル放送と地上波デジタル放送です。この新しい放送方式によって、放送ネットワークの姿が大きく変わり、デジタル放送ネットワークが中心となる時代を迎え、更に第9課「メディア・フュージョン」で考察する「放送と通信の融合」の契機がもたらされています。

1−2.デジタル化への動き

郵政省(現、総務省、以下同じ)19973月、「国民に最も身近な基幹メディアである地上放送のデジタル化は、マルチメディア社会の実現には必須であるとともに、電波資源の有効利用が図れる」として、早期導入に向けて動き出しました。その背景には、@CSデジタル放送事業の拡大およびBS放送のデジタル化に向けた取り組みの開始、Aデジタル放送技術の急速な進展、B欧米での地上波デジタル放送の導入の加速化等々の事情がありました。デジタル放送の開始はできるだけ早い方が望ましいとし、当時は2000年以前の開始を計画していたのです。そして、1999531日、電気通信審議会(郵政省の諮問機関)2010年までに全国のCATVのデジタル化を進める旨の答申を出しました。これで地上波、BS、CATVがすべて2010年までにデジタル化されることになったわけです。

慌てたのは放送事業者で、民放連は一連の郵政省のデジタル化推進策に対して、放送開始の先送りを求めてきました。投資負担がきつく(地上波のデジタル化対応の設備投資に合計で6000億円かかる)、対応しきれないとの認識からデジタル化の早期導人に反対したのです。これに対して郵政省は、地上波デジタル放送の周波数利用計画策定を2年半先送りし、三大都市圏での本放送を予定より遅らせ2003年の放送開始としました。しかも、三大都市圏でも放送事業者と合意ができた地域から段階的に放送を実施するとして、強引に進めようとするこれまでの態度を変え、放送業界の実状にも配慮した方針を打ち出しました。

反対姿勢を崩さなかった日本民間放送連盟が1999715日、「三大都市圏で2003年に本放送の開始」という郵政省の目標について、三大都市圏の一部に限定するものの、「実現可能性を検討する」とはじめて前向きの姿勢を打ち出しました。従来の方針を転換したことになりますが、それには以下の理由があったものと考えられています。

@ 放送分野に通信事業者が参入しはじめており(例:デジタル技術を使い,インターネットや衛星(CS)などで動画を配信する企業が現れた)、放送局も自ら高度化していかなければ競争から脱落しかねない
A BSのデジタル化が2000年末から開始され、ハイビジョン放送が全国で見られるようになる。高品質の番組が出てくると、地上波放送が見られなくなる可能性がある

そして、デジタル化が遅れると、地上波系列局の存在意義が揺らぐことも懸念したものと思われます。ですから、インターネットの高度化に押されるようにデジタル化の推進を決意せざるをえなかったものとみられます。業界としては、@地上波のデジタル化は不可避、A各放送局の経営判断で、まず関東、中京、近畿の三大都市圏で導入、その後、全国に広げる。三大都市圏では、東京タワーなど主要局が発信した電波の届く範囲から始める。当初の受信可能地域は東京23区、名古屋地区、大阪地区などそれぞれの中心部とする等々の事項を確認した上で、「できる地域、できる放送局から始める」という姿勢で臨むことにしましたが、地方局の現状を考えると、民放業界としては苦しい選択であったものと考えられます。

いずれにしても、様々な紆余曲折を経て、20016月に、2011年のアナログ停波が国会で決定されました。全面的なデジタル放送への移行が具体的にスケジュール化されたのです。

1−3.デジタル放送のメリット

(1)多チャンネル化
ソフトウェア、映画、ニュース、ドラマなどを、デジタルの動画圧縮技術を使って多チャンネル放送できますので、電波を効率的に使用することができるようになります。

(2) 高画質/高音質化

デジタル放送ならではの高精細な画面。より美しく、迫力のある映像が楽しめます。また、サウンドはCD並みのクリアな高音質を実現。映画スクリーンと同じ画面比率(16: 9)ですので、映画館と同等の臨場感が自宅のテレビで体験できます。

(3) 高機能(データ放送/双方向機能)

データ放送の機能により、野球番組を見ながら選手情報をチェックするなどが可能となります。また、データ放送と双方向機能により、番組中にチケットの購入やアンケートを行うことが可能となります。新しいサービス(ビジネスモデル)が可能となります。

(4)移動受信(地上波デジタル放送)

一般のアナログ地上波の受信では、直接受信波の他に、山、ビルや地表移動体などからの反射波が受信され、二重や三重の映像(ゴースト)が現れやすくなります。地上波デジタル放送では、OFDM多重化変調方式(直交周波数分割多重:Orthogonal Frequency Division Multiplex)を用いて、ゴーストやフェーディングを完璧に除去して伝送することができますので、移動体(車載型受信端末、携帯受信端末など)でも明瞭な映像と音声を受信することができます。外出先での情報受信・発信を行う端末としてカーナビや携帯電話が普及していながら、移動受信に対応していない現在の地上波アナログ放送では、移動中の画質はノイズが乗ったり途切れたりの不満足なものだったのですが、外出中もアクティブにテレビ視聴をできる環境が整うわけです。

(5)単一周波数ネットワーク(地上波デジタル放送)

現在のアナログ地上波放送では、親局送信局から中継局を経て電波を送信する過程で周波数を変換していますが、地上波デジタル放送ではSFN(単一周波数ネットワーク:Single Frequency Network)によって単一周波数中継が行なわれます。デジタル放送はUHFで行なわれますが、アナログの放送を続けながら放送をする(サイマルキャスト)ためチャンネルの空きが乏しくなります。SNFは、これに対して、一つの放送局の全サービスエリア内の放送波を一つのチャンネルでまかなおうというものですが、これによって、隣接の複数中継局のエリアが重複するゾーンで起こりがちな混信の問題がなくなるとともに、複数中継局のエリアをわたって移動する移動体への送信も円滑に行なわれることにもなります。


1−4.デジタル放送の受信環境

21世紀の全く新しいTV放送方式が実現することによって、テレビは、家庭における固定受信だけではなく、移動体や携帯端末などによるオープンなエリアでの受信が可能になるとともに受動的に見て楽しむだけのテレビ(娯楽性)から、能動的に読むテレビ、参加するテレビ(専門性)の要素が強くなってきます。

これに伴って、受信機も以下のように多様化していくことが予測されています。

家庭(居間)向けの大型・軽量・低電力(壁掛け)ディスプレイ
家庭(書斎)向けの個人情報端末用ディスプレイ
携帯向けの小型(パームトップ)液晶ディスプレイ
車両搭載用受信機


[テレビ受像機の話]

テレビ受像機には、それぞれ原理と長所/短所を異にする次の3種類があります。

●ブラウン管テレビ

じょうご状の形をしたガラスバルブの中に電子銃と蛍光面を封入したもので、3本の電子銃により、前面に規則正しく配列した3原色(RGB)の蛍光体を発光。構造上、画面の周辺部のフォーカス性を上げることが難しく、また、地磁気などの外部磁界の影響により、電子ビームの軌道がずれて色ムラや色ズレを生じることがあります。そのため、磁石を用いて、最小限に抑えるように補正しています。

液晶テレビ

液晶のもつ、電圧の変化により透明度が変わる性質を用いて、前面に配置したカラーフィルターの透過する光の量を変化させ、コントラストを再現しています。消費電力量が少なく、ブラウン管よりも薄くできます。液晶テレビなら、30V型でも消費電力は約154W。同じくらいの画面サイズのブラウン管テレビに比べ、約31%も低減。液晶パネル自体は性能が劣化することがほとんどなく、バックライトの交換で、美しい映像が長く楽しめ、バックライトの寿命も約60,000時間の長寿命設計。また、液晶テレビはブラウン管テレビと違い、走査線によるチラツキがありません。そのため長時間近くで見ても目が疲れにくく、目に有害な紫外線も発生しません。

●プラズマテレビ

プラズマディスプレイは、従来のブラウン管型や液晶型とは異なり、蛍光灯に似た原理を採用しています。電極を取り付けた2枚のガラス板を並行に重ね、そのわずかな隙間の中に封入した希ガス(ネオンなどの放電ガス)に電圧を加えると放電が起こり、紫外線が発生。その紫外線がガラス板の内側に塗布された赤、青、緑の蛍光体を刺激して発光するという仕組みです。シンプルな構造なので大画面化が容易、ブラウン管型より薄くて軽い、液晶型よりも上下左右からでもクリアで見やすい160度以上の広視野角といった特長に加え、色ズレや画面の歪みがなく、鮮明な高画質映像を実現します。

プラズマテレビの利点は、まず、ブラウン管テレビと比べて、32V型は32型ブラウン管より116%大きい映像サイズで、大画面なのに薄くて軽く、画面全体が発光するのでチラつきが少なく目にやさしく、画面のすみずみまで明るく高画質であるというところにあります。また、液晶テレビと比べて、同じ薄型でも大画面が可能で、応答速度が速いため動画にも強く、上下左右どこからでも見やすい160°以上の広視野角であるという利点もあります。

