コミュニケーションメディア論

第4課 インターネット

電気通信のデジタル化がコンピューター化・マルチメディア化を促し、その進化の方向にマルチメディアでデジタルなコンピューター・ネットワークとして実現し、コミュニケーション・メディアの主役に躍り出てきたのがインターネットでした。そして、高機能化しておりながら機能を発揮しきれずにいたパソコンは、インターネットにネットワーク化されることによって初めて、マルチメディア情報の発信・加工・伝達・検索・蓄積といった多彩な機能を発揮するようになったのです。

インターネットの実現がパソコンの普及を促し、パソコンが膨大な情報が流通する情報空間を構築することができるようになったわけですが、一方では、逆に高性能にして安価なパソコンが普及しなければインターネット時代は到来しなかったということも確かです。

インタ−ネットによって、世界中のパソコンが接続され、from any to anyのコミュニケーションが可能になったわけですから、インターネットの発展史はパソコンの発展と表裏一体の関係があることになります。「インターネット」が、パソコンの存在を前提として、次のように定義されることがあるのも一理あるところなのです。

基本ソフトをもってパソコンを操作し、通信ソフトであるブラウザー(NetscapeMicrosoft Explorerなど)を起動させて文字、画像、音声、動画が混在する文書のハイパーテキスト形式のWWWデータのデジタル伝送を可能にし、世界中のデジタルネットワーク(通信網)で、世界中のパソコンがそれぞれ接続しているプロバイダーを通じてWWWデータの送受信を可能にし、それらのWWWデータ、つまりデジタル情報を利用活用する仕組みをインターネットと言う。

インターネットの経済・経営に及ぼすインパクトについては前期の「インターネット・ビジネス論」で考察しましたので、当講座では主に技術的な側面に焦点を当てながらインターネットの発展過程と構造を概観することにしたいと思います。

1.インターネットの誕生と発展

1−1.ARPAによるネットワーク研究

1960年代、アメリカのARPA(Advanced Research Projects Agency of the Department of Defense :国防省高等研究計画局)は、コンピューター・サイエンス領域の基礎研究に豊富な資金を投下していました。冷戦の対立構造の中で科学、とりわけコンピューター・サイエンスの振興は欠かせぬものであったのです。カネの糸目をつけない軍事用技術開発から民生用の先端技術が派生してくるのはよくあるケースですが、インターネットの起源も実はこのような国防上の基礎研究の一部として含まれていたのです。

(1) ARPA−NET


ARPAは当初、コンピューター利用のコスト低減を目的に技術開発が進めていたと言われています。当時は、コンピューターを利用して研究を進めるのには多額の費用がかかったので、ネットワーク化することによって、コンピューターの資源を地理的に分散している多数の研究者が共有できるようにする必要があったからです。その後、議会でARPAの研究は軍事目的に利用できることが指摘され、国防研究の一環として考えられたのが“復元性のあるネットワーク”アーパネット(ARPANET)だったのです。これが軍事応用から、多様な科学技術研究での協働に用いられ、更に商用に供されて
くことになるのですから、ARPANETがインターネットの原型であったということができます。

1969年、ソ連の核攻撃に備えるため「核攻撃を受けても機能するコンピューター・ネットワーク」をめざして、全米諸都市の大学や研究機関のコンピューターを相互接続する実験が行われました。これによって、地理的に離れたコンピューターに相互に入り込み、その中に蓄積されている情報・データを取り出す実験が成功しました。ここでは、世界ではじめての本格的なパケット交換綱として設計されたネットワークが用いられました。従来の集中管理型のシステムの場合は、管理用のコンピューターが破壊されると全体の機能が停止してしまうのに対して、パケット交換網で接続される分散管理型システムなら、部分的に破壊されたとしても情報通信インフラとしての全体の機能は維持することができるからです。

パケット交換は中央集権的ではなくて分散型ですから、それぞれのノードから破壊されていない複数の伝送路のうちから自主的にルートを選ぶことができますし、伝送路のエラーは自動的に修復できます。いわば、バックアップ回路を機に応じて縦横に構成することができるのです。このような、本来は核攻撃対策として用いられたパケット交換技術が、後のWAN(Wide Area Network)、更にはインターネットの障害克服力強化に生かされているということは大変興味深いところです。


(2) TCP/IP


1973
年から1974年にかけて、以下のような機能を持つTCP/IP(Transmission Control Protocol / Internet Protocol)という仕組みが開発されました。

@ 異機種のコンピューター間でデータ通信できる
A 複数の異なるネットワークを介してコンピューターを接続できる
B 通信回線に支障があってもデータが無事に届けられる

TCP/IPの開発は、これを取り込むことによって、格段に利便性と信頼性の高いネットワーク空間が構築できるのですから、コミュニケーション・メディア生成史上大きなエポックをなすものでした。

1978年、米国政府がコンピューター同士の推奨通信方式としてTCP/IPを認定し、1983年に至ってARPANETもすべてのネットワークをTCP/IPで運用するようになりました。これが、1983年を“インターネット元年”と呼ぶ人がいる謂れです。

(3) NSFNET

NSF(National Science Foundation:全米科学財団)では、インターネットの技術と可能性に強い関心をもち、ARPANETに関与している大学だけではなくさらに多くの大学に普及させることを目的として資金協力を開始しました。これを受けて、研究開発に不可欠となっていたコンピューターの共同利用のために1979年に開始されていたCSNET(Computer Science Network)1986年にNSFNETとなって生まれ変わりました。NSFNETは地域のいくつかの大学をネットワークで接続し、そのネットワークの一つのポイントにスーパーコンピューターを配置し、さらに隣のネットワークと網間接続する方法を取りました。この「網間(Inter Network)」接続こそ「インターネット」の語源となったものですから、NSFNETはネットワーク接続形態の上でも「ネットワークのネットワーク」となり、現在のインターネットに近づいてきたものということができます。

一方また、NSFNETには海外の学術ネットワークから米国のネットワークに接続できるようなアクセスポイントが用意されましたので、NSFNETはアメリカ国内の主要な幹線ネットワークになっただけではなく、地球規模でネットワークを拡大することが可能になりました。NSFNETは、あくまでも学術研究者のためのものであり商用利用には開放されていませんでしたが、国際網(International Network)の側面を持つに至りましたので、インターネットの原型はここに完成したものと見ることができます。

1−2.商用利用に開放

大学、研究所で使われ始めたネットワークNSFNETの便利さが一般に知られるようになると商用利用への開放が求められるようになりました。そこで、1991年、NSFはCIX(Commercial Internet exchange Association : 商用インターネット協会)という組織を設立しました。実は、NSFは政府機関でしたが、NSFNETの運用には民間が関与しており実際にはIBMとMCIの非営利共同事業体であるANS(Advanced Network & Service)によって運営されていました。いずれにしても、CIXが設立された1991年がアメリカにおけるインターネットの“商用化元年”ということができます。

研究者だけが使っていた段階では、専用の回線でコンピューターを常時インターネットに接続して利用する形態が一般的でしたが、商用利用に開放されてからはダイアルアップという利用者が使いたいときだけ電話をかけてコンピューターと接続するという形態が増加しました。そして、接続サービスを提供するインターネットプロバイダー会社が続々と誕生してきたわけです。プロバイダーのおかげで一般の人々も簡単にパソコンをインターネットに接続できるようになり、利用者の増加に伴って、企業もインターネットを用いて事業展開する時代へと進展する基盤が整ってきました。

現在のインターネットは、米国のAT&Tや日本のNTTをはじめ各国の大通信会社が競って張りめぐらした商用の基幹回線によって運用されており、その実体はかつての研究用ネットワークからは相当違ったものとなっています。

しかし、インターネット普及の立役者は何と言ってもWWW(World Wide Web)とその閲覧ソフトの開発であったと言ってもいいでしょう。WWW(ウエブWebまたはスリーダブリュー3Wと略称されることもあります)は、ハイパーテキスト形式、即ち、文字・画像・音声・動画が混在する文書の伝送を可能にしたインターネットの1システムで、それまで文字情報のみがやりとりされていたインターネットの世界がこれによって大きく変わったのです。

また、WWWのもう一つの重要な機能に「リンク」があります。これは、WWWのページ上のボタン(通常、青い文字や青い枠のある画像によって表わされます)をクリックすることによって、そのページから別のページへと「ジャンプ」することを指します。このリンクを次々に辿って、世界中のインターネット上のページを開いていくことが、「ネットサーフィン」です。

