コミュニケーションメディア論

第10課 ユビキタス・ネットワーク

究極のコンピューター・ネットワーク環境を表す言葉として「ユビキタス」が遣われ始めて久しくなりますが、平成16年版「情報通信白書」の副題が“世界に広がるユビキタス社会”となっているのが示しているように、もはや夢物語ではなく現実のものとして身の回りに急速に普及しつつあるのです。

1.ユビキタス・ネットワーク環境の展開

1−1.「ユビキタス」とは

コミュニケーション・メディアのデジタル化・コンピューター化・マルチメディア化を具象化したインターネットの出現に引き続いて生起してきたブロードバンド(高速大容量)化、モバイル化、デジタル放送ネットワーク化の新潮流の行き着く先にユビキタス・ネットワークがあります。“ユビキタス”は本来ラテン語で「神はどこにも遍在する」という意味があり、ここから「同時にいたるところに存在する」という意味を派生させています。ちなみに、英和辞典「The ANCHOR」によると ” ubiquitous”で、「同時にいたるところにある/遍在する」とあります。情報通信の世界では、1980年代にゼロックスのマーク・ワイザーが提唱したことから注目されるようになった概念で、ネットワークの高度化とともに使われるようになった言葉です。

1−2.ユビキタス・ネットワーク

コミュニケーション・メディアの新潮流によって、いまやインターネットにつながる端末はパソコンだけではなくなり、携帯電話、カーナビゲーション機器などのモバイル・ツールから、デジタルテレビにネット家電、更にはゲーム機などにまで幅が広がってきました。このようなインターネットに接続されるパソコン以外の端末はIA(Internet Appliance : インターネット器具)と呼ばれることがあります。多彩なマルチメディアのIAが登場したことによって、生活空間の至るところにマイクロプロセッサーとメモリーが組み込まれた機器が遍在する環境が作り上げられてきました。また、放送の世界で、デジタル放送“ネットワーク”が形成されつつありますが、ネットワークに接続されたすべてのコンピューターが対等な関係にある、いわゆるピアー・ツー・ピア(Peer to Peer)の形態は築くことができません。世界中の端末コンピューター同士が接続しあってこそ“網”の形状が整うのですから、やはりネットワークの中核となるのはインターネットをおいて他にありません。従って、「ユビキタス・ネットワークとは、いつでも、どこにいても(ユビキタス)、インターネットにアクセスできるネットワーク環境である」と定義することができます。

1−3.ユビキタス・コンピューティング

かつてマイクロソフトのビル・ゲイツ会長は、未来のコンピューター社会のパラダイムを「ユビキタス・コンピューティング」と表現していました。身の回りのあらゆる小型端末や機器に小さなコンピューター(高性能な半導体やソフトウェア)が埋め込まれ、それがネットワークで結ばれる究極的なネットワーク・コンピューティング環境をイメージしたものです。

中央集中型の大型汎用機(メインフレーム)の時代から、分散処理コンピューターの時代を経てパソコンをベースとするクライアント・サーバー・システムの時代に至るコンピューター・システムの歴史は分散化の歴史であり、パソコンは“分散”の象徴であったはずでした。

ところが、分散化へのニーズはこれにとどまらず、逆にパソコンが“集中”の権化と見られるようになり、偏在する多様多彩なIAにネットワーク機能を“分散”させつつあるのが“未来のコンピューター社会”に移行しつつある現在の姿であると言うことができます。

大型汎用機の時代には1台のコンピューターを大勢の人で共有していました。パソコン時代になってようやく1人で占有できるようになったのですが、コミュニケーション・メディアの新潮流が進展して、今度は結果的に1人で何台ものコンピューターを使えるようになりました。これが偏在するIAを駆使する「ユビキタス・コンピューティング」の実態なのです。

1−4.考える物(TTT : Things That Thing)

情報・データの発信者と受信者の間に介在するコミュニケーション・メディアの階層構造は複雑になる一方ですが、ユビキタス・ネットワークにおいても、主役が最終的な情報の受発信者である「人」であることには変わりがありません。しかし、ユビキタス・ネットワークでは、「どこにいても」の範囲が「人」の所在地を超えて偏在する「物」が発信するデータまでネットワークに取り込む仕組みを取り入れていこうとするところにも注目する必要があります。IAとしての冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、エアコンなどの、いわゆる情報家電も「物」であり、そこから情報をインターネットに取り込むからこそ「ネット家電」と別称される所以です。また、ユビキタス・コンピューティングが小型の可搬形の機器だけではなくて、家電製品のような据え置き型の「物」まで取り込むところが、持ち運びを前提としたモバイル・コンピューティングと概念をことにしているということも注意しておく必要があります。

MITメディア・ラボ主導
TTT(Things That Thing)コンソーシアム


「物」情報の取り込みに関しては、1995年からMITメディア・ラボ主導のもとにTTT(Things That Thing)コンソーシアムが先駆的な研究を行なわれていました。「普段の生活で身の回りにある物、身につけている物にコンピューターを組み込むことによって、もっと豊かな生活ができる」というコンセプトのもとに行なわれていたものであり、1996年に三井業際研究所が派遣したMIT Mission ‘96では、以下のような興味深いテーマの研究についてのプレゼンテーションとデモを視察しています。これがウェアラブル・コンピューターやICタグの応用、ITS(高度道路交通システム)などのユビキタス・ネットワークの重要な要素技術開発の礎石となっているように思えます。

ボディー・ネット(Body Net)

各種の携帯情報機器(時計、電子手帳、電卓、ポケットベル、携帯電話など)は互いの存在を認識していない。そのため複数の機器が同じような機能を持っていたり、その情報が統一されなかったりしている。そこで、人体を媒体にして、微弱な電波を流すことで、身につけた情報機器同士が通信できる「人体ネットワーク」の仕組みを研究している。特に、「靴」に注目し、圧力の増減によって発電する圧電素子のシートを靴底に組み、歩行による圧力だけで電力を発生させ、その電力で靴のかかとに組み込んだコンピューターを動かす。そして、この「かかとコンピューター」をメイン・コンピューターとして位置づけ、他の携帯情報機器を端末と見なすことによって、不必要な機能や情報の重複を排して全体としての高機能性を確保する。また、この仕組みをコミュニケーションに利用すると、「かかとコンピューター」に名刺情報を入れた2人のビジネスマンが、握手をするだけで互いの名刺情報を交換できることになる。

