コミュニケーションメディア論 |
第4課 インターネット |
電気通信のデジタル化がコンピューター化・マルチメディア化を促し、その進化の方向にマルチメディアでデジタルなコンピューター・ネットワークとして実現し、コミュニケーション・メディアの主役に躍り出てきたのがインターネットでした。そして、高機能化しておりながら機能を発揮しきれずにいたパソコンは、インターネットにネットワーク化されることによって初めて、マルチメディア情報の発信・加工・伝達・検索・蓄積といった多彩な機能を発揮するようになったのです。 インタ−ネットによって、世界中のパソコンが接続され、from any to anyのコミュニケーションが可能になったわけですから、インターネットの発展史はパソコンの発展史と表裏一体の関係があることになります。「インターネット」が、パソコンの存在を前提として、次のように定義されることがあるのも一理あるところなのです。
インターネットの経済・経営に及ぼすインパクトについては前期の「インターネット・ビジネス論」で考察しましたので、当講座では主に技術的な側面に焦点を当てながらインターネットの発展過程と構造を概観することにしたいと思います。 |
1.インターネットの誕生と発展
1−1.ARPAによるネットワーク研究
1960年代、アメリカのARPA(Advanced Research
Projects Agency of the Department of Defense :国防省高等研究計画局)は、コンピューター・サイエンス領域の基礎研究に豊富な資金を投下していました。冷戦の対立構造の中で科学、とりわけコンピューター・サイエンスの振興は欠かせぬものであったのです。カネの糸目をつけない軍事用技術開発から民生用の先端技術が派生してくるのはよくあるケースですが、インターネットの起源も実はこのような国防上の基礎研究の一部として含まれていたのです。
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1−2.商用利用に開放
大学、研究所で使われ始めたネットワークNSFNETの便利さが一般に知られるようになると商用利用への開放が求められるようになりました。そこで、1991年、NSFはCIX(Commercial Internet exchange Association : 商用インターネット協会)という組織を設立しました。実は、NSFは政府機関でしたが、NSFNETの運用には民間が関与しており実際にはIBMとMCIの非営利共同事業体であるANS(Advanced Network & Service)によって運営されていました。いずれにしても、CIXが設立された1991年がアメリカにおけるインターネットの“商用化元年”ということができます。 研究者だけが使っていた段階では、専用の回線でコンピューターを常時インターネットに接続して利用する形態が一般的でしたが、商用利用に開放されてからはダイアルアップという利用者が使いたいときだけ電話をかけてコンピューターと接続するという形態が増加しました。そして、接続サービスを提供するインターネットプロバイダー会社が続々と誕生してきたわけです。プロバイダーのおかげで一般の人々も簡単にパソコンをインターネットに接続できるようになり、利用者の増加に伴って、企業もインターネットを用いて事業展開する時代へと進展する基盤が整ってきました。 現在のインターネットは、米国のAT&Tや日本のNTTをはじめ各国の大通信会社が競って張りめぐらした商用の基幹回線によって運用されており、その実体はかつての研究用ネットワークからは相当違ったものとなっています。 しかし、インターネット普及の立役者は何と言ってもWWW(World
Wide Web)とその閲覧ソフトの開発であったと言ってもいいでしょう。WWW(ウエブWebまたはスリーダブリュー3Wと略称されることもあります)は、ハイパーテキスト形式、即ち、文字・画像・音声・動画が混在する文書の伝送を可能にしたインターネットの1システムで、それまで文字情報のみがやりとりされていたインターネットの世界がこれによって大きく変わったのです。 包括的なハイパーテキスト機能に基づくWWWを開発して飛躍的な技術革新を惹き起こしたのはスイスのCERNのティム・バーナーズ・リー(後にMITに移籍してWWWの標準化を主導的な役割を果たしています)で、Web上での転送を管理するHTTP(ハイパーテキスト転送プロトコル)を発表し、Web上でのポストスクリプトの一種であるHTML(ハイパーテキスト・マークアップ言語)を開発するとともに、共通のアドレスのシステムとしてのURLを開発し、これによってインターネット検索と連携技術を結びつけました。 このWWWのデータを表示するための通信ソフト(ブラウザー)としてモザイクMosaicが1993年夏に米国イリノイ大学のNCSA(National Center for Supercomputing Applications)で開発された後に、ネットワークを通じて無料で配布されたことによってWWWの普及が加速するに至ったのです。