包括的なハイパーテキスト機能に基づくWWWを開発して飛躍的な技術革新を惹き起こしたのはスイスのCERNティム・バーナーズ・リー(後にMITに移籍してWWWの標準化を主導的な役割を果たしています)で、Web上での転送を管理するHTTP(ハイパーテキスト転送プロトコル)を発表し、Web上でのポストスクリプトの一種であるHTML(ハイパーテキスト・マークアップ言語)を開発するとともに、共通のアドレスのシステムとしてのURLを開発し、これによってインターネット検索と連携技術を結びつけました。

このWWWのデータを表示するための通信ソフト(ブラウザー)としてモザイクMosaic1993年夏に米国イリノイ大学のNCSA(National Center for Supercomputing Applications)で開発された後に、ネットワークを通じて無料で配布されたことによってWWWの普及が加速するに至ったのです。モザイクMosaicはWWWにアクセスできる画像ベースのプログラムで、たったの9,000行(Windows 95MSNのコード3百万行を入れて1,100万行)のコードでできています。ユーザーにとっては“自動車のハンドルを握る程度の知識ほども要求しないソフト”と言われるほどの使い勝手の良さがあったこともあり、今までに書かれたソフトの中で最も世界に急速に普及したソフトとなりました。このモザイクMosaicが現在の閲覧ソフトNetscapeMicrosoft Explorerなど)の原型となっています。

このようにして技術革新がなされ、商用化されるに相応しいコミュニケーション・メディアとしての形が整った新インターネットこそがビジネスのあり方を変革し、いわゆる「IT革命」を引き起こしたのです。

1−3.NII構想

1992年、ゴア副大統領は全米をカバーした高速情報通信インフラを構築する、いわゆるNII(National Information Infrastructure:情報スーパーハイウェイ)構想と、さらにそれを国際的に発展させたGII(Global Information Infrastructure)構想を提唱して話題を集めました。今ではGIIという名称は消えてしまいましたが、実質的にはインターネットがGIIを取り込んだ形となっています。

冷戦終了後、軍事技術を民生用に転化する過程で、米国の多くの頭脳がIT産業やそれを用いる産業分野に進出しました。優秀な人材が軍需部門から民需部門にシフトすることによって、インターネット及び関連のIT技術が革新されるとともに、インターネットを中心としたITを活用した経営技術が進化し様々な形のBPR(Business Process Reengineering)が実現したのがIT革命の真因ですが、NIIやGIIのような国家政策がこれを力強くサポートした点も見逃すことができません。日本は、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)制定に当たって、アメリカのNII(情報スーパーハイウェイ)構想策定から8年も立ち遅れてしまいました。“ドッグイヤー”といわれるIT分野でのこの立ち遅れを由々しい問題としてとらえる必要があると思います。

<こぼれ話>
ネットワーク観の違い

カナダ・アメリカをドライブしながら考えた。どうして日本の道路通行料は高いのか?第一に考えられるのは、誰しも想起する道路敷設に要する土地代の高さだろう。実際、我々は「只でも入手したくない」ような、使用価値の無い荒野の中や山間地帯を走ってきた。しかし、逆に考えてみると、そんな物流ニーズの低い土地にさえ、しっかりと道路が敷設されているということである。特定の地域を陸の孤島とすることなく、道路ネットワークで結ぶことによって活性化させようとする長期的で腰の据わった道路行政が背後に見て取れるような思いがした。

昨今のIT革新も、PCをネットワーク化することにより、PCが
Personal Computer からPersonal Communicatorに変った時点に端を発している。ネットワーク観の日米間格差が、IT格差とともに道路事情格差に影響を及ぼしているのではないだろうか。道路網というが、日本の道路は本当に「網」になっているのだろうか。PC同士がfrom any to any でつながらなければ真の通信「網」と言えないのと同様に、日本中の地点同士を縦横無尽に結ぶものでなければ真の道路網とは言えない。

また、インターネットの普及によりネットワーク利用料が格安になったのと同様に、物理的な接続だけでなく経済的な接続ができなければ道路はネットワークとして機能しない。実際、僕たちはイェローストーン国立公園の駐車場で、全米各地のネームプレートを目撃した。日本の観光地でもずいぶん遠隔地のネームプレートを見かけるようになったが、高速道路料金の高さを考えると、まだまだ“貴族専用”ネットワークにしかなっておらず経済的接続とは程遠い。(中略)


しかし、自動車輸送コストにおける日米間格差の最大の原因は、道路行政のあり方、なかでも高速道路の運営主体の違いにあると思われる。アメリカでは道路建設コストは税金で賄われているという。従って、「低自動車輸送コスト→米国企業の国際競争力向上→米国企業の収益増による事業税増収→道路インフラ投資財源増大」といったスケールの大きな経済循環サイクルが実現できる。一方、日本では、道路公団なる中途半端な存在があって、高速道路の建設運営も営利事業とみなされ投資額回収のために高い道路通行料が設定される。(中略)
]
小泉サンが唱えている道路公団民営化によって問題が解決するとも決して思えない。道路投資回収期間の短縮化によって経済循環サイクルが一層小さくなるだけのことであろう。採算が過度に重視されることになり、交通頻度が高くて渋滞常習犯になる高速道路しか建設されなくなるということにさえなりかねない。民営化によって経済循環過程が改善されるのは、保有する経営資源が複数企業に分割されて、企業間に競争原理が導入される場合のみである。国鉄が民営化されてJRに名前は変ったものの、これによってサービスのQCDのレベルがどの程度向上したのか振り返ってみれば自明である。

そもそも、高速道路の建設と運営が民間の営利事業として成立している国があるのだろうか。(中略)「国土交通省」の名にふさわしく、国土のネットワーク化を原点とした道路、鉄道、航空の最適ミックスによる全体ベストを追求しなければ小泉サンのカイカクの道は開けてこないのではないだろうか。カナダ・アメリカの道を走りながら日本の道に思いを寄せた。

(マイホームページ「還暦記念カナダ・アメリカ西部ドライブ旅行」より)

1−4.日本でのインターネット誕生の経緯

1984年、電子メールやネットニュースを定期的に流すための、大学間ネットワークJUNET(Japan University Network)が開始されました。これは初期のARPANETのように、東京大学、東京工業大学、慶応大学の3大学が接続されていただけのものでした。しかし、NTTからネットワーク回線を電話用として使わないことを条件に、他の大学との接続の許可を得、ネットワークが拡大し、これが日本のインターネットの基幹となりました。

日本では、1988年にWIDE(Widely Interconnected Distributed Environment)プロジェクトによって日本でのインターネットが慶応大学を中核として立ち上げられ開始されましたので、この年が日本の“インターネット元年”とされています。そして1993年、米国のCIX(Commercial Internet eXchange Association : 商用インターネット協会)の動きを受けてIIJ(Internet Initiative Japan)が設立され、これがAT&Tなどとともに商用サービスを開始しました。ですから、この1993年が日本のインターネット“商用化元年”になるわけですが、同じ1993年の4月には日本ネットワークインフォーメーションセンター、12月には日本インターネット協会がそれぞれ設立されましたので、1993年に日本の基盤が整ったということができます。

1994年後半には、ニフティサーブやPC-VAN(BIGLOBE)などの大手コンピューター情報サービス企業がWIDEプロジェクトヘの参加を表明しました。そして、実用化を目指すインターネットを介した電子メールの送受信実験の実施、プロバイダーの急成長と1995年におけるWindows95の発売などとあいまってインターネットの普及に弾みがつくに至ったのです。

2.インターネットの仕組み

インターネットの特徴は規模がダイナミックに大きくなっていくことに耐えられる仕組みになっているところにあると言われています。実際、細胞分裂しながら増殖するようにインターネット人口は増えてきていますが、それが可能なのは、インターネットが基本的に両端のコンピューターだけで転送の制御をするので中間に負担がかからず、スケールが大きくなっても処理できるからなのです。文字通りWWW(World Wide Web)として急速に世界に広がったインターネットの仕組みについて次に考察してみることにします。

2−1.データ通信に関する取り決め

インターネットの仕組みを理解するには、1980年に標準化されたデータ通信に関する取り決め、すなわち,TCP(Transmission Control Protocol)IP(Internet Protocol)を理解する必要があります。

(1)プロトコル(Protocol)

コンピューター同士が交信する方法は多く存在しますが、交信方法が統一されていなければ交信することができません。そこで、先ず考えられたのが標準プロトコルの取り決めでした。プロトコルとは、データ通信を行なう際に、データどのような形式で記述され、どのような手順で送信されるのかを示すものであり、データの形式とその処理のされ方を取り決めたものです。インターネットで使用されるプロトコルは「TCP/IP」と呼ばれるもので、これは20を超える関連規則を含めたプロトコルの総称で、その中で基本となる二つのプロトコルのTCP(Transmission Control Protocol)IP(Internet Protocol)とから命名されたものです。