タグ技術の応用

電子タグを、一人一人が身に付ける「小さな電子名札」として個人認識に活用し、これをネットワークと組み合わせて様々な応用を行なう。例えば、ディズニーランドなどのデータベースと接続した家庭用パソコンと無線交信することによって、音声認識・合成機能のあるコンピューターを内蔵させた縫いぐるみは、電子タグを付けた子どもの問いかけに応じて物語を子どもに語って聞かせてあげることができる。また、身の回りの「物」にタグによる認識とネットワークを与えれば驚くほど多彩な可能性が広がり応用アイデアには限りがなくなる。

考える紙おむつ、エレクトリック・ペーパーその他

低価格のコンピューターとセンサーを組み込むことによって、赤ちゃんの状態を検知して親に知らせてくれる紙おむつ。紙の本と同じ感覚の良さを享受できるエレクトリック・ペーパーによる電子ブック。その他、車に乗ろうとしてドアに触れた時に車が人を判別してキーを自動的に開けたり、中に入った時に自動的にその人にあった位置に椅子を調整したり、ラジオのボタンを押しただけでその人の好きな番組を選局したりできるような自動車用システムなど。

1−5.「ユビキタス情報社会」の到来へ

ユビキタス・ネットワークらしき形態のネットワークは既に一部に実現していますが、これがそれこそユビキタスに実現しユビキタス・ネットワークが支配的にならなければ「ユビキタス情報社会」が到来したとは言えません。

「ユビキタス情報社会」について、東京大学の坂村健教授は「家具や食品、家電、書籍など、世の中に存在するあらゆる商品の中にコンピューターが組み込まれ、自分で取りに行くだけでなく欲しい情報が自動的に送られてくるような形の情報の相互交換が可能で、その仕組みを知識や能力にかかわらず誰でもが利用できる社会」と定義されています(2003/01/01日本経済新聞)。

後段の部分の「知識や能力にかかわらず誰でもが利用できる」は、マン・マシン・インターフェースの改良によりユーザー・フレンドリーネスを向上させ、これによってデジタル・デバイドを排除しようという意向を反映した“過剰定義”であるように思えます。しかし、これは、家電の情報化やネットワーク化を「ユビキタス」の中心に据える考え方、更に情報家電(ネット家電)即ち「ユビキタス」と解する考え方に比べると、コミュニケーション・メディアの発展方法を広い視野から総合的に捉えた定義であるように思えます。

確かに、情報家電(ネット家電)はユビキタス・ネットワークに組み込まれるコンポーネントには違いがありませんが、偏在すべきIAのone of themに過ぎません。むしろ、現在のところは情報技術(IT)とは無縁と考えられている製品を生産・販売している企業こそ、将来ユビキタス情報社会において重要な役割を担う可能性があるのです。

2.「ユビキタス情報社会」への道

ユビキタス情報社会への道を開いた原動力は「演算処理装置、通信、記憶媒体の性能向上とコスト激減」にあるとし、具体的に以下の要因を指摘する考え方があります。

コンピューターのマイクロプロセッサー(超小型演算処理装置)の発達
携帯電話やインターネットなど通信インフラのモバイル化、ブロードバンド(高速大容量)化の進展
ハードディスクなど記憶媒体の小型化、大容量化

当講座で考察してきたコミュニケーション・メディアの新潮流にほぼ合致するものですが、今後は、以下のような道のりを辿って新潮流が更に勢いを増して、「ユビキタス情報社会」の実現に向かうものと考えられます。

2−1.IA(Internet Appliance : インターネット器具)の多様・多彩化

インターネットに接続されるパソコン“以外”の端末いわゆるIA(Internet Appliance : インターネット器具)は「ノンPCネットワーク端末」とも呼ばれますが、これがコミュニケーション・メディアの新潮流に乗ってPCから主役の座を奪って、ユビキタス・ネットワークのコンポーネントになっていくことが確実視されています(下掲報道参照)。

nonPCネットワーク端末

1990年代はパソコンとインターネットの時代であったが、パソコンにすべての処理を委ねる集中の文化は限界が見えている。21世紀は分散の文化、しかも混乱ではなく協調分散の世界になる。情報を表示する端末は必要だが、それがパソコンである理由はない。ユビキタス社会では中央演算処理装置(CPU)と情報は集中管理されず分散管理される。人と人だけではなくモノと人が情報をやり取りする世界、その両方の役割を果たせる携帯電話や携帯情報端末(PDA)が主流になる(東京大学・坂村健教授)。
情報社会の入口ではパソコンがネットワーク端末として使われたが、今後は情報家電など誰でも簡単に使える端末が主流になって行く。2010年には、「モバイル関連」、「テレビ&ネット家電」や「自動車関連」などパソコン以外のnonPCネットワーク端末が15千万台に増え、同時期に予想されるパソコン普及台数2,200万台の約7倍になる。
(2003/01/01日本経済新聞)
2−1−1.ウェアラブル(装着型)コンピューター

A.ウェアラブル・コンピューティングへの展開

モバイル・コミュニケーションの進化の一つの方向として、ウェアラブル・コンピューターを身体に装着しながら、時間と空間を越えて(ユビキタスに)コンピューターを使用するウェアラブル・コンピューティング環境への展開が考えられます。現在のハンドヘルド・コンピューターやパームトップ・コンピューターを更に小型化・高機能化し、より高い可搬性をもって情報空間を移動しながら情報通信が行なえる「ウェアラブルPC」がユビキタス・プロダクツの中で最も期待されるキーワードの一つになっています。

B.ウェアラブル・コンピューターの条件


MITメディア・ラボでは以下の要素をウェアラブル・コンピューターの条件として挙げています。
@ 携帯して操作することが可能であること。携帯性の点ではラップトップコンピューターやその他のモバイル・ツールと同じですが、同じ携帯でも「身体に装着する」という点が大きな違いです。
A hands free (手ぶら)使用が可能であること。音声入力やジョイスティックの使用など、ユーザーの手による操作を最小限に抑えるインターフェースを備えていることが条件となっています。両手が空いていることが重要で、人類史上二足歩行を始めた時に相応するような大改革がコンピューター史上に起こることが期待されています。
B センサーを装備していること。GPS、赤外線センサー、カメラ、脈拍計、体温計などのセンサーが付属していることを指しています。身体の機能の拡張および身体情報のモニタリングという用途ももちろんですが、身体と同一化を意図したものがウェアラブル・コンピューティングであるとの思想が背景になっているものと思われます。
C 身体機能の拡張という点から、ユーザーに適時に警告などの情報を与えること。
D 常時稼動していること。Bセンサー装備、Cユーザーへの適時警告の機能を満たすためには、常に電源が入り続け、常時コンピュータが稼動していなくてはならないからです。
C.ウェアラブル・コンピューターの用途

