コミュニケーションメディア論

第6課 モバイル化


モバイル化の概要

「モバイル(Mobile )」には「@移動式の」、「A機動性がある」の他に「B車に取り付けた」という意味があります。

ITの世界で“モバイル”という言葉が使われたのは、会社や自宅と同様に、どこでもコンピューターを利用することができる「モバイル・コンピューティング(Mobile Computing)」が最初でした。コンピューターのヘビーユーザーが、ビジネスを効率化・スピードアップするための手段として、デスクトップパソコンなどの固定式のパソコンに加えてノートパソコンなどのモバイルな(移動式の)パソコンを使い始めた時のことでした。PDA(携帯情報端末)の普及もこの「情報端末機器のモバイル化」の流れの中に位置づけてとらえることができます。

一方、電気通信の世界でも電話網の端末機器として普及しつくした固定式電話機に加えてモバイルな(移動式の)電話機として携帯電話が急激に普及して固定式電話機の数を凌駕し「モバイル・コミュニケーション(Mobile Communication)」が一般化してきました。そして、携帯電話などのモバイル電気通信端末機器やノートパソコンやPDAなどモバイル情報端末機器が、電話網と並んで本格的なコミュニケーション・メディアとして確立したインターネットと接続できるようになって、移動中や外出先からでもメールやファイルの送受信ができる「モバイル・インターネット」の時代が到来したのです。モバイル電気通信端末機器とモバイル情報端末機器の機能は融合化して「モバイル・ツール」と総称されるようになりましたが、「モバイル・ツール」には以下のような条件が共通して必要とされています。

@ 小型・軽量であること
A 操作が簡単であること
B どこでもインターネットに接続できること
C 長時間のバッテリー駆動が可能であること

一般に「モバイル・コミュニケーション(Mobile Communication)は「移動体通信」と訳され「一ヶ所に固定されずに動きながら通信を行なうこと」として解釈されています。「移動」は「固定」の反対概念ですから、上記のような固定式の端末機器に加えて移動式の端末機器がコミュニケーション・メディアの一角として登場したことが「モバイル化」の主流ではありますが、それ自身が移動体である自動車(automobile)のためのコミュニケーション・システム「オートモバイル・コミュニケーション」が普及してきたことも「コミュニケーション・メディアのモバイル化」の一環として捉えておく必要があります。

1.情報端末機器のモバイル化

1−1.携帯用パソコン

「PCが Personal Computerから Personal Communicator に変わった時にネットワーク時代が始まった」と述べましたが、コミュニケーションのモバイル化もモバイル・コンピューターの進化と表裏一体の関係で進展しました。

インターネットが一般化する以前のモバイル・コンピューターは、「携帯性があって、時間と空間の制約を受けずに、情報処理を可能にする機器」と一般的に解釈されていました。つまり、コンピューターを小型・軽量化し、机から切り離して使用可能にしたものがモバイル・コンピューターであり、それを随意な場所で使用することがモバイル・コンピューティングだったのです。

集積回路技術、液晶技術と高密度実装技術の発展によって、デスクトップ型からラップトップ型、ラップトップ型からノートブック型へと、薄型化・軽量化(thin & light)の方向に進化し、パソコンのモビリティ(可動性)が高まってきました。このような携帯用パソコンは、固定型パソコンの延長線上で、文書作成や表計算などのためにスタンドアローンで用いられることが多かったのですが、以下のような関連機器との併用によって、モビリティ性向上の実が挙がることとなりました。

(1) ビデオプロジェクター

ビデオプロジェクターの技術革新が進んだおかげで、携帯パソコンに取り込んだデータ・情報を必要な場所で自在に取り出して視覚に訴えた効果的なプレゼンテーションができるようになりました。関連の新聞報道例の要旨を以下の通りご紹介します。

技術革新がプロジェクター普及に弾み

ビデオプロジェクターに次のような方向に向けた技術革新が起こっている。

・高輝度化

かなり明るい部屋でもカーテンを閉めずに鮮明に映し出される

・高解像度

PC並みのXGA(1,024×768画素)が今日の標準。超高精彩機種も。

・小型・軽量化

ノートPCサイズ「モバイル機種」ジャンルも

・セッティングフリー

設置場所の足かせを極力なくする

例、斜め方向から投影した際の映像のゆがみを補正

本体の縦横自在配置可能

<分野別活用>

・企業…商談から社内企画会議まで

・教育…わかりやすい授業を実現

・映画館…デジタル配信実験も

・ホームシアター…家にいながら映画館気分

・イベント・店舗演出…鮮明画面で高い集客効果

2001/8/7 日本経済新聞)

(2)通信機器・システム

@ 通信アダプター(PCカード)を挿入して携帯電話やPHSに通信アダプターに接続することによって、スタンドアローンな携帯型パソコンをネットワーク端末に変え、モバイル・コンピューティングが可能な環境ができあがります。ですから、例えば、外出しているセールスマンが携帯パソコンを用いて、訪問先から本社のコンピューター・システムにアクセスして商品の在庫を確認したり、また、逆に販売実績などのデータ・情報を本社に送ったりすることができますので、情報の共有化と共用化が一歩前進するわけです。

有線ケーブルではなくて、電波や赤外線を伝送路として用いた無線LAN(構内情報通信網)を敷設しておけば、例えば、会議室に持ち込んだ携帯パソコンとサーバーや他のパソコンとのデータの送受信が可能になります。また、無線を利用するため、同軸ケーブルなどの配線を事務室などに張り巡らせる必要がありませんので、LAN用配線工事費がかからない(アンテナ設置などの工事費は必要ですが)ことのほかに、事務所のレイアウトの変更の都度敷設工事をすることもなく、パソコンが自由に移動して使いやすくなります。無線LANには、このようなパソコンのモビリティを高める効果もあるのですが、通信速度と電波の到達範囲が二律背反(トレードオフ)の関係にありオフィス環境では普及が妨げられています。しかし、住居環境では、日本の家屋は部屋ごとに電話回線が配線されていないので無線LANに向いており、高速アクセス網の進展に伴って普及が進んでいます。集合住宅や商業施設でも、下掲の報道のように無線LANを集客手段として活用する傾向が見られますし、日本でもNTTコミュニケーションズなどの通信各社が、ファストフード店や駅構内で無線LANサービスを開始し拡大してきているのも新しい傾向として注目されます。
米シリコンバレー 無線LAN「無料」で繁盛

新技術の先頭を走る米国シリコンバレーで、無料の無線LAN(構内情報通信網)サービスの普及が進んでいる。ホテルやマンション、飲食店などが新たな集客手段として活用。パソコン・半導体メーカーも新規需要の拡大につながると期待している。
賃貸マンションの事例…今夏に住民サービスの一環として併設ブールの周辺で無線LANの提供を始めた。住民の利用は無料。対応したパソコンがあれプールサイドでメールのチェックなどができる。入居希望者の大半が無線LANに強い関心を示し、驚異的な入居率を誇っている
コーヒー店の事例…1杯25ドルのコーヒーさえ注文すれば、何時間でも自前のノートパソコンでネットに接続できる。店は月額200ドルの通信料金を負担するが、毎日、同店をオフィスのように使う常連客が集まっている
大手ホテルの事例…部屋での無料高速ネット接続に続き、一部で無線接続のサービスを今春から始めた。予約を受ける段階で説明すると喜んでもらえるという。
無線LANの利用の中心はビジネスマンだが、街中で気軽に自分のパソコンからネットに接続できるとあって、着実に利用者は増えている。
(2003/10/6 日本経済新聞)

また、以下の新聞報道例で示されるように、技術開発によって通信速度面の限界が除去されてきています。今後とも無線LANの普及に新たな展開が進展することも視野に入れておく必要があります。

通信速度光回線の5倍 無線LAN開発に着手

通信総合研究所は松下電器産業や富士通、NECなど通信機器メーカー約20社と共同で、光ファイバー通信より5倍程度速い無線方式の構内情報通信網(LAN)の開発に乗り出す。実現すればパソコンやプリンターなど周辺機器をつなぐ室内配線がほぼ不要になる。通信規格の国際標準化も進め、2年後の実用化を目指す。

無線通信は通常、携帯電話など用途別に特定の周波数帯を割り当てて利用する。今回開発するのは一定の範囲内で電波を幅広く利用する方式で、「UWB(超広帯域)」と呼ばれる技術。利用する電波の周波数帯が100倍以上に広がるため、飛躍的に通信速度を上げることが可能になる。

今回の次世代技術が実現すると、無線が届く半径10メートル程度の範囲内でパソコン同士やプリンターなどのデータを配線せずに送受信できるようになる。通信回線を床下などに敷設できない小規模ビルのオフィスでも面倒な配線工事が不要になり、パソコンの作業環境を改善できる。現在でも無線LANは実用化しているが、通信速度は毎秒10Mbps程度で、バソコン間をつなぐには速度が不十分で使いにくい。500Mbpsの無線LANの出現によって、パソコン経由で、プリンター、携帯情報端末、デジタルカメラだけでなく、デジタルテレビ経由のオーディオ、デジタルビデオ接続まで含めた「超高速無線でつなぐ情報機器ネットワーク」が実現することになる。

2003/5/30 日本経済新聞)

1−2.シン・クライアント(Thin Client) vs Java搭載パソコン

コンピューター・ネットワーク・システムが、メインフレーム/ダム端末接続型から、分散処理型、更にはクライアント・サーバー型へと進化してきたのは、情報処理が中央への集中から端末への分散の歴史でもありました。しかし、「歴史は必ずしも直線的には進展しない」という仮説の通り、分散の方向に逆転する動きが起こりました。サーバー・コンピューターの高性能化・高機能化に伴って、情報処理をサーバーに集中してクライアントの方を形状だけではなく情報処理機能を薄く(Thin)してモビリティを高めようとするものです。

機能が簡素化された
シン・クライアント(Thin Client)はまた当然低価格で入手することが可能になりますから、使用台数が増せば増すほどシステム全体としての経済性が高まりますので、モバイル・コンピューティングのみならず、幅広くコンピューター・システムに採り入れられる可能性があり注目の的となりました。具体的にシン・クライアント(Thin Client)は、故障率の高いハードディスクや周辺装置などの駆動部を持たないシンプルな構造を持ち、アプリケーションやデータなどの資源は全てサーバー側で一括管理します。シン・クライアント(Thin Client)を用いれば、モビリティだけでなく、セキュリティも強くて管理が容易なシステムを構築することができるという利点もあったのです。

しかし一方で、パソコンの小型軽量化と高速・大容量化が進展したことによって、シン・クライアント(Thin Client)普及の方向にも歯止めがかかってきたようです。特に、携帯パソコンにプログラム言語Javaが搭載されるようになったのがこの要因になっています。どんなOSでも、どんなハードウェアでも利用できて、信頼性、操作性、移植性に優れた比較的小さなプログラムを作ることができるJavaこそ「ネットワーク時代の新言語」といわれていたのですが、一方では容量が多くて従来のパソコンに搭載するには難があったからです。

従って、例えば、外出先でデータをグラフ化して客先にプレゼンテーションする場合に、シン・クライアント(Thin Client)から本社サーバーにアクセスしてグラフを作成させて伝送を受けるのと、データだけ伝送を受けてJava搭載のパソコンでグラフを作成するケースとの間の損得対比の問題が新たに発生するわけです。端末の使用目的、単価格差、操作性、データ通信コストなどの要因を総合的に判断して、いずれかを選択する必要があります。

しかし、1990年代後半に一旦ITのキーワードとなりかけながら普及が進まなかったシンクライアントが、別な角度から再評価されることになりました。企業のパソコンからの個人情報が流出事例が相次いだことなどを背景に、情報漏洩を防ぐ手段の一つとして、ハードディスク駆動装置(HDD)を搭載しておらず記憶装置を持たない「ネットワーク端末」を用いたシステムが脚光を浴びています。機密情報や個人情報が端末に蓄積しないようにして、サーバーで集中管理することによって漏洩を防ぐためです。

大型汎用機(メーンフレーム)が企業の情報システムの主流であった時代には受動的な機能しか果たさない「ネットワーク端末」(ダム端末)が用いられていました。その後、サーバーとパソコンを組合せたシステムが急速に普及する中で、主にコンピューター・ネットワーク構築コスト軽減の観点から、シンクライアントの導入が一部で進められてきましたが、パソコンの圧倒的な優位は揺らぐものではありませんでした。2005/4個人情報保護法が完全施行されたのと軌を一にして、既存のパソコンのかなりの部分に置き換わる可能性があるものとして、「ネットワーク端末」が再び脚光を浴びるに至ったのです。


1−3.「ポストパソコン」への動き

当課の初頭で記述した「モバイル・ツール」の必要4条件のうちで、パソコンに最も満足し難いのが「A操作が簡単であること」です。そこで、主に、「操作しやすさ」を眼目として「ポストパソコン」を目指した各種の「モバイル・ツール」が開発されています。以下の新聞報道の要約にもその一端を見ることができます。

「ポストパソコン」に向けての動き

タブレットPC
小型・軽量に加え、手書きのペン入力ができる
キーボード入力が苦手な高齢者、カルテの電子化を進める病院、在庫管理や顧客先へのプレゼンテーションの効率化を目指す企業など
・  特徴ある製品、多様なソフト開発、コスト低減などが普及のための課題
更に、次世代パソコンを誕生せしめるためには、半導体や液晶、無線技術などで今までのパソコンのコンセプトを大きく変える要素技術・部品の開発が必要だ。
(例) 「CELL(セル)」
ソニー・コンピュータ・エンタテインメント(SCE)、IBM、東芝が共同開発している次世代半導体。ブロードバンド(高速大容量)通信に対応した半導体チップで、完成すれば現在のスーパーコンピューターの性能を指先に載る大きさの中に凝縮できる。SCEはこのCELLを家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)2」の後継製品に採用し、パソコンの延長線上ではない全く新しいネットワーク機器の開発につなげる予定。
その他の周辺技術
稼働時間を飛躍的に長くできるパソコン用燃料電池
折り曲げられる有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)ディスプレイ
盗聴防止機能を盛り込んだ無線技術
(2003/01/01日本経済新聞)

上記の記事にも示唆されているように、タブレット型PCの他に家庭用ゲーム機などもネットワーク端末として「ポストパソコン」の地位を占めようとしています。その他に、通信方式にブルートゥースを採用したネット家電(情報家電)、衣服のように身に付けられる超小型のウェアラブル(装着型)コンピューターなども「ポストパソコン」の「モバイル・ツール」として注目されていますが、これらは第10課「ユビキタス・ネットワーク」で考察することにして、次項で携帯電話とともに目下のところ「ポストパソコン」の機種として注目されているPDA(携帯情報端末)について概観することにします。

1−4.PDA(携帯情報端末:Personal Digital Assistant)