TCP/IP (Transmission Control Protocol/Internet Protocol)のためのリファレンス・コードとなったバークレー版UNIX (BSD Unix) の開発に重要な役割を果たしたのが、サンマイクロ社の創設者の一人のビル・ジョイでした。ビル・ジョイが、TCP/IP50kbpsARPANETからEthernet上で走るように改善し、そのコードを無料配布することでインターネットを可能にしたのです。サンマイクロ社は1988年に「ネットワークはコンピューターである」と宣言しましたが、その“ネットワーク”とはTCP/IPを組み込んだビル・ジョイのNFS (Network File System)を意味していました。「サンはインターネットが存在する以前からインターネットを販売していたのだ」とする論者の根拠はここにあります。

(2) レイヤー(Layer)

コンピューターからコンピューターヘとデータが移動する場合、複雑なプロトコルによる通信が行われます。これを理解するためには、レイヤー(Layer=階層)という概念を導入して考えてみると分かりやすいでしょう。例えば、話し言葉で情報が伝達される場合、実際には複雑な流れがありますが、それを階層に分けて理解すると以下のようになります。
@ 伝えたい概念や内容を組み立てる(内容)
A 概念や内容を言語に変換する(言語)
B 言語に対応するように喉頭を振動させて声という空気の振動に変換する(伝送路)

相手に伝わるのは表現したいイメージではなく、空気を振動させる音声言語ですが、この場合の空気はインターネットにおける銅線や光ファイバーに当たります。空気振動を介して音声言語を受け取った聞き手は話し手が行ったのとは逆の階層を遡って(B⇒A⇒@)話者の内容を認知し理解します。このように、情報が伝達される仕組みは階層を設定することによって明確に理解できます。

ネットワーク上のコンピューターの場合もこれと同様に考えることができます。国際標準ではデータ通信についてはレイヤーを7層立てにしていますが、インターネットでは以下の通り7層のレイヤーを4層にまとめています。パソコンを操作してデータを送受している時、実は、さまざまなプロトコルの働きでデータは第1層から第4層の間を行き来して加工されているのです。

4層のレイヤー
<名称> <機能>
第4層 アプリケーション層

インターネットの各種サービスを実現する層
   (TELNET,FTP,SMTPなど)

第3層 トランスポート層 異なるコンピュータと通信する層
   (TCPなど)
第2層 インターネット層 インターネットのアドレスを実現する層
   (IPなど)
第1層 ネットワーク
・イン
ターフェース層
物理的な伝送路を使ってデータを送受信する層
   (PPP,伝送媒体など)

それぞれのレイヤーは独立していますが、ネットワークを成立させるために、上位のレイヤーは下位のレイヤーの助けを借ります。複雑な手順を相互に関連する独立のレイヤーに分割すれば、それぞれのレイヤーの内容が明確化・単純化され、保守や設計が容易になります。こうしておくと、あるレイヤーが大幅に変更したとしても、その影響を受けるのは隣接した上下のレイヤーとのインターフェースの部分だけで済むからです。

(3) IPアドレス(lP Address)


ネットワークには多くのコンピューターが接続されていますが、個々のコンピューターが識別されなければネットワークとして機能することができません。そして、個々を識別するものが「アドレス」と呼ばれる数字なのです。ですから、それぞれのコンピューターにはそれぞれ異なった(ユニークな)数字が割り当てられ、数字の付け方についても厳密に規定される必要があります。ネットワークアドレスにはネットワーク部とノード部があって同じ番号は存在しません。インターネットではこれをIPアドレスと呼びますが、これはインターネットに接続されたコンピューターに与られた固有のアドレスです。

IPアドレスの長さはIPv4(Internet Protocol Version4)では32ビットで、これを8ビットごとに区切った表記を「標準ドット表記」と言います。
ところが、インターネットの急速な普及によってアドレス空間が不足することが確実視されてきました。IPv4ではインターネットのアドレス長が32ビットなので識別できるアドレスは43億個程度であり、すでに半分ぐらいは割り当て済みとなり、今後アドレスが足りなくなるのが必至となったのです。そこで、IPv6(Internet Protocol Version6)を標準化し、ビット数を32から128に増やしたのです。IPv6ではアドレス長を4倍の128ビットに拡張できますので、識別できるアドレスの総数は43億の4乗となり、世界の総人口を考えても十分なアドレス空間が確保できることになったのです。

(4) パケット(Packet)

インターネットではデータはそのまま送られるのではなく、パケットという小片に分けて送られます。分割して送ることには二つの意義があります。まず、何台ものコンピューターに共有されているネットワークを有効に使えるという利点があります。データを宛先やデータを再構築するための情報を付加したパケット単位に分割して送り、受け取った側はこの情報に基づいてパケットをつなぎ合わせてもとのデータに復元することができるので特定の回線にデータが集中するということがなくて済むからです。

さらに、エラーの修正が容易だという利点があります。データが銅線や光ファイバーを通過する際のエラーは必ず一定の確率で起こりますので、大きなデータをまるごと伝送したら発生するエラーのためにいつまでもデータは着信しなくなるかもしれません。しかし、小さなパケットに分割して送れば、エラーが発生してもその部分だけ再送信すればいいということになります。パケットのサイズは伝送エラーが発生する確率から得られる1回の最大の伝送量よりも小さくなっています。そして、エラーが出たことによって再送信されたパケットがまたエラーになる確率は1個のパケットで伝送エラーが発生する確率よりも当然小さくなります。インターネットで当初からデータはパケットで送るという方法が取られてきた所以です。

(5) ルーター(Router)

ネットワークは複数のコンピューターから成り立っており、あるネットワークと物理的に隣のネットワークを接続する装置をルーターと呼びます。ルーターはIPアドレスを理解してデータの経路を選択します。パケットに付加されたアドレスからネットワークのどの経路にデータを送り出したらいいのかを判断できるのです。この選択のためのプロトコルもインターネットプロトコルの一つです。

ルーターを使う理由は二つのネットワークの接続関係を保ちながら切り離すことができるところにあります。一見矛盾するように見えることを同時に実現できることは、異なるネットワークを相互に接続する上で大きな意味をもちます。隣接して接続される二つのネットワークが別々の組織によって運営されている場合はさらに重要な意味をもちます。

すなわち、ルーターによってネットワークは完全につながっていますが、ルーターをはさんだ両側に別々の所有権を設定できるからです。また、ルーターにはある種のフィルター機能があり、自分のネットワークの中と外の関係を制限することができます。どのようにデータの流通を制限するかという設定もできます。たとえば、ネットワーク内から外部へのアクセスはできても、外から中へのアクセスができないようにすることができます。これがファイアーウォール(防火壁)の原理です。企業などのコンピューターがインターネットに接続されている場合に多く使われるものですが、このようにして外部からの不法侵入を防止する壁として機能するのです。

ルーターによるパケットの経路選択をルーティングといいます。ルーターはネットワークの接続の状況をデータベースとしてもっていて、データの送り元から宛先までの通信経路が最適になるように隣のネットワークヘデータを送ります。

(6) ドメインネームシステム(DNS: Domain Name System)

あるネットワーク内のDNSはネットワーク内のネットワーク毎に分散して配置されており、その中のコンピューターの名前を集中的に管理し、外からの問い合わせに答え、アドレスを変換してIPアドレスを通知するというような動作をします。IPアドレスは数字ではなく文字列を使います。その方が覚えやすいからですが、ネットワークで使える文字列と数字のIPアドレスを変換するコンピューターがあるからこそ、文字によってサーバーを参照することができるのです。

さて、インターネット接続事業者(プロバイダー)に電話をかけた場合、まず、ユーザーの認証が行われます。これはユーザーIDとパスワードで行われますが、これもDNSの働きの一つなのです。

IPアドレスとドメイン名とは一対一で対応しています。インターネットに接続されている利用者を識別するために、「利用者名@ドメイン名」すなわち「利用者名@ホスト名.組織名.組織種別.国名」という文字列を使います。@以下がドメイン名になるのですが、このうちの「組織種別」は日本の場合、企業ならco.政府組織はgo.大学ならac.となっています。また国名は2文字の英文字で表現します。ただし、インターネットの発祥地であるアメリカの場合は、国名はなく組織種別でドメイン名は終わります。たとえば、企業(Commerce)Com.政府機関(government)gov.教育機関(education)ならedu.というようになります。