モザイクMosaicはWWWにアクセスできる画像ベースのプログラムで、たったの9,000行(Windows 95はMSNのコード3百万行を入れて1,100万行)のコードでできています。ユーザーにとっては“自動車のハンドルを握る程度の知識ほども要求しないソフト”と言われるほどの使い勝手の良さがあったこともあり、今までに書かれたソフトの中で最も世界に急速に普及したソフトとなりました。このモザイクMosaicが現在の閲覧ソフト(Netscape、Microsoft Explorerなど)の原型となっています。 このようにして技術革新がなされ、商用化されるに相応しいコミュニケーション・メディアとしての形が整った新インターネットこそがビジネスのあり方を変革し、いわゆる「IT革命」を引き起こしたのです。 |
1−3.NII構想
1992年、ゴア副大統領は全米をカバーした高速情報通信インフラを構築する、いわゆるNII(National Information Infrastructure:情報スーパーハイウェイ)構想と、さらにそれを国際的に発展させたGII(Global Information Infrastructure)構想を提唱して話題を集めました。今ではGIIという名称は消えてしまいましたが、実質的にはインターネットがGIIを取り込んだ形となっています。 冷戦終了後、軍事技術を民生用に転化する過程で、米国の多くの頭脳がIT産業やそれを用いる産業分野に進出しました。優秀な人材が軍需部門から民需部門にシフトすることによって、インターネット及び関連のIT技術が革新されるとともに、インターネットを中心としたITを活用した経営技術が進化し様々な形のBPR(Business Process Reengineering)が実現したのがIT革命の真因ですが、NIIやGIIのような国家政策がこれを力強くサポートした点も見逃すことができません。日本は、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)制定に当たって、アメリカのNII(情報スーパーハイウェイ)構想策定から8年も立ち遅れてしまいました。“ドッグイヤー”といわれるIT分野でのこの立ち遅れを由々しい問題としてとらえる必要があると思います。 |
<こぼれ話> ネットワーク観の違い
カナダ・アメリカをドライブしながら考えた。どうして日本の道路通行料は高いのか?第一に考えられるのは、誰しも想起する道路敷設に要する土地代の高さだろう。実際、我々は「只でも入手したくない」ような、使用価値の無い荒野の中や山間地帯を走ってきた。しかし、逆に考えてみると、そんな物流ニーズの低い土地にさえ、しっかりと道路が敷設されているということである。特定の地域を陸の孤島とすることなく、道路ネットワークで結ぶことによって活性化させようとする長期的で腰の据わった道路行政が背後に見て取れるような思いがした。
昨今のIT革新も、PCをネットワーク化することにより、PCがPersonal Computer からPersonal Communicatorに変った時点に端を発している。ネットワーク観の日米間格差が、IT格差とともに道路事情格差に影響を及ぼしているのではないだろうか。道路網というが、日本の道路は本当に「網」になっているのだろうか。PC同士がfrom any to any でつながらなければ真の通信「網」と言えないのと同様に、日本中の地点同士を縦横無尽に結ぶものでなければ真の道路網とは言えない。
また、インターネットの普及によりネットワーク利用料が格安になったのと同様に、物理的な接続だけでなく経済的な接続ができなければ道路はネットワークとして機能しない。実際、僕たちはイェローストーン国立公園の駐車場で、全米各地のネームプレートを目撃した。日本の観光地でもずいぶん遠隔地のネームプレートを見かけるようになったが、高速道路料金の高さを考えると、まだまだ“貴族専用”ネットワークにしかなっておらず経済的接続とは程遠い。(中略)
しかし、自動車輸送コストにおける日米間格差の最大の原因は、道路行政のあり方、なかでも高速道路の運営主体の違いにあると思われる。アメリカでは道路建設コストは税金で賄われているという。従って、「低自動車輸送コスト→米国企業の国際競争力向上→米国企業の収益増による事業税増収→道路インフラ投資財源増大」といったスケールの大きな経済循環サイクルが実現できる。一方、日本では、道路公団なる中途半端な存在があって、高速道路の建設運営も営利事業とみなされ投資額回収のために高い道路通行料が設定される。(中略)