以下のような用途が一部実現され、一部が今後に企図されています。
航空機の整備保守、製造設備の整備保守、倉庫での商品管理など、膨大なマニュアルを参照しながら両手を行わなくてはならない作業用
登山家が着用したセンサー付Tシャツの情報を無線でベースキャンプに送信し、それを大学病院に転送して専門医が分析する
娯楽施設や店舗などの情報検索、商品説明の支援
病人・高齢者の健康モニタリング、スポーツ選手の体調モニタリング、弱視者用のデジタル眼鏡など身体障害者の支援
電子メールや位置情報通信など営業担当者支援
自動的に故障を通知する冷蔵庫など家庭のコンピューターとの連動
その他、搭載カメラで物体を認識し、その物体にユーザーが画像や音声でコメントをつけ、再びカメラがその物体を認識した時にそのコメントを再生するといった記憶補助的な機能も開発されています。
また、例えばヘッドホンステレオ大の本体を腰につけ、サングラス型の表示装置を見ながら小型マイクを通じて音声でコンピューターを操作すると映像が目の前の表示装置に映し出されるというようなことが可能になり、既にこの要素技術は実用化が始まっています。

D.他のモバイル・ツールとの相違点

携帯性を重視している点やインターフェースとしてキーボードを使用しないことを志している点、GPSなど機能拡張のためのデバイスと接続可能である点が、ハードウェアにおける共通点として挙げられます。次に用途の点においても、情報検索、高齢者の健康モニタリング、電子メールや位置情報通信など営業担当者支援などに用いる点においては共通しています。しかし、既に普及しているため量産効果が現れていて、一般消費者が安価に購入・使用できるという点で、特にケータイ型モバイル・コミュニケーションに分があり、ケータイがウェアラブル・コンピューターの領域を取り込んだと考えることができます。

しかし一方、健康モニタリング、身体障害者の支援、電子メールや位置情報通信などの営業担当者支援、記憶補助的な機能など、センサーや外部接続機器と連動しながら次元の高い作業を行うにあたっては、ウェアラブル・“コンピューター”に分があります。また、身体に装着可能という究極の携帯性、優れた表示・入力用インターフェースに、コンピューター本来の多機能性を兼ね備えたウェアラブル・コンピューターに、無線による高速インターネット接続機能が加わってコンテンツやアプリケーションの送受信が可能になれば、次世代携帯端末としては究極の機器となる可能性を秘めており、消費者に求めやすい価格で機器が市場に投入されれば、ケータイの機能に飽き足らないユーザーをウェアラブル・コンピューターが取り込むというシナリオも見えてくるものと思われます。

着るコンピューター進化


身につける(ウェアラブル)コンピューターが進化し、服と一体化して文字通り“着こなす”コンピューターを目指す動きも活発になってきた。
消防士が頭部の赤外線カメラで煙に巻かれた人を見つけ、司令所の指揮官に画像を送るウェアラブル・コンピューターを使った“知的消防服”も開発中だ。指揮官は画像を見ながら消防士に指示でき被災者を素早く救援できる。
農作業支援システムも試作れた。目の前に付けたゴーグル型のディスプレーで農作物の生育状況を過去と比べたり、病気の作物の画像を専門家に送って助言を受けたりできる。
ウェアラブル・コンピューターは両手を使って作業できるのが利点。米国では飛行機の点検や建設現場で普及し始め、日本でも消防や農業、医療といった新規分野での開発が進んできた。
ただ、ディスプレーを頭につけることに抵抗感をもつ人もいるため、服に組み込む動きが出始めた。道を開いたのが、薄型表示装置として注目される有機EL(エレクトロ・ルミネツセンス)だ。大手制服メーカーのチクマ(大阪市)は単色のガラス製有機ELディスプレーを胸元に取り付け、商品や企業の広告を表示する「制服メディア」を開発した。パイオニアも自由に曲げられるフィルム状のカラー有機EL技術を使い、袖口にディスプレーを装着した服を作った。

2003/4/25 日本経済新聞)

2−1−2.情報家電(ネット家電)

家電のデジタル化の歴史は、各種の家電製品に制御用マイコンを埋め込んだ「コントロール家電」に端を発しています。次いで、CD(Compact Disk)を筆頭とする「デジタル・メディア家電」が出現しました。しかし、現在脚光を浴びている「情報家電」は、これらと一線を画した“革命的な”「デジタル・ネットワーク家電(ネット家電)」であり、コミュニケーション・メディアの革新によって実現した“第2世代インターネット”によって接続され、様々な情報通信機能を提供するに至った家電製品群を意味しています。

情報家電は、家族のメンバーがそれぞれに違う目的で同時に使うようになることから、パソコンのような汎用マシンではなく専用マシンになります。ですから、これからは、「二三の応用に焦点を絞って設計したコンシューマー用コンピューター」と定義される見えないコンピューターが家庭に偏在していく形になります。情報家電は、明快に焦点を絞り込んだ使用目的に合わせて設計されますので、目的にぴったりとあったヒューマンインターフェースを備えていて、マニュアルや取扱説明書を読まなくても使い方がわかるような製品になる可能性が大きくなります。以下のような条件を備えたネット家電が、情報機器を使えるかどうかで生活や経済面での格差が生ずる「デジタルデバイド」の解消に一役買うことを期待されている所以です。

(1)  機器の日用品化

(2)  わざわざ使い方を学ぶ必要のないようなインターフェースの良さ

(3)  情報流出などのリスクに対するセーフティ・ネット(安全網)

本格的普及期に

2003年には家電大手各社のネット家電が出揃い、本格的な普及期に入りそうだ。商品化で先行したのは東芝で2002/04にネットワーク対応の冷蔵庫や電子レンジ、洗濯乾燥機と、これらを一括操作する「ホーム端末」を発売した。

冷蔵庫は中に入れた食材の数量や賞味期限を登録しておくと、外出先からインターネット対応の携帯電話で内容を確認できる。「庫内にある食材ではどのようなメニューを作れるか」などの検索も可能。
洗濯乾燥機は、特殊な洗い方が必要な繊維や衣料のための設定がインターネット経由で受け取り追加することができる。
「ホーム端末」は液晶画面に触って操作するタッチパネル方式。