インターネットの管理 米主導に途上国反発

インターネットの管理体制を巡る国際的な対立が表面化してきた。インターネットの管理を巡っては、ネット誕生の地である米国で民間組織ICANN(ドメイン名とIPアドレスの割り当てに関するインターネット法人)が1998年に発足。米商務省との合意に基づき、ネット接続の根幹をなすルートサーバー・システムの管理やネット上の住所を表すドメイン名の割り当てなどを行っている。しかし、ICANNにたいしては、「姿勢が米政府や米IT(情報技術)企業寄り」「運営が閉鎖的」との批判が強い。こうした現状に有力途上国は世界情報社会サミットの事前折衝の場で反対姿勢を示している。中国のほか、ブラジル、南アフリカなどが米国の傘の下で民間主導で進むネット管理の改革を要求し、事前折衝は難航している。中国などは政治宣言でインターネット管理に「政府間組織」が関与することを明記するよう主張。具体的にはICANNの業務を、情報通信に関する国際規格作りなどを進める国連専門機関、国際電気通信連合(ITT)に移管する案を示している。米国はもちろん欧州連合(EU)、日本など先進国はICANN支持の立場で、議論は平行線の状況で、12月に開く世界情報社会サミットの争点となりそうだ。
2003/10/13日本経済新聞)

2−2.インターネットの利用条件

パソコンをインターネットに接続するには、通信回線、プロバイダーとの契約、インターネットブロトコル対応ソフトの組み込みが必要になります。

(1) 通信回線


接続するには有線であれ無線であれ、なんらかの伝送路が必要になります。電話やケーブルテレビのように電線や光ファイバーケーブルでもいいし、携帯電話やPHSのような無線でもかまいません。

接続には専用線接続とダイアルアップ接続があります。企業や大学などは多数の人々が使用するので専用線を自前で敷設するケースが多いのですが、専用線の場合はインターネットのためだけに設置されていますので、いつでもインターネットに接続できるほか、自社あるいは自学でインターネットサービスのためのサーバーを運営することもできます。

一方、ダイアルアッブ接続の場合は、インターネットを利用したいときだけ接続しますので、プロバイダーに電話をかけてインターネットに接続し、終わったら電話を切ってインターネットからも切り離されます。使用頻度が低いユーザーにはこのダイアルアッブ接続が最も安価に利用できるので初期段階にはこの接続方式が一般的でした。

電話線はもともと音声(=アナログ情報)を伝達する目的で設計されているため、コンピュータ-の出力(=デジタル情報)をそのまま伝送する事は出来ません。従って、モデム(Modulator & De-modulator: 変復調装置)を使って一般加入電話回線で接続する形がとられていました。

しかし、ISDN(Integrated Services Digital Network : 総合サービス・デジタル通信網)によるサービスが開始されると、ターミナル・アダプター(TA: :Terminal Adopter)を使って接続する形になり、伝送スピードが高まるとともに、1本の回線での音声とデータとの同時通信ができるようになりました。しかし、伝送スピード向上のニーズはISDNでは満たしきれるものではなく、次いでADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)接続やケーブルテレビ会社によるインターネット接続サービスなどによって、定額料金による高速常時接続ができるようになりました。この点は第5課「ブロードバンド化」で詳細に考察することにします。

また、インターネットへの接続は有線ばかりではなく、携帯電話などを使った無線でも可能になりました。これもブロードバンド化とならんでインターネット利用の高度化を実現したコミュニケーション・メディアの一大潮流ですので第6課「モバイル化」で詳細に考察することにします。

(2)プロバイダー

インターネットに接続するための窓口がプロバイダーですが、契約の形態としては、常時インターネットに接続しておくための専用線接続と、必要な時だけインターネットに接続できるダイアルアップ接続の2種類があります。利用できるサービスはどちらでも同じですが、自分でインターネット用のサーバーをもちたい場合には、専用線に常時コンピューターを接続しておかなければなりません。

料金体系としては、固定料金、完全従量制料金、固定料金&従量制料金の3種類があります。固定料金体系を採用するところが増えていますが、固定料金と従量制料金を取っている大手プロバイダーもあります。使用頻度が高い場合には、使えば使うほど料金が高くなる完全従量制料金は割高になります。

(3) Webページ閲覧ソフト

商用インターネットの普及の火付け役になったのがWWWのサーバー技術とブラウザー技術の開発でした。以前は、インターネットでやり取りされる情報の大半が文字情報だったのですが、WWWサーバーによって、マルチメディアの情報が容易に提供できるようになるとともに、WWWブラウザーの開発によって、インターネット上のマルチメディア情報の検索も格段と容易にできるようになったからです。

「ブラウザーbrowser」とは、「インターネット上のWebページを閲覧するために用いられるソフトウェア」の意味ですが、
ネットケープ・コミュニケーション社(現在はAOLに吸収されている)
Netscape Navigatorと、マイクロソフト社のInternet Explorerが開発されパソコンに標準装備されるようになってからインターネットが爆発的に普及したのです。「ブラウザー」と「Webページ」がインターネットの代名詞的存在になったと言われる所以です。なお、ウェブブラウザーを用いれば、ホームページの閲覧だけでなく、電子メール、ネットニュース、FTPファイル転送などインターネットが提供する諸サービスを容易に利用することもできます。

2−3.インターネットの特性

インターネットによって、データがパケットに入れられて伝送されるようになったので、地球規模での情報流通が可能になりました。あらゆる情報がIPパケットで表現され、インフラを問わず国境を越えて交換されるようになることが確実に予測され、コミュニケーション・メディアがインターネットを基軸として融合する動きも顕著になってきました。

ところで、パケット通信には「生き残ったノードが生き残った経路を自主的に探し出して通信を行う」特性がありますが、これはインターネットの母体となったARPANETがもともと軍事目的で構想されたこととかかわっています。冷戦時代に「やられても生き残るシステム」を目指して構築されたARPANETの特性を色濃く引き継いで生まれたインターネットの特性を以下に整理してみることにします。

(1) 分散システム


核攻撃を受けても機能するシステムとしては中央集権化されておらず分権的なネットワークの組織原理が最適だとされました。この組織原理がコンピューター・ネットワークの構築に利用されたからこそ、各地で形成されたネットワークが自立し独自に動く力をもちながら、全体が強力な分権的ネットワークとして自己増殖的に発達し、世界規模のインターネットが実現するに至ったのです。

なお、軍事利用には必要なかったので、電子メールはもともとARPANETの計画には入っていなかったのですが、スーパーコンピューターを共用するために研究者たちはネットの中で活発に個人間メッセージをやり取りしていましたので、それが商用化されても電子メールとして活かされるようになったという経緯があります。電子メールが、分散システムの中で、インターネットの特性の一つである双方向性(Interactivity)を確保する有力なツールになっていることはご存知のとおりです。

(2) 復元性


核戦争になれば広大な国土の通信回線をすべて守りきるのは不可能です。ですから、各地の回線が切断され破壊されてもなお機能するネットワークが求められたのです。生き残っている回線があれば、それを手がかりに組織を復元し生き延びることができるという発想があったからです。この復元性に対する配慮は分散システムを採用したことと裏腹の関係にありました。すなわち、システムを分散させて小分けしておけば、損傷を受けた部分以外は生き延びられ、損傷を受けても被害が少なくて済み、かつ損傷部分の特定をしやすいから復元が容易だからです。

(3) 非制御性


インターネットでは何者も全体をコントロールできず支配することもできません。管理の中心がなく命令系統がないからなのですが、この特性も分散システムと密接に関係しています。インターネットは小さなネットワークの連鎖で中央集権型の構造ではないのですから、統御しようとしても構造上全体を統御することはできないのです。インターネットにつながることは全世界のネットワークにつながることであり自分の可能性を拡大することになるのですが、「支配しない」という原理が全世界を「支配する」というインターネットの世界の逆説に支えられて各自がそれぞれの可能性を拡大できる仕組みになっているのです

(4) パーソナルなメディア

テレビ・ラジオ放送や新聞・雑誌などの従来のメディアが、「マス」のメディアであったのに対して、インターネットは「個人」が意識されるメディアであるということが言えます。これは、インターネットが「パーソナル」・コンピューターを主要な端末機器として普及してきたことと無縁ではありません。インターネットでは、パーソナル(個人用の)パソコンからアクセスし、莫大な選択肢のなかから各自のパーソナルな(個人別の)目的に応じて情報を検索することができますし、パーソナルに(個人で)作ったホームページを用いて世界中に向けて情報を発信することも、電子メールを用いて世界中のインターネット接続パソコンのユーザーとパーソン・トゥー・パーソン(個人間)の交信をすることもできるからです。きめ細かなone to one marketingが効果的かつ効率的に展開できるようになったのも、パーソナルなコミュニケーション・メディアであるインターネットがあればこそということができます。