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小泉サンが唱えている道路公団民営化によって問題が解決するとも決して思えない。道路投資回収期間の短縮化によって経済循環サイクルが一層小さくなるだけのことであろう。採算が過度に重視されることになり、交通頻度が高くて渋滞常習犯になる高速道路しか建設されなくなるということにさえなりかねない。民営化によって経済循環過程が改善されるのは、保有する経営資源が複数企業に分割されて、企業間に競争原理が導入される場合のみである。国鉄が民営化されてJRに名前は変ったものの、これによってサービスのQCDのレベルがどの程度向上したのか振り返ってみれば自明である。
そもそも、高速道路の建設と運営が民間の営利事業として成立している国があるのだろうか。(中略)「国土交通省」の名にふさわしく、国土のネットワーク化を原点とした道路、鉄道、航空の最適ミックスによる全体ベストを追求しなければ小泉サンのカイカクの道は開けてこないのではないだろうか。カナダ・アメリカの道を走りながら日本の道に思いを寄せた。(マイホームページ「還暦記念カナダ・アメリカ西部ドライブ旅行」より)
1−4.日本でのインターネット誕生の経緯
1984年、電子メールやネットニュースを定期的に流すための、大学間ネットワークJUNET(Japan University Network)が開始されました。これは初期のARPANETのように、東京大学、東京工業大学、慶応大学の3大学が接続されていただけのものでした。しかし、NTTからネットワーク回線を電話用として使わないことを条件に、他の大学との接続の許可を得、ネットワークが拡大し、これが日本のインターネットの基幹となりました。 日本では、1988年にWIDE(Widely Interconnected Distributed Environment)プロジェクトによって日本でのインターネットが慶応大学を中核として立ち上げられ開始されましたので、この年が日本の“インターネット元年”とされています。そして1993年、米国のCIX(Commercial Internet eXchange Association : 商用インターネット協会)の動きを受けてIIJ(Internet Initiative Japan)が設立され、これがAT&Tなどとともに商用サービスを開始しました。ですから、この1993年が日本のインターネット“商用化元年”になるわけですが、同じ1993年の4月には日本ネットワークインフォーメーションセンター、12月には日本インターネット協会がそれぞれ設立されましたので、1993年に日本の基盤が整ったということができます。 1994年後半には、ニフティサーブやPC-VAN(現BIGLOBE)などの大手コンピューター情報サービス企業がWIDEプロジェクトヘの参加を表明しました。そして、実用化を目指すインターネットを介した電子メールの送受信実験の実施、プロバイダーの急成長と1995年におけるWindows95の発売などとあいまってインターネットの普及に弾みがつくに至ったのです。 |
2.インターネットの仕組み
インターネットの特徴は規模がダイナミックに大きくなっていくことに耐えられる仕組みになっているところにあると言われています。実際、細胞分裂しながら増殖するようにインターネット人口は増えてきていますが、それが可能なのは、インターネットが基本的に両端のコンピューターだけで転送の制御をするので中間に負担がかからず、スケールが大きくなっても処理できるからなのです。文字通りWWW(World Wide Web)として急速に世界に広がったインターネットの仕組みについて次に考察してみることにします。 |
2−1.データ通信に関する取り決め
インターネットの仕組みを理解するには、1980年に標準化されたデータ通信に関する取り決め、すなわち,TCP(Transmission Control Protocol)とIP(Internet Protocol)を理解する必要があります。
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2−2.インターネットの利用条件
パソコンをインターネットに接続するには、通信回線、プロバイダーとの契約、インターネットブロトコル対応ソフトの組み込みが必要になります。
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2−3.インターネットの特性
インターネットによって、データがパケットに入れられて伝送されるようになったので、地球規模での情報流通が可能になりました。あらゆる情報がIPパケットで表現され、インフラを問わず国境を越えて交換されるようになることが確実に予測され、コミュニケーション・メディアがインターネットを基軸として融合する動きも顕著になってきました。 ところで、パケット通信には「生き残ったノードが生き残った経路を自主的に探し出して通信を行う」特性がありますが、これはインターネットの母体となったARPANETがもともと軍事目的で構想されたこととかかわっています。冷戦時代に「やられても生き残るシステム」を目指して構築されたARPANETの特性を色濃く引き継いで生まれたインターネットの特性を以下に整理してみることにします。
