コミュニケーションメディア論 |
第6課 モバイル化 |
モバイル化の概要 「モバイル(Mobile )」には「@移動式の」、「A機動性がある」の他に「B車に取り付けた」という意味があります。 ITの世界で“モバイル”という言葉が使われたのは、会社や自宅と同様に、どこでもコンピューターを利用することができる「モバイル・コンピューティング(Mobile Computing)」が最初でした。コンピューターのヘビーユーザーが、ビジネスを効率化・スピードアップするための手段として、デスクトップパソコンなどの固定式のパソコンに加えてノートパソコンなどのモバイルな(移動式の)パソコンを使い始めた時のことでした。PDA(携帯情報端末)の普及もこの「情報端末機器のモバイル化」の流れの中に位置づけてとらえることができます。 一方、電気通信の世界でも電話網の端末機器として普及しつくした固定式電話機に加えてモバイルな(移動式の)電話機として携帯電話が急激に普及して固定式電話機の数を凌駕し「モバイル・コミュニケーション(Mobile Communication)」が一般化してきました。そして、携帯電話などのモバイル電気通信端末機器やノートパソコンやPDAなどモバイル情報端末機器が、電話網と並んで本格的なコミュニケーション・メディアとして確立したインターネットと接続できるようになって、移動中や外出先からでもメールやファイルの送受信ができる「モバイル・インターネット」の時代が到来したのです。モバイル電気通信端末機器とモバイル情報端末機器の機能は融合化して「モバイル・ツール」と総称されるようになりましたが、「モバイル・ツール」には以下のような条件が共通して必要とされています。
一般に「モバイル・コミュニケーション(Mobile Communication)」は「移動体通信」と訳され「一ヶ所に固定されずに動きながら通信を行なうこと」として解釈されています。「移動」は「固定」の反対概念ですから、上記のような固定式の端末機器に加えて移動式の端末機器がコミュニケーション・メディアの一角として登場したことが「モバイル化」の主流ではありますが、それ自身が移動体である自動車(automobile)のためのコミュニケーション・システム「オートモバイル・コミュニケーション」が普及してきたことも「コミュニケーション・メディアのモバイル化」の一環として捉えておく必要があります。 |
1.情報端末機器のモバイル化
1−1.携帯用パソコン 「PCが Personal Computerから Personal Communicator に変わった時にネットワーク時代が始まった」と述べましたが、コミュニケーションのモバイル化もモバイル・コンピューターの進化と表裏一体の関係で進展しました。 インターネットが一般化する以前のモバイル・コンピューターは、「携帯性があって、時間と空間の制約を受けずに、情報処理を可能にする機器」と一般的に解釈されていました。つまり、コンピューターを小型・軽量化し、机から切り離して使用可能にしたものがモバイル・コンピューターであり、それを随意な場所で使用することがモバイル・コンピューティングだったのです。 集積回路技術、液晶技術と高密度実装技術の発展によって、デスクトップ型からラップトップ型、ラップトップ型からノートブック型へと、薄型化・軽量化(thin & light)の方向に進化し、パソコンのモビリティ(可動性)が高まってきました。このような携帯用パソコンは、固定型パソコンの延長線上で、文書作成や表計算などのためにスタンドアローンで用いられることが多かったのですが、以下のような関連機器との併用によって、モビリティ性向上の実が挙がることとなりました。 (1) ビデオプロジェクター ビデオプロジェクターの技術革新が進んだおかげで、携帯パソコンに取り込んだデータ・情報を必要な場所で自在に取り出して視覚に訴えた効果的なプレゼンテーションができるようになりました。関連の新聞報道例の要旨を以下の通りご紹介します。 技術革新がプロジェクター普及に弾み ビデオプロジェクターに次のような方向に向けた技術革新が起こっている。 ・高輝度化 かなり明るい部屋でもカーテンを閉めずに鮮明に映し出される ・高解像度 PC並みのXGA(1,024×768画素)が今日の標準。超高精彩機種も。 ・小型・軽量化 ノートPCサイズ「モバイル機種」ジャンルも ・セッティングフリー 設置場所の足かせを極力なくする 例、斜め方向から投影した際の映像のゆがみを補正 本体の縦横自在配置可能 <分野別活用> ・企業…商談から社内企画会議まで ・教育…わかりやすい授業を実現 ・映画館…デジタル配信実験も ・ホームシアター…家にいながら映画館気分 ・イベント・店舗演出…鮮明画面で高い集客効果 (2001/8/7 日本経済新聞) (2)通信機器・システム
また、以下の新聞報道例で示されるように、技術開発によって通信速度面の限界が除去されてきています。今後とも無線LANの普及に新たな展開が進展することも視野に入れておく必要があります。
1−2.シン・クライアント(Thin Client) vs Java搭載パソコン コンピューター・ネットワーク・システムが、メインフレーム/ダム端末接続型から、分散処理型、更にはクライアント・サーバー型へと進化してきたのは、情報処理が中央への集中から端末への分散の歴史でもありました。しかし、「歴史は必ずしも直線的には進展しない」という仮説の通り、分散の方向に逆転する動きが起こりました。サーバー・コンピューターの高性能化・高機能化に伴って、情報処理をサーバーに集中してクライアントの方を形状だけではなく情報処理機能を薄く(Thin)してモビリティを高めようとするものです。 しかし一方で、パソコンの小型軽量化と高速・大容量化が進展したことによって、シン・クライアント(Thin Client)普及の方向にも歯止めがかかってきたようです。特に、携帯パソコンにプログラム言語Javaが搭載されるようになったのがこの要因になっています。どんなOSでも、どんなハードウェアでも利用できて、信頼性、操作性、移植性に優れた比較的小さなプログラムを作ることができるJavaこそ「ネットワーク時代の新言語」といわれていたのですが、一方では容量が多くて従来のパソコンに搭載するには難があったからです。 従って、例えば、外出先でデータをグラフ化して客先にプレゼンテーションする場合に、シン・クライアント(Thin Client)から本社サーバーにアクセスしてグラフを作成させて伝送を受けるのと、データだけ伝送を受けてJava搭載のパソコンでグラフを作成するケースとの間の損得対比の問題が新たに発生するわけです。端末の使用目的、単価格差、操作性、データ通信コストなどの要因を総合的に判断して、いずれかを選択する必要があります。 1−3.「ポストパソコン」への動き 当課の初頭で記述した「モバイル・ツール」の必要4条件のうちで、パソコンに最も満足し難いのが「A操作が簡単であること」です。そこで、主に、「操作しやすさ」を眼目として「ポストパソコン」を目指した各種の「モバイル・ツール」が開発されています。以下の新聞報道の要約にもその一端を見ることができます。