3.社会基盤としてのインターネット

インターネットは中央集権的ではなく、無数のネットワークが網状に絡んだ「ネットワークのネットワーク」ですから、コミュニケーション・メディアとして強力にして有用な『光』の部分を多く持つ反面で、無駄も多く様々な不正行為に使われるという『陰』の部分も多く見られます。しかし、もともと軍事目的で開発されたインターネットが研究者用のネットとして利用され、やがて商用利用へと発展し今やコミュニケーション・メディアの中核として社会基盤化しているという事実が、『光』が『陰』を遥かに上回っていることを如実に物語っています。一見『陰』に見える「無駄が多い」システムであることさえ、コミュニケーションの世界では「障害に対して強い」システムという『光』に転化される点にも注意する必要があります。「冗長構成(Redundant Configuration)」とは、障害対策や信頼性向上のために、通常のシステム構成以外にバックアップ用の装置を加えたシステム構成のことであり「冗長」は積極的に評価される表現なのです。

[二重化について]

コンピューター・ネットワーク・システムがダウンしたら大変なことになってしまいます。この機能停止という最悪の危機への最大の対処法が二重化です。ネットワークそのものの二重化、各ノードコンピュータ毎の二重化、ストレージシステムの二重化などになります。
このうち、ネットワークの安全対策としては、以下のような二重化が行われています。

基幹回線=重要な基幹回線は二重化する。
     例:東京〜名古屋〜大阪ルートと東京〜大阪ルートの二重化
これにより東京〜名古屋回線にトラブルがあっても、東京〜大阪経由名古屋への通信が可能になります。同様に東京〜ニューヨーク〜ロンドン〜東京とし、西回り・東回りの何れのルートでも通信を確保可能とするようなこともできます。
アクセス回線=社屋から通信事業者までの回線は複数本張り、回線毎に通信事業者を換える。または、専用線と公衆回線とを組み合わせる。

交換機=2バイ2構成の機器を設置する。

2バイ2とはCPUとメモリーをそれぞれ2セット保有し、以下の何れの組み合わせでも稼動することを意味しています。
         CPU1:メモリー1
         CPU1:メモリー2
         CPU2:メモリー1
         CPU2:メモリー2

電源の二重化=交換機も多重化装置もすべてエネルギー源は電気ゆえ、基本的に最も重要なインフラです。電源確保の為には
@ 引き込み回線の二重化(異なる変電所から電源を確保する)もしくはループ受電
A CVCFもしくはUPSの設置による瞬断並びに周波数・電圧変動への対応
B 自家発電装置の設置(当然重油タンク等の設備が必要)

余裕度:上記の総てに共通な事項ですが安定稼動の為には或る程度の余裕度が必要になります。

3−1.インターネット利用者の動向

普及初期段階のインターネット利用者には(1)圧倒的に男性が多い(2)20代から30代に多い(3)研究職、学生、事務職に多い(4)都市圏に多い(5)高学歴の者が多い等々といった特性がありました。『陰』の部分としては、普及初期の段階から、ポルノ情報の氾濫、インターネット(ex:チャットルームでの出会い)を利用した女性被害者の続出、個人を誹謗・中傷した情報の流通、個人情報の不正流通といったマイナス面が指摘されていました。

しかし、インターネット利用者にも経年変化がみられ、初期段階には圧倒的に勤務先や学校からのアクセスが多かったのですが、2000年ころから家庭からのアクセスが急増してきています。パソコンの家庭への普及に裏打ちされた事象ではありますが、女性利用者が増加しており、メールやショッピングなどの私的利用も進んできたことの証明でもあります。

さらに、携帯電話によってインターネット接続ができるようになってから、特に若者のインターネット利用が増加しました。高価なパソコンを買わなくても携帯電話でメールを送受信できるのが主な理由でしたが、音声通話専用のコミュニケーション・メディアであった「携帯電話」は、メール用更にはホームページ検索用のマルチメディア端末としての「ケータイ」へとすっかり変身してしまいました。

<こぼれ話> 

 携帯おでん?


「佐々木さん、釜山でおでん屋に行った時のことなんですが…」と、2002年ワールドカップの関係の仕事で韓国出張した矢口さんが切り出しました。矢口さんは、東芝では後輩で、へっぽこ魚釣クラブでは同輩で、IT問題では私の師匠に当たるナイス万年青年です。「韓国」と「おでん」の意外な組み合わせに不意を撃たれて思わず発した言葉は、「えっ、韓国にもおでんがあるの?」でした。しかし、すぐに「待てよ、“おでん”のルーツは寧ろ韓国にあるのではないか」と思い直しました。思えば、以前にも、日本語教室の中国人若手研修生達に「日本には折り紙で千羽鶴を作る独特の風習があるんじゃよ」とやったところ、逆に「先生、中国にも昔から同じ風習がありますよ」と私の“日本独特”のものとした思い込みをたしなめられてしまったことがあります。中国大陸から直接、または朝鮮半島経由で、日本に渡来したのに“日本独特”の風物だと思い込んでいる例が結構あって、“おでん”もその類なんじゃないだろうか。現に、日本語の「はなから」の「はな」もハングルの「1(ハナ)」に由来するものだそうですし、「腹ぺこ」の「ぺこ」もハングルの「ペコッパ(空腹)」が語源だということですし・・・。

そこで、インターネットの検索エンジンGoogleで、「おでん 韓国」をキーワードとして検索してみたところ、なんと29,400件ものホームページがヒットしてきました。私と同じように、「韓国の人がおでんをよく食べるのにびっくりした」というような表現が多く、いかに韓国が日本人にとって近くて遠い国なのか改めて感じさせられてしまいましたが、一方では知る人ぞ知るで、韓国のおでんは、とても大衆的な食べ物であっておでんの屋台も至る所にあるのだということが分かりました。そして、多少日本とは食材や食べ方は違うようですが、韓国でも「オデン」とまったく同じ呼び名。さては、「おでん」の語源もハングルにあったかと思って、今度はGoogleで「おでん 由来」を検索したところ、今度は当てが外れました。「おでん」という言葉は煮込み田楽の愛称で、御田と書かれていたんだそうで、更に田楽の語源は田楽舞にあるのだそうですから日本起源仮説が当を得ているように思えます。そして、これが後に関西にも普及し、焼き田楽と区別した「関東だき」と呼ばれ、現在もこの名で親しまれているのだということまで分かりました。「インターネットで得られない情報はない」といいますが本当ですね。これまでは、記憶力が良くて知識量が多くペーパーテストの成績が優秀なことが頭の良さの指標とされてきましたが、このように簡単に必要な知識が都度入手できるようになると必ずしも記憶力の良さは重要条件でなくなってくるような気がします。ペーパーテストの雄である高級官僚が依拠していた前例に関する知識が踏襲する価値を失ってしまっている現状を見ると、今後はむしろ、自分なりに問題を意識して問題解決に対する仮説を打ち立ててゆける能力の方が尊重されていくことでしょう。

さて、話を戻して、韓国は釜山。おでん屋に入って座を占めた矢口さんに、居合わせた韓国人の一人が近づいてきて、にこやかに話しかけてきたのだそうです。韓国人しか入らないお店に一人でふらりと入りこんだものですから、てっきり「この日本人はハングルができる」と思われたのでしょう。ところが矢口さん、好奇心の方は人一倍ですが、ハングルとなると日本人としての人並みで、精々「アンニョンハシムニカ」その他二言三言だけで、くだんの韓国人との会話が成立しません。すると、やおら、この韓国中年男児、携帯電話を取り出してボソボソと。そして、矢口さんに手渡された携帯電話から聞こえてきたのは、「私は×××と申します。×××の仕事をしております。宜しくお願いします」という流暢な日本語でした。聞けば、くだんの韓国中年男児氏の奥様で日本人だったのだそうです。携帯電話が多機能化してケータイになったのですが、“ケータイ通訳”の機能まであるとは初耳でした。そんなきっかけができれば、日韓のミスター好奇心同士、うちとけあって非言語の呑みニュケーションの世界。すっかり出来上がってしまった韓国の方のミスター好奇心は、帰りしなに再びかけた携帯電話で、奥方にこっぴどく叱られている様子だったとか。ところで、インターネット検索によると、「韓国のおでんは、街中にあるマクドナルドやKFCみたいにファーストフード感覚で食べる食べ物」でもあるそうです。となると、テイクアウトすると、それこそ“携帯おでん”になってしまいそうですね。

しかし、それでもなお、高齢者、低所得、不就業者等々ではインターネットの利用率が低く、ITの利用度によって経済的な利害の差が生ずる可能性のある「デジタルデバイド」が問題視されています。従来は、インターネットにアクセスするには、高価なパソコンを購入しなければならないうえに、パソコンの操作を習得するのにも時間と費用とインストラクターが必要でした。しかし、パソコンも次第に低価格化するとともに初心者にも使いやすいユーザーフレンドリーなものになってきました。「ケータイ」や後述する「Lモード」などの非パソコン系メディアの普及とあいまって「デジタルデバイド」克服のための障壁は低くなっていくことが期待されています。