しかし、プラズマテレビには価格面に大きな欠点があります。プラズマ画面は、RGBそれぞれの小型CRTが画面の画素分並んでいるようなものと考えられます。しかも、この上に、発光を制御する装置が必要ですから高価になるはずです。また、CRTですから、電源を常に供給しておく必要があるため、電気代もかかるようです。生産歴の長いブラウン管テレビでは、製造技術も確立していて製造コストも極限近くまで削減できているのに対して、プラズマテレビの製造コストは割高になっているので、価格面のデメリットがその分だけ大きくなっているという一面もあります。

以上のように、伝統的なブラウン管テレビ、薄型テレビを巡って覇権を争っているプラズマテレビと液晶テレビには、それぞれの長所と短所がありますが、現在のところでは、低価格帯および中小型(ブラウン管)、中大型(液晶)、超大型(プラズマ)というような棲み分けがされているようです。しかし、特に製造技術の確立に伴って、液晶テレビも低価格帯に進出してくるでしょうし、プラズマディスプレイの方が液晶より製造コスト削減余地が大きいようですから、プラズマテレビが中大型ゾーンに勢力を伸ばしてくる可能性もあります。

更に、液晶、プラズマに次ぐ薄型大画面テレビ用ディスプレーの第三勢力としてとして「SED(表面電界ディスプレー:Surface-conduction Electronic Display)が登場しています(キャノン・東芝の共同開発によるもので、2004シーテックジャパンに36インチ試作機を公開)。原理としてはブラウン管とよく似ていて、電子ビームを蛍光体に当てて発光させる仕組みです。但し、ブラウン管には電子を放出する部分が1個しかないのに対してSEDでは小さな電子放出源が多数(36インチ試作機の場合約300万個)並んでいるところが違っていて、このためにディスプレーを薄くすることができるようになっています。SEDは電圧を加えてから発光するまでのスピードが非常に速く、ブラウン管と同等の100万分の1秒以下の高速で動作しますから、液晶やプラズマディスプレイと比べると約10倍高速で、スポーツのように高速な動画を映しても画面が流れるようなことがありません。原理的に電子を放出するのに必要な電力が少なくて済みますから、紫外線を発生させるのにエネルギーを食うプラズマディスプレイと比べると消費電力は1/3、バックライトが必要な液晶と比べても2/3と、消費電力が少ないのも強みになっています。問題は、製造に特殊な設備が必要なことからコストが高くなることで、この課題がクリアできれば薄型・大画面テレビ市場の台風の目になる可能性を秘めているものとして注目されています。

1−5.各種デジタル放送の概要図


1−6.放送のデジタル化のスケジュール

2.CSデジタル放送

2−1.CSデジタル放送とは

CSデジタル放送のCSはCommunication Satellite(通信衛星)の略で、本来は企業間の通信などを含めたデータ全般の通信を目的とするものでした。しかし、1989年の規制緩和によりCSを放送事業に用いることが認められ、CS放送が実現するに至りました。「“通信”衛星による“放送”」ですから、これが「通信と放送の融合」の第一歩であったとも言えそうです。CSは電波が弱いため、一般家庭で普及することは考えられていなかったのですが、現在では技術の進歩により多くの専門チャンネルが放送されています。

当初、CS放送では二つの衛星を使用して「SKYPerfecTV!」がテレビ・ラジオそれぞれで約280もの番組を放送していました。BSデジタル放送がハイビジョン番組を中心として放送しているのに対し、CSデジタル放送では、エンターテインメント、スポーツ、音楽、ニュース、アニメなどジャンル別の番組を放送しています。CSデジタル放送を受信するためには、専用のCSアンテナとCSデジタルチューナーが必要です。

2−2.CSデジタル放送の特徴

(1)多チャンネル

ニュース、スポーツ、ドラマ、音楽、映画、旅行、車、料理、アニメ、ゲームなどの15のジャンル内でテレビ171チャネル、ラジオ106チャネルを放送しています。しかも時間帯別に同じ番組が再放送されるので、「見逃してしまった・・・」と思った番組を見逃すこともありません。

(2)画面上で番組検索可能

EPGシステム(Electronic Program Guide :いつでも最新のテレビ番組情報を手にいれることができるシステム)でデジタルチューナーのリモコンを使って画面上に番組表を呼び出すことができます。番組毎の検索機能も付いており、番組予約はもちろん自分の好きな番組をジャンル毎にまとめて放送予定を確認することもできます。

(3)24時間放送

CSデジタル放送は専門チャンネル毎に毎日1日中放送しているので、好きな時間に好きなジャンルの番組を楽しむことができます。

(4)デジタル多機能

デジタル放送なので当然ラジオの音楽番組などはCD並みの高音質で放送。その他、衛星メール(個人向け情報としてスカパーから配信されるメール)やボード(新サービスの案内やキャンペーンなど、加入者全員に案内される情報が掲載される掲示板のような機能)、さらにはセンターアクセス(電話回線を使用して視聴者が参加する型の番組。アンケートに答えると賞品が当たるなどの特典も用意されている)などの双方向機能も充実しています。

2−3.新しいCSデジタル放送

新しい衛星放送「110度CSデジタル放送」が200231日にスタートしました。110度CSデジタル放送は、BSデジタル放送用のBSAT-2aと同じ東経110度方角に静止する人工衛星「N-SAT-110」を利用する衛星放送です。アンテナを合わせる方向と角度がBSデジタルと同じため、BSデジタル/110度CSデジタル共用のアンテナを用意すれば、1台のアンテナで両放送を受信できます。チューナーとアンテナがBSデジタルと共用できたり、「ep」のような蓄積型双方向メディア(内蔵されたHDDの中に放送電波を使って予め様々な番組を蓄積しておいて視聴者はいつでも好きなときにそれらの番組を楽しむことができます)がアナウンスされたりと、これまでの衛星放送の流れを変える可能性を秘めており動向が注目されています。

3.BSデジタル放送

3−1.BSデジタル放送とは

BS放送のBSはBroadcasting Satellite(放送衛星)の略で、家庭で直接受信することを前提とした、放送だけに使われることを目的として打ち上げられた衛星です。高度約36,000km上にある衛星を使って電波を送信しています。BS放送に使われている放送衛星が扱う電波の中で、日本に割り当てられたチャンネルは八つあります。1989年からスタートしているBS(アナログ)放送が四つのチャンネルを使用しているため、今までの放送形式で、新たにチャンネルを増やそうとしても、たった4チャンネルしか増やすことができません。そこで、多くのチャンネルを放送できるようにと考えられた方法が、「BSデジタル放送」なのです。現在、BSデジタル放送は、8テレビ放送局と16データ放送局、11ラジオ放送局がサービスを行っており、そのほとんどが無料です(NHKの場合は受信料が別途必要)。

3−2.BSデジタル放送の特徴

(1)高画質

BSデジタル放送を従来の地上波放送と比較すると、BSデジタル放送では画面に表れる汚れ(ノイズ)及び地上波放送では発生しやすいゴースト(映像が2重、3重に映し出される現象)混信などがBSデジタル放送では軽減されます。ですから映像に悪影響を与えるノイズ・ゴーストなどが少ないので高画質を実現することができます。

また、今までのアナログ放送では実現できなかった超高画質なデジタルハイビジョンが放送されます。その仕組みは映像を描き出す走査線にあり、この走査線の数を増やしたことによって画面のブレを補正し、より細かく鮮明な映像を映し出すことができるのです。

BSデジタル放送には以下のような四つの放送形式があります。

画素数の観点から見ると、ハイビジョン放送の場合は走査線が1.125本で、有効画素数が水平方向1,920(1ラインの画素数)垂直方向1,080(ライン数)ですから、約200万画素になります。一方、標準放送は走査線が525本で、有効画素数が水平方向720垂直方向483ですから、約250千画素になります。ですから、ハイビジョンの画素数は標準放送の画素数の約6倍ということになります。
このうち750pと1125iの高画質放送がハイビジョン放送と呼ばれています。従来の地上波アナログ放送は走査線数が525本でしたが、ハイビジョン放送では、2倍以上の1.125本の走査線で作られているためきめの細かい画質が実現できたのです。従来のBS(アナログ)放送ではハイビジョン放送が1チャンネルでしたが、BSデジタル放送では多くのチャンネルで放送されています。(*NHKのハイビジョンチャンネルでは、24時間ハイビジョン放送をおこなっています。)

(2) 多チャンネル

アナログ放送では、電波がとなりの電波に影響を及ぼして正しく送れない場合がありますので、電波を周波数帯いっぱいに使うことができませんでしたが、デジタル化することによって、周波数帯がフルに効率的に使用することができるようになり、更に、一つの周波数でテレビ放送の他にデータ放送やラジオ放送など数多くの番組を送信することができ、電波を有効に活用することができるようになりました。

下図のように、従来のアナログBSの1チャンネル分(1放送局の送信帯域)で、高精細なHDTV(デジタルハイビジョン)の2チャンネル分の映像を送ることができます。さらに、そのHDTV(
High Definition TV)の1チャンネル分で従来の放送SDTV(標準画質:Standard Definition TV)の映像が3チャンネル分送れます。ですから、HDTV1チャンネル分の放送帯域を持っている放送局は、臨機応変にSDTV3チャンネルの放送に切り替えることができるわけです。また、チャンネル数が多くなるため、各種専門分野に特化した番組制作も可能になりました。