上記の記事にも示唆されているように、タブレット型PCの他に家庭用ゲーム機などもネットワーク端末として「ポストパソコン」の地位を占めようとしています。その他に、通信方式にブルートゥースを採用したネット家電(情報家電)、衣服のように身に付けられる超小型のウェアラブル(装着型)コンピューターなども「ポストパソコン」の「モバイル・ツール」として注目されていますが、これらは第10課「ユビキタス・ネットワーク」で考察することにして、次項で携帯電話とともに目下のところ「ポストパソコン」の機種として注目されているPDA(携帯情報端末)について概観することにします。 1−4.PDA(携帯情報端末:Personal Digital Assistant) PDA(携帯情報端末:Personal Digital Assistant)とは、個人向け小型携帯情報機器の総称ですが、ノートブックパソコンはこれに含まれません。世界的に有名なのは、OS(基本ソフト)に米パーム社のPalm OSと、Microsoft社のPocket PCを搭載した製品群ですが、日本ではこの二者と、日本独自のPDAであるシャープのザウルスが激しいシェア争いを繰り広げています。「”Palm”(掌)、”Pocket PC”の名称からも分かるように掌またはポケットサイズのボディに、さまざまなデータを入れて持ち運べる簡易パソコン」で、どの機種も「スケジューラー」、「住所録」、「メモ」といったパソコンと同じようなPIM(Personal Information Manager:個人情報管理)機能を備え、パソコンのデータとシンクロ(同期)できる点は共通でした。当初は、パソコンでは重すぎる、携帯電話では情報量が少ないといったといったところのニッチなモバイル・ニーズに応えるモバイル情報端末機器だったのです。 ところが、携帯型パソコンや携帯電話のインターネット接続が進展するのに対抗する形で、PDAにもメールの送受信やWebブラウズが行えるインターネット機能が搭載されるようになるとともに、デジタルカメラや音楽プレイヤー、GPS(位置情報検索システム)などの機能を盛り込んだ高機能デジタル・ツールに進化しました。製品によって、通信機能付きで携帯電話に近い機能をもつものから、パソコンに近い高機能を備えた製品まで仕様はさまざまですが、以下のようなコンピューターと通信の融合した機能を持つものが標準的なPDAと言ってよさそうです。
パソコンより扱いやすく、携帯電話より多機能なPDAには、以下のような両者との相違点と欠点があります。今後一層多機能化が進む携帯電話と、より小型化・低電圧化が進むノートブックとの間のニッチ(隙間)市場でPDAが存続して行くかどうかは、PDAの特徴を生かしたコンテンツ・サービスやビジネスモデルの消長が鍵を握っていそうです。PDA市場の約7割を占める個人向けが落ち込んでいるために、2003年も国内需要は前年に対して3割近く落ち込んでいますが、業務用の需要は微増傾向にあります。2002年に個人向けPDA市場から撤退した日本IBMが、流通・小売業向けの商品管理、医療現場での業務支援端末用などの業務用に限定してPDA市場に再参入することを企てている(2004/4/17)のもニッチ(隙間)市場の拡大の可能性を示唆する動きとして注目されます。 1-4-1 携帯電話との違い 重さやバッテリー持続時間はPDAより携帯電話の方が優れていますが、画面が小さく、メールの受信可能文字数やパソコンとのデータ連携にも制限があります。拡張メモリースロットを備えたPDAならデータ保存容量は無制限でパソコンとの連携もスムーズです。 1-4-2 ノートブックパソコンとの違い モバイル用のパソコンでも、Windowsが動くモデルは重さが1kg前後はあり、バッテリー持続時間も平均3〜4時間と、外出先で1日フルに使うには不安があります。PDAなら重さはわずか150g前後。電車の中でも片手で使え、10時間から1ヶ月はバッテリーが持ちます。 1-4-3 PDAの欠点 一部にキーボード内蔵モデルもあるが、ほとんどは手書き文字入力のため、大量のデータ入力には向かない。PDAを使ったネット上の金融サービスが始められ、iモードなどによって端末上の簡単な操作で、銀行口座の預金残高照会や公共料金の振込み、定期預金などへの口座間の資金移動、外貨預金の取引などができるようにはなりましたが、画面や操作ボタンが小さいため使い勝手の悪さを指摘する声も多いようです。 1-4-4 PDA応用事例 宅配便業界の情報技術(IT)化に関する報道事例とバイク(自転車)便サービス業の(株)ソクハイによるPDAシステム導入の事例を以下にご紹介します。
顧客の欲しいものを絞り込んで買う「選択消費」の傾向が強まる中で、多分野の高級品や嗜好品をそろえる構造が弱みとなり、百貨店業界が大きな苦境に立たされています。在庫がさばけないと値下げやメーカーへの返品に走り、メーカー側は返品を抑えて納入を絞り込む。こうした百貨店の返品制度が生んだ負のスパイラルが売り場を劣化させたことが「売り逃し」の機会を増し業績不振をもたらした大きな要因になっているということが指摘されています。以下にご紹介する新聞報道は丸井が「売り逃し」防止のために携帯情報端末(PDA)を組み込んだシステムを導入することを報じたものです。
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2.モバイル・インターネット
2−1.携帯電話 携帯電話は、無線で通話できますので、有線(電話線)で「固定」された電話機と違って自由に移動しながら自由に移動する相手とも通話することができます。ですから、電話網による音声通信の範囲を飛躍的に拡大させるコミュニケーション・ツールとして登場したわけです。 携帯無線電話は、昭和54年(1979年)に当時の日本電信電話公社(現在のNTT)が自動車無線電話のサービスを開始しました。このシステムは、多数基地局の無線ゾーンを蜂の巣の様に切れ目なく繋ぎ合わせてサービスエリアを面的に構築し、この無線ゾーン内の移動体は、近くの基地局を介して公衆通信回線網から加入電話、あるいは、他の移動体と接続して通信を行う仕組みになっています。 一つの基地局の無線ゾーンは、導入当初は、自動車に搭載して利用したため5〜10kmの中ゾーンでしたが、その後技術の進歩により移動機は人間が携帯できるよう小型化されて小電力化が可能になり、無線ゾーンは徐々に小さくなって現在のような携帯無線電話となりました。携帯電話は別名「セルラーフォン(Cellular Phone)」とも呼ばれますが、これは”Cell”(細胞)より派生した言葉で、一つの無線基地局から放射される電波の届く範囲(半径 約1〜5km)を「セル」と称し、これが蜂の巣状の集合体となって通話可能なサービスエリアを構成しているところからきています。 タクシー無線などの簡易無線では、セル方式ではなく「大ゾーン」と呼ばれる方式が利用されています。この方式は、エリアを細かく分けるのではなく、大きな一つのゾーンで複数のチャンネルを割り当ててしまうやり方です。この方式は基地局を一つ作ればよいのですが、基地局と交信できる端末の数はサービスエリア全体でチャンネル数の分しか使用できないことになってしまいますから、携帯電話で大ゾーン方式を利用すると、はじめから「混線OK」とでもしない限りは使えないことになります。