PDA(携帯情報端末:Personal Digital Assistant)とは、個人向け小型携帯情報機器の総称ですが、ノートブックパソコンはこれに含まれません。世界的に有名なのは、OS(基本ソフト)に米パーム社のPalm OSと、Microsoft社のPocket PCを搭載した製品群ですが、日本ではこの二者と、日本独自のPDAであるシャープのザウルスが激しいシェア争いを繰り広げています。「”Palm”(掌)、”Pocket PC”の名称からも分かるように掌またはポケットサイズのボディに、さまざまなデータを入れて持ち運べる簡易パソコン」で、どの機種も「スケジューラー」、「住所録」、「メモ」といったパソコンと同じようなPIM(Personal Information Manager:個人情報管理)機能を備え、パソコンのデータとシンクロ(同期)できる点は共通でした。当初は、パソコンでは重すぎる、携帯電話では情報量が少ないといったといったところのニッチなモバイル・ニーズに応えるモバイル情報端末機器だったのです。

ところが、携帯型パソコンや携帯電話のインターネット接続が進展するのに対抗する形で、PDAにもメールの送受信やWebブラウズが行えるインターネット機能が搭載されるようになるとともに、デジタルカメラや音楽プレイヤー、GPS(位置情報検索システム)などの機能を盛り込んだ高機能デジタル・ツールに進化しました。製品によって、通信機能付きで携帯電話に近い機能をもつものから、パソコンに近い高機能を備えた製品まで仕様はさまざまですが、以下のようなコンピューターと通信の融合した機能を持つものが標準的なPDAと言ってよさそうです。

1. 個人のスケジュール管理を行なう秘書機能
2. ペン入力を使いアイデアを取りまとめるのを支援する機能
3. 辞書やマニュアルを内蔵しいつでも検索できるリファレンス機能
4. 双方向性を利用した教育やプレゼンテーション・ツール機器としての機能

パソコンより扱いやすく、携帯電話より多機能なPDAには、以下のような両者との相違点と欠点があります。今後一層多機能化が進む携帯電話と、より小型化・低電圧化が進むノートブックとの間のニッチ(隙間)市場でPDAが存続して行くかどうかは、PDAの特徴を生かしたコンテンツ・サービスやビジネスモデルの消長が鍵を握っていそうです。PDA市場の約7割を占める個人向けが落ち込んでいるために、2003年も国内需要は前年に対して3割近く落ち込んでいますが、業務用の需要は微増傾向にあります。2002年に個人向けPDA市場から撤退した日本IBMが、流通・小売業向けの商品管理、医療現場での業務支援端末用などの業務用に限定してPDA市場に再参入することを企てている(2004/4/17)のもニッチ(隙間)市場の拡大の可能性を示唆する動きとして注目されます。

1-4-1 携帯電話との違い

重さやバッテリー持続時間はPDAより携帯電話の方が優れていますが、画面が小さく、メールの受信可能文字数やパソコンとのデータ連携にも制限があります。拡張メモリースロットを備えたPDAならデータ保存容量は無制限でパソコンとの連携もスムーズです。

1-4-2 ノートブックパソコンとの違い

モバイル用のパソコンでも、Windowsが動くモデルは重さが1kg前後はあり、バッテリー持続時間も平均3〜4時間と、外出先で1日フルに使うには不安があります。PDAなら重さはわずか150g前後。電車の中でも片手で使え、10時間から1ヶ月はバッテリーが持ちます。

1-4-3 PDAの欠点

一部にキーボード内蔵モデルもあるが、ほとんどは手書き文字入力のため、大量のデータ入力には向かない。PDAを使ったネット上の金融サービスが始められ、iモードなどによって端末上の簡単な操作で、銀行口座の預金残高照会や公共料金の振込み、定期預金などへの口座間の資金移動、外貨預金の取引などができるようにはなりましたが、画面や操作ボタンが小さいため使い勝手の悪さを指摘する声も多いようです。

1-4-4 PDA応用事例

宅配便業界の情報技術(IT)化に関する報道事例とバイク(自転車)便サービス業の(株)ソクハイによるPDAシステム導入の事例を以下にご紹介します。

宅配便業界の情報技術(IT)化
宅配便業界でも配送ドライバーに情報端末を持たせ、荷動きの管理やサービスの充実に生かす情報技術(IT)化が進んでいる。届け終わった際などに配送ドライバーが専用情報端末で伝票バーコードを読み取り、情報センターに送信し、荷物追跡システムに情報を送る仕組は既に従来の宅配便サービスに導入されているが、更に専用情報端末が代金引換サービスに用いられる傾向が強くなってきた。玄関先でクレジットカード決済などができる機能を備えており、支払手段を現金以外に広げた。便利さが受けて利用が伸びており、例えば佐川急便ではクレジットカードやデビットカードによる決済が可能な「eコレクトサービス」の取扱荷物が2002年9月中間期に前年同期比40%増の1,260万個となった。クレジットカードによる決済金額は2千億円に達した。背景にはインターネットの普及などで通信販売の決済手段が多様化してきたこともある。通販の配送業務を獲得するうえで運輸会社も決済機能の拡充が欠かせないわけである。
(2003/01/01日本経済新聞)
PDAを全ライダーへ配備
顧客満足と伝票レスを目指した先進的なシステムが稼動開始

(株)ソクハイは20036月より700名の全ライダーにPDAを装備、顧客の受け取りサインを電子的に取得するなどの先進的なシステムを稼動させた。

全ライダーにPDAとPHSを配備、これまで携帯電話へ送信していた集荷先住所や運賃情報をPDA上でライダーが確認する仕様。また受取者がPDA上にサインをし、即時にセンターへ送信される日本初のシステムにより、受領印確認の問合せへ瞬時に対応することを可能にした。これらにより旧来から使用していた複写式の運送状を使用しない配送が実現、顧客に起票の手間をかける必要がなくなった。

同質化競争に陥ったバイク(自転車)便サービスの付加価値をより高め、顧客利便性を向上させることが目的で、同時に伝票レスな業務フローを構築する事により、データ照合作業の簡素化など全社的なBPRを推進する事がもう一つの目的である

【PDAシステムの特長】

◆電子受領印
物流業は貨物引渡し時、紙面にサインまたは捺印を取りつけるのが主流だが、今回PDAの画面パネル上に直接サインすることでデータ化をし、直ちにデータはセンターへ送信、顧客からの問合せ応対の係員が把握可能となった。これまでは顧客の問い合わせが発生すると、走行中のライダーを停車させ運送伝票を確認させていたが、電子サインにより即時回答が実現した。
◆配達完了Fax & E-mail自動送信
従来は配達が完了する都度、ライダーが依頼主へ電話にて報告を実施していたが、PDAの画面操作のみで直ちに配達完了報告のFaxやE-mailが送信可能となった。
◆顧客情報データベース
バイク便のライダーは担当地区が固定されない仕組みであるため、顧客特有の注意事項(ビルの入館方法、特殊な集荷方法など)はこれまで紙ベースで全員へ配布、周知していた。PDA装備により画面上で顧客情報を確認、サービス向上を図れるとともに、セキュリティ機能にて個人情報保護の目的を達成することができた。
◆後方業務支援機能
ライダーの売上清算業務や勤務管理にPDAを使用することで、拠点と本部の情報が統一され業務効率が大幅に改善された。またライダーの給与明細はこれまで本部が毎月700名分を印刷、袋詰、発送していたが、営業所に配備されたモバイルプリンターにて各自がPDAで印刷する仕組みにした。

顧客の欲しいものを絞り込んで買う「選択消費」の傾向が強まる中で、多分野の高級品や嗜好品をそろえる構造が弱みとなり、百貨店業界が大きな苦境に立たされています。在庫がさばけないと値下げやメーカーへの返品に走り、メーカー側は返品を抑えて納入を絞り込む。こうした百貨店の返品制度が生んだ負のスパイラルが売り場を劣化させたことが「売り逃し」の機会を増し業績不振をもたらした大きな要因になっているということが指摘されています。以下にご紹介する新聞報道は丸井が「売り逃し」防止のために携帯情報端末(PDA)を組み込んだシステムを導入することを報じたものです。

在庫管理刷新 売り逃し防ぐ
全店250万種 PDAで即時検索

丸井は約100億円をかけ、10月から商品管理システムを刷新する。衣料品など250万種に及ぶ商品の在庫を、店頭の販売員が他店の分までリアルタイムで把握できるのが特徴。先端的なファッション商品は少量多品種化が進んでおり、顧客の求める色やサイズが無い「売り逃し」が発生しやすい。百貨店などで売り上げが低迷する中、丸井は店舗間で機動的に在庫を融通し、機会損失を防ぐ。
首都圏を中心に展開している全29店に導入されるのは携帯情報端末(PDA)を織り込んだ新システム。サーバーや売り場の多機能レジを入れ替えるほか、新たに販売員にPDAを持たせる。多機能レジは約5千台、PDAは1,500台以上を計画している。
顧客が選んだスーツで体に合うサイズが店頭に無かった場合、販売員がレジやPDAにバーコードを読ませて検索。チェーン全店の在庫情報が一覧表で表示され、どの店から取り寄せられるか一目で分かる仕組みだ。
多くの百貨店は在庫情報を閉店後にまとめて更新するため、顧客の取り寄せ希望があった時点でも売れずに残っているかどうか電話確認が必要。丸井の新システムではレジを商品が通る度にリアルタイムで情報が更新されるので即座に対応できる。
各店舗と物流センターはトラックが一日3-7便行き来しており、配送を手配すれば、都内の店同士なら最短で翌日朝に取り寄せ商品が到着する。販売員は発注した商品が先方の店を出たか、自店の倉庫に到着したかなど運送状況も確認できる。年間200万枚にのぼっていた在庫の受け渡し伝票も不要になる。
また、本部のバイヤーが前年度の販売実績などをもとに、需要がある店に在庫を重点配分することも容易になる。例えば、同じ衣料品でも都心、郊外など立地の違いで売れるピークは異なる。その時点で最も売れそうな店をパソコン上でシミュレーションし、各店にPDAを通じて在庫移動を指示する。
丸井ではファッション商品は年間130万種が入れ替わり、1店あたり1サイズ1点しか入荷しないものも多い。1−2週で流行が移り変わるため補充発注も難しく、来店時に店頭に無いと売り逃しになりやすかった。
(2004/9/16 日本経済新聞)

2.モバイル・インターネット

2−1.携帯電話

携帯電話は、無線で通話できますので、有線(電話線)で「固定」された電話機と違って自由に移動しながら自由に移動する相手とも通話することができます。ですから、電話網による音声通信の範囲を飛躍的に拡大させるコミュニケーション・ツールとして登場したわけです。

携帯無線電話は、昭和54(1979)に当時の日本電信電話公社(現在のNTT)が自動車無線電話のサービスを開始しました。このシステムは、多数基地局の無線ゾーンを蜂の巣の様に切れ目なく繋ぎ合わせてサービスエリアを面的に構築し、この無線ゾーン内の移動体は、近くの基地局を介して公衆通信回線網から加入電話、あるいは、他の移動体と接続して通信を行う仕組みになっています。

一つの基地局の無線ゾーンは、導入当初は、自動車に搭載して利用したため510kmの中ゾーンでしたが、その後技術の進歩により移動機は人間が携帯できるよう小型化されて小電力化が可能になり、無線ゾーンは徐々に小さくなって現在のような携帯無線電話となりました。携帯電話は別名「セルラーフォン(Cellular Phone)」とも呼ばれますが、これは”Cell”(細胞)より派生した言葉で、一つの無線基地局から放射される電波の届く範囲(半径 約15km)を「セル」と称し、これが蜂の巣状の集合体となって通話可能なサービスエリアを構成しているところからきています。

タクシー無線などの簡易無線では、セル方式ではなく「大ゾーン」と呼ばれる方式が利用されています。この方式は、エリアを細かく分けるのではなく、大きな一つのゾーンで複数のチャンネルを割り当ててしまうやり方です。この方式は基地局を一つ作ればよいのですが、基地局と交信できる端末の数はサービスエリア全体でチャンネル数の分しか使用できないことになってしまいますから、携帯電話で大ゾーン方式を利用すると、はじめから「混線OK」とでもしない限りは使えないことになります。

携帯電話は無線システムの中でも特に電波を発する端末が多い仕組みですが、携帯電話で使える電波の周波数は有限です。このため、電波を効率よく使わないと回線がパンクする事態に陥ってしまいます。携帯電話でセル方式が利用されているのは、セル方式には、割り当てられた周波数帯を多くの端末で効率よく使えるというメリットがあるからなのです。セルラー方式は、地域をセルで分割し各セルに基地局を置いて、無線で基地局と端末を接続し基地局間は固定伝送路で接続する方式ですから、右図のように、直接隣接しないセルは同じ周波数帯を利用することができます。

2-1-1 使用電波

携帯電話では、音声をいったん電気に変え、それを電波に乗せて送ります。携帯電話の声を運ぶ電波は800 MHz帯(メガヘルツは毎秒100万回の振動数の電波)と1.5 GHz帯(ギガヘルツは毎秒10億回の振動数の電波)及び2 GHz帯(後述のIMT2000)を使います。ちなみに、普通のVHSテレビ放送は90-700 MHz帯を使っています。テレビ放送を受信するにはテレビアンテナが必要になるのと同じで、携帯電話にも小さなアンテナがついています。しかし携帯電話にはテレビのようなチャンネル・ボタンがありません。それは、携帯電話の中の受信機があらかじめ携帯電話用の電波に合わせてあるからです。携帯電話の電源を入れておけば、携帯電話用の電波を自動的に受信してくれるのです。

2-1-2 呼び出しの仕組み

携帯電話サービスを提供している通信事業各社は、それぞれに次のような設備をもって携帯電話の接続を行なっています。

@ 電波をキャッチするアンテナ
A アンテナと増幅器をもつ無線基地局(BS)
B 無線基地局を接続する交換機

携帯電話から発信された電波は先ず、数キロほどの間隔でビルの屋上などに設置された無線基地局(BS)に集められます。一つの基地局がカバーするゾーンで発生した携帯電話からの発信は移動通信制御局(MCC)に集められ、そこから行き先の無線基地局(BS)ごとに振り分けられます。ですから、東京の丸の内を歩いている人が、横浜のどこかにいる人の携帯電話を呼び出す場合、電波は丸の内にあるBSからMCCに行き、ここから横浜のBSに行って相手を呼び出します。相手先が、たとえば横浜の固定電話の場合には、MCCから一般の電話網に入り、横浜局へつないでいくことになります。

2-1-3 位置登録

こうしたことをスムーズに行うためには、携帯電話がどこにいるのかをネットワークで把握しておく必要があります。そのため、携帯電話の電源を入れると自動的に携帯電話の識別番号(機体番号)を電波に乗せて発信します。この電波をネットワークがキャッチして、携帯電話の所在場所を記録するデータベース(ホームメモリー局)へ書き込みます。これによって携帯電話の持ち主が「私はここにいます」という「位置登録」ができるわけです。