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3.社会基盤としてのインターネット
インターネットは中央集権的ではなく、無数のネットワークが網状に絡んだ「ネットワークのネットワーク」ですから、コミュニケーション・メディアとして強力にして有用な『光』の部分を多く持つ反面で、無駄も多く様々な不正行為に使われるという『陰』の部分も多く見られます。しかし、もともと軍事目的で開発されたインターネットが研究者用のネットとして利用され、やがて商用利用へと発展し今やコミュニケーション・メディアの中核として社会基盤化しているという事実が、『光』が『陰』を遥かに上回っていることを如実に物語っています。一見『陰』に見える「無駄が多い」システムであることさえ、コミュニケーションの世界では「障害に対して強い」システムという『光』に転化される点にも注意する必要があります。「冗長構成(Redundant Configuration)」とは、障害対策や信頼性向上のために、通常のシステム構成以外にバックアップ用の装置を加えたシステム構成のことであり「冗長」は積極的に評価される表現なのです。
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3−1.インターネット利用者の動向
普及初期段階のインターネット利用者には(1)圧倒的に男性が多い(2)20代から30代に多い(3)研究職、学生、事務職に多い(4)都市圏に多い(5)高学歴の者が多い等々といった特性がありました。『陰』の部分としては、普及初期の段階から、ポルノ情報の氾濫、インターネット(ex:チャットルームでの出会い)を利用した女性被害者の続出、個人を誹謗・中傷した情報の流通、個人情報の不正流通といったマイナス面が指摘されていました。 しかし、インターネット利用者にも経年変化がみられ、初期段階には圧倒的に勤務先や学校からのアクセスが多かったのですが、2000年ころから家庭からのアクセスが急増してきています。パソコンの家庭への普及に裏打ちされた事象ではありますが、女性利用者が増加しており、メールやショッピングなどの私的利用も進んできたことの証明でもあります。 さらに、携帯電話によってインターネット接続ができるようになってから、特に若者のインターネット利用が増加しました。高価なパソコンを買わなくても携帯電話でメールを送受信できるのが主な理由でしたが、音声通話専用のコミュニケーション・メディアであった「携帯電話」は、メール用更にはホームページ検索用のマルチメディア端末としての「ケータイ」へとすっかり変身してしまいました。
しかし、それでもなお、高齢者、低所得、不就業者等々ではインターネットの利用率が低く、ITの利用度によって経済的な利害の差が生ずる可能性のある「デジタルデバイド」が問題視されています。従来は、インターネットにアクセスするには、高価なパソコンを購入しなければならないうえに、パソコンの操作を習得するのにも時間と費用とインストラクターが必要でした。しかし、パソコンも次第に低価格化するとともに初心者にも使いやすいユーザーフレンドリーなものになってきました。「ケータイ」や後述する「Lモード」などの非パソコン系メディアの普及とあいまって「デジタルデバイド」克服のための障壁は低くなっていくことが期待されています。 インターネットのビジネスへの活用形態につきましては前期の「インターネット・ビジネス論」でつぶさに考察しましたので、ここでは、特に初期段階からの流れをたどって、インターネット利用の具体的な行動目的を以下の通り取りまとめ、併せてそれぞれの場面で発揮されるインターネットの利点について概説します。 インターネットには、電話と違って、交信時間や距離や相手の状況に気を使うことなく自由にメールを送信できるという利点がありますので、気がねなくメールを送ることができます。また、送った時間や内容も記録されますからコミュニケーションの齟齬が起こりにくく、同報メールを複数の相手に送ることもできます。要点を絞ったコミュニケーションが、音声メディアではなくて、パソコンやケータイの画面メディアを用いてできるわけですから、電話と比べて遥かにローコストで確実性の高いコミュニケーション・メディアになるわけです。 格安チケット情報、ホテル情報、気象情報、時刻表情報など刻々と変化する旅行情報を入手する場合、インターネットは他のどのコミュニケーション・メディアよりも優れた効果を発揮します。即時更新性のある情報に対してはインターネットの即時交信性がうってつけだからです。しかも、チケットやホテル予約などは情報検索とシームレスな形でそのまま購入・手配もできるから便利です。