BSデジタル放送(テレビ)のイメージ

アナログBS
1チャンネル分

BSデジタル
高画質(HDTV)
1チャンネル分

BSデジタル
通常画質(SDTV)1チャンネル分

BSデジタル
通常画質(SDTV)1チャンネル分

BSデジタル
通常画質(SDTV)1チャンネル分

BSデジタル
高画質(HDTV)
1チャンネル分

BSデジタル
通常画質(SDTV)1チャンネル分

BSデジタル
通常画質(SDTV)1チャンネル分


(3)広画面

通常テレビの画面のヨコとタテのサイズ比率は43ですが、デジタル放送では169になっています。これは、人間の目に一番適している比率とされていて、アナログ地上波テレビより、色の鮮やかさ映像の美しさが優れている(高画質)上に、立体感・質感・臨場感の点でも優れています。また、番組と連動していろいろな情報を一度に表示できる「使いやすさ」も考慮されています。

(4)高音質

BSデジタル放送の音質は、デジタル音声を使っているので、映画はもちろんラジオなどもCD並の高音質で楽しめます。さらに、五つのスピーカーからそれぞれ別々の音源を出力する5.1chsサラウンド方式を採用していますので、映画館に似た臨場感が楽しめます。なお、BSデジタルラジオ放送とは、BSデジタル放送で行われる音声放送のことで、いわば「映像のついたラジオ」です。画面には高画質な静止画像が現れCD並みの幅広い音域で高音質な音声をもって放送されています。なお、BSデジタルラジオ放送を受信する場合にも、BSデジタルチューナーもしくはデジタルチューナー内蔵テレビが必要です。

(5) データ放送と双方向サービス

データ放送は文字や図形などで情報を伝える放送です。その日のニュースや天気、交通、スポーツ、株価、お買い物、クイズなどさまざまな便利情報を提供しています。今回、デジタル化によって、地上波放送で行われているデータ放送がさらにグレードアップされ、動画映像と音声を組み合わせた、より多くの情報を送ることも可能になりました。データ放送の種類としては、番組連動型、CM連動型と独立型があります(後述)。

また、BSデジタル放送の双方向サービスでは、放送されている番組や放送局に向けて家庭から情報を発信することができます。例えば、クイズ番組に参加して答えを送ったり、ショッピング番組で紹介されている商品を購入したりすることができます。テレビには、電話回線の接続が必要ですが、番組を「見るだけのテレビ」から「番組に参加できる双方向テレビ」へと変えてくれるのがデータ放送といえるでしょう。


3−3.BSデジタル放送受信の条件

BSデジタル放送を受信するには、BSアンテナとBSデジタルチューナーもしくはBSデジタルチューナー内蔵テレビが必要です。BSデジタルチューナーはすべてのテレビに接続でき、テレビに合わせた画質でBSデジタル放送を見ることができます(但し、ビデオ入力端子のないテレビでは視聴できません)。

「ハイビジョン」とは、次世代のテレビの技術としてNHKで開発された技術で、高画質、迫力のある映像、臨場感ある音声が特徴で、国際的にはHDTV(High Definition Television:高精細度テレビジョン)の一部を成すものです。「アナログ・ハイビジョン」と「デジタル・ハイビジョン」とでは、視聴者に届けられる番組の制作はどちらもデジタル化されているという点では変わりがありません。しかし、放送局から受信機に送られるハイビジョン信号の処理と伝送系に大きな違いがあります。つまり、放送局が番組を送出したり、視聴者がアンテナで受けたり、受信機のなかで信号がやり取りされる時に使われる信号がアナログかデジタルかという点が違うのです。

仮に、アナログ信号を<A>、デジタル信号を<D>とすると、それぞれ以下のように図示されます。

アナログ・ハイビジョン

放送局側:ハイビジョンカメラ出力<D>⇒信号処理<D→A>⇒送出<A>

受信機側:アンテナ入力<A>⇒ハイビジョン信号処理<A→D→A>⇒受像機<A>

デジタル・ハイビジョン

放送局側:ハイビジョンカメラ出力<D>⇒信号処理<D>⇒送出<D>

受信機側:アンテナ入力<Dハイビジョン信号処理<DA受像機<A

アナログ・ハイビジョンとデジタルBSチューナーと組み合わせは     部分で、受像機部分は<A>です。従って、アナログ・ハイビジョンとデジタルBSチューナーとの組み合わせでデジタル・ハイビジョンを見ることができるのです。


BSデジタル放送の電波は、BS(アナログ)放送用放送衛星から発信されています。ですから、現在使用しているBSアンテナでBSデジタル放送を見ることができます。なお、BSデジタル放送の有料放送を見るためには、BSデジタルチューナー又はBSデジタルチューナー内蔵テレビを買ったときに製品に同梱されているB−CAS(ビーキャス)カードの登録が必要です。このB−CASに登録するだけで、スクランブル映像(視聴できない映像処理がされている映像)を解除する信号が送られ、有料で番組を楽しむことができます。「B−CASカード」とは、有料放送の視聴や、ショッピングでの商品購入などをおこなう際に必要となる個人情報の管理をおこなうカードのことです。B−CASカード発行・管理のため、NHK、BS日テレ、BS−1、BSフジ、BS朝日、BSジャパン、WOWOW、スターチャンネル、東芝、松下電器産業、日立製作所、NTT東日本の計12社で共同出資した会社(略称:B-CAS/BS Conditional Access System)が設立されています。

3−4.BSデジタルとCS放送の相違

電波を利用する放送には地上波放送と衛星放送があり、放送方式にはアナログとデジタルがありますが、BSデジタルとCS放送はいずれもデジタル方式の衛星放送で、どちらも赤道上空36000キロメートルにある軌道位置に静止している衛星を使って地上から発信された電波を中継して地上に送信します。地上波の電波は届く範囲が限られてしまいますが、衛星なら広範囲をカバーできるため、日本全国どこにいても同じ番組が見られるメリットがあります。

大きな違いはその使い道にありました。BSは「Broadcasting Satellite(放送衛星)」の略、CSは「Communication Satellite(通信衛星)」の略ですから、文字通り、BSは放送のみに使われることを目的とし、CSは放送ではなく企業間の通信などを含めたデータ全般の通信を目的としていました。

実際に、サービス開始当初は、電波の弱いCSを一般家庭で受信することは想定されていませんでした。しかし、技術の進歩により現在では、CSで多くの専門チャンネルが放送されるようになっています。情報の伝送容量を決める周波数帯域も大きな差異はなく、機能的に異なるのは、中継器の出力ワット数で、BSは家庭などでの直接受信を前提にするため大出力、CSは業務用に用いるために小出力という違いがありました。しかし、衛星利用技術の進歩や電波のデジタル化によって、小出力のCSでも家庭などで直接受信が可能になり、パーフェクTVなどのCSデジタル放送は、初期のBSと同じ、直径45cmのパラボラアンテナで受信できるようになっています。

使用する衛星の位置も、東経110度(BS)と東経124度(CS)と違うため、受信には別々の機器が必要でした。ところが、20024月に東経110度CSデジタル放送が始まりました。この「110度CS放送」の衛星はBSデジタル放送と同じ軌道(東経110度の赤道上空36000キロの静止軌道)に打ち上げられているため、(アンテナはBSと同じ方角で見られるため)1つのアンテナ(BS/CS共用アンテナ)でOKです。また、どちらもデジタル放送で周波数が違うだけですから、チューナーも切りかえられる共用のチューナーで良いわけです。どちらもデジタル技術を駆使して、多チャンネル、高画質放送を実現します。ですから、110度CSデジタル放送の開始によって、技術面、あるいは利用者の立場からみると、両者には違いがないに等しくなったということができます。

今や制度上の違いが両者の間の最も基本的な差異になっています。BS(放送衛星)とCS(通信衛星)とでは、「放送設備事業(ハード)と番組供給事業(ソフト)の切り分け方」という放送サービスの運用上の差異が存在しており、これが両者の性格を相異なるものにしています。

BSでは「基幹的放送」という位置付けから、ハードとソフトを一つの事業体が一体的に運用するのが原則で、放送事業者に事業免許を交付するという形態がとられています。設備を放送局みずからが保有する形態でなければ、放送サービスを安定的に供給することが難しいというのが、ハード/ソフト一体の形態の根拠でもあったのです。このため、NHK、日本衛星放送(WOWOW)、そしてハイビジョン放送の参加者として民間放送局が共同出資する会社、放送衛星システム(BSAT)がBSの調達、運用などの業務にあたってきました。つまり、放送局が放送設備(ハード)の運用に全面的な責任を負うという仕組みが続いてきたのです。

一方、CS放送の場合は、ハードとソフトとを分離する仕組みが採用されてきました。ハードを運用する「受託放送事業者」(民間通信衛星会社)と、ソフト(番組)を供給する「委託放送事業者」に分け、郵政省(現、総務省)が適格性を審査して、それぞれを認定するという方式がとられてきました。もちろん、放送局への参入コストを下げ、多様な放送事業者が新規参入することを可能にするのが、ハード/ソフト分離の根拠でもありました。もともとBSとCSとでは、普及率でも、認知度でも、参画する事業者が持つノウハウでも、大きな格差が存在しており、BSは「一軍」、CSは「二軍」といった見方もあったのですが、チャンネル数が多く放送内容の多様さでBSを凌ぐCSの業績が急上昇してきました。