このデータベースを見れば、呼びたい携帯電話の所在場所がわかるので追跡して接続することができます。しかし、電源が切れていたり電波の届かない地下へ行くと所在場所が不明になったりすると呼び出し不能になります。携帯電話に電話をかけたとき、「おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか電源が入っていないため…」という声が聞こえることがあるのは、呼び出し不能の状態をシステムが自動的に判断しているからなのです。このような場合には、「音声メール」にいったん音声を蓄積し、後でこれを聞くことができるサービスも利用されています。

2-1-4 無線基地局ゾーン間の移動

また、前述の通り、携帯電話の一つの無線基地局(BS)がカバーする地域(ゾーン)は半径数キロです。ですから、特に自動車で走っているときなどは、すぐにゾーンが切り替わってしまいます。そんな場合、例えば無線基地局AゾーンからBゾーンに移動する場合、移動通信制御局(MCC)では自動的にAゾーンからの電波が弱くなったのを察知して隣の無線基地局Bからの電波を捕まえようとします。これが「チャンネル切り替え」または「ハンドオーバー」で移動通信の重要な技術の一つになっています。

2-1-5 ローミング

携帯電話サービスを行っている会社はNTTドコモ、ボ−ダフォン、auなどがありますが、各事業者の営業エリアは別々であり、また各社とも必ずしも全国をカバーしているわけではありません。そのためA社と契約しても、旅行などでA社のサービス地域外へ移動すればその携帯電話は使えなくなってしまいます。そこで考えられたのが「ローミング」というサービスで、携帯電話機が各社のサービス地域外を動き回っても、同じ通信方式を使っている携帯電話機であれば共用できるシステムになっています。ですから、仮にB社と契約している人がA社のサービス地域に行った場合、A社とB社で相互接続契約が結ばれていれば、A社の通信システムを使って通話ができるのです。

各社とも無線基地局からは、それぞれ自前の移動通信ネットワークに接続され、ユーザー間の接続を行なっています。しかし、各社のネットワーク間の接続ができていないと、真のネットワークとはいえません。これを可能にしたのが「ローミング」であり、それぞれが関門局(事業者間通信の関所のようなもの)を設けていて、ここを中心に会社間通信の料金の精算も行われています。移動通信事業者各社の携帯電話網は、それぞれが関門局を経由して他の移動通信会社やNTT系などの電話網、KDDIなどの国際網とも接続され相互に通話できる構成になっているのです。

<こぼれ話>
WITセールの思い出

これまで講義の私が述べてきたことは、何処かから与えられた「正解」に基づくものではなく、既存の知識に基づいて自分なりに論理的に考えてみた結果得られた「仮説」に基づくものです。今後は一層「知識」の多さよりも論理的な思考によって自分なりの「仮説」を構成する能力の方が重要視されていきます。ところで、最近、東芝の友人である鳫さんが、定年退職で机の中を整理していて古い文書を探し出してくれました。昭和43年とありますから、私が東芝入社後5年の頃で、現在の皆さんとそれほど年齢差のない時期の記録です。当時の私がどのような「仮説」を立てて行動していたか、ここでご紹介してご参考に供したいと思います。

「あなたのウィットでWITを売ろう!」…これが私の企画した「東芝通信商品WITセール」のキャッチフレーズでした。全国に数千店あった東芝ストアのセールスマンに、民生用の通信機器(拡声装置、電話機器、インターホン、市民バンドラジオなど)を拡売してもらうためのインセンティブ付き販売キャンペーンで、「設置工事の付帯しない通信商品なら馴染んでもらいやすい」という仮説のもとに、代表選手としてW(ワイアレスマイク・アンプ)、I(インターホン)、T(トランシーバー)を選んだのでした。そこで、” Sale WIT with wit”という怪しげな英語のサブキャッチ・コピーをつくり、ロゴマークまがいのものまでデザインして臨むところとなりました。ワイアレスマイク・アンプ(W)は現在ほど普及しておらず「新市場開拓が期待できる」という仮説が成りたちそうでしたし、インターホン(I)も「ベルやブザーの配線がそのまま利用できる」という仮説のもとに「ベル・ブザーさよならセール」(既設のベル・ブザーの下取りセール)をサブ・キャンペーンとして企画実施しました。このような仮説は正しかったと思いますが、ことトランシーバー(T)については仮説が間違っていたようです。

「若者のアウトドア生活の必需品となる」という仮説のもとに、ハンディー・タイプの新製品「ヤングエコー」を発売し、同名のキャンペーン・ソングまでレコーディングしてプロモーションに努めたのですが若者の反応は芳しいものではありませんでした。サブ・キャンペーンとして企画実施した「グアム島招待セール」に応募してきたトランシーバーの購入者も、土地測量や工事現場で使う業務用ユーザーばかりでした。トランシーバーは「市民バンドラジオ」とも呼ばれ、無線で送信(transmit)と受信(receive)ができるところからこの名前が付いているのですが、その後ドライブの際の交信に使われているシーンを見かけるようにはなりましたが、「若者のアウトドア生活の必需品」の立場はトランシーバーに代わって後の携帯電話に占められてしまったように思えます。携帯電話との大きな違いが以下のような点にあり、これがアウトドア用品としての普及度にも大きく響いたものと考えています。
単機能なので常時携行して用いることがなく用途が限定されている
マイクがスピーカーを兼ねているのでプレストークの交信をしなければならない
通信事業者が接続サービスを提供していないのでポイント間交信しかできない
確かに、設定した仮説が誤っていたり、仮説の設定に漏れている部分があったりしたために、WITセールは充分な成果を挙げたとは言えない結果に終わってしまいました。「調査は仮説を検証するために行うものである」ということを学生時代に習っておきながら、最低必要限度の調査も行わなかった点は大きな反省材料になりました。しかし、説得力のある仮説に基づいたプロモ−ションの提案であったからこそ、WITセールに当時のお金で1千万円台の投資を行うことが決定されたばかりでなく、セールについての企画・立案・推進の一切が一人の若者に委ねられ、全社の関係営業部員も目標に向かって一丸となって邁進できたのだと思います。組織内で、特に新しいイベントを企てて実行するためには、如何に仮説の設定と検証が重要であるかということが分かっていただければと思います。

2−2.PHS(Personal Handy-phone System

2-2-1 PHSとは

従来からあったアナログ式コードレス電話をデジタル化するとともに利用範囲を拡大したような簡易型携帯電話システムですが、屋外にアンテナから電波を発信する「基地局」が設置されていますので携帯電話のように使用できることが特徴です。基地局は、駅ビルやコンビニエンスストア、公衆電話ボックス、地下街などに設置してあり、そこから半径100-500メートル以内のエリアで通話が可能となります。一つの基地局がカバーできる半径は狭いのですが、電話ボックスの上などに設置する簡単な構造のため、携帯電話の無線基地局とくらべると遥かに比較的低コストで設置することができます。基地局数が少ないので全体としてのサービスエリアは狭いのですが、携帯電話では通話が難しかった店舗内、ビル内、地下街などでも使えるという特徴もあります。

2-2-2 携帯電話との違い

(1)利用できる場所

PHSは駅周辺、繁華街、地下街、ビル内、幹線道路などスポット的ですが、携帯電話は広域で通話できます。これは基地局のアンテナから発する電波の届く距離の違いによります、PHSは100-500メートル程度ですが、携帯電話は1-5キロ届きます。

(2)通話可能な移動速度

PHSの高度化により両者の差は少なくなっていますがユーザーが移動中の車内などで利用する場合、PHSが通話を継続できる移動速度には制限があります。これは、移動機(PHSまたは携帯電話などの移動する端末をいう)を追跡するシステムの違いによるものです。携帯電話は、新幹線で東京から大阪まで連続して通話しても途中で切れませんが、PHSシステムは元々狭い範囲で移動する場合を想定して設計されているので通話の継続ができません。

(3)その他

通話料金は、各社間での競争があり様々ですが、概してPHSの方が割安な料金設定になっています。
また、PHSは省電力消費型なので、通話時間が長く、しかもデジタル方式なので音声通信でのノイズが少なく、高速データ通信に強いという特徴も持っています。64kビット/秒のデータ通信も可能ですから、無線ながら有線のISDN並みの速度でデータ通信ができるわけです。ブラウジング機能を搭載した機種も発売されたことから、PHSからもiモード(後述)にアクセスできiモード対応のホームページも閲覧可能になっています。

携帯電話の目覚しい普及振りに圧されて、PHSサービス事業から撤退を表明する企業が相次いでいたのですが、2003/5に最大手のウィルコムが通話定額サービスを始めてから息を吹き返しました。2006/5は、携帯電話の国内出荷台数が前年同月比3.8%減で3ヶ月連続で前年度実績を下回ったのに対して、PHSは前年同月比49.4%の大幅増となっています(2005/7/13 日本経済新聞)。また、ウィルコムの加入者数は2006/6の一ヶ月だけで約8万件の増加で、同社の加入者総数が約323万件(2005/6末時点)で携帯電話4位のツーカーグループにあと30万件強というところまで急追しています(2005/7/19 日本経済新聞)。

また、以下のような“PHSならでは”のニッチ(隙間)市場が、今後とも開けてくる可能性もありますので、PHSの今後の動向から目を離すことはできないようです。
PHS機能付き防犯ブザー

PHS機能がついた小学生用の防犯ブザーも実用に供されている。ピンを引き抜くと、防犯ブザーがなるとともに、位置情報が役所のセキュリティーセンターに通知され、近くにいる協力者や、保護者、学校にメールなどで通報される。基地局数が携帯電話よりも多いPHSの特性を活かしてGPS機能を搭載しなくても位置情報を確認することができる。
2006/6/26 日本経済新聞)
<こぼれ話>
PHS/携帯電話/トランシーバー

「奇遇会」というヘンテコな集まりがあって、年に1回泊りがけのドライブ旅行に出かけます。4−5台の車に分乗するのですが、私は一昨年が日光いろは坂、去年が阿武隈洞で“PHS孤児”になってしまいました。他の車のドライバーはみな携帯電話を持っているのに私一人はPHSだったからです。データ通信の面では優れているからPHSにしているのですが、やはり、サービス・エリアの広さでは携帯電話にとてもかないませんね。特に、道路上や駐車場での車間交信で携帯電話は威力を発揮しますが、PHSとなると音信不通になってしまうケースが多いようです。

しかし、最近(2003/11/E)に千葉県で起きた中高年登山者グループの集団行方不明事件は、携帯電話への過度の依存に対して警鐘を鳴らすものでした。日が暮れて、迷い込んだところが携帯電話のサービス・エリアの外だったために、登山口から下山口へ移動して連絡を待ち受けていた貸し切りバスの運転手さんとの交信が途絶えてしまったまま、登山者一同が山中で野営したため“下界”で遭難事件として大騒動になってしまったものでした。日光いろは坂や阿武隈洞といったような山間地でも、自動車道路や大駐車場がある地域は携帯電話がかなり広くカバーしているようですが、標高300mクラスの低山であっても、一旦山道に入ってしまうと、携帯電話のサービス・エリア外になってしまうようです。こんな時こそトランシーバーの出番ということになりそうですが、平坦地ならぬ山間部で電波が届くかどうか…。

当時、トランシーバーには最大出力500mWという制限がありました。東芝の出力500mWの新製品は理論的には電波到達距離が100kmとなっていましたが、これを歌い文句にするためには、発売に先立ってフィールドテストでこれを実証しておく必要がありました。テスト実施計画立案に当たって困ったのが「100km」を具体的にどの地点間に設定するかという問題でした。まず、思い当たったのが、海を隔てた房総半島ポイントと伊豆半島ポイントの間の交信でしたが、実際に地図で100kmラインを引いてみると、間に伊豆半島が入ってしまい平坦地交信の条件が整わないからです。ようやく探し出せたのが、房総半島鋸山と伊豆半島下田の間の100kmで、私は下田の側の送受信実験に参加しました。さて今度私たちを困らせたのはラジオ放送の混信でした。トランシーバーのアンテナがハングル語放送まで拾ってしまうのです。ですから、混信音の中にかすかに「こちら鋸山、どうぞ」の声を聞き取れた時は一同から「やったー」という歓声が挙がったほどでした。

東芝製の500mWタイプのトランシーバーは一時アメリカ市場で大ブレークして国内でも評判になりましたが、主なユーザーは長距離トラック運転手だったそうです。アメリカの平坦な平原を走るトラック間では、混信も少なくて遠距離交信がしやすく、道路情報や飲食店・商業施設情報を交換し合いながら運転手間の絆を強める道具としてトランシーバーが愛用されていたのだと思います。そう言えば、日本でも、平坦な海上での釣り船間で、釣り場ポイント情報や釣況情報を交換し合いながら船頭さん同士がトランシーバーで談笑している光景をよく見かけたものでした。


[衛星電話について]

平成14年度末の契約数も僅か41,737件で、モバイル・ツールとしてもマイナーな存在ですが、“世界電話”の側面をもったコミュニケーション・メディアとして「衛星電話」がありますので、ここでご紹介しておきます。

「衛星電話」とは、通信衛星を利用した電話およびサービスの総称です。端末自体の持ち運びが可能なものを、「衛星携帯電話」と呼ぶこともあります。基地局に通信衛星を利用することによって、一般の携帯電話では電波の届かない砂漠や海上、山頂などの場所でも通話が可能になっています。

通信衛星には静止衛星と周回衛星の2つのタイプがあり、静止衛星は赤道上空36000キロメートルを地球の自転速度と同じ速度で回り続けている人工衛星のことですが、地上から衛星を見ると、まるでそれが静止しているかのように見えるため静止衛星と呼ばれます。静止衛星を利用したサービスには、世界初の衛星電話となったインマルサットや、現在NTTドコモが提供している「WideStar」(ワイドスター)などが挙げられます。地上と衛星の間の無線通信を行う距離が長いため、電話機につながるアンテナもかなり大きめです。ワイドスターはドコモが打ち上げた衛星N-STARを使った衛星携帯・自動車電話サービスとして、19963月にサービスが開始されました。通常の携帯電話と同様、音声による通話に加え、FAX通信やデータ通信(4800bps)も利用できます。現在は船舶向けのサービスとして衛星船舶電話も登場しており、そのエリアは日本の陸地、および陸地から200海里(370キロメートル)の海域となっています。

一方、周回衛星を利用したサービスには、Iridium Satelliteの「Iridium」(イリジウム)などがあります。周回衛星は、衛星そのものは静止していますが、地球の自転によってあたかも11周期で周回しているように見えます。イリジウムでは、地球上空約780キロメートルという低い軌道上に、66個の通信衛星を周回させて、地球上のあらゆる地域をカバーすることを可能にしています。通信距離の短い周回衛星を用いることで、通信衛星が小型化でき、一基あたりの打ち上げにかかるコストが削減できます。また、伝播損失が抑えられ遅延もなく、電話機自体も小型化できるなど、そのメリットは大きいのですが、通信衛星を数十機打ち上げないとサービスは開始できず、そのためイニシャルコストがかかりすぎ、多くの事業会社がビジネスモデルを確立できず失敗に終わっています。