また、インターネットの双方向性の利点を活かして、目的地の地図も欲しいところだけ入手できますし縮尺もいくつかの選択岐の中から選ぶこともできます。 趣味情報の場合には、ホームページを検索して専門情報を入手できるばかりか、関係者とのコンタクトを取ることもでき、関連領域のサイトヘのリンクもありますから「コンテンツ間ネットワーク」というインターネットの特性を活かすこともできます。情報入手の方法が他のコミュニケーション・メディアを用いる場合に比べて、遥かに多角的で多彩になるわけです。 旅行や趣味などの身近な情報を、ユーザーが必要なときに必要なだけ入手できるというインターネットの利点は使用体験を通じて実感できるものですから、今後一層身近な情報のコンテンツが整備されていくに従って、身辺情報の収集からインターネット常用者に変わっていくパターンが増えていくものと思われます。 (3)電子掲示板、チャット、ホームページによる情報の提供と収集 信頼性の程は別としても、電子掲示板を閲覧することによって、ある特定の事項に関連する非公式情報を入手することができます。また、掲示板に書き込むことによって、素人でも不特定多数に向けた情報の発信人になり、これに対するレスポンス情報を得ることも可能です。一方、各省庁のホームページから各種白書を読んで公式の情報を得ることもできますし、これに対して意見を寄せることもできます。自分でホームページを開設して情報を提供することもできるし、これに対して不特定多数からの意見を収集することもできます。他のコミュニケーション・メディアには類例のないインターネットのオープン性と双方向性の特性がここでは十分に活かされているわけです。 チャットは、文字によるリアルタイムのおしゃべりで、ネットワーク上の特定サイトに同じ時間に接続してきたもの同士が会話をすることができる機能です。 興味関心が似た者同士にはインターネットを通して出会いの機会が増えることになります。実際には会わなくても共通のテーマについての情報交換をすることができるのですから、ITネットワークによって知縁による人的ネットワークを拡大できるようになったのです。
(4)専門情報・データの入手 これまでは特定の場所に行かなければ入手できなかった専門情報・データも、少なくとも概要の知識は、インターネットによって居ながらにして収集できるようになりました。更に、メール等を使っての専門家同士、関係者同士の交流機会も増えます。知的活動の内容を深め、広角化し活性化できるのは、インターネット以外のコミュニケーション・メディアには期待し難いところです。 インターネットを通して国内はもちろん外国の商品も居ながらにして自由に買えるようになりました。購入者にとっては商品の選択肢が広がる利点と買い物に行く時間と費用の節約ができるという利点があり、さらには、店頭で購人するのとは違って、さまざまな情報を比較・照合しながら購入できるので衝動買いが減るという利点があります。距離と時間を超越することができるインターネットのコミュニケーション・メディアとしての特性が、遠隔地からもできるオンラインショッピングの普及に拍車をかけたわけですが、これは販売者のマーケティング活動に対しても多大な利点をもたらすものであり多種多様なインターネット・ビジネスを生起させた要因ともなっています。 なお、総務省の「家計消費状況調査(IT関連項目)」によると、平成14年平均のインターネット使用実態および利用環境は以下の通りになっています。
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3−2.インターネットの問題点
利便性が高く(『光』)インターネット利用者が急増している反面で、インターネットでの情報流通には以下のような問題(『陰』)が伴うもということも正しく認識しておく必要があります。
以上のように、インターネットには情報流通上の問題が山積しています。印刷メディアであれ放送メディアであれ、情報メディアはこれまでそれぞれ独自の歴史を歩んでき、問題があればその都度当該社会の法的枠組みが適用されてきました。ところが,インターネットの場合は、形態としては公衆網や専用線を用いた通信の一種に過ぎず、プロバイダーも第一種電気通信事業者または第二種電気通信事業者なので、電気通信事業法をはじめとする通信法体系によって規制されるしかありません。広範囲にインターネット情報が流通し、さまざまな影響を及ぼしているにもかかわらず適切な法的枠組みが十分にはなされていないのが現状であると言ってもいいでしょう。 |
3−3.インターネットヘの対応
(1) インターネットの『陰』の克服
法的枠組みの整備が追いつかないほどのスピードで普及し、コミュニケーション・メディアの主役の座にのし上がったインターネットには、以下のような『陰』を克服するための課題が残されています。