インターネットのビジネスへの活用形態につきましては前期の「インターネット・ビジネス論」でつぶさに考察しましたので、ここでは、特に初期段階からの流れをたどって、インターネット利用の具体的な行動目的を以下の通り取りまとめ、併せてそれぞれの場面で発揮されるインターネットの利点について概説します。

(1) 特定の相手とのメール送受信

インターネットには、電話と違って、交信時間や距離や相手の状況に気を使うことなく自由にメールを送信できるという利点がありますので、気がねなくメールを送ることができます。また、送った時間や内容も記録されますからコミュニケーションの齟齬が起こりにくく、同報メールを複数の相手に送ることもできます。要点を絞ったコミュニケーションが、音声メディアではなくて、パソコンやケータイの画面メディアを用いてできるわけですから、電話と比べて遥かにローコストで確実性の高いコミュニケーション・メディアになるわけです。

(2) 旅行や趣味などの情報入手

格安チケット情報、ホテル情報、気象情報、時刻表情報など刻々と変化する旅行情報を入手する場合、インターネットは他のどのコミュニケーション・メディアよりも優れた効果を発揮します。即時更新性のある情報に対してはインターネットの即時交信性がうってつけだからです。しかも、チケットやホテル予約などは情報検索とシームレスな形でそのまま購入・手配もできるから便利です。また、インターネットの双方向性の利点を活かして、目的地の地図も欲しいところだけ入手できますし縮尺もいくつかの選択岐の中から選ぶこともできます。

趣味情報の場合には、ホームページを検索して専門情報を入手できるばかりか、関係者とのコンタクトを取ることもでき、関連領域のサイトヘのリンクもありますから「コンテンツ間ネットワーク」というインターネットの特性を活かすこともできます。情報入手の方法が他のコミュニケーション・メディアを用いる場合に比べて、遥かに多角的で多彩になるわけです。

旅行や趣味などの身近な情報を、ユーザーが必要なときに必要なだけ入手できるというインターネットの利点は使用体験を通じて実感できるものですから、今後一層身近な情報のコンテンツが整備されていくに従って、身辺情報の収集からインターネット常用者に変わっていくパターンが増えていくものと思われます。

(3)電子掲示板、チャット、ホームページによる情報の提供と収集

信頼性の程は別としても、電子掲示板を閲覧することによって、ある特定の事項に関連する非公式情報を入手することができます。また、掲示板に書き込むことによって、素人でも不特定多数に向けた情報の発信人になり、これに対するレスポンス情報を得ることも可能です。一方、各省庁のホームページから各種白書を読んで公式の情報を得ることもできますし、これに対して意見を寄せることもできます。自分でホームページを開設して情報を提供することもできるし、これに対して不特定多数からの意見を収集することもできます。他のコミュニケーション・メディアには類例のないインターネットのオープン性と双方向性の特性がここでは十分に活かされているわけです。

チャットは、文字によるリアルタイムのおしゃべりで、ネットワーク上の特定サイトに同じ時間に接続してきたもの同士が会話をすることができる機能です。

興味関心が似た者同士にはインターネットを通して出会いの機会が増えることになります。実際には会わなくても共通のテーマについての情報交換をすることができるのですから、ITネットワークによって知縁による人的ネットワークを拡大できるようになったのです。

チャット型メール米で普及
家庭利用6割近くビジネスにも拡大

新型電子メールのインスタント・メッセージング(IM)サービスが、米国で急成長している。家庭でのネット利用者に占めるIM利用者の割合が、2001/4月に6割近くに上昇し、ビジネス利用も浸透してきた。サービスの高度化も進んでいる。最大手のAOLタイム・ワーナーを追ってマイクロソフトなど有カネット企業が力を入れ始めた。

インスタント・メッセージング・サービスは「会話型電子メール」とも呼ばれ、あらかじめ登録した仲間と時差なしでメッセージがやりとりできるサービス。ユーザーがIMサービスのホームページを開くと仲間のだれがネットに接続しているのかが表示され、接続している仲間と即時に交信を始められる。普通のメールに比べ電話での会話に近いのが人気の一因。一般のチャットと比べた場合、相手を確認したうえで交信を始められるのが利点で、特定の関係者に限った情報交換ネットワークを即席でつくることもできる。

各地に営業マンを駐在させる製薬会社が、IMを利用して全営業マンを結ぶ即席の専用ネットワークを構築する利用法などにより、企業内での利用率の上昇は家庭向けを上回っている。
(2001/6/6 日本経済新聞)

(4)専門情報・データの入手

これまでは特定の場所に行かなければ入手できなかった専門情報・データも、少なくとも概要の知識は、インターネットによって居ながらにして収集できるようになりました。更に、メール等を使っての専門家同士、関係者同士の交流機会も増えます。知的活動の内容を深め、広角化し活性化できるのは、インターネット以外のコミュニケーション・メディアには期待し難いところです。

(5)オンラインショッピング

インターネットを通して国内はもちろん外国の商品も居ながらにして自由に買えるようになりました。購入者にとっては商品の選択肢が広がる利点と買い物に行く時間と費用の節約ができるという利点があり、さらには、店頭で購人するのとは違って、さまざまな情報を比較・照合しながら購入できるので衝動買いが減るという利点があります。距離と時間を超越することができるインターネットのコミュニケーション・メディアとしての特性が、遠隔地からもできるオンラインショッピングの普及に拍車をかけたわけですが、これは販売者のマーケティング活動に対しても多大な利点をもたらすものであり多種多様なインターネット・ビジネスを生起させた要因ともなっています。

なお、総務省の「家計消費状況調査(IT関連項目)」によると、平成14年平均のインターネット使用実態および利用環境は以下の通りになっています。

インターネットの用途は1位が情報収集,次いで電子メール
インターネットの利用状況を用途別にみると,情報収集が32.3%と最も多く,次いで電子メールが29.0%,インターネットショッピングが8.8%となっている。
インターネットによる「注文」約1割
商品・サービスの購入のためのインターネットの利用状況をみると,情報収集をした世帯員がいる世帯は20.0%,インターネット上で注文した世帯員がいる世帯は11.5%,支払いをした世帯員がいる世帯は6.1%となっている。
インターネットが利用できる機器の保有状況は30歳以上ではパソコン・ワープロが多く,29歳以下では移動電話機が多い
インターネットが利用できる機器を保有している世帯の割合を世帯主の年齢階級別にみると,30歳以上の各年齢階級ではパソコン・ワープロが多く,29歳以下では移動電話機(携帯電話・PHS)が多くなっている。
インターネットの通信手段は「xDSL回線」の割合が上昇,「アナログ電話回線」が減少
()モード,J-スカイ,EZwebなど電話機で直接インターネットを利用する場合を除き,最も利用頻度の高い通信手段別の世帯の割合を四半期別の推移でみると,アナログ電話回線の割合が10.5%(1〜3月期),9.7%(4〜6月期),8.8%(7〜9月期),8.8%(1012月期)と低下しているのに対し,ADSL回線などのxDSL回線の割合が2.4%(1〜3月期),3.8%(4〜6月期),5.3%(7〜9月期),7.6%(1012月期)と上昇している。
(注) 調査月1か月間のインターネットの利用状況を調査。

3−2.インターネットの問題点

利便性が高く(『光』)インターネット利用者が急増している反面で、インターネットでの情報流通には以下のような問題(『陰』)が伴うもということも正しく認識しておく必要があります。

@ 個人の情報発信が容易である反面、それぞれが無責任な情報発信者になりがちでありプロとしての職業倫理が働き難い
A 匿名で発信できるため、無責任な情報発信や違法行為を心理的な抵抗感なく行ないがちになる
B 違法な内容がサーバーから削除されても、別のサーバーに簡単かつ迅速にコピーできるため、違法な情報が流通し続ける可能性がある
C 国内法によって違法な情報の流通を禁止しても、別の国で違法でなければ、その情報が世界中を流通する可能性がある。ある国が違法な情報の世界的流通を制限した場合には、特定の国の法によって他国にとっては合法的な情報でも流通が阻害されるという問題が発生する
D 特定のプロバイダーが違法な情報の発信または違法な情報へのアクセスを制限しても、他のプロバイダーを利用することによって、当該情報の発信またはアクセスすることが可能になる