2-1-1 使用電波 携帯電話では、音声をいったん電気に変え、それを電波に乗せて送ります。携帯電話の声を運ぶ電波は800 MHz帯(メガヘルツは毎秒100万回の振動数の電波)と1.5 GHz帯(ギガヘルツは毎秒10億回の振動数の電波)及び2 GHz帯(後述のIMT2000)を使います。ちなみに、普通のVHSテレビ放送は90-700 MHz帯を使っています。テレビ放送を受信するにはテレビアンテナが必要になるのと同じで、携帯電話にも小さなアンテナがついています。しかし携帯電話にはテレビのようなチャンネル・ボタンがありません。それは、携帯電話の中の受信機があらかじめ携帯電話用の電波に合わせてあるからです。携帯電話の電源を入れておけば、携帯電話用の電波を自動的に受信してくれるのです。 2-1-2 呼び出しの仕組み 携帯電話サービスを提供している通信事業各社は、それぞれに次のような設備をもって携帯電話の接続を行なっています。
携帯電話から発信された電波は先ず、数キロほどの間隔でビルの屋上などに設置された無線基地局(BS)に集められます。一つの基地局がカバーするゾーンで発生した携帯電話からの発信は移動通信制御局(MCC)に集められ、そこから行き先の無線基地局(BS)ごとに振り分けられます。ですから、東京の丸の内を歩いている人が、横浜のどこかにいる人の携帯電話を呼び出す場合、電波は丸の内にあるBSからMCCに行き、ここから横浜のBSに行って相手を呼び出します。相手先が、たとえば横浜の固定電話の場合には、MCCから一般の電話網に入り、横浜局へつないでいくことになります。 2-1-3 位置登録 こうしたことをスムーズに行うためには、携帯電話がどこにいるのかをネットワークで把握しておく必要があります。そのため、携帯電話の電源を入れると自動的に携帯電話の識別番号(機体番号)を電波に乗せて発信します。この電波をネットワークがキャッチして、携帯電話の所在場所を記録するデータベース(ホームメモリー局)へ書き込みます。これによって携帯電話の持ち主が「私はここにいます」という「位置登録」ができるわけです。 このデータベースを見れば、呼びたい携帯電話の所在場所がわかるので追跡して接続することができます。しかし、電源が切れていたり電波の届かない地下へ行くと所在場所が不明になったりすると呼び出し不能になります。携帯電話に電話をかけたとき、「おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか電源が入っていないため…」という声が聞こえることがあるのは、呼び出し不能の状態をシステムが自動的に判断しているからなのです。このような場合には、「音声メール」にいったん音声を蓄積し、後でこれを聞くことができるサービスも利用されています。 2-1-4 無線基地局ゾーン間の移動 また、前述の通り、携帯電話の一つの無線基地局(BS)がカバーする地域(ゾーン)は半径数キロです。ですから、特に自動車で走っているときなどは、すぐにゾーンが切り替わってしまいます。そんな場合、例えば無線基地局AゾーンからBゾーンに移動する場合、移動通信制御局(MCC)では自動的にAゾーンからの電波が弱くなったのを察知して隣の無線基地局Bからの電波を捕まえようとします。これが「チャンネル切り替え」または「ハンドオーバー」で移動通信の重要な技術の一つになっています。 2-1-5 ローミング 携帯電話サービスを行っている会社はNTTドコモ、ボ−ダフォン、auなどがありますが、各事業者の営業エリアは別々であり、また各社とも必ずしも全国をカバーしているわけではありません。そのためA社と契約しても、旅行などでA社のサービス地域外へ移動すればその携帯電話は使えなくなってしまいます。そこで考えられたのが「ローミング」というサービスで、携帯電話機が各社のサービス地域外を動き回っても、同じ通信方式を使っている携帯電話機であれば共用できるシステムになっています。ですから、仮にB社と契約している人がA社のサービス地域に行った場合、A社とB社で相互接続契約が結ばれていれば、A社の通信システムを使って通話ができるのです。
2−2.PHS(Personal Handy-phone System) 2-2-1 PHSとは
携帯電話の目覚しい普及振りに圧されて、PHSサービス事業から撤退を表明する企業が相次いでいたのですが、2003/5に最大手のウィルコムが通話定額サービスを始めてから息を吹き返しました。2006/5は、携帯電話の国内出荷台数が前年同月比3.8%減で3ヶ月連続で前年度実績を下回ったのに対して、PHSは前年同月比49.4%の大幅増となっています(2005/7/13 日本経済新聞)。また、ウィルコムの加入者数は2006/6の一ヶ月だけで約8万件の増加で、同社の加入者総数が約323万件(2005/6末時点)で携帯電話4位のツーカーグループにあと30万件強というところまで急追しています(2005/7/19 日本経済新聞)。 また、以下のような“PHSならでは”のニッチ(隙間)市場が、今後とも開けてくる可能性もありますので、PHSの今後の動向から目を離すことはできないようです。
[衛星電話について] 平成14年度末の契約数も僅か41,737件で、モバイル・ツールとしてもマイナーな存在ですが、“世界電話”の側面をもったコミュニケーション・メディアとして「衛星電話」がありますので、ここでご紹介しておきます。
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2−3.ケータイ
携帯電話は、インターネットとの接続が可能になったとき、音声メディアの伝達メディアからマルチメディアの伝達メディアに進化しました。通話専用であった携帯電話は、明らかに「電話」の範囲を超え多機能コミュニケーション・メディア「ケータイ」に変身したのです。これに伴って、インターネットの端末としては固定型のパソコンが定番だったのですが、ケータイを初めとする「モバイル・ツール」が接続され「モバイル・インターネット」の世界が急速に開けてきました。「いつでも、どこでも、誰とでも、どんな情報でも」が実現したのです。更に、当講座の「履修の手引き」に述べましたように、「携帯電話機がケータイに変わった時にユビキタス情報社会の端緒が開かれた」と考えています。以下にケータイを実現させ進化させている諸要因について考察します。 2-3-1 iモード コンセプト iモードとは、NTTドコモが世界に先駆けて実現したサービスで、携帯電話からインターネットに接続するサービスのことを言います。