インターネットには多くの利点がある一面で、玉石混交の情報が流通する状態を制御できないという問題があります。インターネットが社会インフラとして世界中に浸透してきた現在、有害と思われる情報の取り扱いが大きな課題となっています。ちなみに、EU委員会報告では、違法または有害な情報を次のように区分して例示しています。 <有害情報の区分> @国家安全保障…爆弾製造、違法な薬物製造、テロ活動 A未成年の保護…不正販売行為、暴力、ポルノ B個人の尊厳の確保…人種差別 C経済の安全、信頼性…詐欺、クレジットカードの盗用 D情報の安全、信頼性…悪意のハッキング Eプライバシーの保護…非合法的な個人情報の流通、電子的迷惑通信 F名誉、信用の保護…中傷、不法な比較広告 G知的所有権…ソフトウェア、音楽等の著作物の無断頒布 インターネットはまたたくまに世界を席巻し、経済、政治、社会、文化などのあり方を変革しつつ、現代の社会基盤としてすっかり定着してしまいました。しかし、上記の通り未解決の課題も多いため、まだまだインターネットは機能を十全に発揮しきれていないのが事実です。それだけに、インターネットの利用環境に関する配慮が重要視されており、個人情報やプライバシーまたは知的財産権などの保護や、違法、有害情報の取り扱いなどについて、関連技術の開発と併せて社会的なルールの設定が鋭意推進されています。このような技術開発やルール設定の動向に注目し、自らの対応策を先取りして選択してゆくことがインターネット活用上の大きな鍵となります。 |
(2) イントラネットとエクストラネット
「講義の要求仕様」に例示されている「イントラネット」とは、「インターネット技術を活用した企業内情報ネットワーク」のことを指します。 インターネットの「インター(Inter)」は、「〜の間の」の意をもつ接頭辞としてインターネットの網間接続機能を表しているとともに、国際性(International)や相互変換性(Interchange)、双方向性(Interactive)といったインターネットの特性を表現しています。しかし、いずれもLAN(Local Area Network : 構内ネットワーク)の「外部」におけるインターネットのネットワーク連携機能を指し示しています。 これに対して、イントラネットの「イントラ(Intra)」は「内部」を表します。例えば、インターステート(Interstate)・ハイウェイといえば米国の州と州の間を縦横に結ぶ高速道路網のことですが、イントラステート(Intrastate)・ハイウェイは州内高速道路網になります。クリントン政権下でゴア副大統領が「情報ハイウェイ構想」を打ち出した時にイメージしたのは当然インターステート・ハイウェイのことだったに違いありません。 従って、イントラネットは「内部のネットワーク」ですから企業用としてみると「企業内ネットワーク」ということになります。しかし、企業内情報システムであるイントラネットには、外部との不正な情報流通を阻止しながら「外部のネットワーク」であるインターネットと企業内情報システムの相互乗り入れができる上に、ブラウザーやWebサーバーといったユーザー・フレンドリーなインターネット環境がそのまま使えるという利点がありますので、イントラネットによって初めてビジネスマンにとって本当に使いものになるインターネットが実現したということができます。 例えば、インターネットの電子メールを社内のイントラネットに組み入れたグループウェアと接続することもできますので、自宅のパソコンから自作した連絡文書、広報、閲覧文書などを部内のWebサーバーに登録して社内の情報共有化に供することもできます。 インターネットとイントラネットの関係を図示すると下図のようになります。 イントラネットはLANを介したクライアント・サーバ型分散情報システムを形成する構成になっています。インターネットとの間にはルーターがあって、「外部」からの不正アクセスや「内部」からの不適切な情報流出を阻止してファイアウォール(防火壁)の機能を果たします。 ですから、ファイアウォール(防火壁)の「内部」では、「外部」とのコンタクトに気を煩わせることなく社内情報システムとして機能し、データベースシステムやグループウェアといったミドルウェアとの融合によって、商品・技術情報の共有、各種の社内連絡や届け出、資料の公開などを自在に行なうことができるのです。グループウェアとデータベースシステム(DBMS)の果たす機能を例示すると以下のようになります。 グループウェアの代表格である電子メールは、もちろんインターネット以前にも活用されていました。世界中に多くの商用パソコン通信社があり豊富なサービスを提供しており、企業内でもLANを構築し、そこで動く専用電子メールを使うケースもありました。しかし、商用パソコン通信電子メールと専用社内電子メールは一般に相互乗り入れがされていないので、社内から外部へは電話回線接続によるパソコン通信、社内では別にLAN回線をそれぞれ使うという二度手間になっていました。 イントラネットでは、インターネットと相互乗り入れされていますから社外・社内の垣根は存在せず、このような不都合は起こらないわけです。電話の外線と内線の関係に近似することによって、電子メールのビジネス活用はたちまちのうちに増加したのです。 イントラネットは、広く「外部」との間で情報の収集・伝達を行ないながら「内部」での情報共有・共用化をすることのできる新しいタイプのコミュニケーション・メディアですが、コミュニケーション・コストの面でも他のメディアに対して優位にあるため、企業情報通信システムとして急速に普及してきました。以下に、導入成功例として報じられているケースをいくつかご紹介します。