イリジウムは、それぞれの衛星が通話をリレーすることで、地上のネットワークに依存することなく、世界中どこでも使えるというのが売りでもあり、過去には日本でもサービスが提供されていました。しかし、イリジウムは開業早々に経営破たんを起こし、20003月にサービスを終了しています。20014月に再開された現在のイリジウムはまったく別の会社が事業を引き継いだもので、事業会社の存在しない日本は(電波は届いているが)サービスエリアに含まれていません。従って、仮に日本でイリジウム端末を利用すると、電波法に違反することになります。

衛星を利用した移動通信システム

衛星名 インマルサット N-STAR オーブコム
運用者/
 事業者
インマルサット
(日本ではKDDI
NTTドコモ オーブコム
(日本ではオーブコムジャパン)
サービスエリア 全世界 日本全国及び日本
(近辺の公海を含む)上空
全世界
サービス内容 電話、テレックス
ファクシミリ、データ通信
電話、ファクシミリ
データ通信
データ通信
サービス開始 昭和572 平成8年3月 平成11年3月
高度(軌道) 36,000km(静止) 36,000km(静止) 825km(周回)
衛星数 4+5(予備) 2+1(予備) 29+7(予備)

2−3.ケータイ

携帯電話は、インターネットとの接続が可能になったとき、音声メディアの伝達メディアからマルチメディアの伝達メディアに進化しました。通話専用であった携帯電話は、明らかに「電話」の範囲を超え多機能コミュニケーション・メディア「ケータイ」に変身したのです。これに伴って、インターネットの端末としては固定型のパソコンが定番だったのですが、ケータイを初めとする「モバイル・ツール」が接続され「モバイル・インターネット」の世界が急速に開けてきました。「いつでも、どこでも、誰とでも、どんな情報でも」が実現したのです。更に、当講座の「履修の手引き」に述べましたように、「携帯電話機がケータイに変わった時にユビキタス情報社会の端緒が開かれた」と考えています。以下にケータイを実現させ進化させている諸要因について考察します。

2-3-1 iモード

コンセプト

iモードとは、NTTドコモが世界に先駆けて実現したサービスで、携帯電話からインターネットに接続するサービスのことを言います。これによって、携帯電話のユーザーが、eメールはもちろん、テレホンバンキング、レストランガイド、タウンページ検索などのインターネットのオンラインサービスが受けられるケータイのユーザーになったのです。特に、ケータイだけでインターネットに接続して電子メールができる手軽さが普及に弾みをつけ、iモードはポータルサイトとしても大きく成長しました。NTTドコモの携帯電話網がプロバイダー機能を果たし、iモード専用サイトやインターネット上のサイトにアクセスできるようになったからです。

iモード」の命名に当たっては、インターネット(internet)、インタラクティブ(interactive)、インフォメーション(information)の“i”の他に一人称の“I”が意識されていたそうです。モバイル・コミュニケーションとモバイル・コンピューティングの機能を取り込んだモバイル・インターネットの個人用モバイル・ツールとしてケータイを位置づけようとする意図を「iモード」の名の裏に明瞭に見て取ることができます。

仕組み

iモード用の通信ネットワークの主要構成要素は以下の通りになっています。

@パケットネットワーク

Aコンテンツの接続やユーザーを管理するiモード・サーバー

Biモード用情報提供者(プロバイダーなどのコンテンツ配信業者)

パケットネットワークでは、パケット転送能率を高め、かつ利用料金を低くおさえるため、iモード用に開発された通信プロトコルが用いられています。これは一般のインターネットで使用されている通信プロトコルTCP/IPよりも簡素化(処理量を軽く)したものです。

一方、iモード・サーバーと配信業者との間の接続はインターネットからの接続を考慮して、TCP/IPをベースに汎用的なプロトコルを使用しています。

ユーザーがiモードからインターネットヘアクセスすると、まず無線基地局まで無線電波で飛んでいき、ドコモのパケット網へ接続されます。パケット網の中ではパケット処理装置(PPM)と、プロトコル変換を行なう移動メッセージ用パケット関門装置(M-PGW)を経由してiモード・サーバーに到達し、そこからは専用線またはインターネット経由でiモード用情報提供者に接続されます

利用可能なサービス

iモード用端末(ケータイ)からワンタッチでインターネットに接続して、いろいろなサービスを利用することができます。eメール通信はもちろん、NTTドコモの審査をパスしてあらかじめiモードのメニューからワンタッチで選べるように登録されている「オフィシャル・コンテンツ(公式サイト)」でのオンラインサービスが受けられます。オフィシャル・コンテンツの内容は様々で、ニュース、バンキング、トラベル予約、チケット購入、グルメ/レシピ案内、電車の時刻表などテーマごとに整理されています(一部有料番組もあり)。また、オフィシャルなコンテンツ以外にも、ユーザー個人や企業などが作成するiモード対応コンテンツ(非オフィシャル・コンテンツ、別名、勝手コンテンツ)が無数にあり、端末にURLを入力するだけで直接ホームページにアクセスして閲覧することができます。

具体的な用途

i モ―ドには、@情報提供・検索、Aコンテンツの送受信、Bトランザクション、Cコミュニケーションの四つの用途があります。@情報提供・検索とは、ニュース配信、WWW 検索、鉄道路線のナビゲーション、レストラン・ホテル案内などといった内容のサービス、Aコンテンツの送受信とは、対戦型ゲームや静止/動画などのリアルタイムな送受信、Bトランザクションとは、オンライン・バンキングや電子決済、オンライン証券取引など、Cコミュニケーションとは、電子メールによる情報交換を、それぞれ指します。

利用料金

iモードは、9600bpsのパケット通信(ドコモのDoPa)を使用しており、通信料金は接続時間ではなくて、基本的には送受信したデータ(パケット)量による情報量課金システムになっています。携帯電話の使用料の他に以下のようなiモードを利用するための料金の支出が必要です

@   基本料金
iモードを使用するとしないにかかわらずかかる固定費用で、iモード付加機能使用料と9600bpsパケット通信(DoPa)の基本使用料がこの内訳になっています。
A   パケット通信料
サイトを見るために必要な料金で、送受信したデータ量に応じて1パケット(128バイト)当たり0.3円で課金されます。例えば、モバイルバンキングで残高照会した場合が約10円、メロディー1曲3円程度というのが目安になっています。
B   iモード情報料
有料サイトにアクセスした場合に支払いが必要になります。これは情報提供者(配信業者)に代わってNTTドコモが料金の回収代行をしています。

法人向けサービス

企業内のグループウェア(商品情報の検索、社内掲示板、在庫情報、販売報告などができる社内システム)に、外出先からiモード端末を使って入りこむことを可能にするサービスがあります。iモード端末にはすでにホームページ閲覧機能がありますので、Web化されたグループウェアであれば、iモードの導入は簡単です。この場合、グループウェア内のWebをiモード用のWebに書きかえる必要があります。つまり、一般のパソコン向けに作成されたものでは見えない部分も出てきたりしますので、iモードの小さな画面に対応させるための修正が必要なのです。

進化の方向

既に20012月にJavaプログラム言語対応のiモード端末(Javaアプレット)が登場して、Javaで作られたアプリケーション・プログラム(iアプリ)をネットワークからダウンロードすることによって、以下のような様々な情報が利用できるようになっています。

・iアプリ提供サイト
・取引系サイト ・・・ 株情報、外貨情報
・情報系サイト ・・・ 天気予報、ニュース
・データベース系サイト ・・・ 地図、乗り換え案内、地域情報
・エンターテインメント系サイト ・・・ ゲーム、カラオケ

さらに、IMT2000(後述)対応の高速版iモード機能の提供、iアプリケーションを利用した音楽・映像通信、GPS(後述)と連携した位置情報サービス、リアルタイムグラフ表示などのビジネス利用などが続々と開発されるにつれて、ケータイのマルチメディア・モバイル端末としての機能が一層多彩化し高度化してきました。

<こぼれ話>
Javaとその“方言”

上記の「iアプリ」の説明について、昨年(2003)の受講生の菊池さんから「docomo以外(ボーダフォン,au)のJavadocomoで使用されているものとは違うのでしょうか?ボーダフォンとauは着メロのファイルが同じものなので気になりました。もし違うとしたら何か意図があってしたことなのでしょうか」というご質問がありました。

当課「1−2.シン・クライアント(Thin Client) vs Java搭載パソコン」でも述べている通り、「どんなOSでも、どんなハードウェアでも利用できて、信頼性、操作性、移植性に優れた比較的小さなプログラムを作ることができるJavaこそ“ネットワーク時代の新言語”」と理解していますので、当然Javaは、どんなOSでも、どんなハードウェアでも利用できるプログラム言語ですから“違うJava”というのはありえません」という回答を準備しました。しかし、ご質問の中の“着メロ”の件が気になりましたので、念のため東芝の後輩で技術に詳しい矢口さんに問い合わせてみると、次のような応答がありました。

「佐々木さんの言う通り、Javaは基本的にネットワークでアプリケーションを配信することを主眼とした、@どんなマシンの上でも走る(ポータビリティ)、Aネットワーク上で改竄されない(セキュリティ)言語なので、どこでも一緒のはずですが、実際は、開発環境などで少しずつ違いがあるみたいです。実は、Java最初の開発元SUNとMicrosoftはこのあたりでずっと喧嘩していて、MicroSoftWindowsの普及にかこつけて中に含まれているJava Virtual Machine(ハードウエア、OSを隠蔽してJavaが走る仮想のマシンにするソフトウエア)に微妙にMicroSoftの“方言”を混ぜ込んで覇権をとろうとしていました。」

更に、この“方言”が絡んで、どうもdocomoiモード)VS AU,Vodafoneという構図ができあがっているらしいということが分かりました。そこで、ホームページから関連の記事を検索しましたので以下にご紹介します。着メロの1件もここに根がありそうです。

Java搭載携帯、NTTドコモへの包囲網が進む

KDDI412日、今夏に出荷を予定しているJava搭載携帯電話の仕様を発表した。Java対応携帯電話のサービスに参入するのは、NTTドコモ、J-フォン、KDDI3社。すでにドコモ、J-フォンは仕様を発表しており、KDDIの動向が注目されていた。NTTドコモのiモードJavaが独自仕様であるのに対し、KDDIはサンが携帯端末向けの標準的なプロファイルとして策定したMIDPMobile Information DeviceProfile)ベースの仕様を採用する。携帯Javaの仕様に関してはJ-フォンもMIDPを採用しており、NTTドコモ以外の主要キャリアは揃ってMIDPを採用し、NTTドコモの独自仕様に真っ向から対立するかたちになる。二つの仕様間に互換性はない。これでコンテンツ・プロバイダはキャリアごとの仕様に対応したJavaプログラムを書く必要に迫られることになり、Write Once, Run AnywhereJavaのメリットはますます生かせそうになくなってきた。

日本における携帯電話の加入台数は3月末の統計で6000万台に達した。トップのNTTドコモは過半数以上の3600万台を占める。ドコモは1月に他社に先駆けiアプリを発表した。iモードで築いた成功を背景に同社の“一人勝ち”は続くかに見えたが、対抗する2社は、新サービス開始を機に巻き返しを図ろうと必死だ。効果的なマーケティングや魅力的なサービスの提供次第では逆転も不可能ではない。

日本の携帯電話動向に対する海外からの関心は高い。3社が競って質の高いアプリケーションとサービスを提供することにより、“ケータイ先進国日本”を実証したいところだ。J-フォン、KDDIの両者から新サービス対応端末が発売されるのは今年の67月以降となっている。
2001/4/13 NEC News Insight

WAPとの相違

NTTドコモの「iモード」サービスに対抗する形で、KDDIはWAP(Wireless Application Protocol)方式を使った「EZアクセス」「EZweb」サービスを19994月から開始し、また、Jフォングループは199912月から「Jスカイウェブ」サービスを始めました。

サービス内容はほぼ同じで、時代のキーワード「携帯電話+インターネット」を、インターネット上のWebコンテンツを携帯電話に搭載した簡易ブラウザーで見られるようにすることによって実現しようとするものでした。各社とも、携帯電話を小さなインターネット端末にしようとする目的は一致していたのです。

NTTドコモの「iモード」は、インターネットのホームページ記述言語HTMLをベースに、より簡略化した記述言語「C−HTML(Compact HTML)」を使用しています。

一方、WAPは業界団体「WAPフォーラム」が中心となって定めたプロトコルで、iモードが既存インターネットとの親和性を重視したのに対して、「携帯電話でいかに効率よくインターネットにアクセスするか」を主眼にして開発された新しいコンテンツ記述言語やプロトコルであると言えます。

セキュリティ

「iモードの具体的用途」の項で、ケータイ/インターネットの用途の中に、「コンテンツの送受信」と「トランザクション」があるということを述べました。この二つの用途を容易に行うことができるということがケータイ/インターネットの大きなメリットであり、これが電子商取引のプラットフォームとして注目を集めている理由になっています。しかし、ケータイからコンテンツの送受信とトランザクションを行う上では、銀行の口座番号やカード番号などといった決済情報を、インターネットという不特定多数の人間がアクセス可能である空間を使用して交信しなくてはなりません。

また、商品情報や顧客情報が集積されたコンテンツ・プロバイダーのデータベースに移動体通信ネットワークを経由して不正または不当な侵入の機会が増加するのではないかという不安も出てきます。このようなセキュリティの面で不安が出てくるという問題点においては、通常の電子商取引と同様なのですが、このような不安に対して、iモード、WAPともに専用ゲートウェイとコンテンツ・プロバイダー側のサーバー間でSSL(
Secure Socket Layer )を使用可能とすることでセキュリティの確保を図っています。すなわち、コンテンツ・プロバイダー側でSSLサーバーを用意すれば、利用者は携帯電話で「https://」とURLを指定するだけでデータが暗号化され、一定のセキュリティは確保されることとなります。

さらに、携帯電話とゲートウェイの間は、携帯電話網のスクランブル機能で、データが暗号化されています。また、コ ンテンツ・プロバイダーのデータベースへの接続においても、セキュリティ確保が図られています。まず、コンテンツ・プロバイダーのデータベースとケータイ型サービス提供者のゲートウェイとの間を結ぶにあたってインターネットを経由せず、専用線で結ぶことによって、コンテンツ・プロバイダーのデータベースをインターネット経由の不特定多数の人間による侵入から守っています。また、携帯電話機の発信者IDをコンテンツ・プロバイダーに通知する形での個人認証の方法をとらずに、コンテンツ・プロバイダーがユーザーに独自のIDとパスワードを割当て管理する方法をとることで、携帯電話機を他人が悪用することを防いでいます。