これによって、携帯電話のユーザーが、eメールはもちろん、テレホンバンキング、レストランガイド、タウンページ検索などのインターネットのオンラインサービスが受けられるケータイのユーザーになったのです。特に、ケータイだけでインターネットに接続して電子メールができる手軽さが普及に弾みをつけ、iモードはポータルサイトとしても大きく成長しました。NTTドコモの携帯電話網がプロバイダー機能を果たし、iモード専用サイトやインターネット上のサイトにアクセスできるようになったからです。 「iモード」の命名に当たっては、インターネット(internet)、インタラクティブ(interactive)、インフォメーション(information)の“i”の他に一人称の“I”が意識されていたそうです。モバイル・コミュニケーションとモバイル・コンピューティングの機能を取り込んだモバイル・インターネットの個人用モバイル・ツールとしてケータイを位置づけようとする意図を「iモード」の名の裏に明瞭に見て取ることができます。 仕組み iモード用の通信ネットワークの主要構成要素は以下の通りになっています。 @パケットネットワーク Aコンテンツの接続やユーザーを管理するiモード・サーバー Biモード用情報提供者(プロバイダーなどのコンテンツ配信業者) パケットネットワークでは、パケット転送能率を高め、かつ利用料金を低くおさえるため、iモード用に開発された通信プロトコルが用いられています。これは一般のインターネットで使用されている通信プロトコルTCP/IPよりも簡素化(処理量を軽く)したものです。 一方、iモード・サーバーと配信業者との間の接続はインターネットからの接続を考慮して、TCP/IPをベースに汎用的なプロトコルを使用しています。 ユーザーがiモードからインターネットヘアクセスすると、まず無線基地局まで無線電波で飛んでいき、ドコモのパケット網へ接続されます。パケット網の中ではパケット処理装置(PPM)と、プロトコル変換を行なう移動メッセージ用パケット関門装置(M-PGW)を経由してiモード・サーバーに到達し、そこからは専用線またはインターネット経由でiモード用情報提供者に接続されます。 利用可能なサービス iモード用端末(ケータイ)からワンタッチでインターネットに接続して、いろいろなサービスを利用することができます。eメール通信はもちろん、NTTドコモの審査をパスしてあらかじめiモードのメニューからワンタッチで選べるように登録されている「オフィシャル・コンテンツ(公式サイト)」でのオンラインサービスが受けられます。オフィシャル・コンテンツの内容は様々で、ニュース、バンキング、トラベル予約、チケット購入、グルメ/レシピ案内、電車の時刻表などテーマごとに整理されています(一部有料番組もあり)。また、オフィシャルなコンテンツ以外にも、ユーザー個人や企業などが作成するiモード対応コンテンツ(非オフィシャル・コンテンツ、別名、勝手コンテンツ)が無数にあり、端末にURLを入力するだけで直接ホームページにアクセスして閲覧することができます。 具体的な用途 i モ―ドには、@情報提供・検索、Aコンテンツの送受信、Bトランザクション、Cコミュニケーションの四つの用途があります。@情報提供・検索とは、ニュース配信、WWW 検索、鉄道路線のナビゲーション、レストラン・ホテル案内などといった内容のサービス、Aコンテンツの送受信とは、対戦型ゲームや静止/動画などのリアルタイムな送受信、Bトランザクションとは、オンライン・バンキングや電子決済、オンライン証券取引など、Cコミュニケーションとは、電子メールによる情報交換を、それぞれ指します。 利用料金 iモードは、9600bpsのパケット通信(ドコモのDoPa)を使用しており、通信料金は接続時間ではなくて、基本的には送受信したデータ(パケット)量による情報量課金システムになっています。携帯電話の使用料の他に以下のようなiモードを利用するための料金の支出が必要です。
法人向けサービス 企業内のグループウェア(商品情報の検索、社内掲示板、在庫情報、販売報告などができる社内システム)に、外出先からiモード端末を使って入りこむことを可能にするサービスがあります。iモード端末にはすでにホームページ閲覧機能がありますので、Web化されたグループウェアであれば、iモードの導入は簡単です。この場合、グループウェア内のWebをiモード用のWebに書きかえる必要があります。つまり、一般のパソコン向けに作成されたものでは見えない部分も出てきたりしますので、iモードの小さな画面に対応させるための修正が必要なのです。 進化の方向 既に2001年2月にJavaプログラム言語対応のiモード端末(Javaアプレット)が登場して、Javaで作られたアプリケーション・プログラム(iアプリ)をネットワークからダウンロードすることによって、以下のような様々な情報が利用できるようになっています。
さらに、IMT2000(後述)対応の高速版iモード機能の提供、iアプリケーションを利用した音楽・映像通信、GPS(後述)と連携した位置情報サービス、リアルタイムグラフ表示などのビジネス利用などが続々と開発されるにつれて、ケータイのマルチメディア・モバイル端末としての機能が一層多彩化し高度化してきました。
WAPとの相違 NTTドコモの「iモード」サービスに対抗する形で、KDDIはWAP(Wireless Application Protocol)方式を使った「EZアクセス」「EZweb」サービスを1999年4月から開始し、また、Jフォングループは1999年12月から「Jスカイウェブ」サービスを始めました。 サービス内容はほぼ同じで、時代のキーワード「携帯電話+インターネット」を、インターネット上のWebコンテンツを携帯電話に搭載した簡易ブラウザーで見られるようにすることによって実現しようとするものでした。各社とも、携帯電話を小さなインターネット端末にしようとする目的は一致していたのです。 NTTドコモの「iモード」は、インターネットのホームページ記述言語HTMLをベースに、より簡略化した記述言語「C−HTML(Compact HTML)」を使用しています。 一方、WAPは業界団体「WAPフォーラム」が中心となって定めたプロトコルで、iモードが既存インターネットとの親和性を重視したのに対して、「携帯電話でいかに効率よくインターネットにアクセスするか」を主眼にして開発された新しいコンテンツ記述言語やプロトコルであると言えます。 セキュリティ 「iモードの具体的用途」の項で、ケータイ/インターネットの用途の中に、「コンテンツの送受信」と「トランザクション」があるということを述べました。この二つの用途を容易に行うことができるということがケータイ/インターネットの大きなメリットであり、これが電子商取引のプラットフォームとして注目を集めている理由になっています。しかし、ケータイからコンテンツの送受信とトランザクションを行う上では、銀行の口座番号やカード番号などといった決済情報を、インターネットという不特定多数の人間がアクセス可能である空間を使用して交信しなくてはなりません。 2-3-2 第三世代携帯電話