なお、イントラネットとは別に「エクストラネット」があります。「エクストラExtra」は通常「外部の」という意味を持つ接頭語であると解説されていますが、これでは「外部のネットワーク」であるインターネットとの違いが分かり難くなります。ですから、ここでは、「エクストラExtra」に「追加の」という意味があると解釈します。実際に、エクストラネットは、「内部のネットワーク」であるイントラネットイントラネットの「内部」に「追加の」部分を加えたネットワークだからです。つまり、企業用の場合、企業内の情報システムであるイントラネットに対して、エクストラネットは関連企業・顧客企業との間のネットワークを「追加」したものなのです。インターネット技術を使う点もイントラネットと全く同じですが、エクストラネットはイントラネット上の情報資源を特定の取引先が利用できる環境であり、これによって企業間の協調・連携を可能にするコミュニケーション・メディアであるということができます。 エクストラネットの利用方法には以下のようなものがあります。
以上のように、エクストラネットはインターネットの利点をそのまま活かしながら企業間で協働して仕事を進めていくためのプライベートな共同ネットワークであるともいえます。日本でのエクストラネット導入事例としては以下の事例が有名です。
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(3) 「ユビキタス・ネットワーク社会」へ
インターネットは、応用範囲がイントラネットやエクストラネットに拡大してコミュニケーション・メディアの中核の座を確保する反面で、ブロードバンド化が進行してマルチメディア伝達機能が飛躍的に向上するとともに、各種モバイル端末のインターネット接続が可能になるのに伴ってインターネットの利用が高度化するとともに多様化してきました。また、これとあいまって、各種のコミュニケーション・メディアがインターネット空間で統合される(メディア・フュージョン)動きも顕在化してきています。このようなコミュニケーション・メディアの進化の方向は、第5課以降で順次考察していきますが、進化の行く先には以下の新聞記事に示唆されている「ユビキタス・ネットワーク社会」の実現が予測されるということを十分配慮して、現下のインターネットに対応する必要があります。現実世界のいたるところにコンピューターが存在し、意識せずともITが活用できているという「ユビキタス(Ubiquitous)環境」が、インターネットの進化によってもたらされるのです。
「Web2.0」時代の到来 実際にインターネットの本格的な普及から10年たった今、いつでもどこでも情報が得られるユビキタス技術の広がりによって、“インターネット革命の第2幕”とも称される「Web2.0」という概念が台頭してきました。ネット上の様々な情報が連携し合うことによって、特に個人が情報発信の担い手となるところに特徴があり、個人間や企業・個人間で互いに情報を公開し合うことによって、新しいネットコミュニティーの形成が促進され、複合的な利用者参加型のサービスも大きく進展しつつあります。 「インターネットを使って簡単に情報発信」というのは1990年代半ばにインターネットが登場した頃に盛んに叫ばれたキャッチフレーズでした。しかし、実際には、通信速度も遅く、しかも、ホームページの作成・更新などが技術的に難しくて、情報発信できるのはごく少数の人に限られていました。 ところが、2004年頃からブログ(日記風簡易ホームページ)や、プロフィール登録制の掲示板であるソーシャル・ネットワ―キング・サービス(SNS)の登場で情報発信の敷居が下がり、利用者が急速に拡大してきました。世代交代を印象付けるために名づけられた「Web2.0」の実現には、“インターネット上でのソフトの共有”を可能にしたネット・プログラム技術の向上が大きく寄与しているわけです。
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(Ver.1 2003/10/ 25)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1)
(Ver.4 2006/10/15)