各ネット家電の店頭価格は通信機能を持たない同等製品と比べ2‐3万円程度高い。他社もネットワーク対応のエアコンや冷蔵庫を発売の予定。
(2003/1/1 日本経済新聞)

逆に、情報家電は単機能に近いので、パソコンのように1台でいろいろなこと(例、デジタルカメラで撮影した写真を電子メールで送る)ができません。但し、ホームネットワークを構築して相互につなぎ、個々のアプライアンスの自律動作と、ネットワークを生かしたアプライアンス間の協調動作ができるようにすることができます。インターネットとホームネットワークはゲートウェイを介してブロードバンド・アクセス・ネットワークで接続されますが、ゲートウェイと各情報家電の間は別途有線で接続すると配線が錯綜しますので、通常は無線か屋内電力線使用による接続の形が有利になります。

ネット家電のデータ通信方式


ユビキタス情報時代にはテレビや冷蔵庫などの家電製品がネットワーク機能を持ち、携帯電話を使った遠隔操作やインターネット経由での新機能などが追加できるようになる。この場合のデータ通信には、主にトランシーバーで使う特定小電力無線や家庭内家庭内の電灯線を使う通信、AV(音響・映像)機器を中心に使われる近距離無線「ブルートゥース」など複数あるが、日本の家電各社は原則的に、各社がネット家電用に想定している通信規格の大部分に対応する「エコーネット・バージョン3.00」という統一規格を使う方針だ。

業界初のネット家電を発売した東芝は通信方式にブルートゥースを採用した。これに対して日立製作所や松下電器産業、三菱電機は特定小電力無線や電灯線通信など、ブルートゥースとは互換性のない方式でネット家電用通信の技術開発を進めていた。通信規格がバラバラだと、同じ企業の製品を買い揃えない限りネットワークが組めない。東芝は自社方式への賛同企業を募るよりも、他社を巻き込んで共通規格をまとめる道を選び、エコーネットコンソーシアムで統一規格の策定を提案し、この意見に基づいて「エコーネット・バージョン3.00」が成立した。世界的に優勢といえる規格はまだない。世界各国の家電メーカーが「エコーネット・バージョン3.00」を採用すれば、日本初の世界標準規格が誕生する可能性も十分に考えられる。

(2003/01/01日本経済新聞)

2−1−3.ケータイ

携帯電話は、アナログ通信方式で通話に特化していた第一世代から、デジタル通信方式の第二世代に移行してからiモードなどによってインターネット接続が可能になり「ケータイ」に進化しました。これが、「いつでも、どこにいても」インターネット接続ができるネットワーク環境の萌芽であり、携帯電話機がケータイに変わった時にユビキタス情報社会の端緒が開かれた」という仮説の根拠となるものでした。

更に、デジタル方式を高度化させた第三世代に進化すると、もはや電話本来の通話機能は副次機能と化し、ケータイは一層IAとしての機能を強めるばかりでなく、その高速データ通信特性(最大2Mbit/sec)を活かした携帯テレビ電話、さらには、デジタル放送の受像機として「携帯テレビ」までが実現するに至りました。

第三世代でグロ−バル・スタンダード(世界標準)を採り入れたケータイは国際的にも普及が進み、2008年ごろまでに世界で20億人が携帯電話のユーザーとなるという見通しがされています。国際的なIAとしての第三世代ケータイが普及し多彩な用途開発が進展すれば、それだけ「ユビキタス情報社会」の道が開けてくるわけですが、ケータイ自体にも更に第四世代さらには第五世代と、「ユビキタス情報社会」への展開とともに進化していく道が開けているのです。2010年ころの実用化が目指されている第四世代は第三世代がさらに高速化(最大100Mbit/sec)したものであり、ハイビジョン放送並の高精細動画像を2-3分で送受信できるのが特長で、これによって動画や音楽のやりとりが自由にできるようになります。

ここでは、交換機を使った電話網ではなくて、インターネットですべての情報がやり取りされます。音声通話だけではなく、映像やソフトなど情報すべてがインターネット・プロトコル(=IP)を使って受発信されるのです(電話のネットワークだけではなく、無線通信の技術そのものがすべてIPベースに切り替わっていく方向が目指されています)。100Mbit/secという数字は無線通信技術の転換点と言われ、家庭向けの最高速インターネットサービスも有線の光ファイバーで毎秒100メガビットです。第四世代で同レベルの通信速度に達する携帯電話が光ファイバーなどの固定通信を通信技術の主役から脇役に追いやる可能性があるという見方もなされています。そして、第四世代よりも表現力を増した第五世代は2020年ころに実用化することが目指されています。

2−2.無線伝送技術の高度化・多角化

ユビキタス社会では、コンピューターとネットワークが簡単につながる必要があります。その本命となるのが前述の携帯電話も含めた無線利用の新しい技術で、あらゆる波長に対応し、通信容量を高める研究が活発に行われています。

現在実用化または研究段階にある主要な高速無線通信技術は下表の通りです。

通信速度(毎秒)

通信距離

UWB通信

480メガビット

10メートル

研究段階

第四世代携帯電話

100メガビット

数キロ

研究段階

無線LAN

11メガビット

10メートル

実用化

ブルートゥース

1メガビット

10メートル

実用化

第三世代携帯電話

384キロビット

数キロ

実用化


2−2−1.ブルートゥース

2.4GHz帯の高周波の電波を飛ばし、微弱な電波で近距離間にある端末機器間を結び毎秒メガビット級のデータ伝送を行う機器接続用のインターフェース規格で、携帯電話とパソコン、ディジタルカメラなどやパソコン周辺機器(モデム、ルーター、プリンタ、キーボード、ディスプレイ等)を無線回線で結び、モバイル・マルチメディア環境を実現します。ユビキタス・ネットワークの端末として多機能を発揮する携帯電話やPDA(携帯情報端末)、デジタル家電などのIAの中核たるべく実用化が進んでいるのがこの「ブルートゥース」です。

スウェーデンのエリクソン社が提唱した規格で、“ブルートゥース(Bluetooth)”の名前は、その昔デンマークとスウェーデンを、武力を使わずに統一した王様の名前に由来しています。恐らく、人徳がある王様で、権力や権限に頼ることなく、権威をもって両国を統一されたのでしょう。この規格も、権威が認められ、平和裏に世界標準になることを願って命名されたものと思われます。