以下に第三世代携帯電話を実現させた諸要因について考察します。 高音質化プラス高速伝送化 IMT2000では、新たに「レイク受信」という、ビルや山間部に当たって遅れて届く「反射波」を束ねて取り込む技術が採用されています(cdmaOneでもすでに実施済み)。複数の方向から到達する携帯電話用電波を合成して使用できるので、通話が途切れにくくなるばかりか、音質もよくなります。また、端末が移動するときの無線チャネルの切り替えもハード的にスイッチを切り変えることなくソフト的に処理(ソフトハンドオーバー)できるようになりましたので、従来のデジタル携帯電話で経験したような雑音がなくなりました。 データ通信速度も飛躍的に高速化しました。従来のデジタル式(第二世代)携帯電話では、回線交換で9600bps、パケット交換では28.8Kbps程度でしたが、IMT2000では最高2Mbps(移動中は384Kbps)のデータ通信が可能になりました。したがって、携帯テレビ電話、動画付電子メール、高速情報配信サービスなど、色々なサービスが利用できるようになったのです。
無線方式の特徴 無線周波数は2 GHz帯を使用しています。携帯電話から無線基地局までの無線方式はCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式を使います。これは無線電波を有効に利用する技術の一つで電波に通話データを乗せる方式の一つなのですが、NTTドコモが使用しているのはW−CDMA(ワイドバンドCDMA)方式です。 高速データ通信を行なうためには帯域幅を広くする必要があることから、すべての端末が5 MHzの帯域幅を使えるようにすることによって高速データ通信が可能になったのです。 (1)無線電波の利用方法 無線電波は、携帯電話用・PHS用などの用途別、または通信事業者別に、一定の幅の周波数を重ならないように割り振って使用しています。有限の周波数を無駄なく有効に使う必要があり、与えられた周波数帯をできるだけ多くのユーザーが同時に使える工夫をしているのです。そのような無線電波の利用方法としてFDMA方式、TDMA方式とCDMA方式の3種類があります。 FDMA(Frequency Division Multiple Access:周波数分割多元接続)方式はアナログ携帯電話で使っていた方式です。この方式では、与えられた周波数帯を細かく分割し、各ユーザーにそのうちの一つを割り当てます。そのため1人あたりの電波の幅が狭くなり低速データしか送れず、また混信や雑音が発生しやすいなどという問題がありました。 TDMA(Time
Division Multiple Access:時分割多元接続)方式は、デジタル携帯電話やPHSで使っている方式(日本ではPDC方式*)です。与えられた周波数帯を分割する点はFDMAと同じですが、TDMAの場合は、さらに時間でも区切って、その区間に一定間隔でデータを乗せて送ります。周波数の他に、時間でも区切って使いますので、FDMA方式よりも電波を有効に活用することができます。データの送受信の際には、送信側と受信側で同じタイミングで行ないます。受信側では受信したデータをつなぎ合わせてデータを再現します。いわば、時間ごとに区切られた箱の中にデータを入れて送受信するようなものですが、箱の大きさや送信時間間隔に限りがあるため動画のような大きなデータを送信することはできません。
(2)CDMAで「移動体版マルチメディア」が可能に CDMAの仕組みは、ピアノが奏でる音楽と楽譜の関係に似ています。事実、CDMAの考案者はピアノの鍵盤から発想したと言われています。作曲家が「ドレミファ・・・」の符号で楽譜を書いておくと、その音楽を聞いたことがない人でも楽譜通りに弾けば音楽が再生できます。 CDMAでは楽譜の代わりに「拡散符号」という符号を使います。送信する個々のデータを押しつぶして拡げ(拡散し)、押しつぶされた個々のデータに、どのデータであるかを区別するための拡散符号を付けて送ります。受信する側では拡散符号をもとにして、押しつぶす前の元のデータに戻します。送信前にデータを押しつぶすのは、押しつぶすことによって大量のデータが一緒に送れるからなのです。 (3) W−CDMA CDMAでは同一周波数を使うので、複雑な周波数管理が不要で周波数の利用効率がよく、混信や妨害電波などの干渉に対する耐性があり通話品質も向上します。またユーザーごとに異なる拡散符号を割り当てるため秘話性にも優れています。IMT2000の無線インターフェースとしてCDMAが採用されたのにはこのような利点もあったからなのです。 この方式を細かく区分するとさらに二つの種類があります。一つはW−CDMA(直接拡散CDMA=DS−CDMA:Direct Sequence- Code Division Multiple Access)で、もう一つはCDMA2000(MC−CDMA)です。NTTドコモ、ボーダフォンや欧州のエリクソン、ノキアなどがW−CDMA方式を、KDDIや米国のクアルコムやルーセントテクノロジーがcdma2000方式をそれぞれ採用していますので、前者を「日欧方式」後者を「北米方式」と呼ぶこともあります。 NTTドコモは、このW−CDMA方式を使って、世界初の第三世代携帯電話サービス「FOMA」の提供を開始していますが、この方式の特徴は広帯域の周波数(ワイドバンド)を利用することによって次のような利点が得られるところにあります。 @ 高効率・高品質の通信を提供 A 移動時にも切れにくい(「レイク受信システム」を採用しているため) B 高速なデータ通信が可能(2 MHz) これまでの携帯電話の数百倍の幅広い周波数帯(5 MHz)をすべての端末が共有して通信することができるようにすることによって伝送効率を向上させるとともに、広帯域周波数を使用することによってレイク受信の機能が向上し、従来のCDMAに比較して高品質な通話とデータ通信ができるようになっているのです。 第三世代携帯電話の普及状況第三世代携帯電話の出現によって国内携帯電話市場の焦点が第二世代から第三世代に移行し、2004/8時点で約25%の第三世代比率が1-2年後には50%を超す見通しが立てられました。第三世代携帯電話機は機能が高い分だけソフトウェア開発費が嵩み、1機種あたり100億円で第二世代の2-2.5倍かかるとも言われています。そのため、無駄な二重投資を避けるため、早々に第二世代携帯電話機の新規開発を打ち切るメーカーも現れ、第三世代を主戦場とする争いが激化がしました。契約者数が飽和点に近づく中で、第三世代への買い替え需要が端末メーカーにとって最大のチャンスともなったからです。