2-3-2 第三世代携帯電話

第一世代であるアナログ携帯の時代から、第二世代のデジタル携帯電話の時代になって電話の世界が大きく様変わりしました。「アナログからデジタルになって大きな変化を受けたのは電話である」と言われますが、これはデジタル化によって携帯電話の電波の帯域が非常に有効に使えるようになったことと大きなかかわりがあります。まず、第一に20003月に携帯電話ユーザー数が加入電話数を上回ったことです。このデジタル化による有線・無線の逆転現象は、「電話は線で繋いで話すもの」から「電話は携帯で話すもの」という考え方がむしろ主流になってきたことを示しています。しかし、何よりもデジタル携帯電話によって、携帯「電話」が多機能端末化して「ケータイ」の世界が開けたことを特筆すべきでしょう。

そして、この動きが、高速・大容量のデータ伝送が可能な第三世代携帯電話が実現するに及んで加速し、「ケータイ・ワールド」が更に大きな展開期を迎えようとしているのです。モバイルツール「ケータイ」とインターネットとを高速接続することによって、以下のような第三世代携帯電話ならではの機能が享受できるようになったからです。


◆高速通信でマルチメディア
動画ストリーミング
動画配信
テレビ電話
音楽配信
◆Javaの強化
ゲームとカラオケ
機能をカスタマイズできる
家電などのコントロ一ル
電子ウォレットを搭載
◆マルチコール
音声とデータの通信が同時に行える
◆世界中どこでも使える
◆パソコンと無線でつないで高速通信
◆SIMカード方式(Subscriber Identity Module Card)
電話機に差し込んで、電話番号などを登録するIC力一ド。これによって、一つの番号で端末を使い分けることも可能になる
SIMカードが日本で普及が遅れた理由
2003年度受講生の真理谷さんから、「会社(通信事業者)には全く関係なく、カードさえあれば、友達の携帯でも店頭で見かけた携帯の新機種でも、すぐに使えるSIMカードがアジアでは普及しているのに日本への導入が遅れたのは何故でしょうか」というご質問がありました。これに対しては、次のようにお答えしていますのでご参考に供します。

日本の第二世代携帯電話サービスはPDC(Personal Digital Cellular)方式を使ってきましたが、欧州ではGSM(Global System for Mobile Communications)方式を規格化しています。このGMS方式のキーポイントとなっているのがSIMカード(Subscriber Identity Module Card:加入者認証カード)で、これ使えば携帯電話端末と事業者を分離することができます。つまり、PDC方式下の日本では、携帯電話端末そのものに加入権情報(電話番号)を登録しサービスを利用していますが、この場合、機種変更となれば、端末から端末へ、電話番号の書き換え作業が必要になります。

しかし、GSM方式では、加入権情報(電話番号)は「SIMカード」と呼ばれるICカードに書き込まれ、ユーザーに渡されますから、ユーザーは好みの携帯電話を購入し、このICカードを挿入することによって携帯電話サービスを利用できるようになります。従って、違う端末を利用したければ、SIMカードを自分で差し替えるだけで、同じ電話番号のまま別の端末を利用できますし、別の通信事業者のSIMカードを持っていれば、1台の端末で複数の通信事業者を使い分けることも可能になるわけです。GSM方式は、欧州のみにとどまらず、アジア、中東、アフリカ、ひいては米国にまで広がりましたので、これに伴ってSIMカードの利用範囲も広まってきたのです。

以下に第三世代携帯電話を実現させた諸要因について考察します。

「IMT2000」

Auの一部の機種では、国内で使用している携帯電話を海外に持っていってもそのまま使用できるサービスを実施していましたが、国ごとに異なる方式と端末が使用されていますので、大半の携帯電話は海外では使えず、必要な場合は渡航先の事業者の方式にあった携帯電話を借用しなければならないのが現状です。

こんな不便を解消するため、国際連合の標準機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)を中心として、日本では電信電話技術委員会(TTC)や電波産業界(ARIB)が、世界各国の提案を受けながら調整し、世界中どこへ行っても使える「IMT2000(International Mobile Telecommunications 2000)」といわれる携帯電話方式の標準化が行われました。「国際ローミング」と言って、世界中どこでも同じ携帯電話で、音声や文字、動画など各種モバイル・マルチメディア・サービスが利用できるようになったのです。

高音質化プラス高速伝送化

IMT2000では、新たに「レイク受信」という、ビルや山間部に当たって遅れて届く「反射波」を束ねて取り込む技術が採用されています(cdmaOneでもすでに実施済み)。複数の方向から到達する携帯電話用電波を合成して使用できるので、通話が途切れにくくなるばかりか、音質もよくなります。また、端末が移動するときの無線チャネルの切り替えもハード的にスイッチを切り変えることなくソフト的に処理(ソフトハンドオーバー)できるようになりましたので、従来のデジタル携帯電話で経験したような雑音がなくなりました。

データ通信速度も飛躍的に高速化しました。従来のデジタル式(第二世代)携帯電話では、回線交換で9600bps、パケット交換では28.8Kbps程度でしたが、IMT2000では最高2Mbps(移動中は384Kbps)のデータ通信が可能になりました。したがって、携帯テレビ電話、動画付電子メール、高速情報配信サービスなど、色々なサービスが利用できるようになったのです。

無線方式の特徴

無線周波数は2 GHz帯を使用しています。携帯電話から無線基地局までの無線方式はCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式を使います。これは無線電波を有効に利用する技術の一つで電波に通話データを乗せる方式の一つなのですが、NTTドコモが使用しているのはW−CDMA(ワイドバンドCDMA)方式です。

高速データ通信を行なうためには帯域幅を広くする必要があることから、すべての端末が5 MHzの帯域幅を使えるようにすることによって高速データ通信が可能になったのです。

(1)無線電波の利用方法

無線電波は、携帯電話用・PHS用などの用途別、または通信事業者別に、一定の幅の周波数を重ならないように割り振って使用しています。有限の周波数を無駄なく有効に使う必要があり、与えられた周波数帯をできるだけ多くのユーザーが同時に使える工夫をしているのです。そのような無線電波の利用方法としてFDMA方式、TDMA方式とCDMA方式の3種類があります。

FDMA(Frequency Division Multiple Access:周波数分割多元接続)方式はアナログ携帯電話で使っていた方式です。この方式では、与えられた周波数帯を細かく分割し、各ユーザーにそのうちの一つを割り当てます。そのため1人あたりの電波の幅が狭くなり低速データしか送れず、また混信や雑音が発生しやすいなどという問題がありました。

TDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)方式は、デジタル携帯電話やPHSで使っている方式(日本ではPDC方式*)です。与えられた周波数帯を分割する点はFDMAと同じですが、TDMAの場合は、さらに時間でも区切って、その区間に一定間隔でデータを乗せて送ります。周波数の他に、時間でも区切って使いますので、FDMA方式よりも電波を有効に活用することができます。データの送受信の際には、送信側と受信側で同じタイミングで行ないます。受信側では受信したデータをつなぎ合わせてデータを再現します。いわば、時間ごとに区切られた箱の中にデータを入れて送受信するようなものですが、箱の大きさや送信時間間隔に限りがあるため動画のような大きなデータを送信することはできません。

* 「PDC」は”Personal Digital Cellular”の略称で、日本の携帯電話に使用されているデジタル無線通信方式の一つです。KDDIグループがcdmaOne方式によるサービスを開始するまでは、国内のデジタル携帯電話の全てがこのPDC方式を採用していました。cdmaOneは米国のデジタル式携帯電話の方式であり、cdma2000はその高速版で、アメリカがIMT2000仕様として提案し標準化仕様の一つとして認められたものです。
 CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式はIMT2000や
 cdmaOneに採用されている無線方式です。この方式では、FDMAのように周波数を区分 して使いません。与えられた周波数帯域全部を複数の携帯電話ユーザーが共有します。言い換え れば、全てのユーザーが同一周波数を使うのです。各ユーザーの通話の区別の仕方にCDMAの 秘密があるのです。

(2)CDMAで「移動体版マルチメディア」が可能に

CDMAの仕組みは、ピアノが奏でる音楽と楽譜の関係に似ています。事実、CDMAの考案者はピアノの鍵盤から発想したと言われています。作曲家が「ドレミファ・・・」の符号で楽譜を書いておくと、その音楽を聞いたことがない人でも楽譜通りに弾けば音楽が再生できます。

CDMAでは楽譜の代わりに「拡散符号」という符号を使います。送信する個々のデータを押しつぶして拡げ(拡散し)、押しつぶされた個々のデータに、どのデータであるかを区別するための拡散符号を付けて送ります。受信する側では拡散符号をもとにして、押しつぶす前の元のデータに戻します。送信前にデータを押しつぶすのは、押しつぶすことによって大量のデータが一緒に送れるからなのです。

大型トラックに荷物を積む場合、各荷物を可能な限り押しつぶして、積み上げた方が多くの荷物が積めるのとよく似ています。このCDMAでは、限られた電波を使って低速データも高速データも同時に乗せて送ることができます。つまり、音声のような小さなデータから動画のような大きなデータまで一緒に送ることができるのです。CDMA方式を使うと移動体版マルチメディア通信が可能になると言われるゆえんはここにあるのです。

(3) W−CDMA

CDMAでは同一周波数を使うので、複雑な周波数管理が不要で周波数の利用効率がよく、混信や妨害電波などの干渉に対する耐性があり通話品質も向上します。またユーザーごとに異なる拡散符号を割り当てるため秘話性にも優れています。IMT2000の無線インターフェースとしてCDMAが採用されたのにはこのような利点もあったからなのです。

この方式を細かく区分するとさらに二つの種類があります。一つはW−CDMA(直接拡散CDMA=DS−CDMA:Direct Sequence- Code Division Multiple Access)で、もう一つはCDMA2000(MC−CDMA)です。NTTドコモ、ボーダフォンや欧州のエリクソン、ノキアなどがW−CDMA方式を、KDDIや米国のクアルコムやルーセントテクノロジーがcdma2000方式をそれぞれ採用していますので、前者を「日欧方式」後者を「北米方式」と呼ぶこともあります。

NTTドコモは、このW−CDMA方式を使って、世界初の第三世代携帯電話サービス「FOMA」の提供を開始していますが、この方式の特徴は広帯域の周波数(ワイドバンド)を利用することによって次のような利点が得られるところにあります。

@    高効率・高品質の通信を提供

A    移動時にも切れにくい(「レイク受信システム」を採用しているため)

B    高速なデータ通信が可能(2 MHz

これまでの携帯電話の数百倍の幅広い周波数帯(5 MHz)をすべての端末が共有して通信することができるようにすることによって伝送効率を向上させるとともに、広帯域周波数を使用することによってレイク受信の機能が向上し、従来のCDMAに比較して高品質な通話とデータ通信ができるようになっているのです。

第三世代携帯電話の普及状況

第三世代携帯電話の出現によって国内携帯電話市場の焦点が第二世代から第三世代に移行し、2004/8時点で約25%の第三世代比率が1-2年後には50%を超す見通しが立てられました。第三世代携帯電話機は機能が高い分だけソフトウェア開発費が嵩み、1機種あたり100億円で第二世代の2-2.5倍かかるとも言われています。そのため、無駄な二重投資を避けるため、早々に第二世代携帯電話機の新規開発を打ち切るメーカーも現れ、第三世代を主戦場とする争いが激化がしました。契約者数が飽和点に近づく中で、第三世代への買い替え需要が端末メーカーにとって最大のチャンスともなったからです。

実際に、普及状況および通信事業者間の競争は以下の報道のように推移してきています。

第三世代携帯2割に 昨年度「au」純増トップ

携帯電話の利用者のうち20.5%が第三世代サービスを使っていることが電気通信事業者協会のまとめで明らかになった。7日に発表した2003年度の携帯電話の契約統計によると、第三世代サービスを積極展開するKDDIの「au」が新規契約数から解約数を差し引いた純増数で首位に立った。業界全体の契約件数の伸びは前年度比7.7%増と1ケタ台にとどまったが、各社はテレビ電話などまで楽しめる高速大容量の第三世代サービスで収入増を狙う。

auは第三世代の通信方式である「CDMA2000 1x」でサービスを20024月に開始以来これに集中してきた。2年で13,509,200件と、同社の契約全体の79.6%を占めるようになった。着信音にCDの楽曲が使える「着うた」などの関連サービスを提供して人気を集めた。歩行者向けのナビゲーション機能付きの機種や外部デザイナーを起用した機種も好評だった。

年間の純増数で初の2位に転落したNTTドコモは第三世代の立ち上がりの遅れが響いた。200110月に世界に先駆けて始めたが、第二世代と互換性のない通信方式「W-CDMA」を採用したため、利用エリアの狭さが敬遠された。端末も従来機種に比べて大きいうえ電池の持ちも悪く、足を引っ張った。

ただ、ドコモは今年2月以降、順次発売を始めた新機種「900i」シリーズで営業活動の主軸を第三世代に移す。3月末までに第三世代の利用エリアを全国の99%まで拡大。端末も小型軽量化を進め、機能も第二世代以上に引き上げた。3月だけで第三世代の契約は723,800件増えた。「2006年中には第三世代の比率が第二世代を上回る」とみている。

第三世代のサービスの契約が増え、ネット利用の高度化が進めば、料金収入の増加につながる可能性もある。携帯電話の普及一巡で大幅な契約件数の増加が望めないなか、第三世代が各社の主戦場になってきた。
(2004/4/8  日本経済新聞)
ドコモ、06年度に「FOMA」6倍に――普及へ低価格機

NTTドコモの中村維夫社長は22日、2006年度中に第三世代携帯電話「FOMA」の普及台数を現在の約6倍の2500万台に伸ばす計画を明らかにした。第三世代への移行を加速するため、低価格機種を発売するほか、映像サービスの料金を値下げする考えも示した。

今年5月末時点のドコモの携帯電話契約数は4,624万件で、このうち「FOMA」は401万件にとどまっている。中村社長は「06年度には全体の契約数を5,000万までに伸ばし、その半分をFOMAが占めるようにする」と述べ、FOMAの普及に力を入れる考えを強調した。

2004/6/23 日本経済新聞)
第3世代が7割

電子情報技術産業協会が9日発表した6月の携帯電話の国内出荷台数は417万6千台となり、前年同月と比べて4.1%増えた。携帯電話各杜から夏商戦向けの新商品が相次いで発表され、今年2月以来4ヶ月ぶりに前年同月の実績を上回った。
携帯電話の世代別では、第三世代携帯電話が前年同月比42.5%増の300万3台。NTTドコモやKDDI(au)などが第三世代携帯の新モデルを投入、利用者の買い替えが進んだ。出荷台数に占める第三世代の割合は3月に7割を超えた後、4−5月は6割台に低下、6月は約72%と再び7割を回復した。一方、第二世代携帯は同38.5%減だった。
(2005/8/10日本経済新聞)