現に、メーカーを問わずどの機器ともつながる相互接続性が売り物で、本格的に携帯電話、携帯情報端末(PDA)、家電製品などに採用されつつあります。家庭内でも、これを使えば、例えば、コード無しのヘッドホンを、部屋の中を動きながら自由に使うというようなことも可能になります。家庭内無線LANへの応用や情報機器の自由な配置がケーブル無しで可能となるからです。この方式は電波を使用するが免許は不要で自由に使うことができます。伝送速度は最大2Mbpsですが、赤外線とは違って、10m以内の距離であれば障害物があっても利用することができます。

ICカードを搭載してWebブラウザ機能と高度な認証機能を付加したケータイで、Web閲覧などの簡単な作業にはケータイのみで処理し、情報処理や高度な入力・表示機能が必要な作業をこなす時に、ブルートゥースで他の機器に自由に接続して作業を行うといった形で応用することもできます。この場合、さらに、ICカードに個人情報を登録しておけば、ICカードを取り外して別の通信機能を備えた端末に接続して通信することも可能ですし、ブルートゥース対応機器間で無駄な機能を重複して持ち合う必要もなくなります。

ブルートゥース関連の新聞報道を2件以下にご紹介します。

NTTドコモ ブルートゥース対応携帯を拡充

NTTドコモは短距離無線通信規格「ブルートゥース」機能に対応した携帯電話の機種を大幅に拡充する。来月1日に改正道交法が施行され、運転中の携帯電話の使用に罰則規定が設けられる。
この機能を使えば車内でハンドルから手を離さず通話できるようになる。18日から名古屋で始まるITS世界会議で新機種を公開する。
情報技術(IT)ベンチャーのモバイルキャスト(東京・港)が開発した専用アダプターをドコモの携帯電話に取り付けることで、ブルートゥース機能を追加できる。

(2004/10/15 日本経済新聞)
日立が高機能素子 製品情報 ネットに送信

日立製作所は家電製品に組み込んでおくだけで使い方などの情報をパソコンや携帯電話で簡単に取り出せる高機能素子を開発した。無線でインターネットにつながり、家庭内の機器の情報をホームページで見られるようになる。3-4年後の普及を目指す。
素子は1円玉程度の大きさで、無線通信規格「ブルートゥース」に対応する通信機能や小型マイコンなどを1チップに収めた。価格は一個数千円程度になる見通し。素子を取り付けた機器の使い方や製品情報を携帯電話やパソコンで簡単に取り出せるほか、素子が自動的に情報を発信する設定もできる。情報は通常のホームページと同じ形式で見られるため、汎用性が高いという。
腕時計型の健康機器に素子を組み込み、血圧や脈拍などの情報をパソコンで管理できるほか、家庭内の様々な場所に素子付きのセンサーを設けて防犯機器として使うことも可能になる。無線で機器類を管理する技術としてはICタグ(荷札)が実用化しているが、専用の読み取り装置が必要。開発した素子はネットワークを簡単に構築できる。

2004/4/15 日本経済新聞)
2−2−2.高速無線通信技術

以下の例のように、無線の通信速度を光ファイバー並みの100Mbs以上に引き上げる研究も盛んに行われています。

☆ ウルトラ・ワイドバンド技術
10億分の1秒以下の非常に短いパルス信号を幅広い周波数帯に分散して送る技術。高速化により機器が簡素になる意義は大きい。実用化時期はおよそ3年後
☆ ミリ波通信
無線通信に使われるマイクロ波より周波数が高いミリ波を使った通信も伝送容量を上げる手段として期待が高い。NECはミリ波を利用して電車や車に情報を送る装置の開発を目指している。送れる距離は10mと短いが速度は1.5BpsでDVD(デジタル多用途ディスク)に記録した映画1本分のデータを25秒で送れる。新幹線や走行中の車に交通や観光の映像情報を送るサービスなどへの利用が有望。
(2003/01/01日本経済新聞)
光ファイバーの5倍の超高速無線通信
実用化へ混信防止技術開発


情報通信研究機構はNTTグループや富土通などと共同で、光ファイバーよりも高速な超高速無線通信「UWB(超広域帯)」実用化に向け混信防止技術などの開発に乗り出す。2006年にも実用化、テレビやパソコンなどを無線接続できるようにする。配線の面倒をなくして利便性を高め、デジタル家電の普及を後押しする狙い。
UWBは次世代の室内無線LAN(構内情報通信網)の規格。幅広い周波数帯を既存の無線通信と共同で使い、光ファイバーの約五倍の超高速信が可能。パソコンやDVD(デジタル多用途ディスク)レコーダー、デジタル家電などをインターネットに接続し情報をやり取りできるようになる「ユビキタス杜会」実現のカギとなる技術とされる。
ただ、UWBはパソコンの雑音以下の微弱な電波を使うとはいえ既存機器と周波数を共用用するため、携帯電話や放送などとの混信が懸念されている。通信事業者や放送事業者は実用化に慎重な姿勢を崩していない。
今回乗り出す開発のため情通機構は来年7月までにUWBの各種試験が可能になる実験設備を整備。富士通など20社以上が参加する見込みだ。測定が難しい微弱電波の計測に加え、UWB関連の電子部品やシステムなど試作品を総合的に性能テストできる施設となる。家庭やオフィスの環境も模擬し、家具や事務機器の配置、壁などによって混信や機器間の相互接続に障害がでるかなどを調べられる。

2004/10/2日本経済新聞)

2−2−3.高速無線インターネット

無線LAN(構内情報通信網)や第三世代携帯電話などを使い、画像や音楽データを送受信できる無線通信で、非対称デジタル加入者線(ADSL)など既存の有線インターネットと異なり、どこでも利用可能で利便性が高い。

現在はハイビジョンが送受信できる「UWB(超広帯域)通信」、第四世代携帯電話の超高速無線技術の開発も進み、2005-10年ごろに実用化の見通しが立っており、無線LAN5倍程度速くなる見通しです。通信総合研究所では高速無線LANなどに合わせて情報家電への応用を研究しています。