以上のように、インターネットには情報流通上の問題が山積しています。印刷メディアであれ放送メディアであれ、情報メディアはこれまでそれぞれ独自の歴史を歩んでき、問題があればその都度当該社会の法的枠組みが適用されてきました。ところが,インターネットの場合は、形態としては公衆網や専用線を用いた通信の一種に過ぎず、プロバイダーも第一種電気通信事業者または第二種電気通信事業者なので、電気通信事業法をはじめとする通信法体系によって規制されるしかありません。広範囲にインターネット情報が流通し、さまざまな影響を及ぼしているにもかかわらず適切な法的枠組みが十分にはなされていないのが現状であると言ってもいいでしょう。

3−3.インターネットヘの対応

(1) インターネットの『陰』の克服

法的枠組みの整備が追いつかないほどのスピードで普及し、コミュニケーション・メディアの主役の座にのし上がったインターネットには、以下のような『陰』を克服するための課題が残されています。

@  現実社会でのルールの適用
インターネットの世界には、「バーチャル(仮想)」や「サイバー(電脳)」という表現があるように、確かにリアル(現実)な社会とは違う側面があります。しかし、バーチャル空間による情報交換がリアル社会の意思決定やビジネス展開に直結するケースが多いのですから、現実社会で違法なものはインターネット上でも違法という判断が下されてしかるべきであるということになります。
A 通信法による規制
B 通信の秘密の保護の適用(A.通信内容の秘密   B.発信者の匿名性)
C 表現の自由の保障
但し、無制限に認められるものではなく、他人の人権、他人の利益との関係で必要最低限の制約を受けます。また、情報が国境を越えて流通するから国外で法に抵触する可能性もありますので、国内的なコンセンサスばかりでなく国際的なコンセンサスを得ながら標準となるルールを設定していく必要があります。
D違法性による対応の明確化
どのような情報を対象にするかを明確にして、「刑事処罰の対象となるか又は民事上不法行為を構成する等の違法な情報」と「違法の程度に至らない有害コンテント」に区別して論議する必要があります。

インターネットには多くの利点がある一面で、玉石混交の情報が流通する状態を制御できないという問題があります。インターネットが社会インフラとして世界中に浸透してきた現在、有害と思われる情報の取り扱いが大きな課題となっています。ちなみに、EU委員会報告では、違法または有害な情報を次のように区分して例示しています。

<有害情報の区分>

@国家安全保障…爆弾製造、違法な薬物製造、テロ活動

A未成年の保護…不正販売行為、暴力、ポルノ

B個人の尊厳の確保…人種差別

C経済の安全、信頼性…詐欺、クレジットカードの盗用

D情報の安全、信頼性…悪意のハッキング

Eプライバシーの保護…非合法的な個人情報の流通、電子的迷惑通信

F名誉、信用の保護…中傷、不法な比較広告

G知的所有権…ソフトウェア、音楽等の著作物の無断頒布

インターネットはまたたくまに世界を席巻し、経済、政治、社会、文化などのあり方を変革しつつ、現代の社会基盤としてすっかり定着してしまいました。しかし、上記の通り未解決の課題も多いため、まだまだインターネットは機能を十全に発揮しきれていないのが事実です。それだけに、インターネットの利用環境に関する配慮が重要視されており、個人情報やプライバシーまたは知的財産権などの保護や、違法、有害情報の取り扱いなどについて、関連技術の開発と併せて社会的なルールの設定が鋭意推進されています。このような技術開発やルール設定の動向に注目し、自らの対応策を先取りして選択してゆくことがインターネット活用上の大きな鍵となります。

(2) イントラネットとエクストラネット

「講義の要求仕様」に例示されている「イントラネット」とは、「インターネット技術を活用した企業内情報ネットワーク」のことを指します。

インターネットの「インター(Inter)」は、「〜の間の」の意をもつ接頭辞としてインターネットの網間接続機能を表しているとともに、国際性(International)や相互変換性(Interchange)、双方向性(Interactive)といったインターネットの特性を表現しています。しかし、いずれもLAN(Local Area Network : 構内ネットワーク)の「外部」におけるインターネットのネットワーク連携機能を指し示しています。

これに対して、イントラネットの「イントラ(Intra)」は「内部」を表します。例えば、インターステート(Interstate)・ハイウェイといえば米国の州と州の間を縦横に結ぶ高速道路網のことですが、イントラステート(Intrastate)・ハイウェイは州内高速道路網になります。クリントン政権下でゴア副大統領が「情報ハイウェイ構想」を打ち出した時にイメージしたのは当然インターステート・ハイウェイのことだったに違いありません。

従って、イントラネットは「内部のネットワーク」ですから企業用としてみると「企業内ネットワーク」ということになります。しかし、企業内情報システムであるイントラネットには、外部との不正な情報流通を阻止しながら「外部のネットワーク」であるインターネットと企業内情報システムの相互乗り入れができる上に、ブラウザーやWebサーバーといったユーザー・フレンドリーなインターネット環境がそのまま使えるという利点がありますので、イントラネットによって初めてビジネスマンにとって本当に使いものになるインターネットが実現したということができます。

例えば、インターネットの電子メールを社内のイントラネットに組み入れたグループウェアと接続することもできますので、自宅のパソコンから自作した連絡文書、広報、閲覧文書などを部内のWebサーバーに登録して社内の情報共有化に供することもできます。

インターネットとイントラネットの関係を図示すると下図のようになります。

イントラネットはLANを介したクライアント・サーバ型分散情報システムを形成する構成になっています。インターネットとの間にはルーターがあって、「外部」からの不正アクセスや「内部」からの不適切な情報流出を阻止してファイアウォール(防火壁)の機能を果たします。

ですから、ファイアウォール(防火壁)の「内部」では、「外部」とのコンタクトに気を煩わせることなく社内情報システムとして機能し、データベースシステムやグループウェアといったミドルウェアとの融合によって、商品・技術情報の共有、各種の社内連絡や届け出、資料の公開などを自在に行なうことができるのです。グループウェアとデータベースシステム(DBMS)の果たす機能を例示すると以下のようになります。
・グループウェア
電子メール、社内情報の掲示板、スケジュール管理、会議室予約
営業情報の交換、製品広報、ワークフロー管理
・データベースシステム
製品情報問い合わせ、顧客情報検索、受発注・伝票処理
グループウェアの代表格である電子メールは、もちろんインターネット以前にも活用されていました。世界中に多くの商用パソコン通信社があり豊富なサービスを提供しており、企業内でもLANを構築し、そこで動く専用電子メールを使うケースもありました。しかし、商用パソコン通信電子メールと専用社内電子メールは一般に相互乗り入れがされていないので、社内から外部へは電話回線接続によるパソコン通信、社内では別にLAN回線をそれぞれ使うという二度手間になっていました。

イントラネットでは、インターネットと相互乗り入れされていますから社外・社内の垣根は存在せず、このような不都合は起こらないわけです。電話の外線と内線の関係に近似することによって、電子メールのビジネス活用はたちまちのうちに増加したのです。

イントラネットは、広く「外部」との間で情報の収集・伝達を行ないながら「内部」での情報共有・共用化をすることのできる新しいタイプのコミュニケーション・メディアですが、コミュニケーション・コストの面でも他のメディアに対して優位にあるため、企業情報通信システムとして急速に普及してきました。以下に、導入成功例として報じられているケースをいくつかご紹介します。

ペーパーレス化で経費節減

米国大手食品メーカのタイソン・フーズ社ではWebサーバーを社内専用の情報検索に使っている。Webサーバーといえばインターネット上でWWWを形成するもので、社外に向けたホームページを載せるのが一般的なやり方だが、タイソン・フーズ社は社外に公開しないのである。数十台のWebサーバーを社内に設置し、部門間の情報交換や社内報の発行、消費者に関する情報の提供に活用している。この結果、ペーパーレス化が進み、年間100万ドル以上の経費削減を見込めたという。かつてのOAの目標とされたペーパーレス化であるが、期待どおり進まず多くは挫折した。それがイントラネットによって実現されたわけである。
インターネットとイントラネットを使い分ける
宅配業大手のフェデラル・エクスプレス社は、ユーザーが配送中の荷物を自社のWebサーバーにアクセスすれば追跡できるようにしている。もともとは社内用のWebサーバーを、社外の一般ユーザーにも公開したものである。ユーザーがいま自分の荷物がどこにあるかを直接知ることができ、きわめて好評であるという。ユーザーは、依頼した荷物が届かないとき電話をかける代わりに自宅のパソコンからフェデラル・エクスプレス社のWebサーバーの情報をみる。そこでトラッキングナンバを入力すると、どこにその荷物があるか調べることができる。これは、膨大なユーザーを対象にするビジネスにとって非常に効率的な方法と思える。すなわち専任のオペレーターも経費も必要ないからだ。
フェデラル・エクスプレス社の例はイントラネットとインターネットを巧みに使い分けたものといえるだろう。このような使い分けは効果的だ。例えば、インターネットを広告、マーケッティング、財務報告、顧客サポート、人材募集、他社に関する調査など対外的な用途に使う。一方、イントラネットを内部コミュニケーション、トレーニング、人事、スケジューリング、技術文書の作成と公開、財務報告などに使う。
ビジネスの国際化ツール