第三世代携帯電話機市場には第二世代を遥かに上回る厳しい競争が起こることが予測されています。例えば、NTTドコモは、第三世代携帯「FOMA」の“廉価版”を発売して世代交代を更に加速する構えでいますが、その販売単価は第二世代とほぼ同等になる見通しですし、世界最大手のノキアが開発・製造に当たることになっています。第二世代では日本独自の「PDC方式」が採られていたため海外メーカーの参入が至難でしたから国内端末市場は国内メーカーが独占してきたのですが、第三世代で日本が国際標準方式を採用するに至って海外メーカーに対して門戸が開かれたのです。今後、このような海外メーカーと並んで国内の新規メーカーにも参入の機会を与えることによって、競争が促進され端末価格の引き下げが推進されていくものと見られています。 2-3-3. ケータイ・ワールドの広がり ケータイの多機能化が進展し、「通話はもはや付加機能」(2003/12/6読売新聞)と言われるほどになりました。「話す」と「聞く」ための電話機能しかもっていなかったところに「書く」と「読む」ためのメール機能が加わったのがケータイ・ワールドの拡大の発端でしたが、「撮る」ためのカメラ機能を備えたカメラ付きケータイの登場により大きなインパクトがもたらされました。更に、同じ「聞く」「見る」にしても音楽・映像などの大容量データを受信する機能が加わった上に、代金決済機能を持つ「お財布ケータイ」まで実現しましたので、今後一層ケータイ・ワールドの拡大が進展することが予測されます。以下に、時代の寵児となったケータイの進化の跡を辿り考察を加えることにします。 (1)カメラ機能 カメラが単機能で目的を持って撮りに行くためのものであるのに対して、カメラ付きケータイは多機能ゆえ携帯する機会が多いので、旅行先や散策の途中で偶然に出会った光景や発見、食べ物などを画像として保存しておくことができます。また、デジタルカメラがパソコンと連動しなければ機能を発揮しきれないのに対して、カメラ付きケータイではメールに添付した画像を送受信することもできますし、写したときの心境をメールのように打ち込んでインターネット日記として公開することもできます。このような便利さと応用範囲の広さが受け容れられて、現在ではカメラ付きが携帯電話の主流を占めてきていますが、最近ではカメラとしての本来の性能も向上し、NTTドコモが2004/7/10発売した電子マネー機能搭載の携帯電話「ムーバP506iC」も、有効画素数195万のカメラを搭載し、最大20倍までのデジタルズームが可能でストロボも備えられています。更に、韓国サムスン電子は、日本のカメラメーカー・ペンタックスと共同で、500万画素のデジタルカメラを内蔵した携帯電話機を開発し商用化させています。 (2)コード読み取り機能
(3)音楽・映像受信機能 元来が音声信号による交信に用いられた携帯電話でしたが、高速大容量なデータの送受信が実現されるのに伴って、同じ音声でもラジオ放送や音楽受信ができるようになりケータイワールドが一段と広がってきました。2003年にKDDIがラジオ受信機能を発売したことを受けて、携帯電話でラジオを聞くユーザーが増えてきました。さらに、楽曲の一部を着信音にできる「着メロ」の延長線上に音楽をまるごと配信するサービスの提供や、これに対応する携帯電話の供給が開始されています。
一方、ケータイカメラによる静止画の延長線上に、携帯電話によるテレビ電話などによる動画の送受信が行われるようになり、更にケータイによるテレビ放送受信が本格化しようとしています。2006年4月には、世界に先駆けてケータイ向け地上デジタル放送「ワンセグ」サービスが始まりました。地上デジタル放送の1つのチャンネルは13のセグメントと呼ばれる区画に分けられていて、その中央の1セグメント用いるところから「ワンセグ」と呼ばれるものですが、ワンセグに限らず、地上デジタル放送では番組に字幕を表示することができますので、電車や公共の場において、音声を出力することなく、もちろん、ヘッドホンもしないで番組を楽しむことができます。こうした「放送と通信の融合」によって、更にケータイワールドは大きく広がるものと考えられます。
(4)位置確認機能 GPS(後述)対応型の携帯電話端末を持てば、自分の現在位置を確認することができますし、他人にそれを知らせることもできます。ですから、ビジネス環境でも、例えば、外出の機会が多い営業社員に持たせれば、パソコンや携帯電話の画面上から営業担当者の位置を確認することができ、この位置情報を活用することによって、より効率的な営業が可能になります。「平成16年度情報通信白書」でも、GPS携帯を企業のユビキタスネットワークを構成するコンポーネントとみて、以下のような図を紹介しています。 (5)電子財布機能 「お財布ケータイ」として初めて登場したのは、NTTドコモが2004/7に発売したICカード搭載型の携帯電話「iモードフェリカ」でした。これと同時に開始された「iモードフェリカサービス」によって携帯電話で決済することができるようになったのです。当面提携しているのは、エーエム・ピーエム・ジャパンや日本コカ・コーラなど39社だけでしたが、携帯電話が財布代わりになり携帯電話をかざすだけでコンビニエンスストアや自動販売機での支払いができるようになることによって電子マネーの普及に普及に弾みがつき注目度を高めてきています。例えばエーエム・ピーエムでは、買い物をする時にカード読み取り装置を内蔵したレジに携帯電話をかざすだけで支払いが完了します。支払いに使う電子マネーは、クレジットカード会杜などを通じて購入し、あらかじめ携帯電話に蓄えておくことができ、一連の操作は携帯電話からインターネット経由で済ませられます。 「iモードフェリカ」は、非接触ICカード「フェリカ」を半導体チップ化して第三世代携帯電話「FOMA(フォーマ)」に搭載したもので、当面発売されたのは4機種でしたが、NTTドコモでは搭載機種を順次広げ、将来は標準装備する計画をもっています。非接触ICカードそのものは、既に、東日本旅客鉄道(JR東日本)が乗車券「スイカ」として活用しているほか、コンビニエンスストア「am/pm」などの店舗の料金決済にも利用されていて「スイカ」を支払いに利用できる店も増えつつあります。この非接触ICカードを内蔵し携帯電話と一体化することにより、大量のデータを記録することのできるICカードの機能と、ネットから入金したり残高などを液晶画面に表示したり携帯本来の通信機能が融合したわけです。これによって利便性が一段と高まったことが、買い替え需要が主流となっている携帯電話機市場におけるシェア維持・拡大の決め手になるものとNTTドコモでは見ています。