デジタル家電 端末1台で操作


異なるメーカーのテレビやエアコンでも、1台の端末で遠隔操作できる無線通信の規格づくりに官民が共同で乗り出す。

高速無線インターネットと呼ばれる技術を使い、どんなデジタル家電製品でも操作できる規格にする。2005年度の実用化を目指す。新規格の策定作業は通信総研が中心となり、松下電器産業や三洋電機、シャープ、NEC、KDDI、NHKのほか、マイクロソフトや日本IBMなど外資系企業も参加する。異なるメーカー間のデジタル家電機器でも操作可能にするため、電波の周波数や通信処理の手順を統一する。
テレビから離れたDVD(デジタル多用途ディスク)レコーダーへのデータ転送指示なども自在にできるように調整。出先から端末操作することも可能にする。他人が不正操作できないように安全確保の基準も作る。
総務省は実験結果を基に、デジタル家電専用の周波数を割り当てるとともに、日本主導での通信規格の世界標準化する。インターネット接続できる家電製品は急成長が見込まれており、日本主導の規格で巨大市場の主導権を握る狙いだ。
松下や東芝などは、「ブルートゥース」と呼ぶ無線通信技術でデジタル家電の通信規格統一を目指してきたが、通信速度には隈界がある。通信総研などは将来の技術発展に傭え、より高速の無線インターネットによる家電操作規格が必要になると判断した。

2003/10/3 日本経済新聞)

2−3.ソフトウェア・規格の標準化

2−3−1.ネット家電基本ソフト(OS)

インターネットにつないで新しい使い方ができるネットワーク家電の使用に当たっては、家庭内の機器と、これと外出先から交信するケータイなどの情報端末、あるいは情報通信サービス会社との間で円滑にデータのやり取りができなければなりません。そのためには、複数の機器の間で情報を受け渡しするためのルールとして定められたのがネット家電OSというソフトウェアです。従来OSは、主にパソコン分野の機器制御に用いられてきましたが、今や家電製品や携帯機器電話に広がり、ユビキタス・ネットワーク実現に欠かせぬ要素となっているのです。

代表的なネット家電OSが「トロン」と「リナックス」です。家電、携帯機器、車載端末を合計したネット接続機器の需要は大きく伸長し大市場を形成するものと予測されています。これに伴ってOSにも相応の需要が生まれるわけですから、家電などパソコン以外のOS事業に参入するソフト会社も増え、OS競争が展開されつつあります。しかし、同じOS競争でも、マイクロソフトの独り勝ちになったパソコン分野とはかなり様相の違った展開になっています。事実上の標準品であるウィンドウズをそのままパソコンに搭載するのと違って、家電、携帯機器メーカーは自社商品の仕様に合わせてOSを作り替え、機能や使いやすさの面で商品に独自精を出そうとするからです。

「トロン」と「リナックス」のOSが浸透しているのは、ともに無償で使える点に加えて、自由に改良しやすい点にあると言われています。

2003924日、マイクロソフトと「トロン」開発団体のT−エンジンフォーラムが共同でネット家電用OSを開発すると発表して関係業界に衝撃を与えました。ネット家電用OSとして台頭してきた「リナックス」に対してマイクロソフトとトロン陣営が相互補完体制を築いて強力な対抗勢力を形成しようとするものですが、これによってネット家電用OSの世界標準のあり方が大きく左右される可能性が見えてきました。

マイクロソフトは、自社OS「ウィンドウズCE」と「トロン」を一つの機器上で動作させ、処理速度が速くて携帯電話の通信制御など機器の制御機能に優れた「トロン」と、インターネット接続と画面表示機能で定評のあるウィンドウズの相乗効果によってOS競争を有利に戦うことを企図しています。一方、トロン陣営には、多数の独自仕様を持つため相互の業務用ソフトの互換性がなくソフト数が限られていたのですが、ウィンドウズの豊富な業務用ソフトやソフト開発者を取り込むことによって、世界の有力家電・携帯メーカーに売り込める可能性が開けてきました。

ネット家電を操作するOSでは「リナックス」が先行し、既に松下電器産業やソニーなどの大手家電メーカーがリナックスを使って新型のネット家電の開発を進めていました。一方、携帯電話用OSでも世界最大手ノキアなどが開発に参加する英シンビアンの「エポック」が浸透しており、マキクロソフトの参入によって、今後、世界標準化を巡って各陣営間の主導権争いが一層激化しそうな形勢になってきました。この中で、実質的に「ユビキタス・コンピューティング」のコンセプトを先行して掲げて開発されながら日の目を見ずにいた国産基本ソフト「トロン」が、どこまで「米国標準=グローバル・スタンダード」に化してしまっているITの世界の流れをどこまで変えることができるか注目に値します。

2−3−2.IPアドレス(lP Address)

インターネットが次世代の規格「IPv6」へ移行し始めていますが、これが、将来、家電や自動車などあらゆる「物」をネット接続するための基盤技術になります。IPv6とは、IPが「インターネット・プロトコル」でVは「バージョン」の略。つまり「IPの6番目の型」という意昧です。IPはインターネットでデータを送受信する際の決まり事で、最近注目度が高いIP電話もこれにのっとったものです。

現在の主流は「IPv4」。ネットではデータの送り主や送信先を住所に相当する「アドレス」で示しますが、v4ではこの数が43億個しかなく、ネットの爆発的な普及に伴って足りなくなくなる恐れがあります。v6ではアドレス数が43億の4乗個になりますから、世界中の総人口から見ても充分な数になります。その上に、IPv6には安全性を高める手法も組み込まれています。

現在は未だネットの接続対象としてIPアドレスが割り当てられているのはパソコンが中心ですが、アドレスが多くなれば家電製品や自動車などの様々な機器にそれぞれのIPアドレスを割り当ててネットにつなげるようになります。こうすることによって初めて、例えば、冷蔵庫の中身をスーパーなどの外出先からチェックしたりすることができるようになるのです。

2−3−3.電子タグ

たとえばインターネット対応冷蔵庫の場合、インターネットに接続に接続され、買い物中に出先から庫内の状況を確認できるようになりますので、確かに便利にはなるのですが、実際には庫内の状況を冷蔵庫がどうやって知るかという問題があります。買い物から帰るたびに買ってきた食品を一つ一つ確認して入力し、使うたびにいくら使ったかを考えて打ち込む。これでは実用になりません。食品ラベルのすべてにあらかじめ極微の電子タグが埋め込まれていて、商品名、製造者から賞味期限まで入っていれば、ユーザーは商品を冷蔵庫に出し入れするだけでよくなります。