第三世代携帯電話機市場には第二世代を遥かに上回る厳しい競争が起こることが予測されています。例えば、NTTドコモは、第三世代携帯「FOMA」の“廉価版”を発売して世代交代を更に加速する構えでいますが、その販売単価は第二世代とほぼ同等になる見通しですし、世界最大手のノキアが開発・製造に当たることになっています。第二世代では日本独自の「PDC方式」が採られていたため海外メーカーの参入が至難でしたから国内端末市場は国内メーカーが独占してきたのですが、第三世代で日本が国際標準方式を採用するに至って海外メーカーに対して門戸が開かれたのです。今後、このような海外メーカーと並んで国内の新規メーカーにも参入の機会を与えることによって、競争が促進され端末価格の引き下げが推進されていくものと見られています。

また、200610月には、携帯電話会社を切り替えても同じ電話番号が使える「番号継続(ナンバーポータビリティ)制度」が導入されるとともに、ソフトバンクが、買収したボーダフォンの社名を「ソフトバンクモバイル」に変えて携帯サービス事業に乗り出してきましたので、第三世代を主戦場とする携帯サービス会社間の競争が更に促進されることになります。“第三世代大競争”によって、通信サービスと端末製造の業界構造が大きく変わっていく可能性がありますので、今後の動向には継続的に注目していく必要があります。

番号継続制度

携帯電話会社を変更しても同じ電話番号が使える制度でナンバーポータビリティ制度とも呼ばれます。従来は携帯電話会杜を変更すると電話番号も変わるため、友人や取引先などに新しい番号を知らせる手間がかかったので、その手間を嫌い、現在の携帯電話会社に不満があっても変更しないままの利用者が多々いたものと考えられます。

しかし、2006/10/24の番号継続制度開始により、こうした不便はなくなり、利用者はより魅力的なサービスや料金を提供する携帯会杜に移りやすくなりました。制度を利用して他の携帯会社に移ることを考えている人は全体の約1割に当たる1千万人とも言われており、巨大な「浮動層」を取り込もうとする動きがサービスや端末性能の進化を加速しています。

しかし、電話機、メールアドレスの他に、ダウンロードしたコンテンツや長期契約割引などの長期利用者に対する優遇サービスも引き継ぐことができません。また、利用希望者は現在の携帯電話会社に手数料2,500円を支払って申請し予約番号をもらい、その後で、予約番号を持って転入先の携帯会社の店頭で手続を完了する仕組みになっています。転入時に特別な手数料は不要ですが、別途3,000円前後の新規契約手数料がかかります。「番号継続制度開始により携帯電話会社の競争は新しい次元に入る」と見られていましたが、こうした制約条件もあって当面は模様見の利用者が大半で一挙的なシェア変動が起こるには至っていないようです。
2-3-3. ケータイ・ワールドの広がり

ケータイの多機能化が進展し、「通話はもはや付加機能」(2003/12/6読売新聞)と言われるほどになりました。「話す」と「聞く」ための電話機能しかもっていなかったところに「書く」と「読む」ためのメール機能が加わったのがケータイ・ワールドの拡大の発端でしたが、「撮る」ためのカメラ機能を備えたカメラ付きケータイの登場により大きなインパクトがもたらされました。更に、同じ「聞く」「見る」にしても音楽・映像などの大容量データを受信する機能が加わった上に、代金決済機能を持つ「お財布ケータイ」まで実現しましたので、今後一層ケータイ・ワールドの拡大が進展することが予測されます。以下に、時代の寵児となったケータイの進化の跡を辿り考察を加えることにします。

(1)カメラ機能

カメラが単機能で目的を持って撮りに行くためのものであるのに対して、カメラ付きケータイは多機能ゆえ携帯する機会が多いので、旅行先や散策の途中で偶然に出会った光景や発見、食べ物などを画像として保存しておくことができます。また、デジタルカメラがパソコンと連動しなければ機能を発揮しきれないのに対して、カメラ付きケータイではメールに添付した画像を送受信することもできますし、写したときの心境をメールのように打ち込んでインターネット日記として公開することもできます。このような便利さと応用範囲の広さが受け容れられて、現在ではカメラ付きが携帯電話の主流を占めてきていますが、最近ではカメラとしての本来の性能も向上し、NTTドコモが2004/7/10発売した電子マネー機能搭載の携帯電話「ムーバP506iC」も、有効画素数195万のカメラを搭載し、最大20倍までのデジタルズームが可能でストロボも備えられています。更に、韓国サムスン電子は、日本のカメラメーカー・ペンタックスと共同で、500万画素のデジタルカメラを内蔵した携帯電話機を開発し商用化させています。

(2)コード読み取り機能

右上図のような白黒のモザイク模様の四角形を、街角や印刷物などでよく見かけるようになりました。「二次元コード」と呼ばれ、白と黒の点や線を縦横に組み合わせた模様のなかにデータなどの情報を表現した一種の記号で、1994年にデンソー(愛知)が部品の受発注用に開発した「QRコード」が最も普及しています。水平と垂直方向、つまり二次元方向に情報を持っていますから、右下図のような黒い縦線が並んで水平方向にのみ情報を持つ従来の一次元コード(バーコード)に比べ、数十〜数百倍の情報を盛り込むことができます。
この二次元コードを読み取る機能のある携帯電話を使うと、ホームページなどに簡単に接続することができます。ケータイのカメラ機能から派生して実現した機能で、まだ目新しいものですが、利用できるサービスの種類は、下掲の報道事例のように、徐々に増えてきています。

携帯で接写、HPに簡単接続

東京のオフィス街、大手町と丸の内地域を無料で巡回するバス「丸の内シャトル」。乗降場の案内板には2次元コードの一種、QRコードが張り付けられている。これを使うと、今どこにいるか等バスの運行状況がたちどころにわかる。2.5センチ四方のコードには、バス運行システムのホームページアドレスが記録されている。コード読み取り機能のあるカメラ付き携帯電話で接写すると、そのアドレスが表示される。そこに接続すれば、バスの現在位置や待ち時間を確認できる。携帯電話に直接アドレスを打ち込むよりも簡単で、打ち間違いもない。「バスのダイヤが乱れ、使いづらいという声が、昨年8月の運行開始直後から出ていました」と、日の丸自動車興業(東京)事業開発部の海老名信人さんは話す。昨秋にコードを付けたところ、苦情は減ったという。同社では、台場地区や日本橋・銀座地区の無料バスにも、このシステムを採用している。

出版社の昭文社(同)は、6月に刊行した「ホテルガイド」にQRコードを付けた。ホテルの予約申し込みをしたり、ホテル周辺のレストランや観光情報が入手できる。同社広報は、「その時点でホテルが開催しているイベントなど、出版物では得られない最新情報が取り出せるのが魅力です」と話す。

東京三菱銀行(同)は、8月上旬から、QRコードを使った料金支払いサービスを始める。通信販売などの請求書に、商品の代金や振込先など支払いのための情報を入力したコードを印刷しておく。利用者が携帯電話で読み込み、そこから同銀行のホームページにつないで、直接、口座から料金を引き落とすこともできる。「銀行窓口やコンビニエンスストアに行って料金を支払う手間が省け、利用者に便利になるはず」と、同銀行広報は話す。

ホームページなどに接続する際にはパケット通信料がかかるが、今のところ情報提供料そのものは無料にしているケースがほとんどだ。

まだ誰もが利用できるサービスではないが、コードを読み取れる機能のついた携帯電話は増えてきている。他社に先駆けて2年前から対応できる機種を発売しているボーダフォン(同)は、最新機種の4割がこの機能付き。昨年から対応機種を出しているNTTドコモ(同)も、「今後は主力機種にこの機能を付けていきたい」と話している。

 (2004/7/23 読売新聞)

伊藤ハム 携帯サイトでレシピ
商品に2次元コード

伊藤ハムは11日、主要商品のパッケージに2次元コード「QRコード」を印刷すると発表した。カメラ付き携帯電話でコードを読み取るとインターネットで同社の携帯電話サイトに接続でき、商品を使ったレシピなどが閲覧できる。10月からサービスを始める。食品メーカーとしては初の試みといい、顧客との関係を深めるマーケティングツールとして活用していく。

接続する携帯サイトには商品別のページを用意する。合計で100種類以上のレシピを掲載するほか、動画を使った商品紹介なども見られるようにする。顧客は会員登録すれば自分で考えたレシピの投稿や、掲示板への書き込みもできる。レシピを投稿した会員には同社の通販サイトで使える買い物ポイントを与える。
(2004/8/12 日本経済新聞)

(3)音楽・映像受信機能

元来が音声信号による交信に用いられた携帯電話でしたが、高速大容量なデータの送受信が実現されるのに伴って、同じ音声でもラジオ放送や音楽受信ができるようになりケータイワールドが一段と広がってきました。2003年にKDDIがラジオ受信機能を発売したことを受けて、携帯電話でラジオを聞くユーザーが増えてきました。さらに、楽曲の一部を着信音にできる「着メロ」の延長線上に音楽をまるごと配信するサービスの提供や、これに対応する携帯電話の供給が開始されています。

着うた」iPodに対抗
1曲まるごと配信

KDDIは13日、携帯電話に音楽をまるごとダウンロードできる音楽配信サービスを11月下旬に始めると発表した。価格は1曲300円前後で、当初の提供曲数は約1万曲。携帯電話事業者が音楽配信サービスを手がけるのは初めて。アップルコンピュータの「iPod」などパソコン経由で楽曲を取り込む携帯型音楽プレーヤーの強力なライバルとなりそうだ。

新サービスはEZ「着うたフル」。楽曲の一部を着信音にできる「着メロ」の仕組みを利用し、1曲30-40秒でダウンロードできる。端末本体には約28曲、外部メモリーを利用すれば80曲程度を保存できる。楽曲の一部を着信音にすることも可能。メモリーカードは著作権保護機能付きで、違う電話番号の端末では再生できない。

(2004/10/14  日本経済新聞)
音楽配信サービス「着うたフル」のダウンロード数約6,000万件(3社累計)

米アップルコンピュータが切り開いた音楽配信はもともとパソコンで始まった。しかし、日本では寧ろ携帯電話でのダウンロードが先行した。日本のケータイ文化は元祖までのみ込んで独特の発展を遂げつつある。更に、パソコンと携帯電話の間で自由に音楽のやり取りができるようになり、パソコンか携帯かという議論も意味がなくなってきている。

音楽配信ではau(KDDI)の後塵を拝したNTTドコモだが、実は同じサービスを2001年にPHS向けで始めた先駆者であった。宣伝に人気歌手の宇多田ヒカルを起用して華々しくスタートしたが、当時の通信能力ではダウンロードに1曲約10分もかかり、利用者にそっぽを向かれてしまった。
2006/7/5,7,8 日本経済新聞)

一方、ケータイカメラによる静止画の延長線上に、携帯電話によるテレビ電話などによる動画の送受信が行われるようになり、更にケータイによるテレビ放送受信が本格化しようとしています。20064月には、世界に先駆けてケータイ向け地上デジタル放送「ワンセグ」サービスが始まりました。地上デジタル放送の1つのチャンネルは13のセグメントと呼ばれる区画に分けられていて、その中央の1セグメント用いるところから「ワンセグ」と呼ばれるものですが、ワンセグに限らず、地上デジタル放送では番組に字幕を表示することができますので、電車や公共の場において、音声を出力することなく、もちろん、ヘッドホンもしないで番組を楽しむことができますこうした「放送と通信の融合」によって、更にケータイワールドは大きく広がるものと考えられます。

スカパー、ドコモの携帯向けに番組配信

スカイパーフェクトコミュニケーションズは11日、2005年度内をメドに、NTTドコモの第三世代携帯電話「FOMA」向けに、映像などのコンテンツ(情報の内容)配信サービスを始めると発表した。「スカイパーフェクTV!」で提供している野球やニュース番組などを視聴できるようにする。

実用化に向け、615日から11月末まで一般モニターを使った共同実験を進める。実験にはジェイ・スポーツ・ブロ一ドキャスティング(東京・江東〉やブルームバーグ・エル・ピー(東京・千代田)など17事業者が参加する。一部の番組はCS(通信衛星)放送と同時に受信することが可能。選手プロフィールなど番組関連情報の提供も実施していく。

スカイパーフェクト・コミュニケーションズはNTTドコモに続き、KDDIの「au」向けにも配信サービスを広げる計画だ。

(2004/1/5  日本経済新聞)
地上デジタル放送(ワンセグ) 対応5機種を発売中

20064月から順次始まったワンセグは既に全国で浸透。全5機種の累計販売台数は推計70万台に達した。ワンセグ自体の視聴は無料で、テレビ映像に加え文字や暗号などの情報をデータ放送で送れるのがワンセグの特徴。データ放送の画面からボタン操作で通信サイトに移り、交通情報の表示を得ることなども可能。但し、ボタン一つですぐに映るが、通信機能ではそれほど簡単ではなく、この場合でも画面表示までに30秒弱かかる。たかが30秒だがされど30秒で、屋外を歩き回る携帯利用者は待ち時間を嫌う。ワンセグ人気が単に「時間つぶしにテレビでも」という需要に終わるのか、音楽放送や電子マネーと並んで日本のケータイ文化に新たな彩りを添えるのかどうかは「イライラの壁」をどう乗り越えるかにもかかっている。
2006/7/5,7,8 日本経済新聞)

(4)位置確認機能

GPS(後述)対応型の携帯電話端末を持てば、自分の現在位置を確認することができますし、他人にそれを知らせることもできます。ですから、ビジネス環境でも、例えば、外出の機会が多い営業社員に持たせれば、パソコンや携帯電話の画面上から営業担当者の位置を確認することができ、この位置情報を活用することによって、より効率的な営業が可能になります。「平成16年度情報通信白書」でも、GPS携帯を企業のユビキタスネットワークを構成するコンポーネントとみて、以下のような図を紹介しています。

(5)電子財布機能

携帯電話を財布代わりに使って買い物をしたりすること(いわゆる携帯電話の決済端末化)さえ可能になっています。ビジネスの四流(商流、金流、物流、情流)のうちの情流のツールでしかなかった携帯電話が、商流や金流のツールとしての機能まで獲得したことによって、ビジネスの領域にケータイ・ワールドが大きく広がってきたのです。