CSデジタル放送を行なう受託放送事業者は「プラットフォーム事業者」と呼ばれ、このプラットフォーム事業者が、CS放送局(委託放送事業者)、衛星、視聴者それぞれを仲介する立場にあって、電波の送出運用や顧客管理等のプラットフォーム業務を処理しながら、デジタル放送サービスを視聴者へ届けています。「プラットフォーム事業者」の名称や、その機能が基幹電気通信プラットフォームを司る通信事業者に似ているところが、いかにも「“通信”衛星」らしさところです。現在このCSデジタル放送には、(株)スカイパーフェクト・コミュニケーションズと(株)プラット・ワンの二つのプラットフォーム事業者があり、両社とも110CSデジタル衛星(N-SAT-110)を利用して放送サービスを行っています。

プラット・ワン系で委託放送事業社としてエントリーしているのは、(株)シーエス日本、(株)CS-WOWOW、(株)スペーステリア、(株)メガポート放送、日本メディア−ク(株)、日本ビーエス放送(株)、イーピー放送の7社です。このうちのシーエス日本の母体は日本テレビで、プロ野球・巨人戦を有料で完全中継放送しています。一方、スカイパーフェクトTV!系の委託放送事業社としては、フジテレビ、TBSといったキー局や、ディスカバリージャパン、ファミリー劇場などの衛星放送大手が名を連ねています。

110度CSテレビ放送の場合にはほとんどが標準テレビで、110度CSでデジタルハイビジョン放送が選択できるようになっているのはシーエス日本だけです。CSの特徴は、番組内容の専門性が高く、映画、スポーツ、ニュースなど局ごとに特定分野の映像を流すテレビ・ラジオ・データ放送の各種の専門チャンネルがあるところであり、ほとんどが無料放送であるBSデジタルと違っているところです。地上波とBS放送のチャンネルではニュース番組がすでに終わっている深夜でも、CSデジタル放送では11のニュース専門チャンネルがひしめき合っていて、米CNNや英BBCのニュースを24時間ぶっ続けで流しているチャンネルもあれば、日本テレビ放送網や日本経済新聞社が独自に立ち上げた専門チャンネルもあり、30分もあれば国内外で起きた大きな出来事をすべてカバーできます。昼間でもほぼ事情は同じで、地上波やBS放送で急にニュースを見たくなっても、常時放送されてはいないため、中途半端な待ち時間がどうしても必要になりますが、CSデジタル放送だとその待ち時間がゼロです。

放送用衛星(「BSAT-2a」)を使用して放送を行っているのがBS放送ですが、現在、BSアナログ(NHK1、2 WOWOW)、BSデジタル(NHK1、2、ハイビジョン  BS日テレ BS朝日 BS−i BSジャパン BSフジ WOWOWデジタル スターチャンネル BSラジオ データ放送)の各チャンネルが放送されています。このうちのBSアナログ放送は、2007年に終了する予定ですが、世界的に見ると、衛星放送=デジタル放送であり、BSアナログ衛星放送を実施していたのは日本だけだったそうです。BSデジタル放送は2000/12にスタートしましたが、この放送は準基幹放送という位置付けであったため、基本はテレビ放送であり、ハイビジョン放送になっているのが大きな特徴で、専門性の強いCSデジタル放送と違って、デジタルハイビジョン放送を中心とした幅広いジャンルの放送を組み合わせた総合放送サービスになっています。

BSデジタル放送では、民放キー系のBS日テレ、BS朝日、BS−i、BS−ジャパン、BSフジがコピーガード無しで放送されていますが、これは無料放送であることによるものです。但し、NHKは受信料制度をとっているため有料放送からは外れます。従って、BSデジタル放送で保護されているのは、デジタルWOWOWとスターチャンネルの番組だけになります。

一方のCSは有料放送が主体で、至るところにスクランブル処理が施されています。スクランブル画面を解除して番組を視聴したい場合には、番組提供の委託放送事業社と契約してそのサービスを受ける必要があります。

BSデジタル放送が不特定多数を対象とした「放送」の側面を色濃く残しているのと対照的に、CSには特定の契約加入者に限定してサービスを提供する「通信」の性格が根強く残っているようです。

電波の出力が違うとともに、放送に必要なコストは大きな差があります。BSの場合、一つの中継器の打ち上げコストは約25億円ですが、CSの場合は約6億円と1/4で済みます。コストが安い分だけCSの方が損益分岐点も低くなります。実は、世界的にみても、中出力のCSが圧倒的主流を占めていて、先進国で高出力のBSにこだわっているのは日本ぐらいだそうです。しかも、衛星放送はターゲットを絞り込んだ「専門編成」にメリットがあるのですが、デジタル衛星放送で「総合編成」を推進しようと考えているのも日本の特殊現象と言ってよいそうですので、地上波デジタル、BSデジタルをほぼ同時に「総合編成」という形で推進すると「共倒れ」になるおそれも十分にあるという指摘もあります。

<こぼれ話>
カラーテレビ普及期に学ぶ
BSデジタル放送の普及が進まない実態を見ていると、白黒テレビ全盛の中でカラーテレビの普及が思うにまかせなった頃が思いだされます。当時も現在のBSデジタルチューナー内蔵テレビ受像機と同じようにカラーテレビの受像機の価格の高さが阻害要因の一つになっていたのですが、もう一つ「高額商品の割にネーミングが安っぽい」というのが買い控えの理由の一つとなっていたことが調査の結果分かりました。確か、日立の製品がカラーテレビのネーミングが「ピタリコン」で他社の製品も軒並み同様で、「まるでオモチャか安いお菓子の景品みたい」と有力見込み客筋から顰蹙を買っていたのを思いだします。「ピタリコン」というのはカラー調整装置で、これを日立が謳い文句にしていたのですから、当時のカラーテレビの調整がいかに面倒であったかを物語っていて面白いのですが、そう言われてみれば「大枚はたいてピタリコン」では買い控えされても仕方がないなと思ったものです。

その時、我が東芝が打ち出したカラーテレビのネーミングは「名門」でした。「何が名門なのか」よく分からず気に入らないネーミングでしたが、少なくとも「安っぽいネーミング」の謗りだけは免れられそうな命名でした。しかし、このテレビ広告がなんとも「安っぽく」、自社製品ながら、「名門」のCM放映があると私は目をそむけたい気になってしまいました。なんと、いきなり画面にヤギが現れて「メエー」と鳴くのです。そして続いて、画面が転じて「門」の画像。これで「メエー」+「門」=「名門」となるわけですが、さすが駄洒落常習犯の私もこれには開いた口がふさがりませんでした。これでは、白昼堂々大枚はたいてテレビ広告をしても、有力見込みのお客さまに大枚はたいてカラーテレビを買っていただくわけにはいきませんね。東芝のネーミングには他にもおかしなものがあって、電気コタツにも「横綱」という名前が付いていました。「横綱がコタツの上に乗っても壊れない頑強さ」をアピールしようとしたもののようですが、これにも同じ社内にいて抵抗を感じました。パン焼き器の場合は、広告部門で「ヤキヤキ」と銘打って発売しようという間際になって広告担当役員から「待った」がかかって「クロワッサン」に改名されて発売されたと後で知ってホッとしたような気がしました。ネーミングや広告はメーカーからマーケットへのメッセージですから、製品のライフサイクルに相応した市場ターゲットの購買心理を誘導するものでなければなりません。特に製品が市場導入期にある場合は知的好奇心が旺盛な先進的ユーザーに適合したマーケティングを展開する必要があります。

しかし、何と言っても、カラーテレビの普及に当たって力になったのはカラーテレビ番組自体の充実であったように思えます。いくらカラーテレビ受像機を買っても白黒テレビ番組ばかりでは宝の持ち腐れになってしまいますもの。質の高いカラーテレビ番組が放映され、これが口コミで伝わってカラーテレビ受像機購入者が増え、そうこうするうちに量産効果が働くようになって受像機の価格が下がって更に普及が進むという好循環が生まれていったのです。現在のBSデジタル放送、今後の地上波デジタル放送の普及を考える場合も、やはり、どれだけアナログ放送を凌ぐ品質や内容を備えたデジタル放送番組が充実していくかということが大きなポイントになるように思えます。そういう意味で、受信料収入が得られない民放と違って、受信料を番組制作の原資に当てることのできるNHKのコンテンツ創造の能力と意欲に今後のデジタル放送ネットワークの消長がかかっているといっても過言ではないように思います。

4.地上波デジタル放送

1953(昭和28)に地上波のテレビ放送が始まって以来45年近くが経ち、日本国内で地上波のテレビ放送をしている無線局(中継局を含む)は、日本全国津々浦々まで番組を届けるために約15,000局設置されていました。しかし、これだけの局数をもってしても民間放送については依然として全地域をカバーしていませんでした。例えば、九州の佐賀県、四国の徳島県は民間放送がまだ1局しか受信できなかったそうです。こういう状況の中だからこそ、郵政省(現在の総務省)は、テレビ放送用の周波数を有効利用し、多くの番組を楽しんでもらうために、地上波放送のデジタル化推進に踏み切ったのです。