十分な情報量を持った電子タグなら、バーコードと違って個々の「物」を一つ一つ認識することができます。いつ買ってきたかも把握できますし、より進んだセンサー付きの電子タグなら流通過程も含めて温度変化の状態を知ることができます。このように、電子タグの本当のメリツトは、製造過程から流通、販売、利用、故障修理など製品の全ライフサイクルでの管理に利用できるところにあります。さらに、その製品が不要になれば、記録された使用状況の情報を生かして再利用することもできますし、ネットワークから材質や分解工程の情報を読み出して自動的に分解し、資源ごとに分別して完全にリサイクルすることさえ可能になることも考えられます。

いわば、電子タグを媒介としたバリューチェーン(価値の連鎖)が形成されるわけですから、個々の段階の便利さはささやかであっても、社会的な生産・流通の観点で見ると大幅なコスト削減と顧客満足度の向上を同時に実現することができますので、電子タグの使用が顧客企業間及び企業間のBPR(リエンジニアリング)につながる可能性があるのです。

しかし、ユビキタス・コンピューティンの世界においては、「トータルシステムとして成り立つ」ということが基本的な条件になります。従って、電子タグについても、仕様の共通化、中でもID(一つ一つに与えられる個別番号)の一本化をする必要があります。「物」が「どこに、いつ」あっても、偏在するコンピューターがそれぞれ「これは何か」を認識した上で、その「物」の状況を認識するための基礎となるからです。

このような問題に対処するために、第8課「記録メディア」でICチップに関して触れたMIT主導の「オートID」プロジェクトでは、業界を超えた電子タグの標準規格の構築に取り組んでいます。しかし、トロンの提唱者である東京大学・坂村健教授は以下のような観点からオートIDセンターの“米国流”を批判されています。

電子タグを、ユビキタス・コンピューティングの一環というより、より簡単なバーコードの進化系としてとらえていること
米国が覇権を取るのに成功したインターネットの勝ちパターンをそのまま踏襲しメカニズムを考えていること

ことに、ユビキタス・コンピューティングでは、インターネットと違って「場所」に大きな意味があるはずなのですが、この点が軽視されている上に、セキュリティ機能面にも配慮が欠けている点を問題視して、坂村教授は“米国流”の直輸入に対して警告を発せられています。今後、国産OS「トロン」がデジタル家電の国際標準目指して浸透していくのに合わせて、電子チップの標準化についても“日本流”が世界に向けて浸透していくことが期待されます。

なお、無線ICタグは、無線通信により非接触で物体を自動識別できるところから「RFID(Radio Frequency Identification:無線自動識別)タグ」とも呼ばれています。RFIDは、メモリー、無線制御部を内蔵するICチップとアンテナから構成され、メモリーには物体を識別するためのID(物体の特定情報)とメタデータ(物体の属性情報)が記憶されます。リーダー/ライターとの無線通信により、非接触でICチップ内の情報を読み書きでき、自動識別、追跡、情報記録/呼出しなどに利用される

RFIDは、その機能や構成方法により以下のような項目で分類されています。
  @伝送媒体方式(電磁結合、電磁誘導、電波、光)
  A情報記憶方式(Read Only、Write Once Read Many、Read Write)
  B電源方式(電池なし〔パッシブ型RFID〕、電池付き〔アクティブ型RFID〕)
  C通信距離(密着、近傍、遠隔)
  D形状(ラベル、カード、コイン、スティック 等)

3.「ユビキタス情報社会」のイメージ

3−1.ホームエレクトロニクス

「ユビキタス情報社会」では、TV、電話、冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、エアコン、ビデオ、電子レンジ、照明、バスルーム、トイレなどあらゆる家電や住宅設備がデジタル回線で接続され、それぞれがインターネットとつながるIAになります。「ホームエレクトロニクス」は、単にスタンドアローンのエレクトロニクス製品を家庭に導入した形ではなくて、家庭内の様々な設備・機器がエレクトロニクス・ネットワークに組み込まれ、しかも、それぞれのインターネットを介して家庭外のエレクトロニクス機器と情報の受発信ができるという究極的な形態となります。

ですから、買い物に出かけた主婦がテレビの料理番組で見た献立を手元のiモード携帯電話で呼び出したり、携帯電話から送る電子メールでエアコンのスイッチを入れたり温度を設定したりすることは、ごく日常的な行動パターンになるのです。前者は、従来は個別に分散していたテレビ受像機、記録媒体、携帯電話といったコミュニケーション・メディアが有機的に結合するケースですし、後者は、従来はコミュニケーション・メディアの埒外であったエアコンまでがネットワークに組み込まれるケースです。もちろん、やがては登場してくることが予想される家事ロボットもIAの一員となります。

「eテーブル」

松下電器産業のパナソニック・センター内に2010年以降のユビキタス情報社会を想定したショールーム「eテーブル」がある。テーブルが家庭用サーバーと連動した、パソコンに変わる新しい情報の入出力装置(ネット端末)となっていて、周りに家族が座ると、誰であるかを判断して、必要な情報ファイルのアイコンだけが集まってくる。自分のエージェント(電子代理人)に指示を出すと、ネット上から必要な情報を収集し、壁のディスプレイに表示してくれる。条件の入力には音声認識技術を使い、パソコンのキーボードは使われていない。

2003/1/1日本経済新聞)
3−2.ホームネットワーク

家の外とはインターネット常時接続した小電力無線または電力線利用のホームネットワークを構築すると、家の中の「どこからでも」操作できるリモコンを利用して、ネット家電や住宅設備などのIAが「どこにあっても」コントロールできるようになり、家事の負担が軽減し生活環境が向上します。個々のIAは、インターネットに接続されていますから、IAのサービス業者に故障診断や修理の依頼をすることも容易にできるようになりますし、例えば、洗濯機の糸くずフィルターや掃除機ごみパックなどの消耗品・パーツをいつでもインターネットで注文することも可能です。また、外出時に窓やドアが開いた場合などには、留守宅で通信アダプターがアラーム音を鳴らすとともに、外出先にはメールで通知するといったように家庭内外連携ネットワークが威力を発揮します。

3−3.ユビキタス・ネットワーク

ケータイやPDAなどのモバイル端末も進化して、外出先からインターネット経由で、家庭やオフィスのPCに簡単に接続しPC用のデータやコンテンツ遠隔操作で表示して利用できる携帯情報端末も出現しています。また、外出中の立ち寄り先で、無線LANを通じてブロードバンド・インターネットにアクセスできる「ホットスポット」と呼ばれる無線LANによる公衆ブロードバンド・サービスの実用化も進められています。当然、ホームネットワークはインターネット経由で職場や学校のイントラネットに接続することが可能です。こうしたネットワーク要素をつなぎ合わせることによって、「いつでも、どこでも」の条件が整のって、下図のようなイメージの「ユビキタス・ネットワーク」が実現します。