「お財布ケータイ」として初めて登場したのは、
NTTドコモが2004/7に発売したICカード搭載型の携帯電話「iモードフェリカ」でした。これと同時に開始されたiモードフェリカサービス」によって携帯電話で決済することができるようになったのです。当面提携しているのは、エーエム・ピーエム・ジャパンや日本コカ・コーラなど39社だけでしたが、携帯電話が財布代わりになり携帯電話をかざすだけでコンビニエンスストアや自動販売機での支払いができるようになることによって電子マネーの普及に普及に弾みがつき注目度を高めてきています。例えばエーエム・ピーエムでは、買い物をする時にカード読み取り装置を内蔵したレジに携帯電話をかざすだけで支払いが完了します。支払いに使う電子マネーは、クレジットカード会杜などを通じて購入し、あらかじめ携帯電話に蓄えておくことができ、一連の操作は携帯電話からインターネット経由で済ませられます。

iモードフェリカ」は、非接触ICカード「フェリカ」を半導体チップ化して第三世代携帯電話「FOMA(フォーマ)」に搭載したもので、当面発売されたのは4機種でしたが、NTTドコモでは搭載機種を順次広げ、将来は標準装備する計画をもっています。非接触ICカードそのものは、既に、東日本旅客鉄道(JR東日本)が乗車券「スイカ」として活用しているほか、コンビニエンスストア「am/pm」などの店舗の料金決済にも利用されていて「スイカ」を支払いに利用できる店も増えつつあります。この非接触ICカードを内蔵し携帯電話と一体化することにより、大量のデータを記録することのできるICカードの機能と、ネットから入金したり残高などを液晶画面に表示したり携帯本来の通信機能が融合したわけです。これによって利便性が一段と高まったことが、買い替え需要が主流となっている携帯電話機市場におけるシェア維持・拡大の決め手になるものとNTTドコモでは見ています。

iモードフェリカサービス」の実用例は右図の通りです。非接触型ICカード技術を用いた電子マネー「エディ」による決済以外にも、購買履歴や残高などの大容量のデータを保存したり画面に表示したりできるうえに、かざすだけでデータの送受信ができるという特徴をもったiモードフェリカ」が多種多彩な用途に展開する可能性が示唆されています。

なお、図中の「モバイルエリオ(Mobile-eLIO)はソニーファイナンスの電子決済「エリオ(eLIO)」のモバイル版で、ここにも内蔵カメラによるQRコード認識機能が用いられており、いつでもどこでも、簡単、安全、スピーディーに即時決済を実現するのに役立てられています。


NTTドコモは、電子マネーを記録したカード内蔵携帯を財布代わりにして買い物ができる商業施設の範囲を拡大したり、クレジットカード会社とも提携し、インターネット経由で携帯に入金し銀行口座から代金を引き落とす仕組みも拡充したりするため各方面と折衝してきました。また、東京三菱銀行などでもキャッシュカードとして利用できるようになりましたが、このような直接的な電子マネーによる決済手段としてだけでなく、その他の用途が拡大することがiモードフェリカ」のシェア拡大をもたらし、それが結果的に電子マネーの普及につながるものと見ています。特に、2005年後半から「モバイルスイカ」として東日本旅客鉄道の定期券として使えるようになり「財布に乗車券に」が実現し、極めて大きなインパクトが与えられました。

現に、ビックカメラなどのように、ポイントカード機能を持たせ販売促進に用い始めた小売店も現れてきています。店頭のレジにカードで携帯電話をかざすだけで、通常のポイントカードと同じようにポイントがたまる仕組みです。常に持ち歩く機会が多い携帯端末ですから、カードの持ち忘れが防げます。近い将来JRの改札機にも使えるようになることも後押ししてiモードフェリカ」への買い替えの有力な要因となることが考えられます。一方、東宝はIC携帯を読み取り機にかざすだけで映画館のチケットを発券するシステムを稼動させています。携帯のネットを使ったクレジツトサービス機能を利用して事前に料金を支払えばチケットのデータをダウンロードすることができます。「独自のICカード発行も検討したが、年に5回程度の映画鑑賞のためにいちいちカードは持たない。携帯にカードがドッキングした利便性は大きい」と東宝の当事者は語っています。これらのサービスはICカード機能を使った情報サービスですが、こうした携帯/ICカード融合効果が受け容れられて、2年に1度買い替えられるという携帯電話の世界でIC携帯が主流になれば、電子マネーを搭載して利用するケータイ・ユーザーが爆発的に増えるものと期待されています。

以上のような様々なビジネスの可能性を持つ「iモードフェリカ」ですが、普及するのにはまだまだ多くの課題が残されています。会員券やネット決済などで「iモードフェリカサービス」を活用しているのは、2004/7の発売時点で東宝やソニーファイナンスなど数社のみで、準備中という企業もあることはあるのですが、「サービス導入のメドがまだ立たない」という企業が圧倒的に多い状況です。前述の東宝の場合でも、50台の発券端末の切り替えやソフトの開発費用などに1億円近い投資が必要だと言われます。1枚500-1,000円と言われるICカードの発行費用は不要ですが、ソフトウェアも個別企業ごとの手づくりに近い段階ではコスト高になるのもやむを得ません。

電子マネーの場合も店舗にとっては経費負担が重いものになります。大丸ピーコックは「iモードフェリカ」の普及も視野に入れて、2004/6から全64店でエディの決済端末を導入し、同7月にはカードに電子マネーを蓄積するための入金機も全店に設置しました。導入費用は通信費を含めて年間6-7百万円になりますので、先進的なイメージを打ち出すのが狙いとはいえ、よほど利用率が高まらないとペイするものではありません。

また、来年からスイカが利用できるようになると、1台10万−15万円かかる店舗の読み取り機はエディとスイカでそれぞれ必要になるという問題もあります。

投資額の大きさの割に期待効果が小さいので、多くの小売店が模様眺めしているのが現在の姿ですが、すべての新機軸製品・システムがそうであるように、一定の普及率を超えると急激にコストが下がり逆に効果が高まる可能性があります。普及の速度と傾向を注目しながら、バスに乗り遅れるリスクを負わぬよう注意と必要な準備をしておく必要があります。

盗難や紛失に備えて、「iモードフェリカ」の一部には本人確認用の指紋認証機能や、他の電話からの操作で決済サービスを使用不能にする機能も付けられています。また、「携帯は今や若者には一番大事な物。頻繁に使う分、財布よりなくしにくい」という声もあります。しかし、もともと乗車カードとして開発されたところからも分かるように、「フェリカ」には非接触で処理が速いという利点があるのですが、これを電子マネーに使うことについては疑問の声もあり、高度な公開鍵暗号を用いた暗号処理方式のICカード規格に比べると安全性は必ずしも万全とは言えません。

また、携帯を通話目的で盗まれる例は少ないのですが、最近は携帯に保存された個人情報を狙って盗まれる事件が発生しており、しかも今度は現金まで入っているとなると、狙われる可能性がさらに高くなります。上位機種にはなくした時に遠隔操作で電子マネーを使えなくする機能が盛り込まれていますが、大事な情報やお金を一カ所に集める危険性は依然として残っているわけです。

ネット社会の利便性を享受するためには、ある程度は個人情報を提供しなければならないケースが大半です。その場合に、全くオープンなインターネットよりも専用の携帯ネットを使って本人を特定することができる「お財布ケータイ」の方がむしろ安全で、個人情報の漏えい問題などでは携帯やパソコンによるインターネット決済に比べて安全性は高いともいわれています。「iモード・フェリカ」の普及が安全性に対するユーザー側の評価の試金石になるものと考えられます。

(6) クレジット機能

ICチップを埋め込んだ携帯電話「お財布ケータイ」を読み取り端末にかざし、クレジツトカードと同様に買い物代金を支払う仕組みの携帯クレジットも2005年にサービスが開始されています。電子マネ一は事前入金が必要ですが、携帯クレジツトは後払いなので不要で、代金は通常のカードとまとめて請求されます。素早く決済できるためコンビニエンスストア、ドラッグストアなど商品単価が低く、レジに行列ができやすい店での買い物に適しているとされています。

問題は、携帯クレジットや電子マネーは将来の利用拡大を見込んで多くの企業が参入したため、規格が乱立していることで、後払い方式の携帯クレジットでは、NTTドコモや三井住友カードの「@D」、ジェーシービー(JCB)やトヨタファイナンスの「クイックペイ」、UFJニコスの「スマートプラス」の三規格が競い合っており、事前入金が必要な電子マネーに関しても、東日本旅客鉄道(JR東日本)の「スイカ」、ビットワレットの「エディ」などがあります。普及を妨げている「ばらばらな端末」を以下に共有化できるかが今後の大きな課題になっています。

2-3-4. ケータイの進化の方向

デジタル化されたとはいえ通話が中心だった携帯電話を「第2世代」とし、メールや着メロなどのデータ通信を普及させたものを「第2.5世代」と位置づける考え方があります。「第3世代」携帯電話は、更に、音楽や動画などのダウンロードを可能にした技術で、ケータイ・ワールドを大きく広げるものでした。将来的には、IMT2000の高速通信とブルートウースB1uetoothという近距離無線通信技術とを組み合わせて携帯電話を使った家電制御はもちろん、外出した時に留守宅の戸締りや火の元を確認したりするなど、安全面でも利用価値が出てきますし、更に「第4世代」携帯電話が実現すれば、暮らしもビジネスも様変わりの変容を遂げることが予測されますが、これらについては第10課「ユビキタス・ネットワーク」で詳論することにします。

しかし、「第4世代」に進化する前に、第3世代携帯電話の技術を発展させ、データ通信速度を10倍に高め更に高速・大容量のデータのやり取りを可能にした携帯電話サービス第3.5世代携帯電話」が実現して注目を集めています。「3.5世代」と呼ばれる理由は、第3世代技術「W−CDMA」の伝送効率を高めた「HSDPA」と呼ばれる通信方式を用い、通信速度がギガビット級になる「第4世代」が基地局などに巨額投資が必要になるのに対して、現在の第3世代用の通信インフラをそのまま活用して高速化できるところにあります。

NTTドコモが先陣を切った第3世代では、音楽や動画受信ができるようになったのですが、3.5世代では更に大容量のコンテンツが楽しめるようになりました。KDDIが2003年に先行し、NTTドコモが追う形で、2006/8/末にHSDPA規格対応の機種を発売しました。データの受信速度は、毎秒3.6メガビットとFOMAの約10倍。ボーダフォンもブランド名をソフトバンクモバイルに変更した200610月をめどにHSDPAのサービスを開始、KDDIも2006/12に通信速度をもう一段上げる予定です。ナンバーポータビリティ制(番号継続制度)の開始や、2007年からのイー・モバイルとアイピーモバイルの携帯事業参入見通しによって顧客獲得競争が一層熾烈化することが予測される中、携帯電話各社が相次いで第3.5世代を投入し、もはや主戦場が第3世代から3.5世代に移行しつつあるかのような感がします。

データ量が5メガバイト程度の音楽の場合、第3世代だと受信に2分くらいかかりますが、第3.5世代だと10秒程度で済みます。通信速度の向上だけでなく、料金の定額制が広がるのに伴って音楽番組の丸ごとダウンロードの他に、ネットへの動画の高速送信など、携帯電話の使い方がより多彩になります。プロモーションビデオや映画の予告などの動画配信サービスも、画質が向上し1本当たりの時間も従来の1分程度から5分程度に延び、携帯向けとパソコン向けのネット空間の垣根が崩れてインターネット上の情報量の多い一般サイトも閲覧しやすくなります。動きのあるアニメーションが掲載されるような容量の大きい携帯電話向けのサイトも登場する可能性もあります。双方向にデータ通信する機能が強化されるので、携帯電話でのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログへの書きこみや画像送信もしやすくなり、鮮明な画像のテレビ電話サービスも利用可能になります。

民間シンクタンクは、2010年までにほとんどの携帯が第3-3.5世代に置き換わると予測しています。その次の第4世代は規格が定まっておらず、実現に向け実験中。通信速度は、100メガから1ギガと、現在の有線での高速大容量(ブロードバンド)通信並みになりますが、サービスの開始は2010年以降と見られています(2006/8/28 2006/8/22 2006/9/17 日本経済新聞)。

<こぼれ話>
ケータイあれこれ

「携帯電話」はあくまでも「電話=音声通話」で、電車の社内で大声をあげて通話するのが“マナーが悪い”として周囲からヒンシュクを買っていたものでした。それが半導体(メモリー等)が大容量化、小型化することによって多機能化して「ケータイ」に変化するとともに、親指を動かしてメール、ゲームやiモードなどによる情報収集を楽しむ“親指族”(「親指姫」と「親指王子」)の姿が普通に見えるようになりました。最近では、「カメラ付ケータイ」も普及してきましたので、写真撮影のポーズまで変わってきてしまいました。

携帯電話の多様な用途

大阪大学の水越名誉教授は「現代の学生の携帯電話の多様な用途」として、以下のような項目を列挙されております。皆さんが当てはまるのはどの項目でしょうか。

1.   相手との通話
2.   時計の代用
3.    電子メ―ルの送受信
授業中の私語をメールの送受信で行う件数が急増した。
4.  漢和辞典に利用
外国人留学生は漢字の再認に利用
5.   精神安定器になる
・学生を研究室に呼び出して注意を与える時
携帯電話を握り締めて入ってくる。必要最小限の返事をして後はじっと携帯の画面を見つめたまま。
・同じ学生が自宅に電話してくる時
饒舌で話はとめどもなく分岐(カウンセリングに使用可)
6. 着信音のメロディーを楽しむ
着メロ配信サービスで、新曲、CM曲が聞けてかつ占いも提供するものが人気上位
7.  旅行の乗車券や入場チケット、食事、宿泊などの予約
コンパ会場や民宿などではメール予約者に割引サービスするところが少なくない。コンパの幹事役に欠かせない資質になりつつある。
(「学士会報」2001-U 大阪大学名誉教授・水越敏行)

ケータイ“電縁”家族

時と場所を選ばないケータイは、うまく使えば家族が求心力を取り戻すための強い味方になる。一人一台のケータイは人の間の心理的な壁も崩す。「厳格な父の前では口ごもりがちであったがメールをきっかけに話もしやすくなった。」

どんなに離れていても、どこかでつながっている。無線技術の革新が家族の絆を変え始めた。家族は正月や余暇をともに過ごして一体感を保ってきた。核家族化や共働きの増加で家族関係は希薄になりがちだが、ケータイは相手が常にそばにいると感じさせ、家族の時間共有を代替できる。

その先には、血縁を超えた人と人が結びつく近未来が見える。血縁でも地縁でもない“電縁”。ケータイの向こうの多くの人々と透明な糸で結ばれる。クモの巣のようなネットワークが広がろうとしている。「常につながっているという感覚が家族のような一体感を醸成する。」

2001/8/21 日本経済新聞)