4−1.地上波デジタル放送とは

地上波デジタル放送(地上デジタル放送)とは、衛星放送ではなく地上の放送塔から電波を送る「地上波」を使ったデジタル放送です。現在、最も普及しているテレビ放送は、VHF−UHF帯を使ったアナログ地上波ですが、これに代わるものとして利用される予定です。この地上波デジタル放送のサービスは、UHF帯を使ってNHK総合および民放各局の放送が200312月より一部の地域(関東・近畿・中京の3大広域圏)で開始され、2006年にはその他の地域でも順次開始される予定になっています。現在、これに伴って一部の地域で、アナログ放送のUHFにおける放送チャンネルを変更する「アナアナ変換(アナアナ変更)」も同時に行なわれています。そして、2011年にはアナログでのテレビ放送は終了し、地上波デジタル放送に完全に切り替わる予定です。BSデジタル放送と同様、高画質・高音質の映像や双方向番組、データ放送などのサービスが予定されています。

地上波デジタル放送では、映像や音声の情報は従来と異なり、デジタルデータ化したものが乗せられています。テレビ放送に関しては、映像はMPEG-2(ビデオ)、音声はAACMPEG-2オーディオ方式の1つ)でそれぞれの情報をデジタルデータ化して送ります。ただし、単純に今までのテレビ放送の置き換えではなく、いろいろなタイプの受信機に応じた放送や通信サービスなどが行なえるのも、地上波デジタル放送の特徴です。従来のテレビ放送と対比すると以下のような相違点があります。

高品質のHDTV放送を臨場感のあるサウンドを楽しめる5.1chサラウンドとともに楽しむことができる
ゴーストの無いクリアな高画質画像を受信することができる
柔軟な切り替え可能な多チャンネル放送が可能になることにより、例えば、プロ野球放送が試合終了までみられるようになる
クイズ番組などにリアルタイムに視聴者が参加できたり、情報を取り出したりできる双方向番組も可能になる
移動体・携帯端末へのサービスにより屋外でのクリアで多彩な放送受信が可能になる
高齢者や障害者にも優しい福祉サービスなども開始予定
地域密着型番組など、よりニーズにあった番組が放送できる
CS/BS放送は衛星を使った放送なので、日本全国が同じ放送内容ですが、地上波デジタル放送は各地域の放送局から送信される電波を受信する放送なのでこれが可能になるのです
4−2.柔軟な日本方式・・・ハイビジョンもケータイも

地上波デジタル放送の仕組みに関しては、最初は世界で同じ方式にしようという動きもあったのですが、結局、世界で日本方式、米国方式、欧州方式の3方式が使われることになってしまいました。日本で開始されるものは、もちろん日本方式(ISDB:Integrated Services Broadcasting)です。ISDB方式は、先行しているアメリカがHDTV放送を主目的に採り入れたATSC方式とEUが多チャンネル化を主目的として採用したDVB方式の“良いとこ取り”したマルチメディア放送に好適な方式とされています。

地上波デジタル放送では、一つのチャンネルは6 MHz幅の帯域を利用するのですが、日本方式は、この帯域を最大三つに分割して使用することができるという柔軟さが特長です。このため、たとえば、この1本のチャンネルを一つのハイビジョン画質放送として使ったり、三つの標準画質テレビ(SDTV)として使ったりするほか、二つをテレビ、一つを移動体向け放送用として使うことなども可能になっています。キャリア変調方式もチャネル中の分割ごとに変えることも可能で、分割した一つのチャンネルの中で、たとえば携帯端末等で受信するといったような「部分受信」に対応できるようになっています。

このような特徴を利用して、地上波デジタル放送では、以下のような多彩な放送・サービスが行なわれています。

・一つのチャンネル用の帯域で多くの普通画質放送を送る「多チャンネル放送」

・高画質な「ハイビジョン放送(HD放送)」

・パソコンなどで使えるデジタルデータを送信する「データ放送」

・携帯機器向けなどの「移動受信向け放送」

これまでもアナログ放送を自動車などで移動しながら視聴することはできたましが、電波の受信が不安定で画像が乱れやすい欠点がありました。デジタル放送では、補正技術があるので鮮明に表示できるため、通勤・通学中の電車車内、屋外や自動車の中などどこでも楽しめるようになりました。

スピードを上げる電車内でビジネスマンや学生が携帯電話の画面に映し出されたスポーツ中継を夢中で見つめる − こんなシーンが2006年春から現実のものになっています。「携帯向け放送(ワンセグ)」の紹介記事を下掲します。

携帯向け放送(ワンセグ)

地上デジタル放送の一種。受信機を内蔵した携帯電話、パソコン、カーナビゲーションシステムなどで、テレビ番組を好きな揚所で無料視聴できる。アナログ放送より映像が鮮明でニュースや天気予報など文字放送も楽しめる。4月に東京や大阪などでスタート。12月から全国主要都市で利用可能になる。複数のチャンネルがあり、地上デジタル放送と同番組を同時間に見られる。

地上デジタル放送の周波数帯には13のセグメント(区分)があり、うち一つを使うため「ワンセグ」と呼ばれる。法律上は「現行放送の補完」という位置付けで放送局が提供。ドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯3杜は対応端末を販売。出荷は11月末までに100万台を超え、普及が急速に進んでいる。

2006/11/29 日本経済新聞)

4−3.地上波デジタル放送の受信条件

地上波デジタル放送では、さまざま画質の映像やサービスが行なわれています。これらの放送を見たり、サービスを受けたりする、それぞれに対応した機器が必要になります。

今までと同じ普通画質のテレビ放送を見るには、現行のテレビにUHF用アンテナおよびDIRDDigital Integrated Receiver Decoder)と呼ばれる地上波デジタル放送専用のデコーダーユニット(地上波デジタルアダプター)を取り付けることで視聴が可能になります。

また、地上波デジタル放送では、様々な解像度での放送が行なわれており、ハイビジョン画質放送では、1,920×1,080という非常に高い解像度になっています。ハイビジョン画質の地上波デジタル放送では、テレビ受像機も高解像度に対応した機器が必要になりますが、現在販売されているハイビジョン対応テレビ、デジタル(D3D4)端子つきのテレビにDIRDを取り付けることで視聴が可能です。

前述の通り、地上波デジタル放送用携帯機器向け受像機として、テレビ受信機能を埋め込んだ携帯電話も販売され急速に普及しつつあります。下掲記事の「携帯テレビ」が実現しているのです。

地上波デジタル放送

2003年末、まず東京、大阪、名古屋の三大都市圏で始まる。最大の特徴は携帯電話など携帯端末の画面で地上波放送を視聴できる点である。帰宅途中に携帯電話でナイター観戦などなど、放送がいつでもどこでも見られるようになれば、視聴者の生活を変えると同時に放送と通信の融合を後押しする。その他の地域は2006年までに始まる予定である。現在のアナログ放送が終了する2011年夏までには、デジタルとアナログの両方の放送が流れる。高画質のハイビジョン放送、双方向通信など特徴が多い地上波デジタル放送で、最も便利になるのが「携帯テレビ」の誕生だ。地上波デジタル放送は移動しても映像が乱れ難く、小型アンテナで受信できる。携帯電話やPDA(携帯情報端末)などの携帯端末がテレビに化ける。野球中継などの地上波番組を鮮明な画像で見られるほか、見逃したシーンをダウンロード(取り込み)できる機能も検討されている。双方向通信機能と連動すれば、生放送中のクイズ番組に携帯電話経由で参加できる。
2003/01/01日本経済新聞)

地上波デジタル放送用端子を付けたカーナビや車載用液晶テレビという形の「カーテレビ」も実現しています。

デジタル放送拡大 カーテレビに対応機器

地上デジタル放送対応の車載機器はすでに出始めている。松下電器産業は昨年発売したカーナビの最上位機種「ストラーダFクラス」の3タイプにデジタル放送用の入力端子を装備、車載用チューナーを追加すれば地上デジタル放送を見ることができる。価格はいずれも30万円以上。

オートバツクスも地上デジタル用の拡張端子を備えた松下電器製の車載用液晶テレビセツト(7インチ、49,800)を同社専売モデルとして全国の店舗で発売した。

地上デジタル放送を楽しめるのは今は関東や中京、近畿の大都市圏だが、来年末までに主要地方都市に広まる予定だ。

2005/4/22  日本経済新聞)

4−4.デジタル化の問題点

(1)チューナー価格

BS各社はiモードの当初の目標と同じ「1000日で1000万台」を合い言葉に、アナログ放送でも宣伝にこれ努めていますが、やはりチューナーの高価格がネックになっているようです。携帯電話のようにほとんど無料でチューナーを配れば普及は間違い無しなのでしょうが、携帯電話と違って、特に民放の場合には後にサービス料金(受信料)で回収する道がありません。但し、日本より一足早く放送のデジタル化が始まったイギリスのケースは参考にする価値があります。BBC(英国放送協会)が地上波デジタル放送を始めて、ニュース番組などで双方向サービスを行う傍らで、ヨーロッパ最大の衛星放送会社『BスカイB』(本社ロンドン)はショッピングなどを中心とするインタラクティブな番組をやって成功をおさめています。『BスカイB』の急成長の理由は専用受信端末の無料配布でした。国がBSなり地上波なりのデジタル放送を普及してゆくためには、イニシャルコストやランニングコストを下げるドラスティックな政策を打ち出す必要がありそうです。