ユビキタス・ネットワークのイメージ

特に、ホットスポットは、モバイル・インターネットの一環としても捉えられますが、より安定したブロードバンド環境が利用できることに加えて、利用端末やプロバイダーの選択がより自由にできますので、「その場その場でブロードバンドが随時利用できる=アドホックなアクセス環境である」ことがユビキタス・ネットワークの一員らしい特徴と言えますし、「いつでも、どこでも」の隙間を埋める新たな要素として今後の動向が注目されます。

このようにして、高性能パソコンが普及するとともに、コミュニケーション・メディアの新潮流が進展するのに伴って、自宅や地元の小規模オフィスで勤務するSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)や外出先で、ネットを通じて業務を行うテレワーカーのための環境が整ってきます。また、小規模な自営業者などがSOHOから映像コラボレーションに参加できるような技術基盤も整備されてきました。勤務・作業環境にも「いつでも、どこからでも」の“ユビキタス化”の傾向がより顕著になっていくことが考えられます。


3−4.モバイル(M)コマースの展開

インタラクティブ(双方向)通信特性のあるインターネットの出現によって、企業と一人一人の顧客(個客)との間のダイアログ(対話)をベースとしたone to oneのインターネット・コマース(Iコマース)が普及する向こうを張る形で、これまた双方向通信特性を得たデジタルテレビをベースとしたテレビコマース(Tコマース)がマスメディア特有のブランディング効果を武器に新登場してきた過程もこれまでに考察してきました。今ここに、Iコマースから枝分かれした移動体通信サービスを利用した電子商取引、即ち、モバイルコマース(Mコマース)を特出しして論ずるようになったのは「ユビキタス情報社会」への移行を象徴するものであるように思えます。

日本では、インターネット接続機能と独自の情報サービス機能を内蔵したNTTドコモの「iモード」サービスの開始により、本格的なMコマースが可能となったのですが、内蔵した情報サービス機能を多様多彩化させたケータイなどのモバイル・ツールによる物品・サービスの購入や、金融取引などは今後一層規模が拡大するものと予測されています。ICカードを搭載してケータイに決済機能を持たせることや、ケータイを持ち主の銀行口座と連動させて、自動販売機や店舗のPOSレジスタで支払いができるようにするサービスなども始められています。Mコマースの展開に伴って、モバイル・ツールが情流、商流、金流に果たす役割が増大し、「ユビキタスone to one ダイアログ・マーケティング(コマース)」が主流を占めていくようになるものと考えられます。

3−5.自動車向けの次世代情報提供サービス

電気通信(テレコミュニケーション)と情報処理(インフォマティクス)を組み合わせた造語「テレマティクス」は、「自動車向けの次世代情報提供サービス」を指す言葉です。情報技術を用いて人と車両と道路を結び、交通事故や渋滞などの道路交通問題の解決をはかる新しい交通システムとして自動車全体のインテリジェント化を目指すITSとは異なって、車におけるインターネット接続に関する技術やサービスが「テレマティクス」の主要領域になっています。

「テレマティクス」によって実現される機能の中には、カーナビゲーションや電子メール送受信といった一般的な機能の他に、TAS(テレマティクス・アプリケーション・サーバー)と呼ばれる装置が車の状況を外部からモニターし事故や故障などのトラブルに伴うロードサービスの手配を行い、運転者の自宅や保険会社へのメール連絡をも自動的に行える機能等が含まれています。

カーナビゲーション装置は、デジタル放送を受信するテレビ受信にとどまらず、携帯電話機能を取り込んで、自動車から事故通知やホテルの空き室情報、買い物情報をやり取りしたりするテレマティクスサービスへ突き進みつつあります。接続用回線として光ファイバーやブルートゥースが使える目処が立ってきたこともあり、カーナビゲーション装置が、移動体ゆえ「いつでもどこでも誰とでも(ユビキタス)」情報を交換するニーズがことさら高い自動車の中核的IAになっていくことは間違いありません。

日産自動車の「カーウイングス」

日産自動車マーチに搭載しているテレマティクス機能の名称で、搭乗者の携帯電話を接続することによってネットワークを通じて各種の情報を入手することができます。「カーウイングス」には交通情報や天気、ニュース、周辺情報等をディスプレイに表示する「Auto DJ」、カーナビとして使える「道案内機能」、メール、ハンドフリーフォン等の機能が一体化されていて、メールは音声読み上げ機能対応となっています。

トヨタ自動車の「G-BOOK」

ユビキタス情報社会を先取りした車載用サイバー「G-BOOK」。携帯電話、インターネット、全地球測位システム(GPS)等と連動して、移動中でも欲しい情報を自動的に届けてくれます。「G-BOOK」対応の新型車に搭載される情報端末はパソコンとの間でデータを受渡しできるほかコンビニ等に設置されるマルチメディア端末「E-TOWER」との間でもメモリーカードを使ったデータのやり取りが可能です。将来は、車の中から自宅のエアコンやVTRを操作できるようになります。

3−6.日本の優位性

前述の通り、IPv4はアドレス長が32 bittsですからあり、総アドレス数の理論的限界は45億にとどまりますが、IPv6のアドレス長は128 bittsですから、総アドレス数を一人当たり10個までに拡大することができます。このIPアドレスの分野は、携帯電話、自動車、家電の諸分野とならんで日本がリーダーシップを発揮しているところですから、ユビキタス・ネットワーキングに於ける日本の利点になり得る点です。一連の無線利用技術の開発でも日本が世界に先行しているものが多く、これも前述の通り、国産OS「トロン」にも国際展開の道が開けてきました。もとより、歴史が浅いアメリカに比べると日本の文化の蓄積は大きくデジタル・コンテンツ制作・活用の面でも日本が優位性を発揮できる余地が充分あります。ユビキタス情報社会の到来を機に、アメリカによる独占的な支配が続いてきたITの世界で、日本がユビキタス先進国として変貌する可能性は高いのではないかと期待を込めつつ展望しています。

(Ver.1 2004/ 1/29)
(Ver.2 2004/ 9/12)
(Ver.3 2005/ 1/ 1
)

(Ver.4 2007/ 1/19)

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