3.オートモバイル・コミュニケーション

通信技術の進歩は、自動車関連のコミュニケーション・メディアにも変革をもたらし、道路交通の姿を大きく変容させようとしています。

3−1.カーナビゲーション・システムとGPS

GPS(全地球測位システム:Global Positioning System)とは、アメリカが打ち上げた24個の衛星からの電波を受信して、自分の位置を割り出すシステムのことを言います。当初は軍事用に開発されたものですが、その後、運輸や災害救助などの平和利用が促進され、カーナビゲーション・システムや、携帯電話やPHSと連携して所持者の所在位置を正確に教える位置情報サービスなどに応用されるに至っています。

uがGPS搭載の携帯を投入した(2001/12)当初は、利用者が操作を始めてから位置情報を得るまで数十秒かかるというのが理由で普及が進みませんでしたが、子供が被害に遭う犯罪が目だってきた2003年頃から注目されるようになりました。
衛星で自分の位置確認 GPS携帯

GPS携帯サービスはKDDIがすでに提供しているが、NTTドコモも3/27全地球測位システム(GPS)を搭載したネット接続サービスiモード対応の携帯電話機「ムーバF661i」を開発したと発表した。位置を計測して携帯電話画面の地図上に表示。メールに添付して他の端末に送ったり、携帯電話のメモリーに保存したりすることもできる。この機能を使った新たなサービスを複数の企業が始めることも決まった。セコムは、利用者が身の危険を感じた場合などにメールで地図を送れば、その場所にスタッフを派遣するサービスを提供する。ゼンリンデータコムはGPS携帯を持っている子供や老人の場所を自宅のパソコンなどで確認できるサービスを始める。
2003/3/28 日本経済新聞)


カーナビゲーション・システムは、GPS衛星の信号を利用して自車の位置(緯度経度)を測定し、その現在地点をディスプレイ上の地図に表示を行うものです。
上空約2万キロの六つの軌道を回る24個の周回衛星のうち、最も受信しやすい3個以上のGPS衛星の電波を受信し、それぞれの電波が伝わる時間のズレを測定することによって、車の位置、移動方向、速度を計算します。ほとんどの製品は、地図ソフトにガソリンスタンド、コンビニ、各種施設等のデータがあらかじめインストールされており、ランドマークや目的地までのルート案内が可能となっています。

iモード対応のカーナビも実現していますので、GPSと連動したカーナビが、自動車とともに動き回るインターネット端末ともなったのです。
カーナビへの情報提供に携帯電話回線を利用するサービスが実現するによって、専用の情報提供等を行うセンターとカーナビをネットワークし、ドライバーの要求により、センターからニュース、天気予報、道路交通情報等をカーナビに届けるだけでなく、Eメールも車内から送受信でき、さらには地図情報のダウンロードやEコマース(電子決済)も可能になっています。一般的なネットワークと車が接続されることは画期的なものであり、ユビキタスネットワーク社会実現には、なくてはならないシステムと期待されています。


KDDI(au)2005/9に開始したサービス「EZ助手席ナビ」は、携帯電話機とカーナビゲーションシステムを直接連動させたもので、携帯画面をそのまま使う簡易版ながら、音声案内や渋滞情報も受けられます。自動車運転中の携帯電話の使用は道路交通法で禁じられていますので、運転者以外の利用が想定されていますが、目的地を入力すると画面に地図が表示され、交差点では「500メートル先、左方向です」などという音声での道順案内が得られる他、渋滞情報とも連動しているので短時間で到着できる道を選ぶのにも役立ちます。駐車場の情報も提供されますが、乗車中だけでなく下車してからも利用でき、駐車場から目的地までの徒歩での道順も示されます。

カーナビゲーションの原理を応用して、GPS受信機と携帯電話により視覚障害者に居場所を案内し歩行の手助けをするシステムもあります。利用者が目的地に到達できるように音声で現在位置を案内したり、交差点でどちらに曲がったらよいかを指示したりします。利用者は衛星からの電波を受けるGPS受信機と磁気方位センサーを携帯電話に接続したものを持ち歩きます。携帯電話でGPS基地局を呼び出すと、利用者の位置と方向のデータがGPS基地局に送られ、基地局に設置したコンピューターが場所を探します。その結果「あなたは今○○の前にいます」などと案内してくれるのです。

自動車向け情報サービスが開始されカーナビの用途が多彩になるとともに、カーナビの側にも通信機能を内蔵した「通信ナビ」が登場するなど多機能化が進んできました。

自動車向け情報サービスと通信機能内蔵ナビ

トヨタ自動車は自動車向け情報サービス「G-BOOK」を開始、新型車から対応機器の搭載を始めた(02/11)。搭載機器からKDDIの高速通信網を使ってネットに接続。利用者は映画の上映スケジュールなどの情報配信を受けられ、カーナビと組み合わせて飲食店や観光施設を検索できる。緊急時に救援車両を手配するサービスや、オイル交換時にメンテナンスを案内するメニューもある。他の情報機器と組み合わせた使い方もできる。例えば、車から離れた場所から携帯電話で駐車位置を確認し、自宅のパソコンで休日に出かける予定の観光地情報などを「G-BOOK」に送っておき、後で車の中で参照する。日産自動車やホンダも通信機能を備えた端末の搭載を本格的に進めている。
市販カーナビにも通信機能を内蔵した「通信ナビ」が登場した。パイオニアはKDDIのデータ通信機能を搭載した「エアーナビ」を発売(02/11)。最新の全国地図を備えたサーバーに接続できるので、カーナビ本体に収録されている地図が古くなっても自動更新してくれる。アルパインが発売したカーナビは、目的地付近に到着したら専用サーバーから携帯電話の画面に地図データを送信できる。車から降りた後も目的地まで歩行ルートを案内してくれるわけだ
 (03/01/01 日本経済新聞)

地上デジタル放送の中のデータ放送を利用することによりカーナビへ様々な情報提供することも技術的には可能とされています。今後、種々の問題点を解決して新たなシステムが実用化するものと期待されています。


3−2.ITS(高度道路交通システム:Intelligent Transport System)

前述の通り、インターネットに接続して観光案内を検索したり地図データを更新したりできる車載情報端末やカーナビゲーションシステムや、カーナビと連動できる携帯電話などが相次いで登場したりして、自動車関連の情報技術(IT)化も加速してきました。そして、この流れの先にあるITSの姿が一部現実化するとともに、具体的な将来像の全体が姿を鮮明に見せ始めてきました。

ITS(高度遣路交通システム:Intelligent Transport System)とは、カーナビゲーション・システムに、渋滞回避や高速道路の自動料金収受、危険警告機能などをもたせようというものです。現在のカーナビゲーション・システムは車の進行に合わせて進路を表示するだけのものですが、これが更に高度化し、車の司令塔として多様な機能を持つことになってきたわけです。

例えば、移動体通信で送られてきた渋滞や事故の情報、気象情報などを整理して渋滞やトラブルを回避できる経路を画像や音声で知らせます。さらには、自動車相互の位置や間隔、周辺の車のスピード、道路のセンターラインや障害物などを自動検出し、究極的には自動車の自動安全走行も可能になります。

ITSとしては以下のようなサブシステムが実現ないし構想されています。

@

道路交通情報通信システム
(VICS:Vehicle Information and Communication System)

空いている道を教えてくれるシステム。道路上に設置したビーコン(無線交通標識)やFM多重放送により、渋滞や事故情報、交通規制情報、駐車場情報などの運転に必要な情報をカーナビカーナビを介して運転者にリアルタイムで提供するデータ伝送システムです。

【1】電波ビーコン
電波を媒体として利用して、主に高速道路に設置されており、設置された場所に必要な情報を詳細に提供しています。
【2】光ビーコン
光(近赤外線)を媒体として利用して、主に一般道に設置されており、設置された場所に必要な情報を詳細に提供しています。
【3】FM多重放送
FM放送(NHK))に情報を多重化して提供するもので、各地の放送局のエリア内すべてにおいて利用することができます。

VICSシステムで提供される情報は、都道府県警察及び道路管理者から(財)日本道路交通情報センターに収集され、これをVICSセンターにおいて編集・処理した後、三つのメディアによりドライバーに提供されます。



A 自動料金収受システム
(ETC:Electronic Toll Collection Systems

高速道路の料金をノンストップで支払えるシステム。料金所ゲートに設置したビーコン(無線交通標識のことで、発信機、受信機がある)と車に搭載した決済用装置との間で通行経路や料金情報などのデータ通信を行い、料金所のノンストップ通行を実現するものです。

下掲の新聞報道のように、ETCとカーナビ、ネット接続端末の一体化を目指す技術開発とその実用化も進められてきています。

自動車版の無線LAN

トヨタ自動車、松下電器産業、KDDI、東芝、日産自動車、日立製作所、富士通、三菱電機の民間8社と国土交通省は、2004年をめどに車載端末からインターネットに接続できる技術を開発する。高速道路の自動料金収受システム(ETC)の通信方式を活用、パーキングエリアなどでカーナビゲーション画面に表示する。ETCとカーナビ、ネット接続端末の一体化につながり、ドライバー向けの各種情報提供サービスが広がる可能性がある。開発するのは、ホテルや飲食店など街頭でインターネット接続できる無線LAN(構内情報通信網)の自動車版。車載端末からのネット接続は携帯電話を活用する方式も研究されているが、通信速度や費用などの面で課題がある。今回の実験ではETCに使われている狭域通信システムを利用し、一定のエリア内で車載端末にネット情報を無線通信する「スマートコミュニケーション」と呼ぶ通信技術を確立する。同システムは携帯電話に比べて高速通信が可能で、動画像情報などのやり取りがしやすいなどの特徴がある。トヨタの「G-BOOK」など自動車メーカーなどによる車載端末向けの情報サービスはすでにあるが、専用の通信方式を使うためインターネット接続ができず、閲覧できるコンテンツ(情報の内容)が限られるのが現状。ETC通信方式を活用することによって車載端末向けの無線通信規格としての標準化を目指す。
2003/1/28 日本経済新聞)
進化するETC

高速道路向けの自動料金収受システム(ETC)の利用範囲が広がり、駐車場、ガソリンスタンド、商業施設やカーフェリーなどの決済手段としても使われ始めた。車が財布代わりになる「走る電子マネー」普及で、車の利便性は一層高まりそうだ。
ETCは通常の電子マネーと違い事前入金は不要で後払い方式を採用。駅の改札や商業施設内での物品の買物には使えないが、駐車場やガソリンスタンドなどで車に乗ったまま料金決済できる。
商業施設の顧客システムと連動させて、イベント情報を携帯電話にメールで送るサービスも提供され始め、アンテナの下を通過するだけで乗船手続が済む「ドライブスルー乗船」の実験も始められる。将来は、空港に端末搭載車できた利用者がゲートを通った時点で航空機のチェックインができるようになる可能性もある。ETCはまだ進化の途上にある。
料金は端末所有者の口座から自動的に引き落とされる。国土交通省によると、全国の高速道路を走る車のETC利用率は6割を超えている。
2006/9/14 日本経済新聞)
B 自動走行支援システム
(AHS:Automated Highway Systems

先行車との車間距離や、カーブ・交差点への過大な速度での進入などを道路上のセンサーやカメラで監視して、車に搭載された通信機器に通報することによって、ドライバーの危険認知や回避の判断をサポートするシステム。将来的には、物流専用ガイドウェイや高速道路での安全自動運転を目指しています。

1万人規模のITS実験

交通事故防止や渋滞緩和に役立つITS(高度道路交通システム)につき、日産自動車は、10月から神奈川県で約1万人のドライバーが参加する公道上の実用化実験を始め2010年の商用化を目指す。公道を使って一般市民も参加する大規模なITS実験は世界でも例がない。
実用化されている道路通信システム「ビーコン」と携帯電話「FOMA」などを使うほか、カーナビゲーションシステムのソフトを変更する簡単なシステムで、実用化までの技術的なハードルは比較的低い。
交通事故予防実験では、見通しの悪い交差点、信号の見えにくい地点など交通事故の多発地帯に光ビーコンや車両感知器を配置。近づいた車が減速していなかったりすると、カーナビの画面や音声で「この先、左に車がいます」などと注意を促す。
渋滞緩和対策では、ドライバーが持つFOMAを通じて車両の位置を数分間隔で把握。渋滞情報を提供するサービス「VICS」に比べて渋滞情報がより高範囲にきめ細かく集約できるため、渋滞を避けるルート案内が可能になる。
カーナビの装着率が1割にも満たない欧米に対して日本は5割を超えており、ITSの普及環境は世界で最も整っているとされる。日産の実証実験は既存インフラを活用することで実用化への最短距離を目指しており、日本勢がITS分野をリードするための試金石にもなりそうだ。

2006/9/16 日本経済新聞)

C 先進安全自動車
(ASV:Advanced Safety Vehicle

自動車そのものをインテリジェント化し、緊急時の事故回避から、車間距離の自動維持運転、居眠り警報など、人間に代わって安全運転を自動制御するシステム。
交通事故の大半は人間の「認知・判断・操作」誤りから発生します。それを車側の高度技術で補い事故を減らそうというのが先進安全自動車(ASV)の狙いです。国内自動車各杜はめざす技術や規格の標準化では協力しながら具体的な開発では競争を繰り広げてきました。その結果、「追突防止支援システム」や「車線逸脱防止支援システム」など、ASVの研究成果が活用された市販車も販売され始めています。

「衝突しない車」競う 事故を未然に回避

国内自動車メーカーが「ぶつからないクルマ」の開発にしのぎを削っている。ホンダは二日、車同士が通信により位置情報を交換し、運転者から死角にある対向車も把握、「出合い頭事故」などを防ぐ先端安全技術の試作車を発表した。産官学共同の「先進安全自動車(ASV)計画」の一環で、トヨタ自動車なども開発中だ。環境と並び安全技術は国際競争力のカギで、市販車への早期採用を競う。
ホンダが公表した「ホンダASV-3」は高速道路の料金所に設置されている自動料金収受システム(ETC)と同じ五・八ギガヘルツの電波周波数帯に対応した通信機器を搭載。他の車の位置や速度などの情報を無線で交換し、一度に最大百二十台、約二百メートルまでの通信が可能になる。
こうした車相互の通信により、例えば信号のない交差点で合流してくる車や、見通しの悪いカーブを走ってくる対向車の存在を事前に把握。車載コンピューターが衝突の恐れがあると判断した場合、アクセルペダルを振動させたり、ハンドルに力を加えるなどして、運転者に早く、分かりやすく伝える仕組みだ。
通信機器を小型化し、歩行者が持てば、人と車の間の通信もでき、道路への飛び出しなどによる人身事故の予防も可能になる。
仮に事故が起きた場合の救急措置などにも即応。車載カメラで撮影した事故前後の車内外の映像やエアバッグの作動状況などをホンダの情報センターに自動的に送り、乗員に止血などの措置の助言ができるようになる。

2005/9/3  日本経済新聞)

(Ver.1 2003/12/ 5)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1
)
(Ver.4 2006/11/26)

「コミュニケーション・メディア論」トップページへ戻る
「東芝38年生の酒記」トップページへ戻る