(2)設備投資及び番組制作コスト

放送局側としては、デジタル放送の電波を送るために中継局、スタジオ、送信機、各種機材をデジタル放送用に変えなければなりません。特に、地上波デジタル放送の場合、1局あたり50億円超のデジタル化設備投資がかかるといわれていますから、特に、財政基盤が弱くて経営体力のない地方民放局は投資負担に耐えられません。

一方で、デジタル放送が定着するまではアナログ放送を継続する義務があります。従って、現在のアナログ放送が終了する2011年までには、デジタル受像機の普及率を85%まで押し上げてデジタル放送を定着させる必要があるのですが、このためにはアナログ放送の番組制作を継続させながら、同時に、これより魅力のある(従って制作コストが嵩みがちな)デジタル放送の番組制作を行なっていかなければなりません。ところが、マスを相手とする放送の場合は、一般に、視聴者数が1000万を超えないと全国区スポンサーが付かないと言われています。受信料収入のない民放は大変な体力勝負を強いられているわけです。

(3)アナアナ変換問題

UHFを使った地上波デジタルの放送を開始するに当たって放送チャンネルを新たに確保するために、現行UHF放送のアナログ周波数変更いわゆるアナアナ変換を行なう必要があります。従って、アナアナ変換の対象となる地域の居住世帯では、テレビチャンネルの再設定のほか、場合によってはアンテナ取り替えの作業をしなければなりません。このアナアナ変換の作業対象となる世帯は、全国で426万世帯と想定されており、対策費用は総額1,800億円と試算されていて、一般家庭の対策費用はすべて国が負担することになっています。しかし、会社やホテルなど事業所の対策経費は国費による負担対象とはなっていません。また、全国で1800億円という見積もりは全国地上デジタル推進協議会(総務省・NHK・民放で構成)によってなされたものですが、従来の727億円という見積もりを大きく上回っていますので、信憑性を疑い更なる経費支出を懸念する向きもあります。加えて、地上波デジタル放送への国費投入自体に反対する声も根強いところから今後の電波行政に対する世論動向についても注目してゆく必要がありそうです。

地上波デジタル放送開始直後に行われた新聞・雑誌報道の中から放送現場の“生の声”を探してみたところ、以下のような雑誌記事が見つかりました。

現場で総スカンの地上波デジタル

12/1から東京、大阪、名古屋の3大都市圏で地上波デジタル放送が始まった。まあ、便利と言えば便利になるんだけど、結論から言おう。地上波デジタル対応のテレビは当分買う必要なし!なぜなら、デジタル放送に切り替わるのは一部のニュースやドラマ、高視聴率番組に限られるからだ。大半の番組は当面、アナログのままで放送が続けられるという。あるバラエティ番組のプロデューサーなんか「デジタルには絶対に変えねえぞ」って息巻いてたよ。

なぜこんなことが起こるのか。理由は簡単。デジタル放送になると、番組作りが死ぬほど大変なのだ。かつてBSデジタルで番組を作ったディレクターによると、高画質な分、出演者の服についた糸クズ一本も目立ってしまうから撮影前のチェックに時間がかかるという。顔のシワはもちろん、毛穴まで見えてしまう上、照明を当ててシワを隠すなんていう小細工も通用しないくらい、ありがた迷惑な高画質なのだ。女性出演者のために“デジタル放送用”の化粧品も開発されているが、皮膚呼吸ができなくなるから長時間の撮影は無理なんだそうだ。機材の操作も複雑になり、撮影や編集にも手間がかかる。作業時間は3!制作予算も3倍かかると言われているのだ。

正直、今のテレビ局の予算じゃ絶対にムリだ。実際、ある民放キー局は非公式ながら、「わが社はしばらくアナログ中心でいく」との方針を打ち出しているほどだ。もちろん’11年にはアナログ放送が廃止されるので、それまでに切り替えなければなないのだが、どこも先延ばししたいというのが本音なのだ。

いったい、どれだけの人がアナログ放送の画質に不満を抱いてるんだろう。そんなことより、問題はむしろ中身にあるんじゃないか。「テレビがつまらない」と言われて久しい。何事も、ハードよりソフトが大事なのさ。
(「週刊現代2003/12/20-27」放送作家・鷹城靖雪氏)


4−5.地上波デジタル放送の普及の方向

地上デジタル推進全国会議では、2003121日、東京・名古屋・大阪の三大都市圏において開始された地上デジタルテレビジョン放送について、下図のような「地上デジタルテレビジョン放送の普及世帯数に関する普及目標」を掲げています(平成16年版「情報通信白書」)。


2003/12
に放送開始してからの実際の普及状況は、アテネ五輪の開催によって2004/4以降受信機器の出荷台数は伸びたものの、2004/7末時点で120万台にとどまっていました。しかし、以下の記事のように、テレビ放送会社側の準備が前倒しで進んで視聴可能な地域が拡大し、行政利用促進の動きも活発化するのに伴って普及が進展してきました。


地上デジタルテレビ放送地域 関東で大幅拡大

民放キー局各社とNHKは15日、地上デジタルテレビの放送地域を22日から関東で大幅に拡大すると発表した。民放テレビの地上デジタル放送を直接視聴できる世帯数は昨年12月の放送開始時には12万だけだったが、放送地域拡大で53倍の640万に増える。
当初は年末の地域拡大を予定していた。混信を防ぐためにアンテナの向きを変えたり、テレビのチャンネル設定を変更したりする作業が順調に進み、前倒しする環境が整った。日本テレビ網とTBS,フジテレビジョン、テレビ朝日、テレビ東京とNHK教育テレビは従来、15.5ワットだった電波を700ワットに増力する。300ワットだったNHK総合テレビも410ワットに増力し、視聴できる世帯数は190万増の880万に増える。
(2004/9/16  日本経済新聞)
地上デジタル防災に活用
避難情報など個人向け送信

総務省は来年度、地上デジタル放送を防災、医療、教育など公共サービスに利用する技術開発に乗り出す。災害時に画像と文字を合わせた避難情報を携帯電話に送るなど、一人ひとりに情報を届けられる特長を行政サービスに生かす狙い。松下電器産業や地方自治体などと官民共同で実験を進め、2006/4からの実用化を目指す。

2005年度末から地上デジタル放送の視聴が可能になる携帯電話と連動させることが主眼で、最も力を入れるのは災害時の利用。サイレンや巡回では災害情報を全戸にすばやく伝えるのは難しいが、個人が持ち歩く携帯に急変しがちな気象の情報を送り込めば効果は大きいとみている。具体的には、自治体と放送局が連携し、住民が持つ携帯電話を強制的に起動して避難情報を送る。被害の大きい地域の映像や避難場所を列記した文字情報を送受信できるようにする。
2004/9/12  日本経済新聞)

今後一層の普及が進行するかどうかは、地上デジタルテレビジョン放送のサービスと機器のQCDが改善されるとともに、下表のような「地上デジタルテレビジョン放送の視聴者のメリット」(平成16年版「情報通信白書」)が実現されて、視聴者の満足感を満たされることが条件になります。


様々な問題の解決をめぐって紆余曲折は重ねながらも、基本的な流れとしては、通信と放送の融合の進展に後押しされる形で、平成16年版「情報通信白書」に描かれている下掲の「地上デジタル放送の高度な機能の活用イメージ」のような「いつでも、どこでも地上デジタル放送が利活用できる」方向に進展するものと考えられます。


5.デジタルケーブルテレビ

5−1.「デジタル放送の主役」へ

前述の通り、日本における放送のデジタル化は、CSデジタル放送(1996年開始)、BSデジタル放送(200012月開始)を経て、地上デジタル放送(2003年開始予定)へと進んできました。放送がデジタル化されれば当然受信側もデジタル対応が必要になります。なかでも、各種の放送方式に対応したアンテナやチューナーを設置しなければならないのが視聴者にとっては頭痛の種ですので、共同アンテナで受信した放送を有線で分配するケーブルテレビ(CATV)の今後の展開が期待されています。放送のデジタル化が成功するためには、ケーブルテレビのデジタル化が円滑に進んでいくことが条件であるとともに、デジタル放送の普及がケーブルテレビの普及促進要因となることが想定されます。

地上波アナログ放送をケーブルテレビ経由で見ている比率は過半数を超えているそうです。もし仮にアナログ停波の時点でケーブルテレビのデジタル化の方が遅れているとすると、過半数の家庭でテレビ視聴に支障が生じることになりかねないのですから、放送のデジタル化においてケーブルテレビが持つ責任は重いと言えます。また、ケーブルテレビは、1本の線で放送も双方向の通信も提供できますので、CATV事業者がISPになって、ケーブルテレビ・ネットワークをインターネットのブロードバンド・アクセス・ネットワークとして機能させることもできます。政府の電気通信審議会の答申でも、ケーブルテレビ事業者に対して、「2005年までにIPサービスを提供すること」と「2010年までにデジタル化を終えること」という二つのハードルを明言しています。放送のデジタル化という潮流の中で、放送と通信の融合にも寄与するケーブルテレビが「デジタル放送の主役」であるとする見方も有力です。