NTTドコモは、電子マネーを記録したカード内蔵携帯を財布代わりにして買い物ができる商業施設の範囲を拡大したり、クレジットカード会社とも提携し、インターネット経由で携帯に入金し銀行口座から代金を引き落とす仕組みも拡充したりするため各方面と折衝してきました。また、東京三菱銀行などでもキャッシュカードとして利用できるようになりましたが、このような直接的な電子マネーによる決済手段としてだけでなく、その他の用途が拡大することが「iモードフェリカ」のシェア拡大をもたらし、それが結果的に電子マネーの普及につながるものと見ています。特に、2005年後半から「モバイルスイカ」として東日本旅客鉄道の定期券として使えるようになり「財布に乗車券に」が実現し、極めて大きなインパクトが与えられました。 現に、ビックカメラなどのように、ポイントカード機能を持たせ販売促進に用い始めた小売店も現れてきています。店頭のレジにカードで携帯電話をかざすだけで、通常のポイントカードと同じようにポイントがたまる仕組みです。常に持ち歩く機会が多い携帯端末ですから、カードの持ち忘れが防げます。近い将来JRの改札機にも使えるようになることも後押しして「iモードフェリカ」への買い替えの有力な要因となることが考えられます。一方、東宝はIC携帯を読み取り機にかざすだけで映画館のチケットを発券するシステムを稼動させています。携帯のネットを使ったクレジツトサービス機能を利用して事前に料金を支払えばチケットのデータをダウンロードすることができます。「独自のICカード発行も検討したが、年に5回程度の映画鑑賞のためにいちいちカードは持たない。携帯にカードがドッキングした利便性は大きい」と東宝の当事者は語っています。これらのサービスはICカード機能を使った情報サービスですが、こうした携帯/ICカード融合効果が受け容れられて、2年に1度買い替えられるという携帯電話の世界でIC携帯が主流になれば、電子マネーを搭載して利用するケータイ・ユーザーが爆発的に増えるものと期待されています。 以上のような様々なビジネスの可能性を持つ「iモードフェリカ」ですが、普及するのにはまだまだ多くの課題が残されています。会員券やネット決済などで「iモードフェリカサービス」を活用しているのは、2004/7の発売時点で東宝やソニーファイナンスなど数社のみで、準備中という企業もあることはあるのですが、「サービス導入のメドがまだ立たない」という企業が圧倒的に多い状況です。前述の東宝の場合でも、50台の発券端末の切り替えやソフトの開発費用などに1億円近い投資が必要だと言われます。1枚500-1,000円と言われるICカードの発行費用は不要ですが、ソフトウェアも個別企業ごとの手づくりに近い段階ではコスト高になるのもやむを得ません。 電子マネーの場合も店舗にとっては経費負担が重いものになります。大丸ピーコックは「iモードフェリカ」の普及も視野に入れて、2004/6から全64店でエディの決済端末を導入し、同7月にはカードに電子マネーを蓄積するための入金機も全店に設置しました。導入費用は通信費を含めて年間6-7百万円になりますので、先進的なイメージを打ち出すのが狙いとはいえ、よほど利用率が高まらないとペイするものではありません。 また、来年からスイカが利用できるようになると、1台10万−15万円かかる店舗の読み取り機はエディとスイカでそれぞれ必要になるという問題もあります。 投資額の大きさの割に期待効果が小さいので、多くの小売店が模様眺めしているのが現在の姿ですが、すべての新機軸製品・システムがそうであるように、一定の普及率を超えると急激にコストが下がり逆に効果が高まる可能性があります。普及の速度と傾向を注目しながら、バスに乗り遅れるリスクを負わぬよう注意と必要な準備をしておく必要があります。 盗難や紛失に備えて、「iモードフェリカ」の一部には本人確認用の指紋認証機能や、他の電話からの操作で決済サービスを使用不能にする機能も付けられています。また、「携帯は今や若者には一番大事な物。頻繁に使う分、財布よりなくしにくい」という声もあります。しかし、もともと乗車カードとして開発されたところからも分かるように、「フェリカ」には非接触で処理が速いという利点があるのですが、これを電子マネーに使うことについては疑問の声もあり、高度な公開鍵暗号を用いた暗号処理方式のICカード規格に比べると安全性は必ずしも万全とは言えません。 また、携帯を通話目的で盗まれる例は少ないのですが、最近は携帯に保存された個人情報を狙って盗まれる事件が発生しており、しかも今度は現金まで入っているとなると、狙われる可能性がさらに高くなります。上位機種にはなくした時に遠隔操作で電子マネーを使えなくする機能が盛り込まれていますが、大事な情報やお金を一カ所に集める危険性は依然として残っているわけです。 ネット社会の利便性を享受するためには、ある程度は個人情報を提供しなければならないケースが大半です。その場合に、全くオープンなインターネットよりも専用の携帯ネットを使って本人を特定することができる「お財布ケータイ」の方がむしろ安全で、個人情報の漏えい問題などでは携帯やパソコンによるインターネット決済に比べて安全性は高いともいわれています。「iモード・フェリカ」の普及が安全性に対するユーザー側の評価の試金石になるものと考えられます。 (6) クレジット機能 ICチップを埋め込んだ携帯電話「お財布ケータイ」を読み取り端末にかざし、クレジツトカードと同様に買い物代金を支払う仕組みの携帯クレジットも2005年にサービスが開始されています。電子マネ一は事前入金が必要ですが、携帯クレジツトは後払いなので不要で、代金は通常のカードとまとめて請求されます。素早く決済できるためコンビニエンスストア、ドラッグストアなど商品単価が低く、レジに行列ができやすい店での買い物に適しているとされています。 問題は、携帯クレジットや電子マネーは将来の利用拡大を見込んで多くの企業が参入したため、規格が乱立していることで、後払い方式の携帯クレジットでは、NTTドコモや三井住友カードの「@D」、ジェーシービー(JCB)やトヨタファイナンスの「クイックペイ」、UFJニコスの「スマートプラス」の三規格が競い合っており、事前入金が必要な電子マネーに関しても、東日本旅客鉄道(JR東日本)の「スイカ」、ビットワレットの「エディ」などがあります。普及を妨げている「ばらばらな端末」を以下に共有化できるかが今後の大きな課題になっています。 2-3-4. ケータイの進化の方向デジタル化されたとはいえ通話が中心だった携帯電話を「第2世代」とし、メールや着メロなどのデータ通信を普及させたものを「第2.5世代」と位置づける考え方があります。「第3世代」携帯電話は、更に、音楽や動画などのダウンロードを可能にした技術で、ケータイ・ワールドを大きく広げるものでした。将来的には、IMT2000の高速通信とブルートウースB1uetoothという近距離無線通信技術とを組み合わせて携帯電話を使った家電制御はもちろん、外出した時に留守宅の戸締りや火の元を確認したりするなど、安全面でも利用価値が出てきますし、更に「第4世代」携帯電話が実現すれば、暮らしもビジネスも様変わりの変容を遂げることが予測されますが、これらについては第10課「ユビキタス・ネットワーク」で詳論することにします。 しかし、「第4世代」に進化する前に、第3世代携帯電話の技術を発展させ、データ通信速度を10倍に高め更に高速・大容量のデータのやり取りを可能にした携帯電話サービス「第3.5世代携帯電話」が実現して注目を集めています。「3.5世代」と呼ばれる理由は、第3世代技術「W−CDMA」の伝送効率を高めた「HSDPA」と呼ばれる通信方式を用い、通信速度がギガビット級になる「第4世代」が基地局などに巨額投資が必要になるのに対して、現在の第3世代用の通信インフラをそのまま活用して高速化できるところにあります。 