ゼネコン最大手の鹿島建設は、海外の関連会社・事務所との情報交換や共同研究・共同設計、先端技術情報の収集、海外建材調達などにインターネットを活用した。
海外での見積・積算などは、現地法人が行うが、それを専門家が再チェックしたり、本社と現地と受注段階から細かに情報交換したり、海外の設計事務所との図面のやり取りしたりすることも行う。この場合はイントラネットとしての活用になる。これまでは、共同設計をする場合、Faxを利用するか、図面を何枚かのフロッピーに入れて航空便で送るなどをしていた。設計図のやり取りにインターネットが威力を発揮したのである。鹿島建設はインターネットを活用して得た建材の海外調達、人材情報、各国の建設に絡む法律情報、設計基準などをデータベース化(Webサーバー)し、インターネット・イントラネットでこれを活用して安い建設資材を世界中から調達する。鹿島建設では、イントラネット経営によって見積や資材調達など個人のノウハウに頼らなくてもできるようになったという。
社内広報をブラウザで閲覧

富士通はイントラネットのために100台以上のWebサーバーを設置している。その活用法は部署によってさまざまである。広報室では人事異動の知らせに使われている。富士通のように17万人も勤務する大企業にもなると、人の異動は頻繁だ。人事部が作成した文書を広報室がWebサーバーへ登録する。また、社員の電話番号と電子メール・アドレスもブラウザーで閲覧できる。通常ならば紙に印刷して配布するところだが、その必要もなくなる。技術文書の配布なども紙にコピーすると膨大な量になり、コピー経費もかなり高額になる。Webサーバーへ登録し、必要に応じてブラウザーで閲覧することになり、経費も削減されたという。
なお、イントラネットとは別に「エクストラネット」があります。「エクストラExtra」は通常「外部の」という意味を持つ接頭語であると解説されていますが、これでは「外部のネットワーク」であるインターネットとの違いが分かり難くなります。ですから、ここでは、「エクストラExtra」に「追加の」という意味があると解釈します。実際に、エクストラネットは、「内部のネットワーク」であるイントラネットイントラネットの「内部」に「追加の」部分を加えたネットワークだからです。つまり、企業用の場合、企業内の情報システムであるイントラネットに対して、エクストラネットは関連企業・顧客企業との間のネットワークを「追加」したものなのです。インターネット技術を使う点もイントラネットと全く同じですが、エクストラネットはイントラネット上の情報資源を特定の取引先が利用できる環境であり、これによって企業間の協調・連携を可能にするコミュニケーション・メディアであるということができます。

エクストラネットの利用方法には以下のようなものがあります。

・企業同士のコミュニケーションと情報交換
たとえば製造業同士のA社がB社という部品メーカーに部品製造を依頼する場合、仕様書や設計図などの情報を共有すれば便利ですが、この場合、テキスト・データだけでなく、CADデータをエクストラネットによって送受信できればスピーディな開発が可能になります。
・製造または開発上の協働
エクストラネットを用いれば、製造情報の共有だけでなく、製造または開発上の協働をネットワーク上で行うことも可能です。新規開発製品に関する情報(仕様や工程管理など)をデータベースに一元化し、必要な情報を外注先がエクストラネットで引き出して使えるような仕組みを作ることができるからです。これは特にソフトウェア開発に向いている利用方法であり、複数の外注先が開発したプログラムをエクストラネットで集めて最終的なソフトウェア製品としてまとめ上げることができます。
・電子受発注
Web−EDI(電子データ交換)と言われるもので、企業間の受発注をエクストラネットで行うことによって紙の伝票は不要になり、受発注処理が格段にスピードアップします。従来のEDIはVANを利用する必要がありましたので、システム技術面にもコスト面にも制約がありましたが、エクストラネットの場合はインターネット環境がそのまま利用できますので格段に平易な手順と低コストで電子受発注を行なうことができます。

以上のように、エクストラネットはインターネットの利点をそのまま活かしながら企業間で協働して仕事を進めていくためのプライベートな共同ネットワークであるともいえます。日本でのエクストラネット導入事例としては以下の事例が有名です。

書店・図書館連携

紀伊国屋書店が開発したエクストラネット「PLATON」は、同書店の顧客である大学図書館がインターネットを通じて受発注を行なったり、PLATON上に記録されている発注履歴を見たりすることができる仕組みである。図書館側は、パソコンとブラウザーがあれば、PLATONをあたかも自分のシステムとして利用できる。セキュリティはパスワードなどによって守られている。

(3) 「ユビキタス・ネットワーク社会」へ

インターネットは、応用範囲がイントラネットやエクストラネットに拡大してコミュニケーション・メディアの中核の座を確保する反面で、ブロードバンド化が進行してマルチメディア伝達機能が飛躍的に向上するとともに、各種モバイル端末のインターネット接続が可能になるのに伴ってインターネットの利用が高度化するとともに多様化してきました。また、これとあいまって、各種のコミュニケーション・メディアがインターネット空間で統合される(メディア・フュージョン)動きも顕在化してきています。このようなコミュニケーション・メディアの進化の方向は、第5課以降で順次考察していきますが、進化の行く先には以下の新聞記事に示唆されている「ユビキタス・ネットワーク社会」の実現が予測されるということを十分配慮して、現下のインターネットに対応する必要があります。現実世界のいたるところにコンピューターが存在し、意識せずともITが活用できているという「ユビキタス(Ubiquitous)環境」が、インターネットの進化によってもたらされるのです。

第二世代インターネット

インターネットは、従来のパソコンをベースとした第1世代からネット家電による第2世代に移行しつつあり、更にその先には、誰もが時間と場所に拘らず情報ネットワークを利用できる「ユビキタス・ネットワーク社会」が展開する。
(2000/11 日本経済新聞)

「Web2.0」時代の到来

実際にインターネットの本格的な普及から10年たった今、いつでもどこでも情報が得られるユビキタス技術の広がりによって、“インターネット革命の第2幕”とも称される「Web2.0」という概念が台頭してきました。ネット上の様々な情報が連携し合うことによって、特に個人が情報発信の担い手となるところに特徴があり、個人間や企業・個人間で互いに情報を公開し合うことによって、新しいネットコミュニティーの形成が促進され、複合的な利用者参加型のサービスも大きく進展しつつあります。

「インターネットを使って簡単に情報発信」というのは1990年代半ばにインターネットが登場した頃に盛んに叫ばれたキャッチフレーズでした。しかし、実際には、通信速度も遅く、しかも、ホームページの作成・更新などが技術的に難しくて、情報発信できるのはごく少数の人に限られていました。

ところが、2004年頃からブログ(日記風簡易ホームページ)や、プロフィール登録制の掲示板であるソーシャル・ネットワ―キング・サービス(SNS)の登場で情報発信の敷居が下がり、利用者が急速に拡大してきました。世代交代を印象付けるために名づけられた「Web2.0」の実現には、“インターネット上でのソフトの共有”を可能にしたネット・プログラム技術の向上が大きく寄与しているわけです。

ソーシャル・ネットワ―キング・サービス(SNS)の概要

インターネットの利用者に交流の場を提供するサービスで、ネット発の「社交場」とも称されています。友人の紹介がないと会員登録できないなど、限定された会員の間で情報をやり取りするのが特徴で、ブログと違って、悪意のある書きこみなどが排除でき、「穏やかさ」を保つことができます。日本では20043月にサービスを始めたミクシィとグリーが草分けですが、世界的には、2003年にスタートした米国のフレンドスターがSNSの最初とされています。
当初は自分のプロフィールを公開し付き合いのある友人を紹介し合うだけだったのですが、日記を書きこむ機能を付け加えたことで交流の幅が広がり、急速に普及しました。現在は日記を書きこむ使い方が一般的ですが、写真の掲載も普及してきており、今後は動画や音楽などを公開するコンテンツ(情報内容)も増えていきそうです。国内最大手のミクシィの会員数が20063月の300万人から同7月には500万人に急増した上、ネット業界大手の楽天やヤフーも参入し、利用者の裾野が急激に拡大しています。米国でもマイスペース・ドット・コムの会員数が9,000万人を超えるなど、世界的にSNSの利用が広がっています。



(Ver.1 2003/10/ 25)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1
)
(Ver.4 2006/10/15)

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