ケーブルテレビのサービス・エリアは、CATV事業者ごとに持っているネットワークのカバーする範囲に限定されます。このことは逆に、地域に密着した自主番組の送受信や地元住民による地域情報の検索などといったケーブルテレビならではのサービスが提供できるという大きなメリットにつながります。地方自治体としても、防災、広報、教育、保健、福祉などの各種行政サービスを迅速かつ効果的に提供するとともに、農林・水産・商工・サービス業に関する情報の提供による地域産業の振興に活用することができますし、住民間の情報交流の場となり、地域の活性化及び地域住民の福祉の増進に役立てることができます。このような地域密着型コミュニケーション・メディアとしての期待も、デジタル放送普及の過程でケーブルテレビ選好を後押しする可能性があります。

5−2.ケーブルテレビにおけるデジタル化

ケーブルテレビのデジタル化においては、センター施設内のヘッドエンドをデジタル化してケーブルテレビ網に伝送する方法を変更するとともに、加入者宅においてはデジタル端末(STB:セットトップボックス)を新たに設置する必要があります。このSTBが、ケーブルテレビで伝送されるデジタル放送をテレビジョン受像機において視聴可能とするためのケーブルテレビ端末設備となり、デジタルチューナーの役目を果たします。

また、多チャンネル放送を行うケーブルテレビ事業者においては、伝送チャンネル数の増加や地域の情報通信サービスを展開する上でも伝送路のHFC(光同軸ハイブリット)化を行い、770MHzの伝送帯域を確保することも必要です。

             ケーブルテレビのデジタル化


5−3.ケーブルテレビで地上デジタル放送を伝送するための方式

ケーブルテレビがデジタル化されるとBSデジタル放送や地上デジタル放送にてサービスを提供するHDTV伝送やデータ放送なども簡単に伝送することが可能になりますが、それに対応した設備をケーブルテレビ局側が対応しなければなりません。現在デジタル放送に対応させるための代表的な方式として(1)パススルー方式、(2)トランスモジュレーション方式、(3)リマックス方式があります。いずれの方式を採用するかはケーブルテレビ会社によって違います。いずれの場合でも、ハイビジョン映像を見るのには、ハイビジョンテレビ受信機が必要になります。

■パススルー方式

ケーブルテレビ局で受信した地上デジタル放送の電波を、変調方式を変えずに伝送する方式で、以下の2つの方式があります。
1 同一周波数パススルー方式
地上波デジタル放送で使用するUHF帯の電波を、周波数を変えずにケーブルに再送信する方式。市販の地上波デジタルテレビ、または外付けの地上波デジタルチューナーを、ケーブルに接続することによって地上デジタル放送を見ることができます。
2 周波数変換パススルー方式
地上デジタル放送で使用する電波を、周波数を変えてケーブルに再送信する方式。市販の地上波デジタルテレビ、または外付けの地上波デジタルチューナーを、ケーブルに接続することで地上デジタル放送を見ることができます。但し、変換後の周波数がUHF帯以外の場合(VHF/MID/SHB)は、UHF帯以外の帯域まで受信範囲が拡大されている地上波デジタルテレビ、または外付けの地上波デジタルチューナーが必要です。
トランスモジュレーション方式

ケーブルテレビ局で受信した地上波デジタル放送の電波を、ケーブルテレビに適した変調方式に変換して伝送する方式。ケーブルテレビ専用の地上波デジタル放送対応のSTB(セットトップボックス)をテレビに接続することによって、地上波デジタル放送を見ることができます。この方式では、STB1台でケーブルテレビが伝送しているBSデジタル放送、CSデジタル放送なども受信が可能です。BS、CS、地上波デジタルの放送波を受信、復調し、そのままケーブルテレビ・ネットワークにQAM変調を行い再送信するため、ケーブルテレビ局側のチャンネル編成の自由度が確保できず、またデジタル放送時代の代表的なサービスである双方向サービスの自由度が著しく損なわれ、ケーブルテレビ局独自のサービス提供が非常に困難となります。

■リマックス方式

トランスモジュレーション方式の欠点を補い、ケーブルテレビ局独自のかつ柔軟性のあるサービスの提供を可能とするのがこの「リマックス方式」です。地上波デジタルテレビジョン放送、BS・CSデジタル放送を各サービス(番組編成)単位で受信し、一旦デジタル信号に復調するとともに、ケーブルテレビ事業者の希望する番組配列に編成し、デジタルケーブルテレビ用の変調方式(64QAM)に変換する伝送方法で、加入者はSTBで受信します。しかし、この方式ではデジタル放送方式QAM変調する場合や、可変長ビットレート(VBR)を、別々に束ねて再送信する場合、ビットレートに過不足が生じ、帯域の有効活用を図ることができないという問題点を抱えています。しかし、ケーブルテレビインターネット先進国の北米では、既に「リマックス方式」の標準化が進み市場が形成されているそうです。

6.テレビコマース

デジタル放送ではインタラクティブにテレビ局と視聴者が交信できます。そこで、同じく情報交信の双方向性を活かして台頭したインターネット・コマースの向こうを張ったテレビコマース(Tコマース)による様々なビジネスモデルが考え出されてきています。今後、BSデジタル放送から地上波デジタル放送への展開に伴って、「放送と通信の融合」の動きと絡み合いながら、単にその場で売買できるテレビショッピングだけではなく、マーケティング情報の収集や販売促進など幅広い「テレビマーケティング」がインターネット・マーケティングと覇を競い合ってゆくことが予測されます。

6−1.テレビコマースのメリット・効果

(1)ターゲットの拡大
お茶の間のテレビを通して、あらゆるターゲットに対して商品を販売できるチャンスが生まれる。
(2)リアルタイムのリサーチ
CMの効果や、商品に対する視聴者の反応などをリアルタイムでリサーチできる。
(3)効率的なマーケティング
効率的なマーケティングデータの収集が行え、さらにタイムリーなデータを瞬時に活用することができる。
(4)新しいビジネスモデル
双方向広告など、新しいビジネスモデル・チャンスを作り出せる。
(5)チャネルの拡大
新たなチャネルの導入により、メディア・ミックス効果を一層促進させることができる。

6−2.テレビコマースの番組・CM

データ放送により、今までテレビ視聴者に提供できなかった番組、CMの制作が可能となります。提供する番組、CMは、視聴者の手元にあるリモコンで手軽に操作できるため、テレビを使った新たなビジネスチャンスが生まれます。テレビコマース番組には、次の三つのタイプがあります。

(1)番組連動型データ放送

テレビドラマや映画の中で、演じている役者さんの着ている洋服や、使われている雑貨など、気になる商品をすぐに注文することができます。 放送中にリモコン操作すると注文画面へ。また、このシーンに使われていたジャケットは一体どこの商品?といった商品情報も視聴者に提供できます。

(2)CM連動型データ放送

今までのCMでは、数秒間で商品名、メーカー名を視聴者にPRしなければなりませんでした。しかし、テレビコマースでは、簡単なリモコン操作で「今CMで流れた商品」の情報をすぐに入手できます。

(3)独立型データ放送

視聴者へのアンケートが可能です。アンケートは簡単なリモコン操作で回答でき、結果は電話回線によりすぐに回収出来ます。

6−3.ビジネスモデル例

(1)物販

視聴者がテレビから商品を購入した場合のビジネスモデルです。


(2)広告・宣伝、マーケティングリサーチ

視聴者がテレビからの情報(アンケートなど)に回答した結果を収集するビジネスモデルです。


(3)
広告・宣伝、マーケティングリサーチ(店舗誘導型)

視聴者がCM(店舗紹介)によって、店舗への誘導を促すビジネスモデルです。


(4)
情報サービス

視聴者がテレビから情報(コンテンツ)をダウンロードするビジネスモデルです。


いずれにしても、デジタル化の進展に伴って、テレビ広告は従来の形のものから大きく変容することが迫られています。特に、放送事業の関係者は通信分野からのe-commerce(電子商取引)への進出に対して大きな脅威を感じています。以下のインタビュー記事には、そうした放送事業関係者の典型的心情が映し出されているように思えます。
放送vs通信

デジタルなら限られた帯域でもいくらでもコンプレッション(圧縮)できる。だけど、デジタル化で周波数帯域がいくらでも使えるとなると、CS、BSに新規産業がどんどん進出してきてチャンネル数が増えることになる。一方で広告主の側から言うと、広告達成率が非常に高いテレビというものが、チャンネルが分散化することによって当然視聴率は下がってくるわけです。そうするとある意味で一番リターンが大きい広告をクライアントは求めるようになる。今までのように一方的に感情に訴えるような広告よりは、もっと“深まる広告”を期待するわけです。