NTTドコモが先陣を切った第3世代では、音楽や動画受信ができるようになったのですが、3.5世代では更に大容量のコンテンツが楽しめるようになりました。KDDIが2003年に先行し、NTTドコモが追う形で、2006/8/末にHSDPA規格対応の機種を発売しました。データの受信速度は、毎秒3.6メガビットとFOMAの約10倍。ボーダフォンもブランド名をソフトバンクモバイルに変更した2006年10月をめどにHSDPAのサービスを開始、KDDIも2006/12に通信速度をもう一段上げる予定です。ナンバーポータビリティ制(番号継続制度)の開始や、2007年からのイー・モバイルとアイピーモバイルの携帯事業参入見通しによって顧客獲得競争が一層熾烈化することが予測される中、携帯電話各社が相次いで第3.5世代を投入し、もはや主戦場が第3世代から3.5世代に移行しつつあるかのような感がします。 データ量が5メガバイト程度の音楽の場合、第3世代だと受信に2分くらいかかりますが、第3.5世代だと10秒程度で済みます。通信速度の向上だけでなく、料金の定額制が広がるのに伴って音楽番組の丸ごとダウンロードの他に、ネットへの動画の高速送信など、携帯電話の使い方がより多彩になります。プロモーションビデオや映画の予告などの動画配信サービスも、画質が向上し1本当たりの時間も従来の1分程度から5分程度に延び、携帯向けとパソコン向けのネット空間の垣根が崩れてインターネット上の情報量の多い一般サイトも閲覧しやすくなります。動きのあるアニメーションが掲載されるような容量の大きい携帯電話向けのサイトも登場する可能性もあります。双方向にデータ通信する機能が強化されるので、携帯電話でのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログへの書きこみや画像送信もしやすくなり、鮮明な画像のテレビ電話サービスも利用可能になります。 民間シンクタンクは、2010年までにほとんどの携帯が第3-3.5世代に置き換わると予測しています。その次の第4世代は規格が定まっておらず、実現に向け実験中。通信速度は、100メガから1ギガと、現在の有線での高速大容量(ブロードバンド)通信並みになりますが、サービスの開始は2010年以降と見られています(2006/8/28 2006/8/22 2006/9/17 日本経済新聞)。
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3.オートモバイル・コミュニケーション
通信技術の進歩は、自動車関連のコミュニケーション・メディアにも変革をもたらし、道路交通の姿を大きく変容させようとしています。 |
3−1.カーナビゲーション・システムとGPS
GPS(全地球測位システム:Global Positioning System)とは、アメリカが打ち上げた24個の衛星からの電波を受信して、自分の位置を割り出すシステムのことを言います。当初は軍事用に開発されたものですが、その後、運輸や災害救助などの平和利用が促進され、カーナビゲーション・システムや、携帯電話やPHSと連携して所持者の所在位置を正確に教える位置情報サービスなどに応用されるに至っています。 auがGPS搭載の携帯を投入した(2001/12)当初は、利用者が操作を始めてから位置情報を得るまで数十秒かかるというのが理由で普及が進みませんでしたが、子供が被害に遭う犯罪が目だってきた2003年頃から注目されるようになりました。
KDDI(au)が2005/9に開始したサービス「EZ助手席ナビ」は、携帯電話機とカーナビゲーションシステムを直接連動させたもので、携帯画面をそのまま使う簡易版ながら、音声案内や渋滞情報も受けられます。自動車運転中の携帯電話の使用は道路交通法で禁じられていますので、運転者以外の利用が想定されていますが、目的地を入力すると画面に地図が表示され、交差点では「500メートル先、左方向です」などという音声での道順案内が得られる他、渋滞情報とも連動しているので短時間で到着できる道を選ぶのにも役立ちます。駐車場の情報も提供されますが、乗車中だけでなく下車してからも利用でき、駐車場から目的地までの徒歩での道順も示されます。 カーナビゲーションの原理を応用して、GPS受信機と携帯電話により視覚障害者に居場所を案内し歩行の手助けをするシステムもあります。利用者が目的地に到達できるように音声で現在位置を案内したり、交差点でどちらに曲がったらよいかを指示したりします。利用者は衛星からの電波を受けるGPS受信機と磁気方位センサーを携帯電話に接続したものを持ち歩きます。携帯電話でGPS基地局を呼び出すと、利用者の位置と方向のデータがGPS基地局に送られ、基地局に設置したコンピューターが場所を探します。その結果「あなたは今○○の前にいます」などと案内してくれるのです。自動車向け情報サービスが開始されカーナビの用途が多彩になるとともに、カーナビの側にも通信機能を内蔵した「通信ナビ」が登場するなど多機能化が進んできました。
地上デジタル放送の中のデータ放送を利用することによりカーナビへ様々な情報提供することも技術的には可能とされています。今後、種々の問題点を解決して新たなシステムが実用化するものと期待されています。 |
3−2.ITS(高度道路交通システム:Intelligent Transport System)
前述の通り、インターネットに接続して観光案内を検索したり地図データを更新したりできる車載情報端末やカーナビゲーションシステムや、カーナビと連動できる携帯電話などが相次いで登場したりして、自動車関連の情報技術(IT)化も加速してきました。そして、この流れの先にあるITSの姿が一部現実化するとともに、具体的な将来像の全体が姿を鮮明に見せ始めてきました。 ITS(高度遣路交通システム:Intelligent Transport System)とは、カーナビゲーション・システムに、渋滞回避や高速道路の自動料金収受、危険警告機能などをもたせようというものです。現在のカーナビゲーション・システムは車の進行に合わせて進路を表示するだけのものですが、これが更に高度化し、車の司令塔として多様な機能を持つことになってきたわけです。 例えば、移動体通信で送られてきた渋滞や事故の情報、気象情報などを整理して渋滞やトラブルを回避できる経路を画像や音声で知らせます。さらには、自動車相互の位置や間隔、周辺の車のスピード、道路のセンターラインや障害物などを自動検出し、究極的には自動車の自動安全走行も可能になります。 ITSとしては以下のようなサブシステムが実現ないし構想されています。
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(Ver.1 2003/12/ 5)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1)
(Ver.4 2006/11/26)
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