たとえばある商品が15秒や30秒のコマーシャルに出ているとする。視聴者の側はそれで「おもしろい商品が出たな」と思うけど、それ以上のことを調べるためには活字媒体など他のメディアを調べなければいけないのが現状ですよね。しかし、そこでテレビがオンラインネットワークで結ばれていれば、画面をクリックすると商品の説明が出てきて、カタログが出てきて、料金が出てきて…と結局e-commerce(電子商取引)にいきつく。通信と放送が消費者の方とリンケージする方向に向かっていくわけです。

だから、先行きの展開の中では、放送と通信が一体化するという状況の中で情報の完結が行われる。逆にいうと、今までは通信の方がデジタル化のおかげで放送の中に入ってこれるという考え方が非常に強いんだけど、そういう考え方だと放送の方が負けちゃうわけで、放送がどんどん通信の世界に入っていける、そういう形にならないといけないですね。

 「フジテレビ21世紀への挑戦」             
日本デジタル放送サービス・重村一副社長インタビュー)

7.モバイル放送

放送ネットワークの新しい動きとして、2003/7/25にデジタル衛星放送の予備免許が交付され、2004年からの本放送に向けて実際のテストが始められたモバイル放送の動きも押さえておく必要がありそうです。

7−1.モバイル放送とは

「モバイル放送」とは、「日本中でどこでも聴ける、見られる放送サービス」というキャッチフレーズのもとに開始される、デジタル衛星を使用して日本全国どこでも同じマルチメディア放送を見られるようにした自動車などの移動体向けの放送サービスのことをいいます。

7−2.モバイル放送の仕組み

モバイル放送は、地上放送センター屋上にある直径7.6メートルのパラボラアンテナよりKuバンドのアップリンク(14GHz)で、空の上の静止衛星(MBSAT)に向けて送信されます。データを受け取った衛星は、周波数をSバンド(2.6GHz)に変えたのち、今度は地上に向けて電波を降り注ぎますが、この放送はBS/CS衛星放送と同様にデジタル電波で行われます。衛星の打ち上げは2003年秋に米国フロリダ州のケープ・カナベラルから行われています。

モバイル放送用衛星には直径12メートルの大きな送信アンテナ(BSでは13メートル)を用い、電波出力1215ワット、地上での電波強度は67dBWBS100ワット程度、地上電波強度は50dBW程度)という大出力で放送されます。そのため、受信側は衛星放送の受信でありがちなパラボラアンテナ設置が不要となり、ラジオのように無指向性小型アンテナのみで視聴できることになります。さらに、衛星がビルの陰となる首都圏などでは衛星からのKuバンドのダウンリンク(12GHz帯)を受信して中継するギャップフィラー(再送信設備)で、電波の届かない不感地帯をもカバーします。このギャップフィラーは半径13キロの広範囲なエリアをカバーするため、効率的に配置されることになります。一方、受信端末側でも、直接電波のほか、反射電波など受信できる電波すべてから品質の良い順に最大で12本選び、1本に合成することによって受信品質を高めるような工夫がなされています。

7−3.モバイル放送用のコンテンツ

モバイル放送の愛称は「モバHO!」で、流される番組は、MPEG4による圧縮画像を映像8チャンネル、音楽・音声などの番組37チャンネル、さらにデータ情報サービスが約50タイトルあります。リアルタイムなニュース、音楽、エンターテイメント、J-POP HIP-HOP、チャート、国内・海外FM、語学まで多彩な専門チャンネルがラインアップされています。

7−4.モバイル放送の受信条件

モバイル放送の電波は通常のテレビ放送の電波と違いますから、通常の家庭用テレビ受像機では受信することができず、モバイル放送を受信するためには、専用の受信端末が必要となります。この専用端末には、アウトドア用の専用携帯型端末、ドライブ用の車載端末、PCやPDAに接続できるカード型チューナーがあり、携帯電話との一体型(移動体向け衛星放送「モバHO!」受信可能携帯電話)も2005年NTTドコモから発売されています。

車載用としては、既存のカーナビ・ユーザー向けにあとから設置できるチューナー型とカーナビ内蔵型やオーディオ機器内蔵型などが製品化されてきており、下掲の報道のように、大手カー用品店でも本格的な取り扱いを開始しています。

デジタル放送拡大 カーテレビに対応機器

デジタル放送が広まるにつれ、移動中でも乱れの少ない映像が楽しめるデジタル放送対応機器が登場し始めている。

カー用品店大手のイエローハットは今週、有料衛星デジタル放送が車内で見られる受信端末と車載用キットの販売を全店で始めた。カーナビやカーテレビに接続することで鮮明な画像の衛星放送を全国どこでも楽しめる。

この機器はモバイル放送が供給するもので、昨年10月に開始した移動体向け衛星デジタル放送サービス(略称モバHO)用だ。モバHOはニュースやドラマ、スポーツなど40チャンネルからチャンネル数に応じ毎月1,000-2,000円程度で放送している。

イエローハットは2月から一部店舗で試験販売したが認知度を高めるため、全店販売に踏み切った。デジタル放送は車に適したメディア。「カーテレビ市場で新しい需要を呼ぶ」と期待する。

2005/4/22  日本経済新聞)

もともと、モバイル放送のサービスは移動中に視聴するパーソナルサービスを前提にしていますので、最大でもカーナビサイズ(7インチ)程度のモニターで多チャンネル番組が視聴できる程度の解像度になっています。

受信端末の映像は、QVGA320×240ドット)の解像度ですから、地上波およびBS/CSデジタル放送と比較すると解像度が低いため、仮につなげたとしても、一般的な家庭用テレビ受像機の大きな画面では、画質が粗くなりますので視聴に適していません。

7−5.モバイル放送の特徴と可能性

モバイル放送が、個人の移動体向け衛星デジタル・マルチメディア放送サービスとして2004/10/20に開始されました。愛称は「モバHO!」で、PCやPDA、専用の受信端末などの携帯端末で映像・音楽・情報コンテンツを視聴・利用することができ、現在のところ、映像、音声データ情報の計40chの配信番組が用意されています。利用価格は、月額料金が400円で、それに複数のコンテンツがセットになったものが3002000円程度の月額視聴・利用額となっています。インターネットのようにオンデマンドで情報を取得できるところまではいっていませんが、モバイル放送用の衛星(MBSAT)から受信するので、クルマや電車、飛行機などどこからでも視聴ができます。ですから、通信に次いで放送の世界においても、モバイル放送の実現によって「いつでも、どこにいても」のユビキタス環境の整備が更に一歩進んだことになります。

モバイル放送は世界で初めての、移動中の時間に音声、映像、データによる放送サービスを楽しめる衛星デジタル放送サービスですが、とくに音楽については専用ジャンル別に約30チャンネルで構成されており、ボタン一つで、そのときの気分に合ったジャンルを選べるようになります。ですから、もはやMDやCDを何枚も持ち歩く必要はなくなり、モバイル放送によって「あたかも膨大なCDライブラリーを持っている気分になれる」というのが触れ込みになっています。映像チャンネルではMTVが見られるほか、いざというときに知りたいニュースは、NHKやCNNjのニュース、経済ニュース専門の日経CNBC、24時間ノンストップニュースのNNN24、音声ではBBCといった国内外にわたるラインアップが整備されています。英語放送のほか、韓国語放送、各国の語学番組も準備されていますので、英語をはじめとする語学の学習にもモバイル放送が活用される可能性があります。

東京から京都までの自動車走行実験の結果、ビルやトンネルなどの人工衛星からの電波が遮断される場所へのギャップフィラー(人工衛星からの電波を中継する装置)が設置されていない場所がまだ多いため受信が途切れることはあったものの、地上波のテレビやラジオとは比べものにならないくらい高い品質であることが確認されています。地上波の場合は放送エリアをまたぐとチャンネルを合わせ直す必要がありますが、モバイル放送は人工衛星からの電波を受けているため、移動してもチャンネルを変更する必要がない点が長距離移動における大きなメリットになります。自動車だけでなくて、新幹線、船、飛行機でも受信でき、日本中どこにいても高品質なテレビとラジオが楽しめるモバイル放送は、特に長距離移動で威力を発揮する可能性を秘めています。

モバイル放送では、携帯端末市場を主要マーケットと位置付けているようですが、当面は、「自動車・バス」、「鉄道」、「船舶」、「飛行機」などの公共交通機関向けのビジネス展開や防災放送への活用などが先行しているようです。同社HPにも、以下のような最新(2006/11/22)の導入事例が紹介されていました。

モバHO!導入でサービス向上!
茂呂運送(株) 都内初のモバHO!搭載タクシーで運行開始

茂呂運送株式会社(東京都練馬区)は、モバイル放送サービスモバHOを導入したタクシーの運行を1123日から開始します。 このサービス導入は、お客様へのサービス向上を図るだけでなく、 モバHO!の最新ニュースや多彩な音楽番組がお客様との会話の糸口になることを期待したものです。
視聴できるのはニュース中心の映像番組と37チャンネルの音楽・音声番組*1。 後部座席にモバHO!車載受信端末*210インチ程度のディスプレイを設置し、 お客様の選局により番組を自由にご視聴いただけます


(Ver.1 2003/12/ 5)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1
)
(Ver.4 2006/12/ 3)

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